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「地域の要約筆記者と高等教育でのノートテイカーの文字通訳リソース相互活用の可能性についての検討」

窪崎 泰紀

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last: update: 20240921

◆窪崎 泰紀 2024/10/25-26 「地域の要約筆記者と高等教育でのノートテイカーの文字通訳リソース相互活用の可能性についての検討」, 障害学国際セミナー2024, 於:台北(台湾)
障害学国際セミナー2024障害学国際セミナー
障害学立岩真也

◆窪崎 泰紀 2024/10/25-26 「地域の要約筆記者と高等教育でのノートテイカーの文字通訳リソース相互活用の可能性についての検討」

窪崎泰紀(特定非営利活動法人ゆに)

0.本報告のあらまし

文字通訳は聴覚障害者の社会参加のための手段の一つである。日本国内においては、障害者総合支援法が文字通訳(公的要約筆記)の制度を規定している。しかし、その主な利用範囲は、市町村等の事業主体にもよるものの、障害者団体の会合や、医療機関受診や公的機関への訪問などに限られ、高等教育を含む修学時の利用は認められていない事が多い。そのため、高等教育においては、大学等の設置者が合理的配慮として、それぞれが独自に文字通訳者の養成や派遣を行っている。つまり、日常生活上の通訳と修学にかかわる通訳とでは異なる制度が構築されており、社会参加という目的は同一ながらも、その場面によって通訳者のリソースや制度が分断されている。 報告者が所属する「特定非営利活動法人ゆに」(京都市)では、授業や研修、講演等の企画において、高等教育分野を主としつつも、その他の分野においても音声情報を文字にして聴覚障害者等に伝える「文字通訳」を行っている。それらの活動による知見を踏まえ、本報告では、両者での活躍が難しくなる要因を検討し、要約筆記者・ノートテイカーをより広い領域で活用しうるような研修等の方策について検討する。

1.ゆにの文字通訳(概要、目的)

(1)「ゆに」とは

・障害学生の学業と生活を支援するNPO法人  ミッション:障害学生の「したいことができる」「行きたい場所に行ける」をサポート ・聴覚障害者への文字通訳は事業の一つ

(2)文字通訳とは

・聴覚障害者の授業やイベントへの参加を保障するための取り組み ・複数人の入力者がパソコンを用いて、教員の講義や質疑応答、授業開始/終了のチャイム等の音声情報を文字入力し、ユーザーの聴覚障害者に文字情報として提示する。 ・聞こえた通りに文字にするのではなく、「話し言葉」を「書き言葉」に変換する等して、聴覚障害のユーザーが目で見て内容を理解できるような文字情報に変換する。ゆにでの文字通訳の主な対象は、大学・高校の授業や行事、障害者福祉関連イベント、企業の社内研修など。

2.高等教育での文字通訳(ノートテイク・□)と地域での文字通訳(公的要約筆記・◇) ※表形式にて表示

(1)ニーズ

□講義や実習等の、聴覚障害学生が音声による情報取得が困難な場面において、文字によって情報を取得できるようにし、授業への参加を可能とすること ◇中途失聴者、難聴者の社会生活上の意思疎通を円滑にするため要約筆記者を派遣し、意思伝達の手段を確保することにより、聴覚障害者福祉を増進すること(京都市要約筆記者派遣事業実施要綱)

(2)制度

□障害者差別解消法の合理的配慮として提供 ・大学ごとに主に学内の学生を対象として、文字通訳についての座学と実習を組み合わせた養成を行う ・養成のカリキュラムは各大学が独自に定めて実施(数時間~十数時間程度) ・大学の提供する講義やプログラムが対象 ・養成を修了した者をノートテイカーとして、聴覚障害学生の参加する授業に派遣する ・聴覚障害者本人の費用負担はない ◇障害者総合支援法の地域生活支援事業内の意思疎通支援事業として提供 ・実施要綱は市町村が定める ・対象は公的関主催の会合、障害者団体の会合、医療機関や役所への訪問、日常生活上必要な場合に限られ、修学や就業時の業利用は認められないことが多い ・厚生労働省の定める84時間以上のカリキュラムに沿って各都道府県や市町村で通訳者を養成  上記範囲内で聴覚障害者本人からの申し出のあった場合に派遣 ・聴覚障害者本人の費用負担はない

