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稲場雅紀氏インタビュー


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稲場 雅紀 i2022 インタビュー 2022/06/12 聞き手:立岩真也・伊東香純 於:東京・アフリカ日本協議会事務所

生を辿り途を探す――身体×社会アーカイブの構築

◇文字起こし:ココペリ121 20220612稲場雅紀_123分
〜このように表現しています〜
・タイムレコード:[hh:mm:ss]
・聞き取れなかった箇所:***(hh:mm:ss)
・聞き取りが怪しい箇所:【○○】(hh:mm:ss)
・漢字のわからない人名・固有名詞はカタカナ表記にしています。
 約40000字

◇稲場 雅紀 i2022 インタビュー 2022/06/12 聞き手:立岩真也・伊東香純 於:東京・アフリカ日本協議会事務所

◇生を辿り途を探す――身体×社会アーカイブの構築

◇文字起こし:ココペリ121 20220612稲場雅紀_123分
〜このように表現しています〜
・タイムレコード:[hh:mm:ss]
・聞き取れなかった箇所:***(hh:mm:ss)
・聞き取りが怪しい箇所:【○○】(hh:mm:ss)
・漢字のわからない人名・固有名詞はカタカナ表記にしています。
 約40000字

(冒頭、挨拶など)

立岩:私のほうから、主旨といいますか。
 今度ほんとに、わりとだんだん、毎日真面目に、まじめ度が増えてるんですけど、本を作ろうと。何人かの共著というか、あるいは稲場さんみたいにお忙しいかたは話してもらって、それを足すなり変えるなり、それはご自由にやっていただいて、それを何人かぶん集めてっていうのをシリーズみたいに出していこうと思ってると。その時に、しばらく前は「薬」っていう切り口で、ワクチンも含めてですけど、だったんですけど、もっとストレートに「感染症」とかでもいいのかなって、また昨日の夜とか思ったんですけど。
 どういうことかっていうと、コロナこの2、3年すごい流行って。だけどそれも、依頼された原稿に書いたことがあるんだけど、人の死ぬ数比べたら…って、比べることかどうかはわかんないですけど、やっぱりあの時のアフリカのHIVエイズの死人の数たるや…ってとこがあって★。あれだって…あれだってっていうか、感染症は感染症じゃないですか。で、なんか、その話は、忘れてるならまだいいかもしんなくて、知らないままなんか「コロナ大変だ」って話になってるよねっていうのは思うんですよ。それはまずいなって。それはいくつかの文章で書いてはきたんですけど、でも、ちゃんと言っとかなきゃなと。
 僕はコロナはそろそろ収束すると思ってるんですけど、その、どうだったのかっていうか。たとえば、コロナの話する時ってやっぱりスペイン風邪とかさ、100年、150年前とかのそういう話持ち出されて、なんかそれとなんかひき比べられるけど、いや待てよと。10年、10何年前、にはああいうのあったじゃないかっていうことを、なんでみんな言わないし、知らないんだろうっていう、そういう問題意識があって。<br>  で、僕は2004、5年かな、斉藤龍一郎さん★とアフリカのHIVのことで報告書作ったりさせていただき★、それから2008年に稲場さんにインタビューさせていただいて、『流儀』★っていう。これも売れないんだ。(笑)
★斉藤 龍一郎
★・アフリカ日本協議会+立岩 真也 編 200506 『貧しい国々でのエイズ治療実現へのあゆみ――アフリカ諸国でのPLWHAの当事者運動、エイズ治療薬の特許権をめぐる国際的な論争』,<分配と支援の未来>刊行委員会,62p. 500円+送料,
・アフリカ日本協議会+三浦藍 編 200509 『貧しい国々でのエイズ治療実現へのあゆみ――アフリカ諸国でのPLWHAの当事者運動、エイズ治療薬の特許権をめぐる国際的な論争 第2部 先進国・途上国をつなぐPLWHA自身の声と活動』,<分配と支援の未来>刊行委員会,66p. 500円+送料
・アフリカ日本協議会+三浦藍 編 200509 『貧しい国々でのエイズ治療実現へのあゆみ――アフリカ諸国でのPLWHAの当事者運動、エイズ治療薬の特許権をめぐる国際的な論争 第3部』,<分配と支援の未来>刊行委員会,p. 500円+送料
 *第1〜3部合本版、1500円+送料で販売
・アフリカ日本協議会 編 200705 『貧しい国々でのエイズ治療実現へのあゆみ――アフリカ諸国でのPLWHAの当事者運動、エイズ治療薬の特許権をめぐる国際的な論争  第4部 課題は克服されたのか? 南アフリカの現状報告を読む』,<分配と支援の未来>刊行委員会,p. 500円+送料
★稲場 雅紀・山田 真・立岩 真也 20081130 『流儀――アフリカと世界に向かい我が邦の来し方を振り返り今後を考える二つの対話』,生活書院,272p. ISBN:10 490369030X ISBN:13 9784903690308 2310 [amazon]/[kinokuniya] ※

伊東:買ってますよ。

立岩:伊東さんの本…いや、比べてもしょうがない…でもいい本だと思ってるんですよ。あれからだって14年経ってるじゃないですか。で、っていうので。
 一つには、あの時のアフリカが一時大変だったのが、どうああなってこうなってどうなったんだっていうところは僕は不勉強なわけですよ。そういう話と。それから、それが一段落したとしてですよ、したとして、「コロナとアフリカ」っていうこととが、それ。薬の供給全般の、そういう国際的な生産・流通のことについて、僕ら、僕は少なくともほとんど何も知らないんで稲場さんに教えてほしいっていうのと、稲場さんのお考えをお聞きできれば。あとは、今日はここ、1時間半聞かしていただいて、あとでいろいろデータ的なものであるとか足してもらうなりして。で、美馬達哉っていうのがコロナについての文章たくさん書いてたりするし、そういうのといくつか合わせて、そうすっとなんかかたちになんのかなって。そういう気持ちなんです。

稲場:わかりました。そうですね、コロナ、どこから話を始めればいいのか、あれなんですけれども。そうね、「忘却」とかいう話でいうと、それこそ今回のウクライナについてもですね、「戦後初めて」とか言ってるんですが、主権国家を常任理事国が制圧したことはべつに戦後初めてでもなんでもなく。それこそ、極めてシンプルに言えばグレナダ侵攻とかそうですよね。80年代の。確かにウクライナと違って小さい島なんであれかもしれないですけど、グレナダ侵攻はそれこそ主権国家を常任理事国が支配したっていう、占領したっていう意味では。しかも占領成功してますからね、同じことだし。パナマの89年もそうだし。あと中南米にかんしてはそれこそ好き放題やってきたというところがやっぱりあるわけですよね。あるいは、モーリシャスからちょっと離れたところにチャゴス諸島というのがあって、そのチャゴス諸島はそもそもモーリシャスと同じ植民地だったんだけれども、モーリシャスが独立する時にチャゴス諸島を切り離して、それでそこに住んでいた住民をぜんぶそのセーシェルとかモーリシャスとか、周りの国にぜんぶ追放してですね、それでここをアメリカに貸して軍事基地にしたと。で、インド洋最大の米軍基地になっているディエゴガルシア島ってのはチャゴス諸島にあるわけですが、モーリシャスはここを返せって言ってて。国連司法、国際司法裁判所に訴えてモーリシャスが勝ったんですけど、イギリスは国際司法裁判所の勧告を認めずにずっと居座ってるわけですね。それでアメリカ軍に貸し続けてると。モーリシャスは別に米軍にこの島を貸すこと自体を否定しているわけでもないのに、返しもしないという話になっている。
 そういういろんな意味合いでですね、いわゆるその「西側の欺瞞」みたいな話は、ウクライナに関してロシアが悪いということとは別にあって、これを「戦後初めて」みたいな話にするっていうのは、完全に戦後史をないがしろにしてるとしか言いようがないんですよね。
 で、その「戦後史をないがしろにしている」というような意味合いで、最近やっぱりそういう意味では昔を振り返ったりしないんですよね。あとそれこそ、大きなことがあってもすぐ忘れるっていうのがやっぱりどうしてもあって、それが問題多いなと思っているところなんですけれども。一つはそれがあるのかなと。

