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長谷川 唯・
ユ ジンギョン・
増田 英明 2024/10/25-26 「裁判所における合理的配慮の実態」,
障害学国際セミナー2024, 於:台北(台湾)
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障害学国際セミナー2024
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障害学国際セミナー
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障害学
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立岩真也
◆長谷川 唯・ユ ジンギョン・増田 英明 2024/10/25-26 「裁判所における合理的配慮の実態」
長谷川唯/ユ・ジンギョン/増田英明
・研究目的
本報告の目的は、裁判所における合理的配慮の実態や課題について、明らかにすることである。
・研究方法
旧優生保護法の最高裁での審理における合理的配慮について、交渉や実施の過程、当日の実施場面の観察を通して、分析・考察を行なった。
とくに、ALSなどの車いすユーザーや聴覚障害の人を対象にした合理的配慮について検討を行った。
◇裁判所における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領
裁判所は、三権分立の観点から、差別解消法に規定される障害を理由とする差別を解消するための支援措置の実施を行うべき対象の機関にはなっていない。
裁判所では、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領」を作成し、それに基づいて障害者への配慮が実施されている。
◇裁判所での合理的配慮
◇旧優生保護法の最高裁での審理では、原告側の弁護団や支援者らが、入廷や傍聴について合理的配慮を求めた。
①支援者らが裁判所の傍聴者を確認
傍聴にするのに必要な合理的配慮事項を確認。
必要な配慮事項について連絡。
②弁護団が最高裁と交渉
手話通訳の確保と配置、要約筆記の設置、介助者の人数、スロープ、人工呼吸器のバッテリー充電のための電源の確保、車いすユーザーの傍聴スペースの確保。
※事前に、優生保護法被害全国弁護団と優生保護法問題の全面解決をめざす全国連絡会の連名で、最高裁に「障害者への手続上の配慮」の要請を行っている。
・最高裁が、要約筆記や手話通訳の費用を負担し、用意すべき。
・車いすユーザーの参画については言及されていない。
※2016年に6月にJDF(日本障害フォーラム)が提出したパラレルレポートにおいて、手話言語法の制定の必要性を主張。現在540の自治体で「手話言語条例」が制定されている。
合理的配慮について手話通訳については共有できるが、車いすユーザーの配慮事項については、弁護団も具体的なイメージを持つことができなかった。
障害当事者も最高裁判所のエレベーターや部屋の広さ、段差の傾斜などがわからなかったため、車いすのサイズなどを伝えるにとどまった。
最高裁から弁護団を通して、人工呼吸器がどのようにつながれているのか、なぜ充電が必要なのか、介助者が常時傍に付き添わなければならないのか、などの確認があった。
◇当日の最高裁判所の対応
〈当日の手話通訳の手配や配置について〉
・支援者側で手話通訳を手配し、配置場所などについて最高裁との話し合いをして進められた。
・傍聴券配布やセキュリティチェック、道案内に手話通訳を配置。
・傍聴者に向けて手話通訳と要約筆記を配置。
→手話通訳4人分は最高裁が負担したが、聴覚障害である原告と弁護士への手話通訳は支援者と弁護団が負担した。
→手話通訳者の配置が十分ではなかったためボランティアの手話通訳を支援者側が配置した。
〈当日の車いすユーザーへの対応〉
・傍聴券配布時に、常時必要な介助者の人数や座席、必要な配慮について丁寧な確認がなされた。
・車椅子ユーザーそれぞれに会場までの案内役の配置。
・人工呼吸器を充電しながら傍聴が可能なように、コンセントが近い位置での傍聴スペースの確保。
・車いすでの傍聴スペースの確保。
・簡易スロープの設置。
→最高裁が用意したスロープが急な傾斜だった。
→車いすユーザーから傾斜が急で怖いという意見があった。
→障害や介助方法などを十分に理解しないまま最高裁の人たちがサポートしたため、人工呼吸器が落ちてしまったり、車いすの傍聴者の人数が制限されたりした。
2024年6月に、最高裁判所の事務連絡において、訴訟事件における聴覚障害のある傍聴人に対する手話通訳者の手配等について、各裁判所に旧優生保護法にかかる裁判においては、合理的配慮として手話通訳の手配や費用を裁判所が負担することが通知された。
他方で、交渉過程や当日の対応では、理解がないために、車いすユーザーへの対応など難航する場面が多々見られた。
他の者との平等にするための必要となる配慮は、制度の整備だけではなく、研修などを通してサポートの方法などの理解を深めることが、裁判所には求められる。
*作成: