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『進行性筋ジストロフィー――機能障害と心理的諸問題』

Price, Antje 1965 Regression of Funtion in Pseudohypertrophic Muscular Dystrophy, American Occupational Therapy Association Monograph No.1=19740901 寺山 久美子・長田 香枝子・金子 翼・古川 宏・平尾 恵美子 訳/上田 敏 監訳・解説,『進行性筋ジストロフィー――機能障害と心理的諸問題』,医学書院,172ページ

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last update:20170121

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■Price, Antje 1965 Regression of Funtion in Pseudohypertrophic Muscular Dystrophy, American Occupational Therapy Association Monograph No.1=19740901 寺山 久美子・長田 香枝子・金子 翼・古川 宏・平尾 恵美子 訳/上田 敏 監訳・解説,『進行性筋ジストロフィー――機能障害と心理的諸問題』,医学書院,172ページ ASIN: B000JA1A2I [amazon] ※ n02. md.

■内容

訳者序 寺山久美子 5-6

「進行性筋ジストロフィー(とくにドゥシャンヌ型)のリハビリテーション」はリハビリテーション医学が抱える難問の1つであります。理学療法,作業療法,装具の面から種々のアプローチがなされてきました。しかしながら,率直にいって病気の「進行」に打ち勝つだけの有力な武器となる治療法は今なお見つけられていないというところでしょうか。医師セラピストたちの試行錯誤的努力が続いているのが現状です。
 私達の勤務する東京都心身障害者福祉センターでは,東大病院リハビリテーション部の医師上田敏先生をお招きして,筋萎縮症者(児)のための相談・判定日を特に設けこの間題に取り組んでまいりました。このクリニックを経て理学・作業療法に送られてくる患者さん達を相手に私達も試行錯誤,悪戦苦闘を続けてまいりました。そんな時,上田先生から一読を勧められたのが本書であります。筋ジストロフィー・ドゥシャンヌ型の患児を長い時間をかけて縦断的に追跡した結果をまとめているわけですが,機能障害の進行過程ばかりでなく,それに伴う患児の心理的側面をもとり上げています。そこに書かれた事実はまことに苛酷なものであります。ある意昧では私達がぼんやりと「大変だな」と感じていたことを,はっきりと意識させられたともいえました。しかし私達リハビリテーションにたずさわる者としては,この「現実」をまず認識すべきだ――という点で広く関係者に読んでいただきたいと思い翻訳にふみ切りました。著者がたまたま作業療法土であり,ぜひ同業者である私達の手でという気持も強く働らきました。
 著者のAntje Price女史は, 1944年Eastern Michigan大学を卒業後,今日にいたるまで約30年間,一貫して作業療法士として現場に勤務してきた,はえ抜きの臨床家であります。まず1945年から47年にかけてはSigma Gamma Hospital School (Sigma Gamma療育園), 1947年から60年△005 にかけてはIllinois Children's Hospital-School of Chicago (イリノイ州立シカゴ小児療育園), 1961年から62年までIllinois Association for Crippled(イリノイ州肢体不自由児協会)で訪問作業療法士,そして1963年から今日までHome for Crippled Children (肢体不自由児訪問協会)の主任作業療法士という経歴の人であります。またアメリカ作業療法土協会の重鎮として活躍しておられると聞いております。
 訳については,東京都心身障害者福祉センター肢体不自由科の作業療法土5名がこれにあたりました。寺山久美子,長田香枝子,金子翼,古川宏,平尾恵美子が分担し,寺山が訳語の統一など全体的なまとめを行ないました。さらに,上田敏先生に訳の不十分な点の修正など監訳をおねがいしました。なお上田先生には,筋ジストロフィーのリハビリテーションについての解説を併せておねがい致しました。その他この本が完成するまでに医学書院の方がたに大変お世話になりましたことをつけ加えます。ここに感謝の意を表します。
   1974年8月
          訳者を代表して 寺山久美子

■目次

第1編 機能障害の進行の程度とパターン
 第1章 障害の進み方
 第2章 筋におよぼす影響
  治療の効果
   薬物的治療
   運動療法
   筋伸張法と姿勢の保持
第2編 小児期の進行性疾患にいかに対処するか
第3編 変形の進行過程について

■引用

 治療の効果

 治療の効果筋ジストロフィー症における筋機能の経過を考えた時,治療の効果に関する疑問が当然生じてくる。関節運動や筋力喪失の割合を述べようとする場合,治療効果のあった者と,そうでなかった者とが混在するサンプルを,どう分けて考えるのかとたずねたくなる者もあろう。これは無視しえぬ変動要因であるのでここに取り上げてみたい。

