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【訳】最高裁判決を受けての声明

"Following the Supreme Court Judgment"

フェミニストライブラリー[Feminist Library] 2025/05/01
(訳:村上 潔Murakami, Kiyoshi] 2025/06/20)

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last update: 20250808

■書誌情報[Bibliographic Information]

◇Feminist Library, 2025, "Following the Supreme Court Judgment", Feminist Library (Facebook), May 1, 2025, (https://www.facebook.com/FeministLibrary/posts/1102569495231513).=2025,村上潔訳,「最高裁判決を受けての声明」,arsvi.com:立命館大学生存学研究所,2025年6月20日,(https://www.arsvi.com/2020/20250620mk.htm)

■訳文[Translation]

〈フェミニストライブラリー[Feminist Library]〉(以下「FL」と略記する)★01は、2025年4月16日に下された最高裁判決★02と向き合うなかで、トランスの人々との揺るぎない連帯を再確認する。この判決が政府や諸機関によってどのように適用されるのかに関する議論や、新たな法律化ではないという事実にかかわらず、EHRC★03の暫定的ガイダンス(中間報告)と並んで、この結果はトランスの人々が国の資源や共有の公共スペースを利用する能力に広く影響〔=不利益〕を及ぼす、と予測している。この判決の性別による適用が、トランス女性[trans women]やトランスフェム[trans femmes]★04に不釣り合いな影響〔=不利益〕を及ぼし、警察からの国家的暴力や一般市民からのハラスメントにより彼女らがさらなるリスクに晒されることを、私たちは理解している。
この〔裁判の〕法的主張は、長年にわたり、この国の女性団体による極右キャンペーンの基盤となってきた。それは、20年にわたる緊縮[austerity]政策によって産出された欠乏論理[scarcity logics]によって推進される、拡大するファシズム的社会政策という文脈のなかで生じたものだ。私たちは、〈フォー・ウィメン・スコットランド[For Women Scotland]〉やその他のグループが、闘いを成功させるために用いている戦術に注意を払わなければならない。ラディカルフェミニストとしての私たちの課題は、主流の議論を編成し直すだけでなく、「トランス女性は女性であり、トランス男性は男性である」というリベラルな承認を越えて、長期持続的に生存を肯定する相互扶助的支援ネットワークと、トランスの〔人々の〕生命〔=存在〕を絶滅させようとする国家の企てに直面してもそれを維持しようと努める、集団責任としてのラディカルフェミニストの倫理を構築することである。私たちはアボリショニスト[廃絶主義者]であるゆえ、私たちの運命を決めるのは法律でも裁判所でも権利の枠組みでもなく、私たち自身による力の行使のみであると信じている。
2016年以来、生物学的本質主義を用いて女性性を定義しようとしたり、不変の真理として性に関する硬直した考えを再び植え付けようとするいかなるフェミニストプロジェクトに対しても、FLは真摯に反対することを明確にしてきた――2021年のトランスフォビアとアカウンタビリティに関する共同体声明(FLのウェブサイト上で入手可能)★05で、この姿勢を再確認した。私たちは今回の判決を、人間存在に関する複雑な事象を単純化しようとする、ファシズム的攻撃の一部と捉えている。「生物学的な性」を「複雑性がない」、「常識的な」、「自明な」ものと決めつけることは、ラディカルフェミニズムのプロジェクトの核心にある論理を裏切るものだ。FLにおいて私たちは、フェミニズムが地球上のすべての人の自由を追求する政治的方法論であることを信じており、私たちの物質的状況を分析し、その変革に取り組む手段としてフェミニズム理論を用いる。
フェミニズムの敵は、資本主義、性分業、家族、監視国家、私たちの名のもとに行なわれる帝国主義戦争、気候危機、刑務所、住宅危機、〔既存の/支配的な〕教育、育児対策、医療、DV被害者支援サーヴィス、ほかにもたくさんある。そのことを私たちに理解させてくれるのは、イギリスにおける黒人/トランス/レズビアンのフェミニズム思想の遺産に他ならない。私たちは、様々な組織と協力して、この国や世界中で日々女性を殺している搾取の形態ならびに資源の不平等配分へと私たちの焦点を再設定する、包容力ある広範な基盤をもったフェミニズム運動を構築することに、全力で取り組んでいる。私たちの生きやすい生を求める取り組みを、殺す、監獄に入れる、拘束する、制限するのは、あらゆる形態における暴力的かつ構造的なジェンダーの発現であり、ジェンダーレジームである。私たちはそこから注意をそらさない。
私たちにとってフェミニズムとは、矛盾に満ちた厄介な政治的伝統である。よってトランスの人々、特にトランス女性の安全を制限するためにフェミニズムのプロジェクトを利用することに対しては、声を大にして激しく異議を唱えなければならない。私たちはまた、自らの伝統の最も醜い部分、すなわち植民地支配の暴力や戦争、ファシズム的社会政策を正当化したフェミニストの歴史に対しても、批判的でなければならない。いま極右の女性組織は、国家による暴力を助長するために、解放的な政治的系譜であるフェミニズムの伝統を賭け金にしている。この政治的節目において何が争点なのかを理解している私たちは、上記のことを繰り返し主張することが重要だと感じている。
国家とその機構が私たちの連帯を断ち切る動きを起こした場合、私たちがとる対応は、対抗してその結束を強化することでなければならない。ナット・ラハ[Nat Raha]とマイケ・ヴァン・デア・ドリフト[Mijke van der Drift]の言葉を借りれば、「実際に、トランスフェミニストの倫理、ケアと連帯の実践は、白人至上主義国家と文化的論理との分離可能性に挑戦し、それらを解体すると同時に、オルタナティヴな支援、生存、養育的世界を明示する方法である。この倫理を通して私たちは、追い立てや危害を加える行為を法制化するシステム――それは分離可能性を現代の隔離の形式として行使するものだ――を拒否することを実践する」★06。図書館兼アーカイヴとしての私たちの仕事には、すべての女性とすべての人々が安全で自由でいられる別様の未来を構想し・想像し・創造する能力を養うことが含まれなければならない。
私たちは、小さなコレクティヴとして物質的に何を提供できるのか、長い間懸命に考えてきた。私たちはこの図書館を、トランスの人々の物質的現実を変革するために活動する、ラディカルな草の根組織の資源となるような存在にしたい。ここで人々が学び、成長し、知的伝統としてのフェミニズムにアクセスする、そして人々が私たちのコレクションの拡大に寄与してくれる。そうしたスペースにしていきたい。この目標に向けて私たちは、複数のラディカルな草の根トランス組織がまとまり、会合をもち、リソースを共有し、イベントを主催し、互いに支援を提供し、連帯を生み出すための場として、FLのスペースを無償で提供する。私たちのスペースでは性別を取り締まることはない。誰でも歓迎する。FLは、裁判所・路上・家庭などあらゆる場面で次に起こることに対して、戦略を練るためのスペースだ。無料のホール貸し出しの予約に関する問い合わせは、イベントチーム(events@feministlibrary.co.uk)にご連絡を。
【訳者注記:この後に読書案内のリストが続くが、省略する。原文を参照してほしい。】

