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『マネジメント【エッセンシャル版】――基本と原則』

Drucker, Peter. F. 1973 Management: Tasks, Responsibilities, Practices,HarperCollins Publishers
=20011213 上田 惇生 編訳,ダイヤモンド社,302p


last update: 20180225

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■Drucker, Peter. F. 1973 Management: Tasks, Responsibilities, Practices,HarperCollins Publishers=20011213 上田 惇生 編訳 『マネジメント【エッセンシャル版】――基本と原則』,ダイヤモンド社,302p ISBN-10: 4478410232 ISBN-13: 978-4478410233 2000+税 [amazon][kinokuniya]

■内容

内容紹介
ドラッカーが自らのマネジメント論を体系化した大著『マネジメント――課題、責任、実践』のエッセンスを、初心者向けに一冊にまとめた本格的入門書。本書は、マネジメントの仕事とは実践であり、成果を出すことであると明確に規定する。そして、そのためにマネジメントが果たすべき使命と役割、取り組むべき仕事、さらには中長期的に考えるべき戦略について、具体的に解説する。組織で働く人に、新しい目的意識と勇気を与える書。

著者からのコメント
日本の読者へ
 私の大部の著作『マネジメント――課題・責任・実践』からもっとも重要な部分を抜粋した本書は、今日の日本にとって特に重要な意味を持つ。日本では企業も政府機関も、構造、機能、戦略に関して転換期にある。そのような転換期にあって重要なことは、変わらざるもの、すなわち基本と原則を確認することである。そして本書が論じているもの、主題としているもの、目的としているものが、それら変わらざるものである。
 事実、私のマネジメントについての集大成たる『マネジメント』は、一九五〇年代、六〇年代という前回の転換期における経験から生まれた。まさにその時期に、二〇世紀のアメリカ、ヨーロッパ、日本の経済、社会、企業、マネジメントが形成された。日本を戦後の廃墟から世界第二位の経済大国に仕上げたいわゆる日本型経営が形成されたのもこの時期だった。
   私のマネジメントとの関わりは、第二次大戦中、当時の最大最強の自動車メーカーGMでの調査に始まり、アメリカの大手鉄道会社と病院チェーンへのコンサルティング、カナダの政府機関再編への協力、日本の政府機関、企業への助言と進んでいった。
 それらの経験が私に教えたものは、第一に、マネジメントには基本とすべきもの、原則とすべきものがあるということだった。
 第二に、しかし、それらの基本と原則は、それぞれの企業、政府機関、NPOのおかれた国、文化、状況に応じて適用していかなければならないということだった。英語文化と仏語文化の共存が大問題であるカナダの政府機関再編での経験は、日本の自治体の再編、国との関係の再構築についての助言という私の次の仕事には役に立たなかった。同じように、歴史のあるアメリカのグローバル企業の組織構造は、たとえ同じ産業にあっても、創業間もない日本のベンチャー企業の組織の参考にはならなかった。
 そして第三に、もう一つの、しかもきわめて重要な「しかし」があった。それは、いかに余儀なく見えようとも、またいかに風潮になっていようとも、基本と原則に反するものは、例外なく時を経ず破綻するという事実だった。基本と原則は、状況に応じて適用すべきものではあっても、断じて破棄してはならないものである。

 ところが私は、当時、経験豊かな成功している経営者さえ、それらの基本と原則を十分把握していないことに気がついた。そこで私は、数年をかけて、マネジメントの課題と責任と実践にかかわる基本と原則を総合的に明らかにすることにした。
 実はその二〇年前、すでに私は、企業や政府機関のコンサルタントとしての経験と、二つの大学で役員を務めた経験から、同じ問題意識のもとにこの問題に取り組んでいた。その成果が、三〇カ国語以上に翻訳されて世界中で読まれ、今日も読まれ続けている『現代の経営』だった。それは全書というよりも入門書だった。
 しかし『マネジメント』は、初めからマネジメントについての総合書としてまとめた。事実それは、マネジメントに関わりをもち、あるいはマネジメントに関心をもつあらゆる人たち、すなわち第一線の経営者から初心者に至るあらゆる人たちを対象にしていた。
 その前提とする考えは、マネジメントはいまや先進社会のすべて、すなわち組織社会となった先進社会のすべてにとって、欠くことのできない決定的機関になったというものである。さらには、あらゆる国において、社会と経済の健全さはマネジメントの健全さによって左右されるというものである。そもそも国として、発展途上国なる国は存在せず、存在するのはマネジメントが発展途上段階にある国だけであるということに私が気がついたのは、ずいぶん前のことだった。

 『マネジメント』が世に出た後も、無数の経営書が出た。勉強になる重要なものも少なくない。しかしそれらのうちもっともオリジナルなものでさえ、扱っているテーマはすでに『マネジメント』が明らかにしていたものである。事実、この三〇年に経済と企業が直面した課題と問題、発展させた政策と経営のほとんどは、『マネジメント』が最初に提起し論じていた。
 『マネジメント』は、世界で最初の、かつ今日に至るも唯一のマネジメントについての総合書である。しかも私が望んだように読まれている。第一線の経営者が問題に直面したときの参考書としてであり、第一線の専門家、科学者が組織とマネジメントを知る上での教科書としてであり、ばりばりのマネジャー、若手の社員、新入社員、学生の入門書としてである。うれしいことには、企業、組織、マネジメントに直接の関わりをもたない大勢の人たちが、今日の社会と経済を知るために『マネジメント』を読んでくれている。