■コロナ
 で、コロナに関しては…ただコロナっていうのは確かに非常にある種インパクトが大きいものであるというのは。ひとつ、アメリカで100万人亡くなってるんですよね。すごい数で、「アメリカの第二次大戦で死んだ人の2倍死んでいる」というのがあるんですよね。アメリカは100万死んでる。100万人死んでるにしてはずいぶんなんか…扱いがどうなのかってのはあるんですけど。アメリカで100万、つまりコロナで死んだ600万人のうちの100万人はアメリカ人であると。いわゆる「コロナで死んだ」ことにもうすでになっている、確定してる人の中で100万人はアメリカ人であるということがあると。もちろんヨーロッパでもそれと同じくらいの数の人が死んでいるかもしれないですけれども、そういう意味では先進国の保健システムがだめであるということが判明したと。日本も同じように、感染症対策だとか公衆衛生についてお金をどんどん減らしてきた経緯があって、その結果保健所が対応できず、パンクしながらでたらめなことになり、病院は「保健所が悪い」と言い、保健所は「行政の仕組みが悪い」と言いと、そういう構造になって、日本もまったく対処できなかったというようなところがあって。[00:10:17]
 あともうひとつコロナで言わなきゃいけないのは、コロナで一番被害を受けた、死亡率が一番高かったのは中南米と東欧だっていうことですね。この点はあまり言われてないことなんですが、中南米と東欧がコロナの死亡率が一番高いんですよ。これはつまり、コロナで一番大きな被害を受けた、インドもそうですけども、コロナで一番被害を受けたのは、基本的には中所得国なんですよね。この中所得国におけるダメージが一番大きかったと。2023年の現在、世界の多くの国は中所得国となり、低所得国はあまりたくさんは残っていないのですが。中所得国における保健の危機というものを大幅に招いた、ということが非常に大きいところとしてあるのかなと。いうところが一つあり。
 あともう一つあるのはですね、ワクチンの話に関していうと、いわゆる「メッセンジャーRNAワクチン」というものが一年以内に開発をされて、それで投入をされたわけですが、これは今はいろいろ批判があった結果途上国にも多少はいってるわけですけれども、そのメッセンジャーRNAワクチンは当初開発した会社が、自分が作ったうちの9割を先進国に売って、結果として、一定金があって購買力もあるはずの上位中所得国においてすら、2021年当初は、mRNAワクチンはいかなかったんですよね。つまり彼らが、ファイザーとモデルナが、いわゆる「グローバルにどう戦略としてやるか」ということじゃなく「どう一番儲けるか」ということを中心に彼らの知的財産権を使った結果として、mRNAワクチンはほとんど先進国にしかいかず、その結果、中所得国は「ワクチンが欲しいのにない」ということになり、あとは、2020年4月にはすでにACTアクセラレーターというのができたわけですが、このACTアクセラレーターや、そのワクチン・イニシアティブである「COVAX」も、その後、先進国が「やってる感」を出すために活用される形となってしまった。もともと、COVAXというのは、つまり先進国も含めてCOVAXを軸にワクチンを調達して、その調達するぶんについて高い金、ちょっと上乗せした金で買ってですね、で、その上乗せした金をその途上国向けに使うっていうビジネスモデルだったわけですが、このCOVAXモデル★がまったく利用されなかったのです。先進国はCOVAXからワクチン買わなかったんですね、結局のところ。で、結果としてそのCOVAXは、いわゆるそのあがりのぶんを途上国へのワクチン供給に使うというビジネスオリエンテッドなモデルが完全に崩壊をして、結局のところ「いわゆる援助のお金でインドにワクチンを作らせて、それをアフリカにまく」というものになっちゃったんですね、結局のところ。そういういわゆる垂直構造、結局のところいわゆる資本の力をうまく利用してうまいファイナンシャルフローを作って、そして途上国にワクチンを供給する仕組みとして設計したはずが、完全にそのシナリオが崩壊して。というのはつまり、それはCOVAXからワクチンを買うことを先進国がすればそうなったかもしれないんですが、

立岩:買わなかった。

稲場:買わなかったんですよ、結局。

立岩:それはなぜ?

稲場:上乗せがあるので高くなるという理由と、あと自分の国に今すぐに大量に欲しいからですよ。

立岩:他にやるよりってこと?

稲場:COVAXだと順番がついちゃう。順番がついちゃって、順番ごとに行くっていう仕組みになってるから「今」欲しいものについて順番つけられたら困るわけですね。

立岩:「今俺が欲しいよ」って。

稲場:そうそうそう。だからバイデンが交渉して、高い金出して買ったわけですよね。それでその、まさにそのファイザーのCEOであったアルバート・ブーラのある種の専制支配が成立する状況になった、ということなわけですが。日本もそういう意味では、それこそ河野ワクチン大臣に対して、ブーラは「ワクチン大臣などとは会わない」って言われたわけですからね。ブーラが「河野には会わない」と。「総理となら会ってやる」って言ってですね。これ報道もされたのに誰も問題にしないのが不思議ですけどね。つまり、河野大臣が足蹴にされたんですよ、ファイザーにって話なんですが。共同通信で報道されてんですよ、実際。で、それでファイザーに対する怒りって何もなく、いわゆる日本のファイザー本社に対する抗議行動も一つも起こっておらず、「菅政権がいまいちだから」という話になってですね。それで結局、その河野と会わず菅と会うっていうふうにブーラCEOが言うもんだから、ブーラは結局菅と会ってですね、楽しく交渉して何とか買い付けてきたわけですね。[00:15:15]
 そういうようなかたちで、「先進国にすごい額で売る」っていう戦略で、その結果としてグローバルな、いわゆる保健安全保障上の展開ができなくなったわけですよね。で、結果としてそのCOVAXっていうのは、インドにアストラゼネカのワクチンを作ってもらってそれを大量にアフリカとかいろんな国々に供給するというモデルになってしまい、で、そのお金はぜんぶ援助のお金でやるっていう話になって。つまり、先進国が「自分たちもCOVAXで買って、そのあがりの一部を使う」というこのモデルは成功せず、結局COVAXを生きながらえさせなきゃいけないので、結局のところその援助のお金をそこにつぎ込んでインドに作ってもらうモデルになった。
 で、インドに作ってもらうモデルになって、基本的には今までもエイズ治療薬もそうしてるわけですよ。結局「インドに作ってもらってそれを供給する」と。インド、パキスタンとか作れる会社があるので。ところがそのインドがデルタ株で崩壊しちゃったんですよね、結局。デルタ株がわーっと流行って、それはインドの今の人民党の政権が、コロナであるにもかかわらず普通に選挙やヒンズー教のお祭りをガンガンやったからですけども。その結果変異株が出現して大変なことになり、酸素不足になって、もうどうしようもないと。で、山ほどワクチン作ってるのがぜんぶ輸出に向けられているっていうことでですね。通常それは許されるわけないので、結局そのインドの政権は、輸出を止めてぜんぶ自分とこで使うことにしたと。そうするとCOVAXは干上がってしまい、結局、去年の4月から10月までの間ほとんど出荷できてないという状況になって。結局そのCOVAXのモデルも、この半年間は崩壊したんですね。で、そうこうするうちにオミクロン株が出てきてゆるくなっちゃったんで、「まあいいや」って話になってですね、とりあえずその予定調和で…ワクチン、もうアフリカもあまりワクチン必要ないみたいな感じになっているんですね。「ワクチンの格差8倍」とかいっても、べつにもう今やいらない状況ですから。もうあんまりアフリカもワクチンのこと言わなくなったんですけれども。
 そんなような状況で、デルタ株の時にはそれこそ非常にシビアな、大変な交渉とかもあってですね。アフリカ側はいわゆる知的財産権の話はそれこそ2020年の10月からですね、インドと南アフリカ共和国がTRIPSを止めるということを要求して、それでずっと、今に至るまでずっとやってるわけでけれども、これが止まらずでですね。で、このTRIPSを止める理由というのは何かというと、ちゃんと技術移転をして、それでアフリカでも作れるようにするということだったんですが、西側のほうはTRIPSを止めなくても技術移転を「自発的な協力」に基づいて行うことはできるんだ、ということで、格差もよくないしボランタリーに技術移転をすることができるので、それをしますと。特にヨーロッパはそういうふうなかたちでやっているわけですね。実際、G20、G7とかでも「アフリカがワクチンを作れるようにする」とは言ってたわけですよ。で、そのためにお金はいちおうつけると。だけども、TRIPSはとにかく死守するというかたちで。で、オミクロン株のおかげである種その、もうアフリカ側も「まあ、それでもいっか」っていう話になっていて、今、逆にいうとアフリカに今大量にmRNAワクチンが送りつけられても困るので、とりあえずなんか、中途半端な状況に陥ってるというのが現状ですね。
 そんなようなかたちでですね、そもそもこの現状の、漫画的な世界の状況の中で、ある種いろんなものがいわば「会議は踊る」状態となったと。ただそれも、ウクライナで忘却の彼方みたいな。そういうような印象がありますね。とりあえず、ストーリーとしてはそんなような。


