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聴覚障害/ろう(聾)者の言語・文化・教育を考える研究会 特別講義


last update:20111221

日時:2012年1月20日(金)部屋があく時間17:00〜20:00(17:30〜19:30)
場所:立命館大学衣笠キャンパス 学而館第1研究室
講師:松岡和美 先生(慶應義塾大学経済学部教授)
テーマ:手話言語学入門: 手話の文法・手話失語・ろう児の言語獲得

概要:この講演では、初学者を対象として、言語学・失語症研究・第一言語獲得・第二言語習得の様々な研究成果を概観する。それによって、ろう者が母語とする手話について以下の3点を明らかにする:
(1)手話とジェスチャーとは本質的に異なること
(2)手話はその国で使われている音声言語とは異なる文法を備えていること
(3)手話は他の音声言語と同様の構造的特性を持つ「自然言語」であること。

(講演は音声日本語で行います。手話・言語学の基礎知識は特に必要ありません。)

※今回の特別講義には手話通訳が付きます。それ以外の情報保障を希望される場合は1月13日(水)までにkai-saraあっとまーくfc.ritsumei.ac.jpまでメールを下さい。

※参加費無料、事前参加申し込み不要。

◆主催:日本学術振興会平成23年度科学研究費補助金研究活動スタート支援 課題番号:22830133 課題名「聞こえない者のアイデンティティ発達における心理臨床的支援システム構築の基礎的研究」(2010.04〜2012.03)(代表者:甲斐更紗)
共催:立命館大学グローバルCOEプログラム「生存学」創成拠点、立命館大学生存学研究センター

問い合わせ先:甲斐 更紗(kai-saraあっとまーくfc.ritsumei.ac.jpまでメールを下さい。)




◆報告

本学先端総合学術研究科5回生の田中 多賀子さんからの参加報告です。

本講演で松岡先生は、アメリカにおける手話言語学の研究成果を紹介しながら、ろう者が母語とする手話について三点のことを明らかにされました。手話とジェスチャーとは本質的に異なること、手話はその国で使われている音声言語とは異なる文法を備えていること、手話は他の音声言語と同様の構造的特性を持つ「自然言語」であるという三点です。アメリカの手話失語やろう児の手話言語獲得など、具体例を豊富に盛り込みながらの松岡先生のお話は大変わかりやすく興味深いものでした。その時の質疑応答を振り返りつつ感想を述べさせて頂きます。

アメリカにおける手話失語の症例をきいて、日本で手話を母語とするろう者が失語症になった場合、どんな状態になるのだろうか、手話によるリハビリ等の支援例があるのかという疑問が湧きました。この疑問に対して先生が答えてくださったことから、日本ではアメリカのような諸条件(手話が言語であることを認める医者がいること、病院医療職と言語学者による研究チームが整うこと)が未開拓であり現状把握自体が前途多難であることを理解しました。

また、私自身、言語聴覚士として未熟構音や吃音のある子どもに係っている経験から、以下のことにも関心を持ちました。アメリカの研究では、幼児が手話言語を獲得する過程で、2〜3歳児の使う手話表現には手指運動等の未熟からくる誤りが見られるとのこと。音声日本語獲得過程においても見られる未熟構音と共通の現象が手話にも見られるのだということが分かりました。それならば、同じ2〜3歳児の頃、口腔運動の未熟さから、ことばのリズムが崩れて「吃音(ことばや音韻の『繰り返し』『引き伸ばし』『詰まり』)」の症状が出やすくなるといったことが、手話でも見られるのだろうか、その場合、どのような症状になるのだろうか、といった疑問も湧いて来ました。
これらの疑問は松岡先生の現在の研究対象からは外れていたのですが、この日の受講者等の中から吃音に似た手話症状(同じ表現の「繰り返し」「詰まり」のような症状)を見たことがある、との報告が1、2例出されました。それが「吃音」に相当する症状なのかどうかについては、よく分かりませんでした。

以上のように、手話は言語学としての研究が始まったばかりであり、特に日本においては環境や諸条件が未整備であるせいか未開拓分野も広く残っているようで、色々な面で奥の深い世界であり、今後の研究発展が期待されることを改めて感じた次第です。


UP: 20111221 REV: 20120208

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