 マネジメントの課題、責任、実践に関して本書に出てくる例示は、当然のことながら、本書初版刊行時のものである。しかし読者におかれては、気にする必要はまったくない。それらの実例は、基本と原則を示すためのものであり、すでに述べたように、それらのものは変わらざるもの、変わりえないものだからである。
 したがって読者におかれては、自らの国、経済、産業、事業が今直面する課題は何か、問題は何か、行うべき意志決定は何か、そしてそれらの課題、問題、意志決定に適用すべき基本と原則は何かを徹底して考えていっていただきたい。さらには、一人の読者、経営者、社員として、あるいは一人の知識労働者、専門家、新入社員、学生として、自らの前にある機会と挑戦は何か、自らの拠り所、指針とすべき基本と原則は何かを考えていただきたい。

 世界中の先進社会が転換期にあるなかで、日本ほど大きな転換を迫られている国はない。日本が五〇年代、六〇年代に発展させたシステムは、他のいかなる国のものよりも大きな成果を上げた。そしてまさにそのゆえに、今日そのシステムが危機に瀕している。すでに周知のように、それらの多くは放棄して新たなものを採用しなければならない。あるいは徹底的な検討のもとに再設計しなければならない。今日の経済的、社会的な行き詰まりが要求しているものがこれである。
 二一世紀の日本が、私と本書に多くのものを教えてくれた四〇年前、五〇年前の、あの革新的で創造的な勇気あるリーダーたち、とくに経済のリーダーたちに匹敵する人たちを輩出することを祈ってやまない。そしてこの新たな旗手たちが、今日の日本が必要としているシステムと戦略と行動、すなわち、その構造と文化においてあくまでも日本のものであって、しかも新しい世界の現実、新しい働く人たち、新しい経済、新しい技術に相応しいシステムと戦略と行動を生み出し生かすうえで、本書がお役に立てることを望みたい。
本書がこの偉業に貢献できるならば、これに勝る喜びはない。それは私にとって、私自身と、体系としてのマネジメントそのものが、これまで日本と、日本の友人、日本のクライアントから与えられてきたものに対するささやかな返礼にすぎない。
……

 二〇〇一年一一月
 カリフォルニア州クレアモントにて
                   ピーター・F・ドラッカー

■目次

日本の読者へ
まえがき――なぜ組織が必要なのか
序――新たな挑戦
Part 1 マネジメントの使命
1 マネジメントの役割
第1章 企業の成果
2 企業とは何か
3 事業は何か
4 事業の目標
5 戦略計画
第2章 公的機関の成果
6 多元社会の到来
7 公的機関不振の原因
8 公的機関成功の条件
第3章 仕事と人間
9 新しい現実
10 仕事と労働
11 仕事の生産性
12 人と労働のマネジメント
13 責任と保障
14 「人は最大の資産である」
第4章 社会的責任
15 マネジメントと社会
16 社会的影響と社会の問題
17 社会的責任の限界
18 企業と政府
19 プロフェッショナルの倫理――知りながら害をなすな

Part 2 マネジメントの方法
20 マネジメントの必要性
第5章 マネジャー
21 マネジャーとは何か
22 マネジャーの仕事
23 マネジメント開発
24 自己管理による目標管理
25 ミドルマネジメント
26 組織の精神
第6章 マネジメントの技能
27 意思決定
28 コミュニケーション
29 管理
30 経営科学
第7章 マネジメントの組織
31 新しいニーズ
32 組織の基本単位
33 組織の条件
34 五つの組織構造
35 組織構造についての結論

Part 3 マネジメントの戦略
36 ドイツ銀行物語
第8章 トップマネジメント
37 トップマネジメントの役割
38 トップマネジメントの構造
39 取締役会
第9章 マネジメントの戦略
40 規模のマネジメント
41 多角化のマネジメント
42 グローバル化のマネジメント
43 成長のマネジメント
44 イノベーション
45 マネジメントの正統性
結論
付章 マネジメントのパラダイムが変わった
編訳者あとがき

■引用

◆企業をはじめとするあらゆる組織が社会の機関である。組織が存在するのは組織自体のためではない。自らの機能を果たすことによって、社会、コミュニティ、個人のニーズを満たすためである。…したがって問題は、「その組織は何か」ではない。「その組織は何をなすべきか。機能は何か」である。/それら組織の中核の機関がマネジメントである。したがって次の問題は、「マネジメントの役割は何か」である。…/マネジメントには、自らの組織をして社会に貢献させるうえで三つの役割がある。…
@自らの組織に特有の使命を果たす。マネジメントは、組織に特有の使命、すなわちそれぞれの目的を果たすために存在する。
A仕事を通じて働く人たちを生かす。現代社会においては、組織こそ、一人ひとりの人間にとって、生計の資、社会的な地位、コミュニティとの絆を手にし、自己実現を図る手段である。当然、働く人を生かすことが重要な意味を持つ。
B自らが社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題について貢献する。マネジメントには、自らの組織が社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題について貢献する。マネジメントには、自らの組織が社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題の解決に貢献する役割がある。[2001:9]

◆マネジメントは、常に現在と未来、短期と長期を見ていかなければならない。[2001:10]

◆マネジメントの役割はもう一つある。/マネジメントは管理する。すでに存在し、すでに知られているものを管理する。同時にマネジメントは起業家とならなければならない。成果の小さな分野、縮小しつつある分野から、成果の大きな分野、しかも増大する分野へと資源を向けなければならない。そのために昨日を捨て、すでに存在しているもの、知られているものを陳腐化しなければならない。明日を創造しなければならない。[2001:10]

◆企業の目的の定義は一つしかない。それは、顧客を創造することである。…企業とは何かを決めるのは顧客である。なぜなら顧客だけが、財やサービスに対する支払いの意志を持ち、経済資源を富みに、モノを財貨に変えるからである。しかも顧客が価値を認め購入するものは、財やサービスそのものではない。財やサービスが提供するもの、すなわち効用である。/企業の目的は、顧客の創造である。したがって、企業は二つの、そして二つだけの基本的な機能を持つ。それがマーケティングとイノベーションである。マーケティングとイノベーションだけが成果をもたらす。[2001:15-16]

◆…真のマーケティングは顧客からスタートする。すなわち現実、欲求、価値からスタートする。「われわれは何を売りたいか」ではなく、「顧客は何を買いたいか」を問う。「われわれの製品やサービスにできることはこれである」ではなく、「顧客が価値ありとし、必要とし、求めている満足がこれである」と言う。…マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、製品とサービスを顧客に合わせ、おのずから売れるようにすることである。[2001:17]

◆…企業の第二の機能は、イノベーションすなわち新しい満足を生み出すことである。経済的な財とサービスを供給するだけでなく、よりよく、より経済的な財とサービスを供給しなければならない。企業そのものは、より大きくなる必要はないが、常によりよくならなければならない。…イノベーションの結果もたらされるものは、よりよい製品、より多くの便利さ、より大きな欲求の満足である。…イノベーションとは、人的資源や物的資源に対し、より大きな富を生み出す新しい能力をもたらすことである。当然マネジメントは、社会のニーズを事業の機会として捉えなければならない。[2001:18-19]

◆顧客の創造という目的を達するには、富を生むべき資源を活用しなければならない。資源を生産的に使用する必要がある。…この機能の経済的な側面が生産性である。…生産性に重大な影響を与える要因がいくつかある…
@知識――知識とは正しく適用したとき、もっとも生産的な資源となる。逆にまちがって適用したとき、もっとも高価でありながら、まったく生産的でない資源となる。
A時間――時間はもっとも消えやすい資源である。人や機械をフルに使ったときと、半分しか使わなかったときでは生産性に大きな差が生ずる。
B製品の組み合わせ(プロダクト・ミックス)――製品の組み合わせとは資源の組み合わせである。
Cプロセスの組み合わせ(プロセス・ミックス)――部品を買うのと自分でつくるのといずれが生産的か。組み立てを内製するのと外製するのといずれが生産的か。販売を流通業に任せ彼らのブランドを使わせるのと、自らの販売網を使い自らのブランドを使うのといずれが生産的か。
D自らの強み――…いかなるマネジメントにも能力と限界がある。したがって、それぞれの企業とそのマネジメントに特有の能力を活用し、特有の限界をわきまえることも、生産性を左右する。
E組織構造の適切さ、および活動のバランス――組織構造が不適切なために、マネジメントが自らなすべきことを行わなければ、マネジメントという企業にとってもっとも稀少な資源が浪費されることになる。[2001:19-20]

◆利益とは、原因ではなく結果である。マーケティング、イノベーション、生産性向上の結果手にするものである。したがって利益は、それ自体致命的に重要な経済的機能を果たす必要不可欠のものである。
@利益は成果の判定基準である。
A利益は不確実性というリスクに対する保険である。
B利益はよりよい労働環境を生むための原資である。
C利益は、医療、国防、教育、オペラなど社会的なサービスと満足をもたらす原資である。[2001:20-21]

◆あらゆる組織において、共通のものの見方、理解、方向づけ、努力を実現するには、「われわれの事業は何か。何であるべきか」を定義することが不可欠である。…企業の目的と使命を定義するとき、出発点は一つしかない。顧客である。顧客によって事業は定義される。…顧客を満足させることこそ、企業の使命であり目的である。…顧客にとっての関心は、彼らにとっての価値、欲求、現実である。この事実からしても、「われわれの事業は何か」との問いに答えるには…顧客の価値、欲求、期待、現実、状況、行動からスタートしなければならない。[2001:22-23]

◆…「顧客とは誰か」との問いこそ、個々の企業の使命を定義するうえで、もっとも重要な問いである。…この問いに対する答えによって、企業が自らをどう定義するかがほぼ決まってくる。/もちろん、消費者すわなち財やサービスの最終利用者は顧客である。だが、消費者だけが顧客ではない。顧客は常に一種類ではない。顧客によって、期待や価値観は異なる。[2001:23-24]

◆「われわれの事業は何か」を真剣に問うべきは、むしろ成功しているときである。成功は常に、その成功をもたらした行動を陳腐化する。新しい現実をつくりだす。新しい問題をつくりだす。[2001:25]

◆…マネジメントたるものは、「われわれの事業は何か」を問うとき、「われわれの事業は何になるか。われわれの事業のもつ性格、使命、目的に影響を与えるおそれのある環境の変化は認められるか」「それらの予測を、事業についてのわれわれの定義、すなわち事業の目的、戦略、仕事のなかに、現時点でいかに組み込むか」を考えなければならない。…@市場動向のうち、もっとも重要なのが人口構造の変化である。…人口構造だけが未来に関する唯一の予測可能な事象だからである。/A経済構造、流行と意識、競争状態の変化によってもたらされる市場構造の変化も重要である。…/B最後に、消費者の欲求のうち、「今日の財やサービスで満たされていない欲求は何か」を問わなければならない。[2001:26-27]

◆…「われわれの事業は何であるべきか」との問いも必要である。現在の事業をまったく別の事業に変えることによって、新しい機会を開拓し、創造することができるかもしれない。この問いを発しない企業は、重大な機会を逃す。…考慮すべき要因は、社会、経済、市場の変化であり、イノベーションである。[2001:27]

◆新しい事業の開始の決定と同じように重要なこととして、企業の使命に合わなくなり、顧客に満足を与えなくなり、業績に貢献しなくなったものの体系的な廃棄がある。…既存の製品、サービス、工程、市場、最終用途、流通チャンネルの分析である。/「それらのものは、今日も有効か、明日も有効か」「今日顧客に価値を与えているか、明日も顧客に価値を与えるか」「今日の人口、市場、技術、経済の実態に合っているか。合っていないならば、いかにして廃棄するか、あるいは少なくとも、いかにしてそれらに資源や努力を投ずることを中止するか」…事業の定義があって初めて、目標を設定し、戦略を発展させ、資源を集中し、活動を開始することができる。[2001:27-28]