 で、あともう一つのストーリーは、そうやってワクチンが供給できない、つまり中所得国や低所得国にワクチンが供給できない状況になったときに、最も多くのワクチンを供給したのは中華人民共和国であるという話ですね。つまり、シノバックとシノファームのワクチンを中国は15億本ぐらい供給してます。これ、ただでじゃないですよ。ほぼ、かなりの額で売ってるわけですよ。[00:20:04]だからシノバックもシノファームも大儲けだと思いますけども。それも、たいしたワクチンじゃないのにっていうことですけども。結局その、シノバックとシノファームのワクチンを、中所得国に売り、なおかつこの中所得国に技術移転もしてですね、それこそセルビアとかインドネシアとかアルジェリアの工場で中国のワクチン作ってもらってですね、それを供給するということまでやって。そういう意味では中国は、いわゆる西側中心の医薬品支配秩序に対する対抗的な位置づけを強めたということは言えるのかなと。
 実際COVAXの枠組みでも中国ワクチンを供給しているし、いわゆるそのCOVAXの研究開発の枠組みにおいても中国のワクチン開発に対する投資はされてるわけですね。そういうようなかたちで、ある種その、ロシアのスプートニクV(ファイブ)も供給をされたし、キューバも自国で開発されたワクチンをを供給した、ベトナムとかに供給してたわけですね。
 そういうようなかたちでですね、けっこうこの「ワクチンバトル」みたいなところっていうのは、それこそその、いわゆる今やメガファーマ以外の、途上国の会社もワクチン作ることが、開発することもできちゃうということで、けっこうここは大きな穴が開いたところかもしれないなという。なおかつその、マルチ、いわゆる多国間の枠組みで考えた時には、逆にそういった中所得国の力も借りないとどうしようもないと。で、結局のところはその予定調和で事実上、中国の力を借りちゃってるわけですよ。というのはつまりその、インドネシアとかブラジルとかですね、アルゼンチンとか、チリとかですね、あるいはアラブ首長国連邦とか、こういったところにおいてワクチンの接種率が8割とかになってるのか、これは基本、中国ワクチンが接種率のかなりの部分を占めているんですよね。
 なので、この点で考えた時にやっぱり、今回は、逆にいうと先進国の製薬企業が非常に先進国寄りのやり方で、グローバルな保健安全保障を考慮せずにマーケティング戦略を行使したことによって、逆にグローバルな安全保障の面において、いわゆる中国の進出っていうものをある種、西側的に言えば許してしまったと、いうことになると思うんですね。この点、おそらくウクライナとかで巻き返さなきゃいけないのはこの点があるっていうふうにも思うわけですが。
 あとたとえば、いわゆる日米豪印の安全保障の枠組みである「QUAD」に関しても、インドはうまく立ち回って、実際アメリカから自分のワクチン産業を高度化するためのお金を大量にもらって、インドは都合良かったんだろうと思いますけれども、豪州とか日本はそれこそ何ら力は発揮できないと。日本の神戸の会社が作ったアストラゼネカのワクチンが、日本で使わなかったので「これ幸い」とぜんぶ寄付に回してますけれども。日本のワクチンを開発できていないのでですね、その点でどうするのかと、いうような感じになっていると、いうところですね。
 なんとなくそういうような話で、ある種理念とかそういったものがかなり抜け落ちた状況になっている。もちろん、WHOはそれなりの役割を果たしていますし、いわゆる「アフリカにおけるワクチンギャップ」というものを、再三にわたって提起をしたのはWHOで、先ほども触れた「ACTアクセラレーター」を作ったのもWHOでですね、そういう意味ではそれなりの役割を果たしてはいるわけですけれども。結局、ある種その、西側中心で作られた国際機関とかの秩序とかに関してもですね、必ずしも本来発揮できる力を発揮してこなかったと、いうようなところはあるのかなというふうに思いますね。いちおうそんな感じですね、今のところ。


 あとは、パンデミックに関していうと、気候変動とか生物多様性の喪失の中で、よりパンデミックが生じる危険性が今までよりも格段に高まる状況が今後生じると。あともう一つは、それは今後高まることはあっても低まることはないんですよね。なので、やはりそのパンデミック対策・対応のグローバルな仕組みを作んなきゃいけないって話になっていて。WHOはパンデミック条約を制定するということで2024年に向けたパンデミック条約が作られようとしていると。一方で、大量の資金を、いちおう何かあった時に供給しなきゃいけないとか、あるいはパンデミック対策、恒常的なパンデミック対策に投入しなきゃいけないということで、これはアメリカとG20、世界銀行がパンデミック対策のための金融仲介基金を設置する方向で今動いているということで、この二つの「G20ベースの枠組み」と「WHOベースの枠組み」が進んでるわけですけども、これらもですね、なんとなくこのウクライナの関係で焦点が当たらなくなってしまったと、いうところもあるのかなというような意味合いですね。
 ウクライナに関しては、ある種こういった状況が生じてしまったことを逆手にとって、いろんなことが行われていますよね。それこそその、脱ロシアでアフリカの資源を収奪してもかまわない状況になりつつあるとか。これは西側、こないだショルツがセネガルとか訪問して、資源を買いあさるっていう方向になっていますし、いろんな意味合いで。あともう一つは、石炭、炭素、化石燃料を使うのも許すっていうか、原発もそれこそその、韓国の新しいユン政権が原発政策に戻っていますし。さらには、ESG投資で軍事企業にいわゆる投資をすることが、ESGの文脈で「民主主義を守るんだからいいんだ」という話になっていると、いうような意味合いで、西側もご都合主義をどんどん振りかざすようになっている。で、なおかつ、いわゆるああいう悲劇をですね、それこそデジタル兵器をこれから販売して、各国の軍をデジタル的に近代化するためのインセンティブにしようとしてるので、こういった意味合いですね、ウクライナのああいう事態が生じたことについて、いろんな利権が動いてきてるというところで、どうしたものなのかなという感じがしています。
 いずれにせよ、やっぱりものごとの動きが非常に速いのでなかなかついていけない上、ついていくことに意味があんのかどうかもわかんないという状況に。つまり、結局その場その場で起こってることが半年以内しか寿命がないんであればついていってもしょうがないですよね。そんなような状況かなと、いうふうに思います。とりあえず見取り図的にはそういう話。[00:28:08]


立岩:そういう見取り図が書けると。はい。それはもう、今のまでのところはそのまんま使わしていただくつもりです。
 それでね、一気に戻りますけど、今2022年ですか、それでアフリカ日本協議会とアフリカのHIVのことでいろいろな取り組みをしたのが2004、5とかそのへんなんですけど、あの頃あたりの大変な時期っていうのが、どういう…あのあとどうなったの? っていうこと自体、僕ほんとわかってないんですよ。