(3)利用場面と内容

□基本的に音声による情報がある授業すべてに必要 ・聴覚障害学生在籍時は平日毎日数時間の高頻度での対応が必要 ・長期休暇中は実習等がない限りは対応が不要 ・聴覚障害学生が卒業するとニーズがなくなる  ※JASSOの2023年度調査では1校あたり平均約2名の在籍 ・高等教育段階での講義、実習、ゼミナールでの討議  場面は限られるが専門性の高い領域 ◇公的機関への外出や医療機関受診など、個人ごとに利用頻度は異なる ・聴覚障害者人口に応じた一定のニーズが常に発生 ・公的感での窓口の会話、医療機関受診時の会話、行政機関主催の講演、冠婚葬祭等  日常生活上の幅広い領域

(4)担い手

□学内の学生アルバイト ・4年程度でほとんどが卒業し、毎年入れ替わりが発生 ◇アカデミアの経験は問わない人材 平均年齢59歳・女性が主体 ※要約筆記者を直接の対象とした統計がないため、指導者対象の調査ではあるが、一定の参考となると思われる

4.ゆにの文字通訳者

60名中 学生36%、卒業生27%、公的要約筆記者23%、未経験者15% 一定のスキルを身に着け、通訳経験を積むことで、公的要約筆記から高等教育分野のノートテイクへ、あるいはその逆へ関心を持ち相互の活動に参加し、より広く情報保障支援を行いたいという文字通訳者の受け皿になっている 下中村ら(2023)からも卒業後も活動を継続したいという文字通訳者の意向があることがわかる

5.相互活用に向けた課題

(1)社会参加のための権利としての文字通訳であることの理解

・文字通訳=社会参加のためには場面を限定せず必要になりうる ・どのような場面であっても、文字通訳が提供できるために ・重度訪問介護等の他の障害福祉サービスの適用範囲問題と共通する課題  →「重度訪問介護利用者の大学修学支援事業」では障害福祉サービスを拡大適用する方向へ

(2)養成カリキュラム・目標の設定

・要約筆記者養成では2011年厚労省通知カリキュラムがあり、障害理解や修了試験などの要件が一定程度共有されている ・高等教育分野での養成では、聴覚障害理解に必ずしも重点が置かれず、養成の時間的制約からスキル偏重となる傾向がある →現役活動中の文字通訳者であっても、養成をうけた機関や活動領域によって養成が異なるため理解やスキルセットが異なる可能性

(3)高等教育におけるノートテイカー養成の課題

高等教育におけるノートテイカー養成の課題 ・短期間で養成するため、技術偏重の養成カリキュラムになり障害理解や目的意識がおろそかになる ・十分な養成時間を確保できないことによる基本的なスキル不足 ・聴覚障害学生数は1校あたり2名程度であり、継続的に文字通訳ニーズがあるとは限らない ・外部人材の受け入れを想定していない

(4)地域の公的要約筆記者の養成における課題

・人材不足や層の偏りにより、多様な分野への対応力の不足 ・「奉仕員」・ボランティアとしての意識と求められる責任のギャップ ・ノートテイク経験者であっても、カリキュラムに沿った養成を受け直し、修了試験を通過しないと従事できない

(5)相互の経験を活かし、相互にリソースを活用するために

・相互補完的に必要なスキルや知識を身につけるための研修カリキュラム  相互に異なる点はあるものの、聴覚障害者の社会参加のための文字通訳であることは共通  異なる点を補完し、活用につながるための研修カリキュラムを策定 ・高等教育におけるノートテイカー養成のカリキュラムを統一し、ノートテイク経験を証明し、活用できる仕組みづくり  →公的要約筆記に従事するための要件にノートテイク経験を活用できる土台へ

5.参考文献

・社会福祉法人聴力障害者情報文化センター要約筆記者指導者養成研修修了者実態調査委員会「要約筆記者指導者養成研修「修了者」実態調査報告書」令和2(2020)年 12 月 http://www.jyoubun-center.or.jp/wp-content/themes/joubun/pdf/houkokusho/2020jitatai.pdf ・独立行政法人日本学生支援機構「令和 5 年度(2023 年度)大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書」 ・下中村 武 岸川 加奈子 横田 晋務 田中 真理 「ノートテイカー学生の活動継続要因の検討 : 教員養成系以外の大学の学生に着目して」 基幹教育紀要 21892571 九州大学基幹教育院 2023-02-24 9 99-114 ・松川敏道「大学の合理的配慮と身体介助の支援」札幌学院大学総合研究所紀要(2022)第9巻35-40
*作成:中井 良平 
UP: 20240921 REV:
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