◆マーケティングの目標は一つではない。…@既存の製品についての目標、A既存の製品の廃棄についての目標、B既存の市場における新製品についての目標、C新市場についての目標、D流通チャンネルについての目標、Eアフターサービスについての目標、F信用供与についての目標である。…マーケティングの目標の基礎となるもう一つの基本的な意思決定が、市場地位の目標である。…市場において目指すべき地位は、最大ではなく最適である。[2001:29-31]

◆いかなる企業にも、三種類のイノベーションがある。すなわち、@製品とサービスにおけるイノベーション、A市場におけるイノベーションと消費者の行動や価値観におけるイノベーション、B製品を市場へ持っていくまでの間におけるイノベーションである。[2001:31-32]

◆人材と資金の獲得に関しては、特にマーケティングの考え方が必要である。「われわれが必要とする種類の人材を引きつけ、かつ引き止めておくには、わが社の仕事をいかなるものとしなければならないか」「獲得できるのは、いかなる種類の人材か。それらの人材を引きつけるには何をしなければならないか」、あるいは「銀行借り入れ、社債、株式などわが社への資金の投入を、いかにして魅力あるものにしなければならないか」を問うことである。[2001:33]

◆目標を設定するには三種類のバランスが必要である。すなわち、@利益とのバランス、A近い将来と遠い将来とのバランス、B他の目標とのバランスすなわち目標間のトレードオフ関係である。[2001:36]

◆…最後の段階が、目標実現のための行動である。「われわれの事業は何か。何になるか。何であるべきか」を考え目標を検討するのは、知識を得るためではなく行動するためである。その狙いは、組織のエネルギーと資源を正しい成果に集中することである。したがって、検討の結果もたらされるべきものは、具体的な目標、期限、計画であり、具体的な仕事の割り当てである。/目標は、実行に移さなければ目標ではない。[2001:36]

◆公的機関にも種類があり、種類が違えば構造も違ってくる。だがあらゆる公的機関が、次の六つの規律を自らに課す必要がある。
@「事業は何か、何であるべきか」を定義する。目的に関わる定義を公にし、それらを徹底的に検討しなければならない。…
Aその目的に関わる定義に従い、明確な目標を導き出す。
B活動の優先順位を決める。これは、目標を定め、成果の基準すなわち最低限必要な成果を規定し、期限を設定し、成果をあげるべく仕事をし、責任を明らかにするためである。
C成果の尺度を定める。…
Dそれらの尺度を用いて、自らの成果についてフィードバックを行う。成果による自己管理を確立しなければならない。
E目標に照らして成果を監査する。目的に合致しなくなった目標や、実現不可能になった目標を明らかにしなければならない。…成功は愛着を生み、思考と行動を習慣化し、過信を生む。意味のなくなった成功は、失敗よりも害が大きい。[2001:49]

◆仕事と労働(働くこと)とは根本的に違う。/仕事をするのは人であって、仕事は常に人が働くことによって行われることはまちがいない。しかし、仕事の生産性をあげるうえで必要とされるものと、人が生き生きと働くうえで必要とされるものは違う。したがって、仕事の論理と労働の力学の双方に従ってマネジメントしなければならない。働く者が満足しても、仕事が生産的に行われなければ失敗である。逆に仕事が生産的に行われても、人が生き生きと働けなければ失敗である。[2001:57]

◆仕事とは、一般的かつ客観的な存在である。それは課題である。存在するものである。したがって仕事には、ものに対するアプローチをそのまま適用できる。そこには論理がある。それは、分析と総合と管理の対象となる。
@仕事を理解するうえでまず必要とされることは…分析である。仕事の分析とは、基本的な作業を明らかにし、論理的な順序に並べることである。
A次に必要なことは、プロセスへの統合である。…個々の作業を一人ひとりの仕事に、そして一人ひとりの仕事を生産プロセスに組み立てなければならない。
Bさらには、管理のための手段を組み込むことである。仕事とは、個々の作業ではなく一連のプロセスである。予期せざる偏差を感知し、プロセスの変更の必要を知り、必要な水準にプロセスを維持するためのフィードバックの仕組みが必要である。[2001:58]

◆これに対して、働くことすなわち労働は人の活動である。人間の本性でもある。論理ではない。力学である。そこには五つの次元がある。
@生理的な次元がある。人は機械ではないし、機械のように働きもしない。一つの動作しかさせられないと著しく疲労する。心理的な退屈だけでなく、生理的な疲労がある。…スピード、リズム、持続力は、人によって違う。…/仕事は均一に設計しなければならないが、労働には多様性を持たせなければならない。スピード、リズム、持続時間を変える余地を残しておかなければならない。仕事の手順も頻繁に変えなければならない。…
A心理的な次元がある。人にとって働くことは重荷であるとともに本性である。呪いであるとともに祝福である。それは人格の延長である。…
B社会的な次元がある。組織社会では、働くことが人と社会をつなぐ主たる絆となる。社会における位置づけまで決める。…
C経済的な次元がある。労働は生計の資である。存在の経済的な基盤である。/しかもそれは、経済活動のための資本を生み出す…いかなる経済においても、賃金部分と資本部分はともに必要である。資本部分は、賃金部分にあたる労働者の今日の生計のニーズと直接競合する。…
D政治的な次元がある。集団内、特に組織内で働くことには、権力関係が伴う。組織では、誰かが職務を設計し、組み立て、割り当てる。労働は順序に従って遂行される。組織のなかで、人は昇進したりしなかったりする。こうして誰かが権力を行使する。[2001:58-60]