稲場:そこはもう誰も。つまりね、結局問題化したことについてはみんな覚えているので、いまだにたとえば、エイズ治療薬の知的財産権がそのまま見過ごされていてアフリカ人はかつてと同様に死んでいるかのように思っている人もたくさんいるんですね。でもそんなことはないんです。基本的にはそんなことはない。
 一つはだからその、エイズ対策にお金がいちおう多少は回るようになったということがあって。当時つまり、結局決戦…「決戦」ちゅうのもあれですが、98年から2002年ぐらいまでのあいだに、大きな「勝負」があってですね、これはやっぱり一つあるのは、当時の社会運動が強かったっていうのはあるんですよね。とくにその「外野」っていうか、街頭行動という意味合いでの社会運動が強かった。それはつまり、98年の…98年ですよね? シアトルでWTOの閣僚会議が社会運動によって物理的に「粉砕」された事件っていうのがあって、これは非常に大事な闘いであったというところがあり。、なおかつ、これはべつにこの件でやったわけじゃないですが、2001年の同時多発テロはインパクトが大きかったわけですよ。それでMDGsをやんなきゃいけなくなってるわけですからね。
 もう一方で、「対テロ戦争」をやって。その対テロ戦争がだいたいもうテロリズムっていうのをサヘル地帯に追い込んでしまって、で、サヘル地帯は今大変ですけれども、それ以外のところはそんなに大変じゃない。イエメンとかシリアみたいな壊滅したところもありますけれども。そういうふうに、極限に追い詰めていると。で、対テロ戦争終わってなんのネタがあるのかなっていったら、今度はそのいわゆる「ならず者国家」、なんか巨大なならず者国家が二つ出てきて、で、それどうすんのって話にしてですね。
 あともう一つは「デジタル」、兵器をぜんぶデジタル化しなきゃいけないっていうニーズがあるので、そこでその今回のウクライナ戦争が格好のチャンスですから、そういうかたちでいわゆるその、「重厚長大型の旧来の軍事では成り立たないんですよ。ロシアを見てください」と。「こんなに弱いじゃないですか」って言ってですね、それでいわゆるそういうものから、別のデジタル兵器への投入、投資を加速しようとしていて。それこそ財務省もそういうふうに、そっちのほうが安いじゃないかって言ってですね、すごい戦車とかものすごいヘリコプターとか買わなくても大丈夫ですっていうふうに思って、そういうふうなかたちで兵器の近代化、さらなるデジタル化を目指そうというところが一つあると思うんですが。
 いちおうそれはそれとして、この98年から2002年までのいろんなその闘いがあってですね、知的財産権の件に関してはいわゆるTRIPSの柔軟性というのがいちおう確保されたというのがあり。で、そのTRIPS柔軟性が確保されて。あとですね、もう一つは、その上で資金がやっぱりかなり投入されるということになる。それこそそれほどでかい資金ではないにしても。たとえば、2002年に「グローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)が設立され、今ではだいたい年間6千億円、これまでは4千億ぐらいですね、年間4千億から5千億ぐらいの資金がエイズ対策、結核対策、マラリア対策に回ると。という状況に、この20年かけてなっていったと。
 あともう一つ当時大きかったのは、アメリカのPEPFAR「大統領エイズ救済緊急計画」(President’sEmergency Plan for AIDS Relief)ですが、このPEPFARがほぼ同じ金額で回ってですね、それで一定の米国の支援する対象国を中心に、いわゆるそのエイズ治療とかも導入して、それなりのところに持っていくと、いうことになるかと。
 そういうこの二つの資金があって、その資金があってしっかりお金が回るようになりっていう、そういうようなトレンドが特に2000年代ですね、展開をされて。で、HIVに関していうとある程度下がってくるということになったわけですね。
 あとはその、結核とかですね、マラリアに関しても、2000年代を通じて一生懸命頑張った結果、いちおうその、最大で年間死者350万人とかいっていたものが、今はエイズ・マラリアはそれぞれ死者100万人を切ることになり。結核は死者150万人というかたちでそれほど下がってはいないわけですが。三大感染症に関してはいちおうある程度その、なんていうんでしょうね、いわゆるその、なんとかマネージ、コントロール下にある状況においてきたということはありますと。
 あとそのエイズ治療に関していうと、やはりその、これは皮肉なことではあるんですが、先進国に患者が多いっていうね。つまり、エイズに関してマラリア・結核と異なるのは何かというと、アメリカと西ヨーロッパに膨大な数のHIV陽性者の人々がいると。つまり、米国とヨーロッパ合わせて、あと日本とかオーストラリア合わせてですね、ぜんぶで300万人ぐらいのHIV陽性者がいて、この人たちの治療薬へのアクセスは、基本的には各国の制度を通じて、公的資金でファイナンスされるわけですよ。しかもHIV陽性者は一生薬を飲み続けなきゃいけないわけですから、製薬企業はすごい儲かるわけですね。儲かるものには投資をするので、結局エイズ治療薬の数は膨大にあるんですよね。とくに2000年代中盤以降開発された、インテグラーゼ阻害剤っていう新しい治療薬が導入されたことによって、エイズ治療のマネージメントがほとんど高血圧の薬並みの楽さになったと。
 つまり、インテグラーゼ阻害剤と、あと二種類ぐらいの新しい逆転写酵素阻害剤を、とりあえず一剤化したものを毎日朝飲めばいいのであって、ほとんど痛風と同じです。基本的に。あとは3ヶ月に1回、病院っていうか、通って、ウイルス量と免疫量を見て耐性できていないかどうか管理すりゃあいいだけで。基本的には、ある種その、「ちょっと変わった非感染性疾患レベルのマネジメント」になったというところで、たとえばインテグラーゼ阻害剤をどのように途上国に入れるのかっていうことがもう一つ課題になってくるわけですが、これに関しても、結局2010年にですね、これはコロナのことでもそれなりに役に立ってはいるわけですけれども、2010年にフランス中心の国際航空券連帯税のイニシアティブで「医薬品特許プール」というのができたんですね。Medicines Patent Poolというのができて。これは何かというと、途上国向けに西側メガファーマが医薬品特許プールにライセンス契約をすると。で、このライセンス契約をした特許、その知的財産権を、今度はインドやパキスタン、その他の地域にあるジェネリック薬の誓約会社が、このMedicines Patent Poolとサブライセンス契約をして途上国向けにジェネリック医薬品が作ると。そうすると値段が格段に下がるので。つまり、開発ぶんのお金が浮くのでですね、物質を作ることにかんしていえばそんなにかかんないわけなんで。値段は10分の1なり100分の1なりに下がる。これをグローバルファンドとかが買いつけて途上国に無料で供給するという。そういう仕組みができたので、インテグラーゼ阻害剤が導入されたわけですね、アフリカにも。これ実は、塩野義製薬が開発し、英米のヴィーヴ・ヘルスケア社が販売しているドルテグラビルという薬が一番最初なわけですけれども、これが導入されて途上国でもインテグラーゼ阻害剤が入るようになったと。そういう意味でマネージメントがわりと楽になってきたっていうのがあってですね。その結果、HIVの一番新しい治療方法、治療薬も途上国にも入るかたちになっていると。いうような意味合いで、わりとその、エイズに関してはマネジャブルな状況が2000年、2010年代には登場してきているということですね。いちおうそういうような感じになっている。[00:37:54]

立岩:それが大筋というか。なるほどなるほど。
 一つのそういう流れの要因として、それは『流儀』の対談でもおっしゃってたけど、やっぱりその、一時期のというかな、社会運動、直接行動というか、強さ。それはおっしゃる通りだと思うんですけど、プラスいくつかの要因がありうると思うんですが、そこはどうです? まとめるとどんな感じですか?

稲場:やっぱり一つは…なんだろう。いくつかあるのは、たとえば結核に関しても新しい薬は2つ、3つ出て。多剤耐性結核に対する治療が、それがあることによって多少はできるようになったという。マラリアも、マラリアのイニシアティブは結核とかエイズと違って金持ち中心のイニシアティブなんですよね。というのは、マラリアっていうのは、これはアメリカでジェフリー・サックス★とかそのへんの連中が中心になって声高に主張したわけですけども、「マラリアってのは五つのことをすればなくすことができるのである」と。
 一つは、マラリアといえば蚊帳ということで、いわゆる殺虫剤、長期残効型蚊帳を供給して蚊に刺されないようにする、プラス、その長期残効型蚊帳にくっついた蚊は死ぬので、蚊を退治すると。で、室内残留性スプレーっていうのがあって、これを壁とかに殺虫剤かけて、これまたその、蚊っていうのはなんか2分に一回ぐらい止まらないとエネルギーなくなって死ぬので、

立岩:そうなんだ。(笑)

