HOME > BOOK >

『わが国における精神障害の現状』

厚生省公衆衛生局 19651101 大蔵省印刷局,442p.

last update:20130725

このHP経由で購入すると寄付されます

■厚生省公衆衛生局 19651101 『わが国における精神障害の現状』,大蔵省印刷局,442p. ASIN: B000JA82MY 1800 [amazon] ※:[広田氏蔵書] m.

■目次

第1章 精神障害と精神衛生 加藤正明
第2章 精神障害者処遇の歴史 岡田靖雄
第3章 精神医学的疫学 加藤正明
 W 昭和29年精神衛生実態調査 岡田敬蔵
 X 精神薄弱の疫学調査 菅野重道
第4章 昭和38年精神衛生実態調査 大谷藤郎
 V−2)−(2) 標本誤差 前田行雄
第5章 精神病院の統計 百井一郎

■引用

第1章 精神障害と精神衛生 加藤正明 1-2 全文

 「精神衛生行政の目標とするところは,ただに精神障害者の医療保護にとどまるものではなく,精神障害の発生予防に完壁を期するため,一般人の精神健康の保持向上を究極の目的としている。いわば前者を狭義の精神衛生とすれば,後者は広義の精神衛生ともいえよう。
 この広義の精神衛生を展開する具体的な方法は種々あるが,具体像としては,1つは生活史の縦断的側面からみた精神衛生であり,例えば乳幼児期の精神健康,青少年期の精神健康,向老期および老年期の精神健康の保持向上などの問題があり,これには育児と人格形成,青少年の前非行,家庭内老人の問題などが含まれる。他の側面は生活空間における横断的側面での精神衛生であり,とくに家庭の精神健康,職場の精神健康およぴ地域社会の精神健康の保持向上などが問題になり,これには家族職場内の人間関係や地域社会の組織化などが含まれる。
 これらの広義の精神衛生をとりあげるには,家庭,産業,教育,福祉,医療,公衆衛生,矯正,司法などの広汎な領域を総合する精神衛生行政が必要であり,また個々の領域における精神健康の保持向上の問題をそれぞれの角度からとりあげていかなければならない。
 本書でとりあげたのは狭義の精神衛生すなわち,精神障害者の医療と福祉の問題であり,まずこれを医療の歴史的背景,精神障害の疫学調査の意義という点で取りあげ,これに関連して厚生省が2回にわたって試みた精神障害者有病率調査についてのべた。
 精神障害実態調査にとって最も障害となるのは,精神障害者に対する偏見や恐れである。現在でも精神障害者といえばすべて生来性,遺伝性のもので,乱暴や興奮による反社会的行動に走る危険なものであるというあやまった反た考えが,社会のかなりの部分にひろがっている。このような考えは程度の差こそあれ,欧米にも存在しており,中世紀ではことに著しかった。その後1900年代ことに1930年ごろから精神科治療は急速に発展し,1950年以後は薬物療法の進展に伴って社会復帰活動がとみに活溌になった。
 精神障害者の医療と福祉を増強し,その発生予防から社会復帰にいたる総合対策を樹てることが,精神衛生行政の緊急問題であることは今更いうまでもない。しかし現に精神衛生行政の対象となる精神障害者を全国的規摸において広汎な人口からとらえ,その現状を量的にも質的にも把握することは,必ずしも容易なことではない。
 およそ,すべての疾病は疾病それ自体として社会から離れて存在するのではなく,心身の障害のために特定の人間が,自分自身が苦しんでいるか,他人や社会との関連において適応が妨げられるかということから,はじめて病人として問題になる。このことは身体疾患の定義にあたって問題となることであるが,精神障害ではさらに重要なボイントである。
 精神障害mental disorderと精神疾患mental illnessとはほぼ同義語として用いられている。もともと障害といえば,なんらかの心身機能の低下または変容が,社会適応の妨げとなるという意味に用いられ,このことは身体障害でも精神障害でも同様である。しかし,精神障害を伴わない適応障害もあり得るのであって,この社会的適応障害の問題も精神衛生の重要な課題である。
 精神障害の定義とその範囲については,一般にクレぺリンによる病因論的疾患分類が用いられている。クレぺリン以前には精神障害はもっぱら症候論的にわけられ,原因のいかんを問わず状態像によって躁狂,痴狂といった分類が行われていた。近似の状態像でも,異なる病因によっておこり,それは異なる疾患単位にぞくするものであるとするのが病因論的疾患単位nosological disease unitの考えてである。この考えが導入されて以来,精神分裂病(早期痴呆),躁うつ病等をはじめ,多くの精神疾患単位が確立され,今日に至っている。
 しかし, WHOの国際疾患分類の再作成が要望され,現在各国の意見が求められて本原案が検討されていることにも示されるように,精神疾患ないしは精神障害の範囲や分類は必ずしも固定していない。
 一般に精神医学における疾病分類は,精神病,精神薄<0001<弱,神経症,精神病質等にわけられ,これらを含むものを精神障害としている。しかし,例えば嗜癖,児童の問題行動のようにいずれの分類にいれるかに問題の生ずるものや,狭義の精神障害にはいれられないものがある。さらに自殺,非行,犯罪,売春,離婚などの問題に対しては,狭義の医療のみでは不十分であり,広い立場からの社会政策が救育,矯正,産業などの領域での問題を含めて展開されなければならない。
 ここでは精神障害にのみ限るとしても,これらの精神障害者のどの部分が医療や福祉等の機関に捕捉され,治療され,処遇されているか,どの部分が発見されず放置されているかということがはなはだ重要である。このことは精神衛生行政の成否に関する課題であり,精神障害の疫学の根本問題である。
 精神障害者をもつ家族や職場では,これを秘密にしようとする傾向がつよい。従って一斉調査による事例発見はもとより,地域衛生機関の早期発見の可能性は,調査や早期発見にたずさわる職員の地域住民との情緒的つながりや信頼感などによって左右される。全国的規模での一斉調査のみならず,長年月にわたる局地調査が地域社会における精神衛生活動と平行して行われる必要があるのはこのためである。
 また,精神障害者に対する医療や福祉も,近年著しく変化し,関係法規もふえ,一般住民の精神障害者に対する態度も次第に変化しつつある。このような変化に伴って,医療福祉のみならず,矯正,司法,産業教育,保育などの領域でとり上げられる精神障害者が質的,量的にどのように変化してきたかという歴史的変遷のあとをたどる必要もある。
 昭和29年から昭和38年に至る期間に,厚生省が行った5回の精神障害者調査は,これらの調査の行われた時の社会的諸条件を背景とするもので,それぞれ歴史的な意義をもっている。有病率をはじめ,疫学調査に示された個々の数値のみが重要なのではなく,特定の条件のもとでの方法によって,かく行われた調査がかくかくの数値を示したという事実が大切であり,この調査が同時に精神障害者問題への関心と理解をひきおこすといういわゆるアクション・リサーチとしての意昧をもっている。
 最近各国ともに地域社会中心の精神障害者の社会復帰対策が急速に発展しており,たとえばイギリスでは1959年の法律改正以来,夜間寮と昼間通所施設を全国に組織設置することによって,人ロ1万人対33床の精神科病床を18床に減少させる計画がすすめられており,アメリカではとくに1963年のケネディ教書以来,各地域に総合的精神衛生センターを設置し,官私立の昼間通所施設を増やし,巨大な州立精神病院を改変していくなどの計画がすすめられている。
 わが国の精神科病床の8制は私立であり, 2割が官公立であるに過ぎず,医療職員の不足,医療費問題の不備,各種の専門職員の身分や権限の不安定などの諸条件のため,真に精神障害者の社会復帰を促進させるための体制ができていない。
 本書が期待することは,まず日本の精神医療の歴史をかえりみることによって現状発展を検討し,疫学調査の結果の分析からさらに地域精神衛生対策,社会復帰活動,精神病院内治療の強化を要望し,社会一般の関心と理解を深めることにある。
                    (加藤正明)<0002<」