◆自己実現の第一歩は、仕事を生産的なものにすることである。仕事が要求するものを理解し、仕事を人の働きに即したものにしなければならない。…仕事を生産的なものにするには、四つのものが必要である。すなわち、
@分析である。仕事に必要な作業と手順と道具を知らなければならない。
A総合である。作業を集めプロセスとして編成しなければならない。
B管理である。仕事のプロセスのなかに、方向づけ、質と量、基準と例外についての管理手段を組み込まなければならない。
C道具である。[2001:62]

◆働きがいを与えるには、仕事そのものに責任を持たせなければならない。そのためには、@生産的な仕事、Aフィードバック情報、B継続学習が不可欠である。/@第一に、仕事を分析せず、プロセスを総合せず、管理手段と基準を検討せず、道具や情報を設計せずに、仕事に責任を持たせようとしても無駄である。…/A働く者に責任を持たせるための第二の条件は、成果についてのフィードバック情報を与えることである。自己管理が可能でなければならない。自らの成果についての情報が不可欠である。/B第三の条件は、継続学習である。…知識労働が成果をあげるためには専門化しなければならない。したがって、他の専門分野の経験、問題、ニーズに接し、かつ自らの知識と情報を他の分野に適用できるようにしなければならない。/これら三つの条件、すなわち生産的な仕事、フィードバック情報、継続学習は、働く者が自らの仕事、集団、成果について責任を持つための、いわば基盤である。したがって、それはマネジメントの責任であり、課題である。/しかし、それら三つの条件は、マネジメントの大権すなわちマネジメントだけが一方的に取り組むべき課題ではない。これら三つの条件すべてについて、実際に仕事をする者自身が始めから参画しなければならない。彼らの知識、経験、欲求が、仕事のあらゆる段階において貴重な資源とならなければならない。[2001:74-75]

◆工場や事務所には職場のコミュニティがある。働く者に仕事の成果をあげさせるためには、この職場コミュニティに実質的な責任を与える必要がある。[2001:75]

◆必要なことは、実際に行うことである。…/@その第一は、仕事と職場に対して、成果と責任を組み込むことである。Aさらに、共に働く人たちを生かすべきものとして捉えることである。B最後に、強みが成果に結びつくように人を配置することである。[2001:81]

◆社会的影響を処理するには、まずその中身を明らかにしなければならない。明らかになった影響をいかに処理するか。目標ははっきりしている。社会、経済、地域、個人に与える影響のうち、組織の目的や使命の達成に不可欠でないものは、最小限にすることである。できればなくすことである。組織内に対するものか、組織外の社会や環境に対するものかを問わず、影響は少なければ少ないほどよい。[2001:95]

◆専門家にはマネジャーが必要である。自らの知識と能力を全体の成果に結びつけることこそ、専門家にとって最大の問題である。専門家にとってはコミュニケーションが問題である。自らのアウトプットが他の者のインプットにならないかぎり、成果はあがらない。専門家のアウトプットとは知識であり情報である。彼ら専門家のアウトプットを使うべき者が、彼らの言おうとしていること、行おうとしていることを理解しなければならない。/専門家は専門用語を使いがちである。専門用語なしでは話せない。ところが、彼らは理解してもらってこそ初めて有効な存在となる。彼らは自らの顧客たる組織内の同僚が必要とするものを供給しなければならない。/このことを専門家に認識させることがマネジャーの仕事である組織の目標を専門家の用語に翻訳してやり、逆に専門家のアウトプットをその顧客の言葉に翻訳してやることもマネジャーの仕事である。…専門家が効果的であるためには、マネジャーの助けを必要とする。マネジャーは専門家のボスではない。道具、ガイド、マーケティング・エージェントである。[2001:125]

◆マネジャーには、二つの役割がある。/@第一の役割は、部分の和よりも大きな全体、すなわち投入した資源の総和よりも大きなものを生み出す生産体を創造することである。…したがってマネジャーは、自らの資源、特に人的資源のあらゆる強みを発揮させるとともに、あらゆる弱みを消さなければならない…/マネジャーはマネジメントの一員として、事業のマネジメント、人と仕事のマネジメント、社会的責任の遂行という三つの役割も果たさなければならない。…A第二の役割は、そのあらゆる決定と行動において、ただちに必要とされているものと遠い将来に必要とされるものを調和させていくことである。[2001:128-129]

◆あらゆるマネジャーに共通の仕事は五つである。@目標を設定する。A組織する。B動機づけとコミュニケーションを図る。C評価測定する。D人材を開発する。[2001:129]

◆マネジャーたるものは…明確な目標を必要とする。…目標は自らの率いる部門があげるべき成果を明らかにしなければならない。他部門の目標達成の助けとなるべき貢献を明らかにしなければならない。他部門に期待できる貢献を明らかにしなければならない。/目標には、はじめからチームとしての成果を組み込んでおかなければならない。それらの目標は、常に組織全体の目標から引き出したものでなければならない。…/それらの目標は、短期的視点とともに長期的視点から規定しなければならない。有形の経済的な目標のみならず、無形の目標、すなわちマネジャーの組織化と育成、部下の仕事ぶりと態度、社会に対する責任についての目標を含まなければならない。…目標は組織への貢献によって規定しなければならない。[2001:139-140]

◆目標管理の最大の利点は、自らの仕事ぶりをマネジメントできるようになることにある。…/自らの仕事ぶりを管理するには、自らの目標を知っているだけでは十分ではない。目標に照らして、自らの仕事ぶりと成果を評価できなければならない。そのための情報を手にすることが不可欠である。しかも、必要な措置がとれるよう、それらの情報を早く手にしなければならない。[2001:140]