稲場:そうなんですよ(笑)。よくやってるじゃないですか、コマーシャルで。ピタって止まったらバタってやってるでしょ(笑)。それですよ。つまり、蚊っていうのは2分に1回くらいどっかで休まないと死んじゃうんですよね。で、止まったらその殺虫剤に殺されるっていうふうにする室内残留型スプレーですね。[00:40:01]
 で、三つ目がその他のベクターコントロールですね。つまり、媒介する虫だとかなんとかをコントロールする。たとえば水たまりにこれまた殺虫剤撒いて、その水たまりにボウフラが湧かないようにすると。
 四つ目がたとえば治療薬、いわゆる90年代に開発されたアルテミシニンを中心とする混合薬を供給することで死ななくすると。
 などなどね、五つのことをやればマラリアはなくなるのであるということをですね、宣教師のごとく延々とあちこちの金持ちの集会に説教してまわったので「じゃあやろうか」という話になってですね。とくにその、マラリアをなくすビジネス連合とかそういうのができて、大金持ちがマラリア対策に寄付するようになってですね、そっちのいわゆる金持ちのほうの動き、CSRなりCSVなりなんなりの動きでマラリアっていうのが中心になったと。これはエイズのような下からの運動ではないんですけれども、そういうようなかたちでマラリアに関しては支配階級中心の運動があって、その結果として対策がある程度進んだり。あと、大統領がマラリア・イニシアティブっていう、アメリカのですね、これもつまり共和党のブッシュが始めたわけですけれども、つまり結局のところ、そうやって組織された富裕層が「マラリアやんなきゃいけない」っていうことで、エイズ救済緊急計画と大統領マラリア・イニシアティブを二つ走らせたというのがあって、それでお金も大量に出るようになって。
 いちおうそういうような感じでですね、いくつかその富裕層中心のイニシアティブと、いわゆる人権・権利ベースアプローチのイニシアティブが混合することになって、それでこの三大感染症対策が進んだというのが一つあるわけですね。基本やっぱり、MDGsのトレンドは非常に大きかったというふうには言えるのかなと思います。
 ただ、リーマンショックがあって。2008年以降のリーマンショックがあって先進国経済がかなりダメージを受けて、この期間に関しては援助額はそれほど下がってはいないものの「援助の思想」が変わったんですよね。つまり、MDGsの時代っていうのは構造調整政策に対する、いわゆる90年代の構造調整政策に対するアンチっていうのがあって、特に、あともう一つはヨーロッパ、とくにイギリスとか北欧の国々がぜんぶ左派だったので、労働党政権のローカルな力があったので、いわゆる「援助効果」という考え方が中心で。つまりその、援助っていうのは外交と切り離してそのまま途上国の開発を軸にしなきゃいけないと。「この国が好きだからお金をやり、あの国は嫌いだからやらない」っていうのはよくないので。そうしないで、切り離して援助庁や開発省とか作ってですね、そこでその国の開発計画を、ドナーとその国がオーナーシップ持って作って、その国の財務省にみんながお金を入れるっていう、そういう仕組みにするべきであると。それで、その国の開発をその国のオーナーシップと計画に合わせていろんな国々がサポートするかたちで、「ここが嫌い」とか「あそこが好き」とかいうんじゃなくそうやってやってくべきであるっていうことで、2005年にパリ宣言ができて、で、援助効果っていうことでやってきたんですが、この援助効果論はリーマンショックで完全に飛んだんですね。あとイギリスが、労働党が保守党になってキャメロン政権ができて、それまでいろんな国々の資金を、カタリスト役になって、それで開発に回すっていうかたちで、ある種その、援助効果論を媒介にしてそれなりの力を確保してきたイギリスが、急に「UKエイド」とか言いだしてですね、「俺の国の援助」って急に言いだしたわけですよ。それまでは「俺の国の援助」って言ってなかったわけですよ。いろんな国々の金をまとめる役をUKがやって、カタリスト役をやって、援助政策の中心に居座ることによって力を発揮しようという戦略だったわけですが、ところが急に「UKエイド」とか言い出すようになってですね。金額は変わらないものの、二国間援助増やしたりとか、自国の都合による戦略援助を急に始めたりとか、そういうことになってですね。結局のところUKもそういうふうになって、それぞれの援助がぜんぶ戦略援助化してきた、というのが2008年以降リーマンショックの悪い点。
 あともう一つ、リーマンショックの悪い点というか、もう一つ、リーマンショックがあって何が生じたかというと、先進国経済が崩壊に瀕したので、先進国のお金持ちはみんな途上国に投資したわけですね。その結果、新興国が圧倒的に巨大化したと。つまり、2008年以前、リーマンショック以前と以後とでは、たとえば中国の経済規模はぜんぜん違ってきてますよね。中国、ブラジル、インド、このあたりの経済規模や存在感はまったく違ってきて。トルコもそうですね。さらには、たとえばエチオピアのような国も、「エチオピア航空が世界中飛ぶ」みたいな話になっているという、考えればわかる通りですけれども、結局先進国マネーが途上国や新興国に大量に供給されて、それぞれの国も、少なくとも見せかけ的には首都にすごいビルが建ったりとかするわけですよ。港がすごい整備されたりとか。
 その結果、やっぱりこの2008年以降の十数年によって、ほとんどの低所得国は中所得国になってるわけですね。それこそカンボジアもラオスも中所得国ですから、今。ガーナもケニアも中所得国。今、低所得国っていうと、アフリカ以外でいうと、イエメンとシリアと朝鮮民主主義人民共和国ぐらいしか低所得国はないんですね。あとはハイチですね。ほかはぜんぶ中所得国になってるのね。アフリカの多くの国々はまだ低所得国ではありますが。ただ、それでもそれなりに、低所得国なりの、そのなんか、経済成長の雰囲気ぐらいは出しているような状況になっているっていうことで。ある種そのリーマンショック以降ですね、お金の流れがかなり変わったことによって多くの国々が中所得国化したっていう、そういう世界に今いるっていうことも言えるのかなと。
 その中で、結局のところその中所得国、それなりの力を持った中所得国が、どういうガバナンスでいき、なおかつどういう考えのもとに国を運営するのかっていった時に、なんかはたと気づいてみたらですね、権威主義国家ばかりになってきてしまって困ったと。いうのが現状ということです。ちょっと話がずれましたけど。
 で、このリーマンショックを踏まえてあともう一つ大きなことがあったのは、2013年14年のエボラの大流行ですよね。このエボラの大流行っていうのが「第一次パンデミック対策整理」に行き着いたわけですね。つまりその2013年14年のエボラ大流行があって、このエボラっていうのはそれまではコンゴ民主共和国とか中央アフリカ共和国とかのすごい田舎の村とかで出てきて、出たとわかったとたんにわっと行ってですね、その村を閉鎖して、それでなんとかやるっていうそういうやり方をしてきたわけですが、ところがこれが急にリベリア、シエラレオネ、ギニアで出ちゃって、この地域は隣のコートジボワール内戦だとかそういったものがあって、あとそれぞれ三つの国はやっぱりかなり厳しい国だったので、しかも人口移動がすごい激しい地域で、人口が多い地域だったので、一気にその3カ国に燃え移ってですね。結局死者数からいえば1万2千人ぐらいなんですね。そのあと一生懸命やったからということありますけれど、1万2千人くらいの死者数で。それこそ東日本大震災よりも少ない死者数なわけですけれども。だけれども結局何年間かに渡って、2?3年にわたって封じ込めがうまくいかなかったということで、結局シエラレオネはイギリス、リベリアはアメリカ、ギニアはフランスが入って力ずくでやって制圧をしたということなんですけれども。
 これを踏まえてですね、いわゆる急性重篤感染症ですね、つまりエイズとの違いは、エイズは5年から10年かけてゆっくり死ぬ。で、10年間で見れば100パーセント致死する、100パーセントの致死率わけですけれども、ただ10年かかんないと死なないわけですよ。ところがエボラとかコロナとかは、かかったら死ぬ可能性があると。とくにエボラの場合はかかったらだいたい3割ぐらいは死ぬんですよね。あとは治るんですけれども、3割から4割は死んじゃうと。それもその1週間から2週間のあいだに生じるわけです。コロナもそういう意味では、かかった人が死んじゃうとした場合、10日くらいで死んじゃうわけです。10日以内に死ぬわけです。ところがこれはだいたい多くの人が治るわけですけども、ただ死亡率ってことでいうと、1パーセントから3パーセントくらいはあると。しかも、誰も、みんなかかっちゃうわけで。そうすると死者数としては相当になるっていう、そのいわゆる重篤急性感染症の拡大っていうのは、やっぱり長期で死んでいく、なおかつその、たとえば「セックスをしなければかかんない」というものとはやっぱり扱いが違うわけですね。もちろんその、結果としての死者数が同じでも、やっぱり潜在的に大変なことになる可能性は大きいので、結局マネージメントのやり方を常にやっとかないといけないというのがある。[00:5030]
 なので、その2013年から14年のいわゆる「エボラの登場」によって、これでなんとかしなきゃいけないってことで、2016年の伊勢志摩サミットに向けて第一次パンデミック対策整備が進んだと。実際のところ実はその前のプロセスがあって、実はSARSとかがあって、あるいはそのMARSとかですね、いくつかあってですね、このプロセスも一方であって。あるいはその前に鳥インフルエンザってものが出てきて「大変なことになるかもしれない」っていう話で、これ鳥インフルエンザ問題っていうのは、実際にパンデミックになってないにもかかわらず、アメリカは相当早い段階から鳥インフルエンザ対策をしなければならず、それをベースにいわゆる急性重篤感染症についての世界的な対応システムを作らなければならないっていって、しょっちゅう日本に来てやってたんですよ。「こうなりますよ」と。「大変なことになるので、とにかくお金を出してやるべきである」とかいって、やってたんですよね。結局そういう急性重症感染症対策っていうのを主流化するっていう流れっていうのは、やっぱり2000年ぐらいからずっとあってですね。それでこの流れの延長上でエボラがあって、そのエボラがまた拡大しちゃうと困っちゃうと。
 で、感染症っていうのはこれまたいわゆる南北の問題なんですけれども、南北の問題っていうか、結局レトリックは植民地主義のレトリックで。つまりその、アフリカとかから急に出てきた感染症が自分のところに入って大変なことになったら困ると。そもそもその西ナイル熱も、なんとか熱もですね、ぜんぶアフリカから来てんじゃないかと。いうことで、封じ込めの論理ですよね。そういうようなかたちで、世界に波及しないようにとにかくいろんなものを固めていかなきゃいけないっていうことで、そういうようなかたちでパンデミック対策、とくにエボラをモデルにしたパンデミック対策が、仕組みづくりが20013年から16年までのあいだに走ったというのがあるんですよね。
 ただ、残念ながらこのエボラベースの急性重篤感染症対策のいわゆる第一次整備は、コロナにおいて完全に失敗したんですね。というのは、コロナはそもそもまったく違うレベルで、感染のスピードがぜんぜん違ったということもあり、なおかつ「エボラほど死亡率は高くないがすぐに広まる」という問題があって、大きなインパクトがあったと。で、そのインパクトの規模が違いすぎたって。結局その、エボラベースで考えたファイナンスの仕組みとかがまったく機能せず、結果として大失敗であったと。だから、もう一度やり直さないといけないから今パンデミック条約とパンデミック対応の金融仲介基金を作るっていう話でやっているということなんですね。いちおうそんなような。話がまたコロナになっちゃいましたけども。
 あと、逆にエイズのことでいうと、エイズとか結核のことでいうと、やっぱそれまでの感染症対策との大きな違いというのは、HIVってのはまずは治らないという話が一つある。いまだにキュアという話になってないと。というところがあって、なおかつその、R&Dの、つまりリサーチ・アンド・デベロップメントの多くの部分が、今のエイズ治療モデルの薬、つまり一生飲まなきゃいけないっていうモデルの薬を改善するというかたちで投資が行われていて、エイズキュアの投資は非常に小さい。エイズワクチンの投資もそれほど大きくない。ゲイツ財団がちょっと金を出しているぐらいの話であるということで、そのエイズキュアとかエイズワクチンは必ずしも投資がいっておらず、今の治療モデルに大量の資金が投入されてると。そういう問題があるということはあるんですけれども。
 結局のところ、エイズはそういう意味では、キュアとかワクチンという話に結局なってない中で、何が大事かというと、やっぱり治療にアクセスすることが大事。あともう一つは、取り残された、社会的に厳しい状況にあるコミュニティに対するさまざまな社会的な介入の仕方っていうのが大事という、この点がやっぱりちょっと違うところですね。エイズの問題として。
 ここのところはやっぱり、市民社会がしっかり声を出していることによって、たとえばゲイ・コミュニティ、MSM(men who have sex with men)の部分と、セックスワーカーと、薬物使用者と外国人と、いわゆる移民労働者と獄中者と。この五つに対してしっかり対策をしなきゃいけないっていうところは、とくに非アフリカ地域においては「そこをちゃんとやんなきゃいけない」ということで、ここに対する特別なお金の投入っていうのはずっとあるんですよね。グローバルファンドもそこの部分のチャンネルを切ることなくずっと続けているし、なおかつ2011年のファイナンシングの改革以降、いわゆるその人権とかコミュニティのヘルスを鍛えるためのお金っていうのを、別のチャンネルを作って投入していると。いうところで、ここのところはしっかりやられているっていうことですね。
 逆に、コロナの文脈で、実際にコロナに関する資金投入ってのは、コミュニティをある種ないがしろにするかたちで進められた。つまりその「パンデミック対策」なのでトップダウンだったんですよね。で、このトップダウンのかたちでの資金投入っていうことでコロナ対策が進んだと。パンデミック対策は必ずそうなってくるので。それでその、「こっから先行っちゃいけません」とか、「全員マスクせい」とかですね、「マスクしないやつは罰金」とかですね、そういうトップダウンの政策になって非常に困るっていう。
 だからその、コロナのようなパンデミック対策に関してどのようにこれをデモクラタイズするのかってことはすごく大事なポイントなんですけども、現状ではそういうふうなディスコースにはなってない。っていうところがあるんだろうと。エイズ対策に関していうと、そういった部分が大量にまだ、ある程度蓄積がある結果として、市民社会はそれなりの力をいまだに保っていると。