◆第5章 精神病院の統計 百井一郎

 4 精神病院および精神病床の普及状況
 昭和38年末現在におけるわが国の全病院数は6, 621施設で人ロ10万あたり6.9施設, 1病院あたりの人口は約1万5千人である。精神病院数(単科)は30年に260施設であったのが38年末では2. 4倍の629施設,さらに39年1月末では633施設となっており,一般病院で精神病床を有する施設数は225施設で精神科施設総数は958施設を数えるにいたった。
 なお,人ロ10万人あたりの全病床数,精神病床数,結核病床数,一般病床数の年次推移は表13のとおりである。結核病床数を除いていずれの病床数も増加している。また,とくに諸外国における精神病床の保有状況を表14によってみるとわが国の精神病床数がいかに少ないかがわかる。
 また,都道府県別に経営主体別に病院数,病床数,普及状況を附及状況を附表に示しているが地域的に非常な差がみられる。
 精神衛生法は都道府県に梢神病院の設置を義務づけているが,県立精神病院または精神病室の全くないのは埼玉,千葉,石川,滋賀,烏取,広烏,愛媛,佐賀,大分の9県である。この9県以外に,精神病床を有してはいるが,単科の県立精神院を有しないの<0099<は秋田,富山,岐阜,奈良,島根,徳島,香川の7県であり,つまり精神病床のみの県立単独精神病院を有しないのは16県となる。
 人ロ1万あたりの精神病床数は39年6月末で15.1床となっているが,都道府県別にみるとその普及状況には非常な差がみられる。もっとも低いのは静岡の8.1床,ついで岩手(8.6)の両県で他はいずれも10.0床を越えている。一方,もっとも多いのは鹿児島の24.6床で,ついで徳島(23.4),熊本,宮崎(22.5),福岡(21.6),高知(20.7)でいずれも20床以上であり,中国,四国,九川地方は全般的に精神病床の普及がよく,東北,関東,東海地方は低くなっている。(附表1-2)

