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「教員採用試験における合理的配慮ーー視覚障害者の場合」

中村 雅也

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last: update: 20240924

中村 雅也 2024/10/25-26 「教員採用試験における合理的配慮ーー視覚障害者の場合」, 障害学国際セミナー2024, 於:台北(台湾)
障害学国際セミナー2024障害学国際セミナー
障害学立岩真也

◆中村 雅也 2024/10/25-26 「教員採用試験における合理的配慮ーー視覚障害者の場合」

NAKAMURA Masaya(Ph.D., Ritsumeikan University, Japan, masaya-n(a)fc.ritsumei.ac.jp (a)→@に変えてください※スパムメール防止のため)

◆背景・目的

・近年、日本ではインクルーシブ教育の実現と障害者雇用促進の2つの観点から障害のある教師の存在が注目されるようになってきた。しかし、障害者が教職から排除されてきた歴史は長く、現在でも十分に包摂されているとはいえない。 ・はじめに、教職に関する合理的配慮の先駆的事例として、1971年に始まる教員採用試験の点字試験実施からその後の全国への広まりを追い、歴史的変遷を概観する。 ・次に、現在の教員採用試験で提供されている合理的配慮について事例をもとに詳しく報告する。

◆点字による教員採用試験が実施される前

・第二次世界大戦以前、視覚障害者は視覚障害者の伝統的職業であるマッサージ、鍼灸、および邦楽の分野で盲学校教師としての地位を確立した。 ・戦後、マッサージ、鍼灸の分野ての視覚障害教師の養成は続き、盲学校における視覚障害教師の存在を確固たるものにした。 ・戦後、大学が視覚障害者の入学を許可したことで、1950年代に視覚障害のある大学生が普通教科の教員免許を取得し、盲学校の普通科教師という新たな職域を切り開いた。 ・1960年代には盲学校普通科教師の実績は着実に重ねられ、1970年代の教員採用試験の点字試験実施、さらには視覚障害教師の通常学校進出への地盤が整えられていった。

◆点字による教員採用試験の実施

・公立学校の教員採用試験で点字試験がはじめて実施されたのは、1971年に実施された大阪府の教員採用試験である。このとき受験したのは藤野高明(1938- )一人だったが、前年度からの交渉の結果、藤野に特例として実施された点字試験だった。この採用試験に藤野は合格したが、採用はされなかった。 ・藤野は1973年に教員採用試験を再度受験、合格して盲学校の社会科教師に採用された。 ・このとき(1973年)から大阪府では正式に教員採用試験が点字で実施されるようになった。 ・その後、大阪府では有本圭希(1954- )が1976年から4年連続で点字で教員採用試験を受け、1979年に合格、盲学校の英語教師に採用された。1982年に高校に転任した。 ・高田剛(1948-1996)は1974年から1978年にかけて、東京都、埼玉県、神奈川県、横浜市などの教員採用試験を点字で受けたが不合格となり、1978年から大阪府の採用試験を受け始めた。1978年から4年連続で受験し、4回目で合格、1982年、中学校の英語教師に採用された。 ・当時、東京都、埼玉県などには教員採用における身体に関する内部規定があり、両眼での視力が0.7以上ない者は不適格とされていた。 ・1980年代以降、点字試験は徐々に広まり、2000年までに9人の全盲者が教員採用試験の点字試験に合格した。そのうち、6人は盲学校、2人は高校、1人は中学校に採用された。 ・文部省の調査によると、2000年までに教員採用試験で点字試験を実施したことがあるのは59の地方自治体のうち46自治体で、この頃には点字試験の実施が全国に普及したといえる。

◆2021年度採用・田中みき(弱視)の事例

・大阪府の教員採用試験、校種は小学校、障害者対象の選考試験 ・小学校、中学校、高校、および特別支援学校の採用予定数の合計は約1395人、そのうち障害者対象の選考での採用予定数は約30人 ○出願 ・インターネットによる出願(3月、4月) ・ウェブサイトの出願フォームには障害者対象の選考を申請するチェックボックスがある。 ・出願フォームに受験に際して配慮を希望する内容を記入する。 ・田中は大阪府教育庁に電話し、受験の際の配慮について相談した。 【要望した配慮】 ・試験時間を1.3倍に延長する。 ・A4サイズの問題用紙をA3サイズに拡大し、それを拡大読書器を使って読む。 ・拡大読書器は場所を取るので別室で受験する。 ・解答用紙のマークシートは記入しにくいので、解答欄に数字を書く。 ・針が大きな見やすい時計を持ち込む。 ○教員採用試験 ▽第1次選考(6月) ・一般教養、教職教養の筆答テスト ・障害者対象の選考では第1次選考の筆答テストは免除される。 ▽第2次選考(7月) ・個人面接 ・会場までは自身でガイドヘルパーを手配し、会場内は試験の担当者がガイドした。 ・結果は8月にウェブサイトで発表 ▽第3次選考(8月) ①水泳の実技テスト ・プールで25メートルを泳ぐ ・試験会場では更衣室やプールサイドなど、担当者が付き添った。 ・障害者への配慮として実技の免除や変更を行うこともあるが、田中は一般の受験者と同様にテストを受けた。 ②筆頭テスト ・国語、算数、理科、社会、英語についての専門テスト(択一式)、および小論文 ・試験時間は120分のところ、田中は1.3倍の延長で156分だった。 ・受験教室は別室で、自分の拡大読書器を持ち込んだ。 ③面接テスト ・模擬授業と個人面接 ・会場までは自身でガイドヘルパーを手配し、会場内は試験の担当者がガイドした。 ・結果は10月にウェブサイトで発表

◆まとめ

・日本では1971年に点字による教員採用試験がはじめて実施された。 ・2000年までには点字による教員採用試験が日本全国に広まった。 ・近年はアファーマティブアクションで障害者対象の選考試験が実施されている。合理的配慮も提供されている。
*作成:中井 良平 
UP: 20240919 REV:20240920, 0921, 0922, 0924
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