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『映画の経済』

柴田 芳男 19621010 連合通信社,312p.

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last update: 20180223

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■柴田 芳男 19621010 『映画の経済』,連合通信社,312p. ASIN: B000J8VDH2 [amazon]

■目次

第一講  映画企業と商業
     一、映画と公正取引委員会の審議
     ニ、専門館制が生んだ新映画企業
     三、系統制の配給興行と製作
     四、商業映画と商業新聞
     五、一系統の年間必要配給収入
     六、二〇〇万人の観衆のための映画
     七、商業映画におけるスタアの地位
     八、商業映画をつくる要素
     九、商業映画に対する欲求
     一〇、白黒小型と大型天然色
     十一 スターをつくる映画
     十二、商業映画の科学的発達
     十三、映画産業のための経営学

第二講  映画企業の実態
     一、映画企業の諸形態
     ニ、映画の価格と入場料
     三、需要供給と映画価格
     四、製作配給企業の独占利潤
     五、フリー・ブッキングについて
     六、製作配給と興行との結合
     七、労働組合と協同組合と興行

第三講  映画配給と著作権
     一、著作権(映画上映権)と映画
     ニ、ブッキングと選定・記録
     三、ブッキングと系統全プロ制
     四、系統全プロ制と製作
     五、シャシン重点と興行重点
     六、系統全プロ制と製作費の回収
     七、映画見物と映画鑑賞
     八、系統全プロ制と独立プロ
     九、系統全プロ制と製作

第四講  映画番組権と配給
     一、系統全プロ制が生んだ番組権
     ニ、「不上映料」という映画料
     三、番組権を集めた東宝洋画系
     四、番組権と上映料の決定
     五、公取の審判と新東宝の自主配給
     六、番組権の優劣と製作方針
     七、系統館に対する製作者の責任
     八、フリー・ブッキングと系統制
     九、系統館の番組権と不動産

第五講  外国映画の配給契約
     一、セールス・マンと上映料金
     ニ、ブロック契約と不上映料
     三、請求書と不上映画の料金

第六講  日本映画の配給契約
     一、日本映画の系統全プロ制
     ニ、東宝とフリー・ブッキング
     三、太平洋戦争と映画統制
     四、自主配給と独占禁止法
     五、審判開始決定書の解釈
     六、審決書
     七、審決書の意図と影響
     八、二本立番組と専門館
     九、上映契約の再検討

第七講  系統全プロの製作と興行
     一、系統全プロ配給の危険性
     ニ、興行に基礎をおかない製作
     三、流れのない「雑貨屋」的な配給
     四、系統の盛衰と興行街
     五、映画料の二重構造
     六、興行収入と無関係な製作費
     七、一系統を維持する興行(配給)収入
     八、大作主義と系統全プロ制
     九、大作主義とフリー・ブッキング
     十、映画の科学的・機械的発達と興行

第八講  入場税と入場券用紙(昭和三十三年七月)
     一、入場券利用々紙は入場料の領収書
     ニ、百億の税源に対する保護施策がない
     三、入場券利用々紙は完全ではない
     四、映画行政は入場税から出発せよ

第九講  製作、配給、興行の役割
     一、映画産業に於ける興行の地位
     ニ、観衆という消費者と興行
     三、製作、配給の興行統制意識
     四、映画審議会と二本立興行
     五、二本立を禁止したナチス・ドイツ
     六、輸入制限とスクリーン・コーター
     七、邦画の配給とスクリーン・コーター
     八、教育映画併映の免減税興行
     九、興行と観衆を無視した製作
     十、プロダクション映画の配給収入

第十講  映画と経済の統制
     一、序説
     ニ、映画価格は興行で決定する
     三、如何にして原価計算をやるか
     四、家賃と経費の考え方
     五、興行経費査定の真意義
     六、映画館の加工的機能とは何か
     七、五七・五制度は共同経営か
     八、票券と五七・五制度
     九、入場料金と映画の価格

第十一講  映画産業と系統制
     一、カメラから映写機までの産業
     ニ、興行から遊離した製作企業
     三、系統制配給と映画料の本質
     四、独立プロ作品と系統制の興行
     五、水まし配給と架空決算

第十二講  映画企業と法律
     映画配給料金調整委員会
     セールスマン倶楽部の不法活動
     興行者ブロック形成も疑問
     映画配給と空文化した独占禁止法
     独禁法による映画会社の営業
     環境衛生協同業組合

附録一  五社協定
附録ニ  映画倫理規定
映画商売語辞典


■引用

五社協定協定書
協定書
 我が国映画産業の健全な発展と、その質的向上を計るために、日本映画連合会規約第二章第三条の主旨に則って松竹株式会社、東宝株式会社、大映株式会社、 株式会社新東宝、東映株式会社(以下五社と総称する)は相互に左の通り協定する。

第一章 協定内容
第一条 この協定は五社と夫々その所属芸術家、技術家との面の契約を五社が相互に尊重し、不公正不法な競争をしないことを約することをもって目的とする。
第二条 契約の種種は次の如く定める
  イ、専属契約(第一号A型又はB型書式による契約)
  ロ、本数契約(第二号B型又はB型書式による契約)
  ハ、臨時契約(第三号書式による契約)
第三条 五社は相互に新人(養成所その他これに類する施設に於いて養成中の者及び養成施設における養成を終え又はこれを終えずして初めて出演の契約を締結 した日から満三年を経過しないで管理委員会が新人として登録を認めたものをいう)の養成に関する他社の立場を尊重し、当該他社の承諾なくしてそれらの芸術 家と出演の契約又は雇傭契約を締結する等当該他社をして不利益を蒙らしめる一切の行為をしないことを約する。
第四条 契約期間の満了した芸術家、技術家と契約することは自由であって以前契約した会社の確認や諒解を得る必要はない。