◆組織の目的は、凡人をして非凡なことを行わせることにある。…凡人から強みを引き出し、他の者の助けとすることができるか否かが、組織の良否を決定する。同時に、組織の役目は人の弱みを無意味にすることである。要するに、組織の良否は、そこに成果中心の精神があるか否かによって決まる。
@組織の焦点は、成果に合わせなければならない。
A組織の焦点は、問題ではなく機会に合わせなければならない。
B配置、昇給、昇進、降級、解雇など人事に関わる意思決定は、組織の信条と価値観に沿って行わなければならない。これらの決定こそ真の管理手段となる。
Cこれら人事に関わる決定は、真摯さこそ唯一絶対の条件であり、すでに身につけていなければならない資質であることを明らかにするものでなければならない。[2001:145]

◆…日本流の意思決定のエッセンスは五つある。
@何についての意思決定かを決めることに重点を置く。答えではなく問題を明らかにすることに重点を置く。
A反対意見を出やすくする。コンセンサスを得るまでの間、答えについての議論は行わない。あらゆる見方とアプローチを検討の対象にする。
B当然の解決策よりも複数の解決案を問題にする。
Cいかなる地位の誰が決定すべきかを問題にする。
D決定後の関係者への売り込みを不要にする。意思決定のプロセスのなかに実施の方策を組み込む。
日本流の意思決定は独特のものである。日本社会特有の仕組みや組織の性格を前提とするものであって、どこでも使えるものではない。だがその基本は、日本以外でも十分に通用する。それどころか、これこそ効果的な意思決定の基本である。[2001:151]

◆マネジメントの行う意思決定は、全会一致によってなされるようなものではない。対立する見解が衝突し、異なる見解が対話し、いくつかの判断の中から選択が行われて初めて行うことができる。したがって、意思決定における第一の原則は、意見の対立を見ないときには決定を行わないことである。…意見の対立を促すのには理由がある。
@意見の対立を促すことによって、不完全であったり、まちがったりしている意見によってだまされることを防げる。
A代案を手にできる。行った意思決定が実行の段階でまちがっていたり、不完全であることが明らかになったとき、途方に暮れなくてすむ。
B自分自身や他の人の想像力を引き出せる。[2001:152-153]

◆常に「意思決定は必要か」を検討しなければならない。…何もしないと事態が悪化するのであれば、意思決定を行わなければならない。…迅速に行動しないと大切な機会を失うのであれば、行動しなければならない。そうして初めて変革も可能となる。…逆に、強いて楽観的でなくとも自然にうまくいくと期待できることがある。「何もしなければどうなるか」との問いに対して、「うまくいく」との答えが出るときには手をつけてはならない。…たいした問題ではないときも手をつけてはならない。/しかし、多くの問題は中間にある。…そのようなときには、行動したときのコストと行動しないときのコストとを比較する。公式はない。/指針は明らかである…
@行動によって得られるものが、コストやリスクよりも大きいときには行動する。
A行動するかしないかいずれかにする。二股をかけたり妥協したりしてはならない。[2001:153-154]

◆コミュニケーションを成立させるものは、受け手である。…重要なのは、期待していないものは受けつけられることさえないということである。…受け手が期待しているものを知ることなく、コミュニケーションを行うことはできない。期待するものを知って、初めてその期待を利用することができる。あるいはまた、受け手の期待を破壊し、予期せぬことが起こりつつあることを強引に認めさせるためのショックの必要を知ることができる。…コミュニケーションは受け手に何かを要求する。受け手が何かになること、何かをすること、何かを信じることを要求する。それは常に、何かをしたいという受け手の気持ちに訴えようとする。コミュニケーションは、それが受け手の価値観、欲求、目的に合致するとき強力となる。逆に、それらのものに合致しないとき、まったく受けつけられないか抵抗される。[2001:158-160]

◆あらゆる管理手段が七つの要件を満たさなければならない。
@管理手段は効率的でなければならない。

A管理手段は意味あるものでなければならない。

B管理手段は測定の対象に適していなければならない。

C管理手段の精度は、測定の対象に適していなければならない。

D管理手段は、時間間隔が測定の対象に適していなければならない。

E管理手段は単純でなければならない。

F管理手段は行動に焦点を合わせなければならない。[2001:167-170]

◆われわれは組織構造に組み込むべき活動のすべてを知る必要はない。知らなければならないのは、組織の重荷を担う部分、すなわち組織の基本活動である。
@組織構造の設計は、「組織の目的を達成するには、いかなる分野において卓越性が必要か」との問いに答えることから始まる。
A同時に「いかなる分野において成果があがらないとき、致命的な損害を被るか、いかなる分野に最大の弱点を見るか」との問いに答えることも必要である。
B最後に「本当に重要な価値は何か」との問いに答えることも必要である。答えは、製品や工程の安全性であることもある。品質であることもある。ディーラーのサービスであることもある。それが何であれ、それに必要な活動について組織的な裏づけを行わなければならない。責任を負う組織をつくらなければならない。/組織の基本活動を明らかにするものは、これら三つの問いである。[2001:184-185]

◆企業内の活動は、その貢献の種類によって大きく四つに分類できる。
@成果活動がある。組織全体の成果に直接あるいは間接の関わりを持つ測定可能な成果を生む活動である。
A支援活動がある。成果活動と同じように必要不可欠ではあるが、自らは成果を生むことなく、アウトプットが他の組織単位によって利用されて、初めて成果を生む活動である。
B家事活動がある。組織全体の成果とは間接的にも関わりのない活動、つまり付随的な活動である。
Cトップ活動がある。これは他の活動とはまったく性格の違う活動である。[2001:186]