 あとたとえば、ウクライナに関してもですね、ウクライナっていうのはこれは大変な国で。なんかこれ、まったく言わないのはどうかと思うんですけど、ウクライナってHIV陽性率が、成人人口の1パーセントはいるんですよ。これはほとんどが薬物の回し打ちによって感染した人であると。いうことで、これはつまり90年代以降の体制移行政策の失敗によってそれだけ多くの人たちが薬物を使い…そもそもソ連時代には薬物規制が厳しくて、薬物依存の人はいなかったわけですから。これがですね、大量にヘロインをみんな使うようになって、それでみんな感染していくと。あともう一つは結核もひどくてですね、多剤耐性結核が蔓延している世界の中で30の国の一つで。今結核を発症する人のうちの3割が多剤耐性結核で薬が効かないんですね。一部の薬しか効かないと。これもつまり、ソ連時代に無料で結核治療やってたものがぜんぶ有料になって、誰もアクセスできなくなった結果、多剤耐性結核が大量に増えたということで、これもその体制移行の失敗なんですね。このウクライナにおける、こういう戦争になった時にですね、どういうかたちでウクライナの、たとえばエイズ治療を継続をするのか。あと、ウクライナでHIVにかかっている人たちのかなりの部分がいわゆるヘロイン依存症になっているわけで、ここに関してはオピオイド代替療法だとかそういったものをどういうふうに入れるのか。
 これは非常に重要な問題で、実際これは結局、グローバルファンド等の資金投入によって培った、いわゆる薬物対策のハームリダクションを、実際にそこでやっているNGOだとか市民団体だとか当事者グループだとかが一生懸命今もやってるから、ロシアが占領されてないところではまだ続いてるわけですよ。こういうようなあたりの話っていうのは、結局その2000年代に世の中が大きく、エイズ治療に関しては大きく変わって、市民社会の運動が、たとえばウクライナのようなところにも届いてですね。実際、グローバルファンドはウクライナに対して、この20年間でエイズ対策と結核対策で1000億円を投入してるわけですから。これは相当の資金ですよね。まあ、20年間で1000億円だから年間50億円ぐらいなんで、大きいかどうかは別としてですね、ウクライナっというところの財政を考えればそれなりに大きいですね。こういうような投入をした結果として、こういった戦争状態にあってもサービスを停止しないで済むようなかたちになっていると。いうのは、大事なことというふうには考えていますけども。[01:00:43]
 なので、そういう意味でエイズに関しては、グローバルに考えた時にそれなりのトレンドは作ってきたということなんですね。このトレンドを作ってきたのはなんでかっていうと、やはりもちろん公衆衛生上のニーズが当然あったということ、あるいは国際的にエイズについてはやらなきゃいけないっていうコミットメントがアメリカを中心に存在していたということ。あとは、それを強制してきた、それをプッシュしてきた市民社会の存在があったこと。それぞれ当事者運動をバックにした市民社会の存在があったことっていうことなんですが。こういうかたちで取り組みを維持していくためには、それこそその市民社会は、ぜんぶこの枠組みの内部に入っていろいろやってきたということで、街頭闘争の力はなくなってるんですよね。街頭闘争の力はなくなってるわけですよ。ここはやっぱりちょっと考えなきゃいけないんですよね。つまり、いわゆる悪の局面を打開するためには街頭闘争が必要で、ここのところの力がなくて、逆に体制を飼いならす力はあるというのが現状であると。
 で、その「体制を飼いならす」っていう意味合いにおいてはそれなりの力はそれなりに発揮してるわけですね。たとえばその、それこそ市民社会は国際的に欧米の大きな財団と相当結びついており、これらの財団は市民社会出身のスタッフをたくさん抱えて、市民社会にしっかり資金を提供しているわけです。
 つまりこちらとしてはその部分を含めてしっかりやっているということなんですが、街頭闘争はそのぶん弱くなっていると。逆に街頭闘争の部分はトランプに取られてるわけですよ。ある種ね。トランプとか右翼に取られてしまって、こっちは体制内化してですね。そういう意味では、若干よくないですよね。結局のところ責任ある仕事をしなきゃいけなくなり、その結果内部化していろんなものがさまざまなかたちでできるようにはなったと。ただ、半端な金でしかないわけですけども、できるようになって。それで、それなりにイニシアティブを握ってはいて、こちらが言うことは正義ということになって、通るようにはなっていると。ただ、そもそもやっぱ体制内化すると理屈自体が陳腐化するっていうのもあるし、結局のところ縛られてるということもあるし、いろいろな問題も出てくると。逆にこちらがそういうふうになっているという結果として、外野勢力の存在というのが弱くなり、なおかつそこの理論が弱くなってですね、どうしようもない陰謀論とかにしかなってないわけですから。結局のところ。ここは極めて、言説的には極めて貧困なものになっていると。いうことも言えるのかなと。
 つまり結局のところ、かなりの部分、体制がこちらの言説を剽窃してるわけですね。leave no one behindにしてもそうですし。つまり「誰も取り残さない」とか。それこそ「チャリティーじゃなく人権だ」とかですね、ぜんぶ今や体制の連中が言ってるわけですよ、そういうことを。これらの言説が結局主流化された結果陳腐化した結果としてですね、こっち側はろくでもない言説になっているというところも、かつてのアラブ社会主義の国みたいに、主張すること全部が欺瞞に聞こえて、みんなが飽き飽きしたみたいな感じになってるわけですよ。ある種そういうような感じで、非常にバランスが悪くなっているということも言えるのかなと。逆にその今の現状で見た時に、オルタナティブがどこにあるのかっていうのが難しいっていうことは。
 そんなような。ちょっとペラペラとしゃべって。[01:05:00]