  薬物的治療

 使用される治療手段は,薬物的および理学的治療法の2グループに分けられる。前者としてはビタミンE(9例),小麦の胚芽油(3例),プロスチグミン(3例),および外部の医療機関より与えられたさまざまの不明△039 な薬物療法(3例)などであった。短期間にせよあるいは長期間にせよ,これらの薬剤による見るべき改善の報告は出ていない。この形の治療を受けた被験者と,受けなかった被験者とを,年齢,ステージ,タイプで比較したところ,前に述べた「機能的」,「自動的」,「ゼロ」の3段階の範囲内での筋力喪失の割合では著明な差異はまったく見られなかった。またこの疾患の経過の機能ステージごとの差異も見いだされなかった。

  運動療法

 理学療法としては,筋力増強と筋緊張の維持のための運動療法,および拘縮の矯正,または予防のための徒手的または器械による(姿勢保持の方法として)筋伸張法を用いた。重い抵抗をかけての訓練が行われた者は5,その他8名について,筋群,目的,持続期間などについては非特定の運動療法が行われた。これに関して治療群と非治療群との間に,筋力喪失)割合における大きな違いは見られなかった。ここでもまた, 2群とも「機能的」「自動的」「ゼロ」の3段階の基準の範囲内で同一の結果をもたらした。

  筋伸張法と姿勢の保持

 筋伸張法としては,徒手によるもの(6例)と,器械によるものとが使われた。器械によるものは,装具(5例),べッドフレーム(4例),車椅子への用具の取り付け(2例),起立保持テーブル(4例)の使用,牽引(4例)であった。これらは,ほとんど股膝関節(10例)および(または)足関節(11例)に対して行われた。この結果5例に,拘縮治療による症状軽減が見られた。しかしながら,非治療4例にも同じ関節に,同様の結果が得られた。関節可動域制限の増加割合については,徒手あるいは器械伸長を行った被験者と,行わなかった被験者の間において,著明な差異は何ら見いだせなかった。一方,男児3例に,アキレス腱延長術が行われた。それにより足関節の肢位は明らかに改善されたが,関節可動域についてい△041 えば,こうした結果を段階づけるために使った大分類での位置付けを変更するほどの改善は見られなかったし,また変形の進行についていえば,これを永久的に停止するカにもなりえなかった。一方, 3例に対して,コルセットが装着された。そのうち2名には歩行期においてのみそれを用いたが,歩行停止後5年間で軽度から中等度の側彎曲となり,これは年齢やステージの同じ他の患児と異なることはなかった。これに対してもう1人の男児には13歳から17歳まで,すなわち歩行停止後4年から8年間,コルセットを装着させたが,彼は17歳時に,全経過を通じてもっとも重度な側彎に達した。
 治療の試みは,一般的に最初の6ステージまでに限られた。およそ,被験者の半数以上が特別の薬物療法を受けた。それとほぼ同数が訓練プログヲムに組み入れられ,うち約2/3が拘縮改善のために徒手または器械による筋伸張訓練を受けた。筋力,関節可動域においても,一般的機能の喪失度においても,本研究におけるようなデータを出すために作られた大まかな段階づけ法の範囲内では,被験者の進行を変えるまでに改善した例は1例もなかった。いい換えれば,これまで述べてきたような障害進行度の診かたは,ある被験者が治療を受け,ある被験者は受けなかったという事実の如何にかかわらず信頼性があると考えてよい。こうした結果は治療の質を疑わせるものではない。治療はもっとも有効な手段を用いて良心的に遂行されたのであり,この結果はむしろ,この病気そのものの容赦ない進行を示すにすぎないものであることを,つけ加えておかねばならない。