◆成果活動には三つの活動がある。
@直接収入をもたらす収入活動がある。…マーケティングとイノベーションがこの活動に属する。財務活動すなわち資金の調達や管理もこの活動に属する。
A自らは収入を生まないが、企業全体の成果や主要な部門の成果に直接関わりを持つ活動、すなわち成果貢献活動である。…製造…求人活動…教育訓練・・・購買や輸送…エンジニアリング…労務…
B情報活動がある。この活動はアウトプットを生む。組織内のあらゆる者が必要とするアウトプットである。この活動の成果は、定義し、測定することができる。…しかし、それだけではいかなる収入も生まない。[2001:186-187]

◆組織内の意思決定は、四つの観点から分類する必要がある。
@影響する時間の長さによって分類する。その意思決定によって、将来どの程度の期間にわたって行動を束縛されるか。どの程度すみやかに修正できるか。…
A他の部門や他の分野、あるいは組織全体に与える影響の度合いによって分類する。その影響が部門内にとどまる意思決定は低いレベルで行うべきである。他の部門に影響を与える意思決定は、一段高いレベルで行うか、影響を受ける部門と協議のうえ行わなければならない。…
B考慮に入れる定性的要素の数によって分類する。ここでいう定性的要素とは、企業の行動原則、価値観、社会的な信条を指す。価値観の問題が入ってくる問題については、意思決定を高度のレベルにおいて行うか、高度のレベルにおいてチェックしなければならない。定性的要素のうちもっとも重要な要素が人である。
C問題が繰り返し出てくるか、まれにしか出てこないかによって分類する。繰り返し出てくる問題については、原則を決定しておけばよい。[2001:190-191]

◆意思決定は常に、可能なかぎり低いレベル、行動に近いところで行う必要がある。これが第一の原則である。同時に意思決定は、それによって影響を受ける活動全体を見通せるだけの高いレベルで行う必要がある。これが第二の原則である。[2001:192]

◆組織の原則は、階層の数を少なくし指揮系統を短くすることでなければならない。階層の増加は、組織内の相互理解と協同歩調を困難にする。[2001:194]

◆いかなる組織構造であっても、組織として最小限持たなければならない条件がある。すなわち、@明快さ、A経済性、B方向づけの容易さ、C理解の容易さ、D意思決定の容易さ、E安定性と適応性、F永続性と新陳代謝である。[2001:198]

◆肉体労働にせよ知識労働にせよ、すべて仕事は三通りの方法で組織できる。/第一に、仕事は段階別に組織できる。…/第二に、仕事は技能別に組織できる。仕事は技能や道具の間を移動する。…/第三に、仕事自体は動かさず、異なる技能や道具を持つ人たちが一つのチームとして動く。[2001:204]

◆チーム型組織にはいくつか優れた点がある。メンバーは全員、チーム全体の仕事が何であり、自分の責任が何であるかを知っている。新しい方法やアイデアも容易に受け入れられる。事態の変化にも容易に適応できる。/だがチーム型組織には、いくつかの大きな欠陥がある。明快さや安定性に欠ける。経済性も悪い。人間関係、仕事の割り当て、説明会、会議、コミュニケーションなど、チームの内部管理に絶えず気を配らなければならない。エネルギーの相当部分が、単に仕事を進めることに費やされる。…必ずしも全員が自分の責任を理解しているとはかぎらない。…/適応力には富む。新しい試み、アイデア、仕事の方法を受け入れやすい。…/チーム型組織の最大の限界は規模にある。メンバーの数が少ないときは有効に働く。…あまり大きくなると、チームの利点たる柔軟性やメンバーの責任感が急速に減少し、成果をあげられなくなる。同時に、チームの欠陥たる組織構造の明快さの欠如、コミュニケーションの不足、内部管理や人間関係への過度の関心が致命的になる。…チーム型組織は、職能別組織を有効に動かすうえで必要となる補完的な組織構造である。[2001:208-209]

◆トップマネジメントの役割は多元的である。
@トップマネジメントには、事業の目的を考えるという役割がある。すなわち、「われわれの事業は何か。何であるべきか」を考えなければならない。この役割から、目標の設定、戦略計画の作成、明日のための意思決定という役割が派生する。
A基準を設定する役割、すなわち組織全体の規範を定める役割がある。…ビジョンと価値基準を設定しなければならない。
B組織をつくりあげ、それを維持する役割がある。明日のための人材、特に明日のトップマネジメントを育成し、組織の精神をつくりあげなければならない。トップマネジメントの行動、価値観、信条は、組織にとっての基準となり、組織全体の精神を決める。加えて、組織構造を設計しなければならない。
Cトップの座にある者だけの仕事として渉外の役割がある。顧客、取引先、金融機関、労働組合、政府機関との関係である。それらの関係から、環境問題、社会的責任、雇用、立法に対する姿勢についての決定や行動が影響を受ける。
D行事や夕食会への出席など数限りない儀礼的な役割がある。…
E重大な危機に際しては、自ら出動するという役割、著しく悪化した問題に取り組むという役割がある。有事には、もっとも経験があり、もっとも賢明で、もっとも傑出した者が腕をまくって出動しなければならない。法的な責任もある。放棄することのできない仕事である。[2001:224-225]