訳注

★01 1975年、ロンドンで設立。フェミニストヒストリーのアーカイヴ、図書館、そしてコミュニティスペースとしての機能をもち、研究者・アクティヴィスト・コミュニティプロジェクトの活動を支援している。インターセクショナル[交差性重視]、アボリショニズム[廃絶主義]、トランスインクルーシヴ[トランスジェンダー包摂]、を方針として掲げる。大手機関による資金援助を受けず、ボランティアの協同による非ヒエラルキー的運営を一貫して続けてきた。数度の移転を経て、現在はペッカム[Peckham]を所在地とする。
*Webサイト:https://feministlibrary.co.uk
★02 「2010年平等法(Equality Act 2010)」(9つの保護特性に基づき、個人に対する差別やハラスメントを違法とする法律)の「女性」定義をめぐるイギリス最高裁の判決。主な報道を以下に挙げる。
◇イギリスの報道(『Guardian』デジタル版)
(1) https://www.theguardian.com/society/2025/apr/16/uk-supreme-court-legal-definition-woman
(2) https://www.theguardian.com/world/2025/apr/16/a-huge-reset-trans-rights-campaigners-and-gender-critical-activists-react-to-supreme-court-ruling
(3) https://www.theguardian.com/commentisfree/2025/apr/23/the-guardian-view-on-the-uk-supreme-courts-equality-ruling-a-clear-legal-line-a-blurred-social-one
◇日本の報道(『朝日新聞』デジタル版)
(1) https://www.asahi.com/articles/AST4J157FT4JUHBI01TM.html
(2) https://www.asahi.com/articles/AST4J6D5VT4JUHBI02MM.html
(3) https://www.asahi.com/articles/AST4K319JT4KUTIL002M.html
◇分析/評論記事(英語)
(1) https://www.theguardian.com/commentisfree/2025/apr/17/supreme-court-tough-day-trans-people-labour
(2) https://www.theguardian.com/commentisfree/2025/apr/18/if-britain-is-now-resetting-the-clock-on-trans-rights-where-will-that-leave-us
(3) https://www.thenation.com/article/society/supreme-court-trans-ruling-analysis-uk/
【参考】
◆神戸市外国語大学2025年度前期科目《ジェンダー論入門》「アーカイヴィングから見るジェンダー(2nd Round)」(担当教員:村上潔)
◇第3回:「ジェンダーに関する政治的イシューに対し迅速な対応をとるアーカイヴ関連機関――その行動がもつ社会的意義(1)」[2025/04/25]
https://www.arsvi.com/d/2025igs.htm#03
★03 〈Equality and Human Rights Commission(EHRC)[平等人権委員会]〉:https://www.equalityhumanrights.com/
平等・人権を守るための統制(政府の監視を含む)を行なう、イギリスの独立法定機関。「すべての人がもつ、公平性・尊厳・配慮のもとに生きる権利を擁護する法律の施行・維持を通して、国内をより公正な環境にする」ことをその責務とする(https://www.equalityhumanrights.com/about-us)。具体的には「2010年平等法」の施行と、その理念の促進活動を担う。
【参考】
◆神戸市外国語大学2025年度前期科目《ジェンダー論入門》「アーカイヴィングから見るジェンダー(2nd Round)」(担当教員:村上潔)
◇第4回:「ジェンダーに関する政治的イシューに対し迅速な対応をとるアーカイヴ関連機関――その行動がもつ社会的意義(2)」[2025/05/09]
https://www.arsvi.com/d/2025igs.htm#04
★04 出生時に男性に振り分けられた人のうち、男性的性表現よりも女性的性表現に一体感をもつ人のことを指す。女性性[femininity]に自分を重ね合わせはするが、自らを女性[woman]として位置付けるとは限らない。
★05 それに該当するページ(https://feministlibrary.co.uk/statement-on-transphobia-and-accountability)は、現在閲覧できない。そうした内容を含む「コミュニティポリシー」は、FLの機関紹介ページ(https://feministlibrary.co.uk/who-we-are/)からPDFでダウンロードすることができる。村上潔による「コミュニティポリシー」の訳文は、こちらのページ(https://www.arsvi.com/2020/20250706mk.htm)に掲載している。
★06 以下の書籍からの引用かと推測する。
◇Raha, Nat and Mijke van der Drift, 2024, Trans Femme Futures: Abolitionist Ethics for Transfeminist Worlds, London: Pluto Press.
https://www.plutobooks.com/9780745349404/trans-femme-futures/

