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ars vivendi

きて るを
障老病異と共に暮らす世界の創造


  *2007/05/24のGCOEのヒアリング(於:日本学術振興会)で話したこと。実際とはすこし異なります。
  *[1][2]…はパワーポイント(作成:松原)の1枚目、2枚目…(未掲載)。
  *文責:立岩


  まず、配布させていただいた資料がすこし厚くなっております。後半に、どれだけのことを、とくに今年になって行っているか、その目次にあたるものの一部を参考資料として付したためです。これらはみな、今回のCOE調書も含め、本研究拠点のHPに掲載しているものです。その意図は後で説明いたします。そしてそれは、「<日々の研究、毎日の研究>を強調するのはなぜか」という予めの御質問への私たちなりのお答であるとも考えています。
  では始めさせていただきます。


  *資料の表紙は下に。

■[1]だれもが、「障老病異」、つまり、身体の不如意、老い、病い、これらをも含む様々な身体の異なりそして変化を経験します。それは生まれ死ぬことと同じく普遍的なできごとであり、皆が、そうして、死ぬまで生きています。
  もちろん、その人たちのための技術はあり学問はあります。それはまず「医療」であり「医学」です。ただそれはなおすための技術・学問です。たしかになおればそれでよいのかもしれません。しかしなおらないことも多くあります。そして老いは誰にとっても必然です。
  すると、そうした人のために「社会福祉」があり、そしてその学問、「社会福祉学」があるではないかと言われるでしょうか。けれども、福祉サービスを受ける時間以外の時間にもその人は生きています。その人たちがどうやって生きてきたか、生きているかを知る、そしてこれからどうして生きていくか考える。それが「生存学」です。

■[2]ただ、そんなことは誰もが知っている、今さら学問の対象とするまでもないと思われるかもしれません。しかしそうでしょうか。例えば、耳が聞こえるようになるという「人工内耳」という機器があるのですが、そんなものはいらないという「ろう」の人がいます。いったいその人は何を考えているのでしょうか。皆さんも知りたくはないでしょうか。そんなことを調べて本を書いた学生が私たちの大学院にいます。
  また例えば、ALSという病気で自分の体がまったく動かなくなって、呼吸も人工呼吸器を使って、1日24時間の介護を得て暮らしている人がいるのですが、その自分を介護する人を養成し、毎日の自宅での介護を管理し、それを自分の商売にしている人がいます。自分の障害をビジネスにしてしまっているのです。そんな組織を立ち上げ、全国に広げようとしている学生がやはり私たちの大学院にいます。なぜそんなことをしようと思ったのでしょうか。また、いったいそんな商売が成り立つのでしょうか。成り立ってよいのでしょうか。


  *第一段落はすこし不正確です。cf.本の紹介

■[3]そんなことがまだいくらもあります。しかしそれらに従来の学問は本格的にとりくむことはありませんでした。
  まず一つ、からだを扱うのは自然科学だといって、社会科学・人文科学の主流からは外されます。しかし自然科学では今あげたような出来事は捉えられません。こうしてそれは学問の狭間にあってきました。
  もう一つ、医療や福祉はたくさんの人が従事する仕事ですから、そこで働く人のための立派な学問や教育のシステムがあり、同業者の業界があり、それは代々受け継がれ、発展していきます。しかし他方、病や障害は、ふつうは仕事になりませんし、病がもとで死んでしまう人もいます。もちろん共通の利害関心から患者会など様々な集まりが作られてきはしましたが、きちんと知識を蓄積し、伝え、将来を構想する力においてはやはり不利な位置にいます。供給サイドの学問のようには学問として成立してこなかったのです。
  学問をうまく作り機能させることができるなら、必要とされる継続力、組織力、そして体系性を獲得することができます。大学はその器になることができます。そこで私たちが研究拠点を形成することにしたのです。

■[4]この学問の形成を可能にするのは、まず、私たちのもとにいる三通りの学生たちです。このプロジェクトに関わる学生は70名を超えます。
  第一に、自分たちのことを自分も知りたいし、知らせたいが、そんなことのできる大学院はどこにもなかったという人です。血友病者の研究をしている血友病の学生がいます。視覚障害の人が3人います。車椅子のユーザーが2人います。
  第二に、専門職を長いことしてきたのだが、自分がやっていることやらされていることにどうにも納得がいかないという人たちです。医師が2人、ソーシャルワークやリハビリテーションの仕事をしている人が5人、看護の仕事をしているあるいはしていた人は8人います。
  そしていずれでもないが、この大学に来て、両方の人たちの間に立ち、両方を知り、新たに調べたり考えたりすることを得た人たちがいます。
  その人たちは必ずしも学問のキャリアが長い人たちではありません。しかし得がたい人たちです。私たちはその人たちと研究を進めていていきます。その人たちのすべてがいわゆる職業研究者となることはないでしょう。また私たちもそれを望んではいません。今までの職場や今までの教育システムのもとでえられなかったものを得て、職場に戻る人は戻っていってほしい。また様々な活動の場で活躍していってほしい。そう願っていますし、それは十分に可能だと考えています。

■[5]素質と、そしてなにより志と経験において優れたものをもっている学生たちは数多くいます。ただ、その素材を研究成果につなげるには今までの大学院教育と異なる体制が必要です。多様な専攻分野を出自としつつ、この領域で業績を数多く発表してきた教員が、大学院専任の教員として、教育に当たっています。また大学院GPを獲得、論文指導スタッフを採用するなどして、強力な指導体制を作り、稼動させています。開学5年目の新しい大学院ですが、日本学術振興会特別研究員の数は12名、うち今年度新規採用は7名。学生たちは論文発表、学会報告を精力的に行っています。[6]院生の協働体制の構築、教員のチームによる指導により、さらにその活動を活発にさせていきます。

■[7]そして、この拠点で行うことは大きく、「集積と考究」「学問の組み換え」「連帯と構築」、この三つです。
 [8]第一に、知られていないことを知り、その上で考えるべきことを考えます。
  知りたいことはいくらでもありますし、また広く社会から情報を求めたくもあります。また得たものはすぐに社会に戻し、社会の人々に様々な難問について考えてもらいたくもあります。集積する情報、研究の成果は、そのつど、すべて公開していきます。私たちのHPはすでに約1万のファイル、文字情報だけで100メガバイトを有し、年間アクセスは900万ほどになります。
  学問は独占物ではなく、共有物、コモンズであると私たちは考えています。学的知識における「オープンソース」を目指します。残念なことでもありますが、私たちに追随できる研究機関はなく、競合を恐れることはありません。公表することの積極的意義もあります。私たち自身も、集めた素材をもとに、限界まで頭を使い、考えますが、同時に、あらゆる人に考えてももらいたいのです。そしてそれがまた生存学にフィードバックされます。
  また、そうした作業に学生が参加することは、学生にとって研究の基礎を固める仕事でもあります。自らの仕事の意義と手応えを日々感じながら、責任をもって研究を進めることができます。

■[9]第二に、様々な身体の状態にある人たちが現実に学問・研究に参加し作っていく仕組みを実際に作ります。
  本人参加、当事者主権は今どき誰もが口にする言葉です。しかし先ほど申しましたように、私たちには実際の障害をもつ学生の必要がありますから、現実にその仕組みを作っていかねばなりません。実はすべてをHPにというのも、音声変換ソフトを使って文字情報に接する視覚障害をもつ学生、遠隔地の学生、社会人学生への対応でもあるのです。
  また、私たちが間にはいって、従来つながらなかったものをつなげる、例えば技術の開発者と利用者をつなげることをします。見ていただいている写真は、ALSの人たちがコンピュータで交信する仕組みを作るのを支援しながら、その仕組みについて研究し、それを技術者の方にもフィードバックする、既に始まっている私たちの研究の一場面です。
  そしてこのプロジェクトの全体について研究調査の倫理的側面を検討し、規範を設け、もって人を相手にする研究がどのようであればよいのか、その指針を社会に示します。

■[10]そして第三に、これらの活動をもとに、どんな社会の仕組みを作っていくのかを考え、提案します。
  そしてそれは日本国内のことにかぎりません。例えばアフリカのエイズの問題があります。それは医療技術だけの問題ではありません。薬がどうやったら人の手に渡るようになるかという問題でもあります。そしてそこにもHIV・エイズの当事者たちが大きな役割を果たしてきました。そしてこれらについて日本で最も多くを知り、活動を行ってきたのは研究機関ではなくNGOでした。その代表を私たちは特別招聘教授に迎えました。
  国内・国外の様々な人、機関と協力しながら、どんなことが可能であるのかを考えていきます。

■[11]既に私たちの研究組織は活動を開始し展開しています。これだけの大きな、そして多様な作業をしていくために、自然科学研究のスタイルから取り入れるべきところを取り入れ、研究活動を共同のものとし、組織化していきます。そしてこれまで十分でなかった世界への発信を強化します。実際に暮らしている人々、活動している組織、そして社会と、ダイレクトで密接な関係を維持し、成果を即刻還元し、その反応を得ながら研究を展開していきます。そしてすでに多くの反応を得ています[12]。みなさまも今後の私たちの活動に関心をもっていただければ、ありがたく存じます。
 以上、なぜ私たちはこの拠点を作ったのか、そこで何をするのか、誰とするのか、どのようにするのか、簡単に説明させていただきました。ありがとうざいました。



 
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 ■参考資料目次 2007.5.21現在

    18-23  毎日の仕事:HP・データベース更新記録
    24-31 2007 2007年発表の教員・学生の論文・報告等(188
    32-35 -2006 刊行した冊子・企画本(12)・研究助成(48)・他COEへの参画(12)・等
    36-41 1 著書・編書(74
    42-47 2 分担執筆・翻訳(65
    48-52 2007 関連する催し
    53-54 ☆2007 本拠点企画の催し
    55-59  本研究拠点に参与する学生(73


UP:200705
生存学創成拠点

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