立岩:ありがたいです。そうだよね。あの時に聞いた話がその街頭の話だよね★。で、「どっちもいるよね」みたいな話を確かしたんですよ。それはその通りだって今でも思ってるんですけど、実際ね、コロナで街頭出るってわけになかなかいかないしね。

稲場:そうそう、コロナの街頭はそれこそ「ワクチン嫌だ」とかそういう話で。

立岩:そういう話になっちゃうもんね。

稲場:「ワクチン嫌」にもたくさん正しいものと正しくないものがあるんですけれども、正しくないほうが強いですからね。そういう意味合いで、つまり街頭の部分に本来あるべき思想の質が…まあこんな偉そうなこと言うのも何かとは思うんですが、結果として非常によくないかたちのものになっていると。
 それこそパンデミック条約についても「パンデミック条約」って言葉に食いついて、「これは陰謀。ディープステイト★がみんなを従わせようとするための陰謀なのである」って言う人たちがけっこういるんですよね。日本にもけっこういて。たとえば、うちのウェブを見ると、私がたくさんパンデミック条約についての記事を書いてるんですけども★、最近アクセス数がぐんと伸びてるんですよね。で、なんで伸びてんのかな?と思ったら、陰謀論の側にいる人たちによる閲覧数が多くなっている様子。
 もし、陰謀論の側にいる人たちが虚心坦懐に読んでくれて、考えを改めてくれるのならよいですが、残念ながら、私の記事は国際機関や各国政府、市民社会の動向について、複雑なことが複雑なままに書いてあるわけで、素直に読んでわかりやすい内容ではない。 結局、「読みはするが無視する」って話になるんだろうと思うんですね。
 そういうった意味合いで、結局のところ、あるいは都合よく剽窃するかどっちかですよね。つまりパンデミック条約それ自体の問題がどこにあるのかということをこちらとしては書いているわけですが、ただそこに響く人はほとんど、とくに日本のような国の場合、そこに響く関係者はほとんどいないですよね。そういう人たちは専門家とかになっていたりとか、あるいはもう国の研究所とかにいたりとかして。で、彼ら自身も必ずしも情報を得てないわけですけれども「まあとりあえずそれでいいや」という話になっていると。
 で、自分に都合のいい情報以外は欲しくない人たちだけっていうような状況で、パンデミック条約の問題がどこにあるかといった時に、やっぱりその、この人たちがその問題を吸収してくれるわけでもないし、逆にトラディショナルな左派の勢力は、残念ながら、理解力も含めて弱体化しているわけで…。結局のところそこの部分を、逆に言うとパンデミック条約の問題点、本来の問題点に気がついて運動を作ってくれるわけじゃないんですよね。残念ながら。そうすると結局のところその、ある種この内部化してやってる人たちの中でやらなきゃいけなくなり、街頭でもなんでもないっていう。せいぜい署名運動ぐらいの話にしかならないという。あるいはロビーですよね、アドボカシー。自民党の先生にお願いするみたいな。そういう話にしかならないので、その点で非常によくない状況になっている。
 実際今、野党と与党を見てても、グローバルヘルスそれ自体の政策能力は格段に与党のほうが強いですから。公明党とか自由民主党のほうが、そこをやってる議員が相当のまともな人物だったりして、がいるので、この人たちのほうがよく知ってるわけですよ。で、野党たるや、まったく国際保健に関する委員会も作っていないし、ちゃんとそこについてフォローしてる議員も一人もいないっていうそんな状況で、自公のほうが強いんですね、逆にいうと。で、野党に「これなんとかしてくださいよ」と言うと、「いやいや、そういうことを本当に実現したいなら、自民党に頼んだらどうか」って、彼らが言うぐらいですからね(笑)。まったく覇気がないわけですよ。
 こんな状況で、つまり…まあ、日本共産党はまた別ですけどね。共産党は党の組織でそういうものを担保してるから、政策能力はあるわけですよ。そこに関してはまだ少なくともあるわけですが。他の党はどうでしょうか。また、政党をサポートする労組の方も、企業が利益を確保する方が大事ということで、国際労働運動は途上国の医薬品アクセスについてきちんとした立場をとっているのに、日本だけは、労組自体がメガファーマ寄りの立場に立ってしまったりする。原理、原則が通用しない、どうしようもない状況になっていると言えます。

立岩:ほんじゃあさって言われても困るでしょうけど、でもそのエイズの時にね、やっぱり特許の問題があって、その問題の幹っていうか元はそこにあるんだって話になって、それは一定共有されて、で、それからの何十年があったわけだと。あったはあったし、進展がなかったわけではないと。だけど、だけどというか、今回コロナの時でもさっきおっしゃったように、少なくとも先進国の製薬会社はそういう、さっき稲場さんがおっしゃったような行動をとりっていう。ある意味そこは変わってないっちゃ変わってないわけじゃないですか。