第二章 方法
第五条 五社は各自夫々一名宛の委員を選出し、これをもってこの協定の実施に当る。
  管理委員会を構成する管理委員会の議事は多数決によるものとし、その運営に関しては、管理委員会がこれを定める。
第六条 五社は新に芸術家、技術家と契約し又は契約を更改した場合は直ちにその契約内容を明示し管理委員会に登録する。
第七条 管理委員会に登録なき契約に関して紛争を生じた場合は他社に対抗することが出来ない。
第八条 この協定に関し、違反の事実の有無につき当該会社間に争いの生じた場合は五社は管理委員会の決定に従うことを約する。

第三章 責任と罰則
第九条 五社は五社以外の映画製作者が第一章に反する行為によって雇人又は出演契約した芸術家又は技術家を出演せしめて製作した映画を配給しその他如何な る方法を以てするかを問わず第一章の逸脱、その他不公正、不法な競争行為をしないことを約する。
第十条 この協定に違反した会社は違反罰として金一千万円の違約金を管理委員会に拠出しなければならない。この違約金の管理及び使途については五社代表者 会議に於てこれを決定する。

第四章 相互援助
第十一章 五社は芸術家、技術家の交流を相互に行う。
第十二章 五社は他社より自社契約の芸術家、技術家の出演交渉を受けた場合は自社の製作に支障がなく当該芸術家技術家が希望した場合を以て善処する。
第十三章 前条により出演した芸術家、技術家に対する出演料は当該会社間に於て一切を決済するものとする。

第五章 附則
第十四章 この協定は成立の日より満二ヵ年間有効とし、さらに必要なる場合は五社が協議の上、これを延長することが出来る。
第十五章 この協定は五社の全員一致の意見によってのみ、これを変更又は解約し得るものとする。
pp.259-262


映画倫理規定
一、国家及び社会
 (1) 日本国憲法はつねに厳守する。
 (2) 民主主義の精神に反する思想はいかなるものといえども否定し、民主主義の精神に合致する思想の助成をはかる。とくに封建思想およびそれにもとづ く習慣は否定する。
 (3) あらゆる国の慣習および国民感情は尊重する。
 (4) 戦争、武力および暴力は否定する。

ニ、法律
 (1) 法および正義の存在を厳に尊重し、犯罪の取り扱いについては充分注意し、いやしくも法および正義に意反する行為に同情を与えたりあるいは模倣の 動機を与えるような表現をしない。とくに次の事項に注意する。
   (a) 殺人場面は刺戟的に表現しない。また残酷な殺人の方法を詳細に描写しない。
   (b) 火器、鉄砲、刀剣その他の武器の使用は必要限度にとどめ、暴力行為を指嗾しないように注意する。
   (c) 密輸の方法は詳細に描写しない。
   (d) 麻薬およびこれに類する薬品の不正取引の実際および使用方法を描写しない。
 (2) 訴訟および裁判の手続きは正しく表現する。
 (3) 復讐は否定する。

三、宗教
 (1) 信仰の自由をつねに尊重する。
 (2) 牧師・僧侶・神官およびこれに準ずるものは、故意に悪人として表現しない。

四、教育
 (1) 民主的教育者を不当に愚弄したり侮辱したりしない。
 (2) 素材・描写・表現のあらゆる面にわたって児童に対する影響について考慮する。

五、風俗[p.264では四を右に90度回転した文字になっているが誤植と思われたので訂正した]
 (1) 猥褻な言語、動作、衣装、暗示、歌謡、洒落などはそれがかりに一部の観客にのみ理解されるものであっても取り扱わない。
 (2) 裸体、着脱衣、身体露出、舞踊および寝室の取り扱いは観客の劣情を刺戟しないよう充分注意する。

六、性
 (1) 性関係の取り扱いは、結婚および家庭の神聖を犯さないように注意し、それに関する描写表現は観客の劣情を刺戟しないようにする。
 (2) 売春を正当化しない。
 (3) 色情倒錯または変態性慾にもとずく行為を描写しない。
 (4) 性衛生および性病は人道的または科学的観点から必要な場合のほか素材としない。

七、残酷醜汚
 左の素材および場面は刺戟的にあつかって観客に残酷または醜汚の感情を起させないよう充分に注意する。(1)死刑[p.265では(4)となっているが 誤植と思われるので訂正] (2)拷問 (3)私刑 (4)婦人、児童および動物の虐待 (5) 婦人および児童の人身売買 (6) 外科手術(堕胎手術 をふくむ) (7)不具者および病傷者。
(pp.263-265)

著者のスタンス‐「まえがき」より
 昭和の初期、アメリカ映画がさかんになると、アメリカ式の企業形態が提唱されたことがある。フリー・ブッキング論や、製作、配給、興行の分離論がそれで ある。評論家や進歩的と称する映画人から、こういう論議が持出されたものである。映画企業は、国民生活に深く根をおろしたもので、世界じゆうの国で同一形 式の企業体がなりたつものではない。西欧諸国やアメリカの企業方式を、そのまま日本に当てはめることは間違いである。系統全プロ制という方式は日本独特の もので、この制度が発達したのにはそれだけの理由がある。そこまでつきとめないで、フリー・ブッキング論や、三分離論に熱中するのは、日本の映画企業を転 覆させ、西欧諸国のような少数本数国にして、国内の大半を外国映画に奪取させるものである。(p.3)


*作成:篠木 涼
UP:20080313 REV: 20180223
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