解説 上田敏 161-172

はじめに

1進行性筋ジストロフィーとリハビリテーション
a.進行性筋ジストロフィー症とはどのような疾患か
b.進行性筋ジストロラィー症のリハビリテーションの考え方と問題点
 […]
 リハビリテーション(rehabilitation)とは本来的には「権利の回復」を意味し,単なる身体の運動機能の回復にとどまるものではなく,心身の両面にわたり,さらに社会的存在としての人間の価値の回復・増進というより大きな課題をも含む概念である。小児に対しては「権利の回復」よりは「権利の賦与」が必要であるとの考えからハビリテーション(habilitation)の語が使われることも少なくない。本書の著者は「リハビリテーション」には,そのre-(再び)という接頭辞のニュアンスからして,本症のような進行の疾患の場合には「セラピストも患者も共に不可能な進歩を求めてあまりにも期待をかけすぎてしまうことがあり,誤解を招きやすい概念である」としむしろハビリテーション,すなわち「人生への準備,患者が△165 圭きなければならない独得な人生への準備」を意味する概念に立つべきだと述べている(86ぺージ)がこれは傾聴すべき考え方である。
 わが国では,1964年にいくつかの国立療養所に筋ジストロフィー専門病棟がつくられたことをひとつの契機として,徳島大学整形外科を中心として,本症のリハビリテーションへの努力が重ねられ,今日にいたっている。その成果の一端は,本年(1974年) 5月に徳島で開かれた,第11回日本リハビリテーション医学会のシンポジウムで発表され,注目をあびたが,卒直について(ママ),わが国における本症のリハビリテーションの理念は,私自身をも含め,これまでどちらかといえば,狭い意昧の身体機能の維持(障害の進行をできる限り遅らせること)に重点をおき,より広い,心理的な問題への積極的なアプローチ,すなわち日に日に進行していく障害と短命が避けがたいものとして予見されている人生を,それにも拘らず,いかに意義あるものとして,生きることを可能にするかという面での努力はきわめて不十分であったという感を深くする。もちろん,徳島大学のグループによって開発された,膝バネ付長下肢装具による歩行期間の延長(平均3年8か月もの長期間の)などの身体機能維持面での大きな成果や国立療養所西多賀病院(仙台)と西多賀ワークキャンパス等での本症児のための作業=労働と趣味=レクリエーションの活動また横浜市大リハビリテーション科と筆者ら(東大病院リハビリテーション部と都心身障害者福祉センター)の在宅ジストロフィー児へのホーム・プログラム(在宅ケア)の試みなど,この10年のうちには,それなりの進歩があり,努力が払われてきいて(ママ)ることは否定することはできない。しかし,それにも拘らず,本症児にとっても,その親や近親たちにとっても満足すべきリハビリテーション(またはハビリテージョン)の体系がうちたてられたというには程遠いというのが現代である。その原因としては,わが国におけるリハビリテーション医学全般の未成熟,その背景となっている社会保障全般の立遅れ,人権意識の不徹底といった条件も大きく作用しているが,同時に本症独自の困難さがあることも否めない。△166
 すなわち,どんなに身体的な面のリハビリテーションの努力を重ねて,章害の進行を遅らせても,結局は障害は情け容赦もなく進行するし,その先には死が待っているという現実である。この深刻な問題の打開のためには,医学面だけでなく,教育,心理,その他多くの面を併せた総合的な援助のツステムが作られなければならないのであるが,本書特にその第2編で扱われた,本症児の心理機制の的確な把握と作業療法を通じてのそれへの働きかけの実践の報告は,そのような総合的な対策のあるべき内容について,非常に示唆深いものをもっている。特に,心理面のダイナミックな把握によって,われわれがしばしば表面的には見逃しがちな本症児の内面の葛藤,すなわち「敵意」や「逃避」やより積極的なさまざまの防衛機制をつかみ出してみせてくれたことは重要である。このような防衛機制をもち,自己の内面を容易にあきらかにはしないが内部では深く苦しみもがいている人間存在としてとらえないかぎり,真の意昧のリハビリテーション(ハビリテーション) もありえないたろうからである。
 この意味で,「筋ジストロフィーの患者が活動的な防衛機制を放棄し,敵意を失うようになると死期は文字通りせまっていた。この研究の対象足のうち4例にこの様な変化が見られた。彼等は,死の2年足らず前,この疾患の最終のステージに達した頃から愛想が良くなり,愛情深く,そして,あきらめの気持をもつようになった。彼等は,それまで防衛機制のひとつとして自らに禁じてきた他人との交際を最後に楽しもうとして,手をさしのべて求めているようであった。生きることがあまりにもむずかしくなり,病気の重荷が耐え切れなくなったために,死は彼等にとって,歓迎すべき解放として静かに受け入れられるものになるのであろうと考えられた。」(81ぺージ)との記載は本症の悲劇性のこの上ない指摘であるとともに,一面では究極的な救いをも暗示しているかのようにも受け取れるのである。
 最後に上記のこととは違った点でわが国における本症のリハビリテーションのあり方についてのひとつの問題を指摘しておきたい。それは,わが△167 国のジストロフィー対策が,専門施設への収容という形で出発し,今なお施設ケア中心の性格を色濃くもっていることである。本書もまた,肢体不自由児施設におけるプログラムにもとづいているが,重要なことは,この研究の場となっているイリノイ州立療育園は決してジストロフィー専用の施設ではなく,通常の肢体不自由児施設であって,そこでは本症児は全患者の10%を占めているにすぎないことである。ジストロフィーに限らず,単一の疾患のみを集めて,専用の施設を作るということは(結核・らいなど感染性の疾患を別として)欧米のリハビリテーションではふつうはおこなわれないことであり,筆者の知るかぎり,日本の国立療養所のような,ジストロフィーのみを集めた施設は,世界的にみても珍らしい性格のものといわねばならない。そのような特殊な施設のあり方が果して望ましいものかどうかはかなりに疑問であり,またそもそも,本症のような,施設に入院しても,よくなって帰るあてのない疾患を,幼少時から親や家族から離して収容することにどれだけの意義があるのかについても,虚心に反省することが必要であろう。もちろん現状では,家族が過重な負担に耐えないとか,在宅では教育の機会が奪われるとかの場合が多く,そのためには施設の必要はおそらく長期にわたって続くであろう。しかし,その場合でも,できるだけ一般の肢体不自由児施設や養護学校に受け入れるようにし,さらに,より根本的には,地域における医療・福祉・教育のサービスの強化によって,在宅のまま,すなわち,両親や兄弟とともに生活しつつ,教育や医療や社会生活のニードが保障される態勢を作り,施設に入らないでもすむ子供を1人でも多くしていくことが必要であると思われる。本書は約10年前に書かれたこともあって,このような面は特に指摘していないが,最近のアメリカのリハビリテーションでは(全体としても,作業療法の分野に限っても)施設ケアから地域ケアへ(from institutional to community care)の転換の気運がますますたかまっていること,本書の研究がなされたのは,その一つ前の時代であったことは,本書の背景の正しい理解のために留意されてよい点であろう。