日本 1963 794,044 136,320 83.4 14.3
アメリカ 1960 1,657,970 91.8 43.7
西ドイツ 1960  553,424 91,351 111.4 18.4
オーストリア 1960 76,170 12,131 107.6 17.1
デンマーク 1959 46,118 16,098 101.4 35.4
フランス 1959 657,200 88,000 145.7 19.5
アイルランド 1960 60,293 20,609 212.8 42.0
イタリア 1959 439,893 106,607 89.1 72.7
スコットランド 1960 63,589 22,052 121.0 42.0
スェーデン 1960 116,681 32,940 156.0 44.0
ソ連 1960 1,739,200 162,200 81.1 7.6

 5 精神病床の利用率
 精神病床の年問利用率を年次別にみると表14のとおりで,毎年100%をこしている。ということは,精神科では許可病床数をオーパーして精神障害者を収容していることである。全国平均で110%ちかい数字を示しているが,病院によっては許可病床数をはるかにオーパーして入院させておく病院もある。これはまさに人道問題であろう。いずれにしても精神病院が,いずこも満員の状態である理由としては,第1に要入院患者数に比して精神病床が極度に不足していることであり,第2に,精神病室の多くは畳敷であるため多少の無理をすれば収容できることなどであろう。いずれにしても許可病床数を上回って入院させておくことは早急に改善しなけれぼならない。
 なお, (単科)精神病院の病床利用率はその他の病院の精神病床の利用率よりも常に高い。しかし,一般病院精神病床の利用率は昭和36年3月までは100 %をこしたとがなかったが,同年4月以降はほとんど常に超過入<0100<院を続けている。なお,経営主体別に病床利用率をみると,法人・個人立の精神病床利用率は国公立などにくらべて高くなっている。(表16)

 6 精神病院の経営主体別構成
 わが国の精神病床の約8割は私的医療機関で占められていることは,諸外国がその殆んどを国公立で保有して[ママ]のとくらべてはなはだ特異的である。このことの良し悪しの議論はさておいても,精神障害の特質上,とくに性格異常,重症精神薄弱,重度心身障害,小児精神障害,中<0101<毒性精神障害等の患音は国公立の医療機関で医療保護を加えるべきであると主張されていることからも,今後の増床を図る必要がある。年次別にみた経営主体別による情神病床数と増床数の推移は表17に示すとおりである。
 […]<0102<<0103<<104<
 […]
 9 精神病院における在院日数
 昭和38年における全病院の平均在院日数は推計58日で,これを病床種別にみると,特に長いのはらい病床の9,337日(約26年)で,ついで精神病床の393日,結核病床の384日となっており,昨年にくらべてさらにながくなっている。ー般病床は30日である。とくに精神病床についてみると,単科精神病院の病床は424日で,一般病院精神病床は275日で前者の方が150日も多くなっている。
 なお,精神病床について開設者別にみた平均在院日数の年次推移を示したのが表26であるが,同種の病床においても開設者別によっていちじるしい差がみられ,年々延長の傾向がある。この原困としては,精神科治療の進歩によって治療効果の期待性が高まったためよくなるまで在院させようとする傾向が強まったこと,医療保障制度の進展とともに医療費のうらずけと見とおしができてきたこと,また一方では老年者の患者が多くなり,漸次引取リ人がなくなってきたことなどがあげられよう。
 平均在院日数の算出は次の方法によっている。
 平均在院日数=
        年間在院患者延数
 ――――――――――――――――――――
 1/2x (年間新入院患者数十年間退院患者数)
 […]<0105<


※厚生省公衆衛生局精神衛生課(1962)
http://mol.medicalonline.jp/archive/search?jo=cb6hpcom&vo=&nu=5
結核予防課長(1969)
http://jssm.umin.jp/lectures/1969.pdf

■言及

◆立岩 真也 2013/12/01 「『造反有利』はでたが、病院化の謎は残る――連載・96」,『現代思想』41-(2013-12):


UP:20130719 REV:20130725, 1113
BOOK
TOP HOME (http://www.arsvi.com)