◆トップマネジメントがチームとして機能するには、いくつかの厳しい条件を満たさなければならない。…
@トップマネジメントのメンバーは、それぞれの担当分野において最終的な決定権を持たなければならない。
Aトップマネジメントのメンバーは、自らの担当以外の分野について意思決定を行ってはならない。ただちに担当のメンバーに回さなければならない。
Bトップマネジメントのメンバーは、仲良くする必要はない。尊敬し合う必要もない。ただち、攻撃し合ってはならない。…
Cトップマネジメントは委員会ではない。チームである。チームにはキャプテンがいる。キャプテンは、ボスではなくリーダーである。キャプテンの役割の重さは多様である。…
Dトップマネジメントのメンバーは、自らの担当分野では意思決定を行わなければならない。しかし、ある種の意思決定は留保しなければならない。チームとしてのみ判断しうる問題がある。…
Eトップマネジメントの仕事は、意思の疎通に精力的に取り組むことを要求する。それは、各メンバーが、それぞれの担当する分野で最大限の自主性を持って行動しなければならないからである。そのような自立性は、自らの考えと行動を周知徹底させているときにのみ許される。[2001:228-229]

◆小企業は戦略を必要とする。…現実には、ほとんどの小企業が戦略を持たない。機会中心ではなく問題中心である。問題に追われて日を送る。だからこそ小企業の多くが成功できない。
@小企業のマネジメントに必要とされることは、「われわれの事業は何か、何であるべきか」を問い、答えることである。
Aトップマネジメントの役割を組織化することである。[2001:238]

◆マネジメントに携わるものは、第一に、必要とされる成長の最小点について検討しておく必要がある。生命を維持していけるだけの地位は確保しなければならない。さもなければ限界的な存在となる。不適切な規模となる。市場が拡大しつつあるならば、組織もまたその生命力を維持するために成長していかなければならない。…第二に、成長の最適点について検討しておく必要がある。それ以上成長しようとすると、資源の生産性が犠牲になる点はどこか。収益性を高めようとすると、リスクが急激に増大する点はどこか。成長の最高点ではなく最適点こそ成長の上限としなければならない。成長は最適点以下でなければならない。[2001:261]

◆成長には準備が必要である。…準備ができていなければ、機会は去り、他所へ行く。/成長するには、トップが自らの役割、行動、他者との関係を変える意志と能力を持つ必要がある。…/変化すべき人あるいは人たちとは、多くの場合功績のあった人たちである。成功を収めたまさにそのとき、その成功をもたらした行動を捨て、それまでの習慣を捨てるよう要求される。…/ごく早い時期から、成長のための準備をしておかなければならない。特に三つのことを行っておかなければならない。
@基本活動を明らかにし、それらの活動に取り組むべきトップマネジメント・チームを編成する。
A変化すべきときを知るために、方針と行動の変化を要求する兆候に注意する。
B心底変化を望んでいるかを正直に判断する。
成長するには、変化すべきタイミングを知らなければならない。それまでのマネジメントや組織構造では不適切なほど成長したことを教えてくれる兆候を知らなければならない。[2001:262]

◆現代というイノベーションの時代において、イノベーションのできない組織は、たとえいま確立された地位を誇っていても、やがて衰退し、消滅すべく運命づけられる。/…イノベーションを行う組織には共通の特徴がある。
@イノベーションの意味を知っている。
Aイノベーションの力学を理解している。
Bイノベーションの戦略を持っている。
C管理的な目標や基準とは別に、イノベーションのための目標と基準の必要を知っている。
Dマネジメント、特にトップマネジメントの果たす役割と姿勢が違う。
Eイノベーションのための活動を、管理的な活動のための組織から独立して組織している。[2001:266]

◆イノベーションとは、科学や技術そのものではなく価値である。組織のなかではなく、組織の外にもたらす変化である。イノベーションの尺度は、外の世界への影響である。したがって、イノベーションは常に市場に焦点を合わせなければならない。[2001:266-267]

◆イノベーションを行うにあたって重要なことは…型にはまらないイノベーションが存在し、しかも、それが極めて重要であることを認識しておくことである。重要なことは、常に目を光らせていることである。[2001:268]

◆イノベーションの戦略の一歩は、古いもの、死につつあるもの、陳腐化したものを計画的かつ体系的に捨てることである。…昨日を捨ててこそ、資源、特に人材という貴重な資源を新しいもののために解放できる。/イノベーションの戦略において次に重要なことは、目標を高く設定することである。…イノベーションの成功率はせいぜい一〇%である。しかるがゆえに、イノベーションの目標は高く設定しなければならない。一つの成功が九つの失敗の埋め合わせをしなければならない。[2001:269]

◆…イノベーションについて発すべき第一の問い、しかももっとも重要な問いは、「これは正しい機会か」である。答えが「しかり」であるならば、第二の問いは、「この段階において、注ぎこむことのできる最大限の優れた人材と資源はどれだけあるか」である。/重要なことは、期待するものを検討し、書き表しておくことである。イノベーションが製品、工程、事業を生み出したとき、それらの期待と比較することである。結果が期待をかなり下回っているのであれば、人材と資金をそれ以上注ぎこむべきではない。/イノベーションのための活動に関して発すべき第三の問いは、「手を引くべきか。どのように手を引くか」である。[2001:270]

◆マネジメントの第一の役割は、組織本来の使命を果たすべくマネジメントすることである。第二の役割は、生産的な仕事を通じて人に成果をあげさせることである。第三の役割は、社会と個人に生活の質を提供することである。[2001:274]

◆…正統性の根拠は一つしかない。すなわち、人の強みを生産的なものにすることである。これが組織の目的である。したがって、マネジメントの権限の基盤となる正統性である。組織とは、個としての人間一人ひとりに対して、また社会を構成する一人ひとりの人間に対して、何らかの貢献を行わせ、自己実現するための手段である。/…組織の基礎となる原理は…「個人の強みは社会のためになる」である。これがマネジメントの正統性の根拠である。そして、マネジメントの権限の基盤となりうる理念的原理である。[2001:275-276]

■書評・紹介


■言及



*作成:片岡 稔

UP:20140213 REV: 20140403 0407 0408 0410 0414 0417 0424 0428
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