■注記[Note]

◆許諾に関する説明[Explanation of Permission]
この訳文の掲載にあたっては、〈フェミニストライブラリー〉の許可を得ています。
Permission to publish this translation has been granted by the Feminist Library.

■参考/関連情報[Related Information]

この訳文を使用した講義

◆神戸市外国語大学2025年度前期科目《ジェンダー論入門》「アーカイヴィングから見るジェンダー(2nd Round)」(担当教員:村上潔)
◇第9回:「アーカイヴ、ライブラリー、そして出会い・連帯・抵抗の拠点――ロンドン〈フェミニストライブラリー[Feminist Library]〉に見る場の力(2)」[2025/06/13]
https://www.arsvi.com/d/2025igs.htm#09

〈フェミニストライブラリー〉関係のその他の翻訳

◇Feminist Library, n.d., "Community Policy", Feminist Library, (https://feministlibrary.co.uk/who-we-are/).*=2025,村上潔訳,「コミュニティポリシー」,arsvi.com:立命館大学生存学研究所,2025年7月6日,(https://www.arsvi.com/2020/20250706mk.htm
*[PDF] https://feministlibrary.co.uk/wp-content/uploads/2025/04/community_policy.pdf
◇Feminist Library, 2025, "For Five Decades, the Feminist Library Has Been a Crucial Site for …", Feminist Library (Facebook), June 14, 2025, (https://www.facebook.com/FeministLibrary/posts/1137010031787459).=2025,村上潔訳,「50周年を迎えて」,arsvi.com:立命館大学生存学研究所,2025年7月10日,(https://www.arsvi.com/2020/20250710mk.htm

〈フェミニストライブラリー〉を題材とした過去の講義

◆神戸市外国語大学2024年度前期科目《ジェンダー論入門》「アーカイヴィングから見るジェンダー」(担当教員:村上潔)
◇第13回:「第2波フェミニズムから生まれた自律的フェミニストスペースが担うアーカイヴィング――ロンドン〈Feminist Library〉の事例」[2024/07/19]
https://www.arsvi.com/d/2024igs.htm#13

村上潔

◇村上潔 2025 「フェミニストアーカイヴィング実践におけるオーラルヒストリーの取り組み――イギリスの自律的地域アーカイヴの事例から」(研究会報告:第7回オーラルヒストリー・アーカイブ・プロジェクト研究会:2025年2月12日),arsvi.com:立命館大学生存学研究所,(http://www.arsvi.com/2020/20250212mk.htm
◇村上潔 20210715 「地域のウーマンリブ運動資料のアーカイヴィング実践がもつ可能性――二〇〇〇年代京都市における活動経験とその先にある地平」,大野光明・小杉亮子・松井隆志編『[社会運動史研究 3]メディアがひらく運動史』,新曜社,72-94
◇Knight, Rosie, 2018, "How Zine Libraries Are Highlighting Marginalized Voices", BuzzFeed News, December 30, 2018, (https://www.buzzfeednews.com/article/rosieoknight/zines-libraries-marginalized-voices).=2019 村上潔訳,「ジン・ライブラリーはいかにして周縁化された声を強調しているのか」,arsvi.com:立命館大学生存学研究所,2019年8月29日,(https://www.arsvi.com/2010/20190829mk.htm

■その他[Others]



*作成:村上 潔Murakami, Kiyoshi
UP: 20250808 REV:
生を辿り途を探す――身体×社会アーカイブの構築  ◇アーカイビング――障害/クィア/BIPOC/フェミニズム(海外)  ◇性[Gender/Sexuality]  ◇LGBTQ+ Rights  ◇フェミニズム/家族/性[Feminism/Family/Sex]  ◇全文掲載
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