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伊東香純 2024/10/25-26 「障害者運動における精神障害者の運動」,
障害学国際セミナー2024, 於:台北(台湾)
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障害学国際セミナー2024
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障害学国際セミナー
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障害学
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立岩真也
◆伊東香純 2024/10/25-26 「障害者運動における精神障害者の運動」
伊東香純(立命館大学)
1.はじめに
障害学は、1980年代から英米の身体障害者を主な対象として始められた。その後、研究対象の偏りが指摘され、他の地域や障害種別を対象とした研究がおこなわれるようになってきた。社会運動に注目すると、2006年の国連総会での障害者権利条約の採択には、障害者運動の大きな貢献がある。障害者権利条約の策定、履行において、精神障害者の運動は重要な役割を果たした。このように、精神障害が障害学の対象であり障害者運動の一員であることは、疑いようのないように思われる。
しかし、精神障害者の運動は、いつでも障害者運動の一員として活動してきたわけではない。先行研究では、特に英国を中心とする欧州の運動について、精神医療のユーザー・サバイバーは、障害者としての活動に消極的であったことを指摘している(Beresford 2015;伊東 2021)。関係性に変化があったのか、障害者としての活動に消極的だったユーザー・サバイバーはごく一部のなのか等は十分にされていない。そこで本報告では、これまで十分に検討されてこなかった、精神障害者のアジア、アフリカの社会運動組織が、障害者運動とどのように関わってきたのかを検討する。
2.対象と方法
アジア、アフリカの精神障害者の社会運動組織の活動を明らかにするための方法として、その活動に関わった活動家のインタビュー調査と、関連する文書資料の収集をおこなった。検討の対象は、アジアから活動を開始しグローバルな組織となったTCI Global、アフリカの大陸規模(Pan African Network of People with Psychosocial Disabilities: PANPPD)、およびそれらの組織の構成員である。本報告に引用するインタビュイーは、ルワンダの組織の発足に関わったバデゲ(Sam Badege)とタンザニアの組織(TUSPO)の運営を担うメンバーである。
3.大陸規模の社会運動
PANPPDは、2005年に発足した。発足には、精神障害者の世界組織(World Network of Users and Survivors of Psychiatry: WNUSP)が重要な役割を果たした。WNUSPは、障害者権利条約のいくつかの条文において重要な役割を果たした組織であり、PANPPD発足の頃には国際障害同盟(International Disability Alliance: IDA)に入るなど障害者運動との関係性ができていた(伊東 2021)。PANPPDは、アフリカ障害フォーラムの発足時からのメンバーである。
TCI Globalは、その前身のTCI Asiaのときから、障害種別をこえた障害者運動との関係を重視していた。TCIの会員には、正規会員、賛助会員、支援者の3つに分かれている。そのうち賛助会員として、障害種別をこえた障害者組織を明記している(TCI Global 2024)。
このようにアフリカ、アジアの大陸規模の組織は、ともに障害種別をこえた障害者運動との関係を積極的に重視してきた。障害者運動の一員としての活動に異議を唱える記録は見出せなかった。
4.国内の社会運動
障害者運動の一員として活動している国内の精神障害者の組織は少なくないが、本報告では、それがうまくいっていないとの見解がきかれた運動についてのみ、どのような理由でどのような困難が生じているのかをみていく。
4.1 ルワンダ
ルワンダの精神障害者の組織(NOUSPR)は、1994年の虐殺ののちのピアサポートが組織化してできた。障害者の組織(NUDOR)は、2010年に発足した。NOUSPRは、NUDORの発足時、当然会員団体の1つになれると考えていた。しかし、他の障害種別の障害者から「Sam! How come you associate us with the Mad People, who told you that Disability is Madness!」という抗議があったという。地元政府の関係者にCRPDについて説明してもらうことで理解を得、結局NUDORの一員になることができた(interview Badege)。
4.2 タンザニア
タンザニアの精神障害者の組織(TUSPO)は、2006年に発足し、1992年に発足していた障害者組織(SHIVYAWATA)の一員となった。しかし、資金不足を理由としてなかなか総会が開催されないために、理事等の役職を決める選挙に参加する機会に恵まれず、SHIVYAWATAの意思決定に関わりにくかったという(interview TUSPO office)。
5.まとめ
精神障害者のアジア、アフリカの大陸規模の組織は発足当初より障害者運動の一員として活動してきた。しかし、その構成員の国内の組織の中には、障害者運動の一員になることを希望してもそれが簡単には認められなかったり、障害者運動組織の運営に関わりにくかったりした組織があることが明らかになった。精神障害者の運動内に、障害者運動の一員としての活動に消極的な意見があったのかについての調査は、今後の課題である。
[文献]
Beresford, Peter, 2015, “Distress and Disability: Not You, Not Me, But Us?,” Helen Spandler, Jill Anderson, and Bob Sapey Eds. Madness, Distress and the Politics of Disablement, Bristol: Policy Press, 245-259.
伊東香純,2021,『精神障害者のグローバルな草の根運動――連帯の中の多様性』生活書院.
TCI Global, 2024, “Network Members,”(2024年8月18日取得, https://tci-global.org/network-members/)
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