 2.機能障害の進行について
 […]
  a.障害段階の分類について
 著者も指摘しているように,下肢の機能障害の進行についてはこれまでも研究は少なくなく,歩行能力あるいは車椅子操作能力にもとづいた障害段階(disability stage)はニューヨーク大学のDeaverらのものをはじめ種々のものが行われている。それに比べ,上肢の段階分類にはほとんどみるべきものはなく,筆者もかつて,それを試みたことがあるが,きわめて下満足なものにとどまった。その点この著者の「積み重ねテスト」は作業療法的な立場からのユニークな貢献であり,今後広く用いられてよいものであろう。
 ただここで,このような欧米の成果をわが国に応用しょうとする場合に起こってくる大きな問題として,彼我の生活様式の違いがあることを忘れてはならない。筆者は先に,ニューヨーク大学式のステージ分けが,日本の本症児にはそのまま適用できないことを指摘し,一定の改変が必要であることを提唱した。すなわtちニューヨーク大学式では(本書の著者の式のものも同様であるが),歩行不能となった後では車椅子生活をすることが△169 当然の前提とされている(表1参照)が,わが国では,歩行不能(ニューヨーク大式では段階5以後)となったあとでも患児は這うことにより,あるいはさらに筋が弱るといざることにより,室内での移動能力をかなり長い間(2〜3年からときに数年)保持している。そして,日本式便所に這って行って,全く人手を借りずに用便をすることができる。その意味では日本のP.M.D.患児は米国のそれよりもはるかに長い期間ADL上独立でいられるわけである。リハビリテーションの上では日本式生活様式が大きな障害とされることも少なくないが,ここではそれがむしろ有利に働いている。
 這い方を多数の例で観察すると,歩行不能となった直後には,ほとんどすべての患児が四つ這いをし1〜2年してそれがやがて不可能になってその後に種々のいざり方にうつることがわかる。これを障害度評価にとり入れた,次の方式をわれわれは提案したが,日本の生活様式に則したものとして,厚生省委員会をはじめ,しだいに広くとり入れられてきている。
 […]
 これはひとつの例であり,この他にも日常生活の種々の面で,欧米とわが国との違いは気なつけてみれば意外に多いものである。上肢の機能については,「積み重ねテスト」にみるような基本的な機能については生活様式の差はそれほど問題にならないかもしれないが,日常生活動作を間題とする場合には徴妙な違いが生まれうることを念頭におく必要がある。一例をあげれば,箸を使ってする日本式の食事は,ナイフとフォークでする西△170 洋式のそれよりもはるかに後まで容易に行いうる等である。」

■書評・紹介

■言及



*作成:岩ア 弘泰
UP:20170121 REV:
筋ジストロフィー ◇「難病 Nambyo」 ◇上田敏 ◇病者障害者運動史研究 身体×世界:関連書籍  ◇BOOK
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