稲場:あともう一つは、その先進国の体制も、やっぱりごく一部ね…もちろんだからその、そういう意味ではね、問題認識は「前に比べりゃまし」とは言えなくはないんですね、90年代に比べてましとは言えなくはない。
 というのは、たとえば、つまりアメリカのトランプ政権であったにもかかわらず、WHOは迅速にACTアクセラレーターを作ったわけですよ。つまりこれは何かっていうと、いわゆるコロナに対するワクチン、治療、診断、保健システム、この四つの分野に関して、今ある保健系の国際機関と民間財団がWHOのリーダーシップのもとに力を合わせて、開発したものをきちんと途上国に供給するための仕組みですよね。これをいちおう作ったわけですね。ACT−Aっていうものを。つまりこれっていうのは、パンデミック宣言が2020年の3月11日に出て、ACT−Aができたのが4月の27日かなんかですから、1ヶ月と2週間ぐらいしか経ってない。一ヶ月と2週間しか経たないうちにACT−Aができてるわけですね。それでワクチンが開発されたら、こういう共同購入の仕組みを作って、それでみんなに供給するんだよっていうCOVAXもできてっていう、そういう話になった。枠組み自体の設定はできたんですが、残念ながら先進国のインパクトが非常に大きかったというのもあるけれども、結局その、枠組み自体はできたけれどお金がぜんぜん集まらなかったと。
 あと、お金の必要額がこれまでの保健の投入額とは比較にならないほど大きかったっていうのがありますね。つまり、エイズ・結核・マラリアの3つの感染症を相手にしてできたグローバルファンドが年間4000億円という、NHKの年間予算よりも低い額でやってるわけですね。NHKの年間予算は6000億円あるわけで。NHKの…なんかNHKと比較するのもあれですが(笑)、先進国の公共放送の予算よりも少ない額で世界ぜんぶをやってるわけですよ。つまりその、コロナで必要となった額っていうのは1兆5000億円とかなので、ぜんぜん単位が違うんですね。しかもその額を、少なくとも1年で集めなきゃいけないと。これは世界全体のODAがぜんぶで16兆しかないことを考えると、極めて大きな額で。この額は一気には出せないっていうところだったわけですね。つまり結局のところ、そういうようなかたちの、お金も出せないし、共同購入はしないしという、そういう話で結局、「作ったは作った。だけど」っていう話。作るところまではいいわけですよ。たぶんおそらく、エイズではそれ作ってないわけですから。
 あとその、知的財産権に関しても、WTOの文脈で2020年の10月の段階でインドと南アフリカがこれを、「TRIPSを停止する」というのを、「包括的に知的財産権を停止するんだ」ということを出して、で、一気にこの支持が64カ国…支持っていうか64カ国が共同提案することになったわけですね。で、この共同提案に対して反対する国が、結局のところ、ドイツとイギリスとスイスとかですね、一部。で、この国が頑強に反対し続けた結果、いつまでたっても決まんないって話になってるわけですけども。結局のところ、たとえば日本は去年の5月の段階でバイデン政権はこれに関しては、ワクチンに関してだけ賛成すると言って態度を変えたわけですね。日本もバイデンを喜ばせなきゃいけないんで、かたち上は「われわれは邪魔しない」という中立宣言をしたと。そういう意味合いではその知的財産権が、いわゆる途上国における医薬品の製造能力を、技術移転を阻害する要因になっているという認識自体は共有されてるんですね。
 ただそこで、ひとつは利権の問題があり、あともうひとつはそこにつきまとう、つまり、「ワクチンっていうのは作るのが難しいから先進国しか作れないのである」というロジックですね。ここのところが、結局のところ、ある種、ここのところで結局思考停止になって止まってしまったというところですね。[01:15:21]
 実際のところは、それこそ今の分権化されたというか、今のいわゆるグローバルなサプライチェーンが展開されてる現状においては、途上国にワクチン作らせてるわけですよ。行ってみれば「アップル」モデルなんですよね。結局、ワクチンにしたって。たとえばジョンソン・アンド・ジョンソンのワクチンはいろんなもん、原材料集めてどっかで作って、たとえば南アフリカの工場で最終的にフィル・アンド・フィニッシュをしてヨーロッパに輸出するというかたちにしているし。いろんな意味合いでその分権化されたかたちで、いろんなところでいろんなもん作って、それを一番安いかたちで作って、それで最終化して輸出するっていうそういうことになっているので、その点で言うとべつに途上国の会社だから作れないわけでもないし。それこそインドの会社が作れるわけだし。最初っから作れるわけだし。そういう状況で、そもそもアストラゼネカはインドの会社にライセンス契約をしてつくってもらっている、最初から。っていうモデルでやってるわけですから。だから実際には途上国の会社をあてにしてるのに、交渉などの場では、「難しいから作れないに違いない」とか言ってるわけですよね。
 結局そういうようなところで、ワクチンに関しては、そういうようなところでですね、ある種先進国の都合のいい理屈が都合のいいところでは使われ。結局その、WTO、明日から閣僚会議がありますけれども、そこでもその知的財産権については今一歩な提案しか出て来ずというような状況になって、オミクロン株で助かっているという現状。
 なんかその認識自体はね、認識自体はそれなりに向上はしているものの、結局のところその行動は変わっていないし、認識の向上はポーズになっている。あとはやっぱりその、街頭行動が弱いので、「アフリカにおけるワクチンの製造能力強化」という観点に関しては、それこそ市民の運動ももちろんあるんですけど、つまりこの市民の運動はあるんだけれども、とくに今回、アフリカに「もっと製造能力強化をせよ」という主張っていうのは、それこそ強力な、アフリカにおける強力な指導者層によって展開された。たとえば、それこそWHO事務局長テドロスがエチオピアの人ですが、このテドロスが再三に渡って「ワクチン・アパルトヘイト」っていうことを大声で言った。で、ACT-Aの議長を、ACT-Aの運営評議会の議長を南アのラマポーザがしていて、ラマポーザ大統領がこれまた大声で主張したと。で、アフリカ連合はアフリカ連合で非常にタクティカルな戦略を取って、そのアフリカ連合のワクチン大使に、ジンバブエ出身で全世界で携帯電話事業を幅広く展開しているジンバブエ出身のエコネット・グローバルという名の会社の社長である大富豪のストライブ・マシイワという人物がワクチン大使になって。この人物が、雰囲気は富豪というよりは教授みたいな人で、西側の並み居る論客をすべて理屈で論破してったわけですよ。彼は非常に見事な人物だったと思いますけれども。つまり、「このワクチンのギャップはなぜ起こっているのか」っていう、西側の研究機関とかシンクタンクとかがやったそのいわゆる対談とかウェビナーとかで、西側の代表全員に勝ってるんですよね。論争して。この、ある種われわれの力ってもちろんあるんだけれども、こちらが提供しているものもあるし、たとえば国境なき医師団が提供してる理論もあるし、あるいはジュネーブのWTOの会議でも南アフリカ共和国の通商産業省の官僚がすごい頑張って西側を相手に一歩も引かないというのをずっとやってですね。それで結局のところ彼らが勝っているわけですね。つまり、街頭というよりはそういう人たちが西側に対して敢然と向き合ってきたと。その結果としてこの問題が「大変な問題である」ということになると。そういうようなことになり、その結果、製造能力強化部分に関してはかなり前進はしたんですよ。ていうところがあるんですよね。[01:20:09]
 まずそういうようなバトルの状況で。街頭っていうのはそれこそ、それほど…。ツイッターストームとかはしてますけどね。なんか…「あの、何?」って感じですよね。「この日にツイッターストームするぞ」とか言っていろいろするんですけど、ツイッターでストームして何になるんだかよくわかんないですね(笑)。そのなんかその、やっぱり若干迫力に欠けるっていうところは。それこそ「ワクチン必要ない」っていう人たちが街頭でやってるのに比べてですね、迫力を欠くところがやっぱりありますよね。
 なのでですね、ちょっとその点、市民社会っていうものは、逆にいうと、内部化されてそこで一生懸命やることを私も含めてやってきた。で、その結果、たとえばそれこそ日本のグローバル戦略に関してもそれなりにインプットはできているわけですけども、街頭の力っていうのは動員できてないし、街頭の力は、逆に、まともな主張がない状況になっていると。いうのがちょっと頭が痛いのかなと。[01:21:20]

立岩:「さてさて」って言っても稲場さんも困るだろうし僕も困りますけど、とりあえずっていうかな、この間コロナ始まって、学校からお金もらったりしてね、そこらへんに売ってる本であるとかさ、そういうのはみんな揃えて買い集めて、今どういう種類の言論っていうのが、はびこるったらなんですけど、それは整理できるような、もとのは揃えて、それでとは思ってるんですけど。それはとりあえずやりますわ。
 なんかこういう話は死ぬほどあるけど、今、今日稲場さんがしてくれたみたいな話ってあんまり聞かないよね。それが、学者なんてやろうったってそれぐらいのことしかとりあえずできませんから、私はそれでもしないよりはいいと思って。

稲場:していただいたらありがたいです。

立岩:これからやりますけどね。とは思いますけど、プラスじゃあ何ができんのかってのはまだ見えてない部分はあるかなあ。
 ちょっとぜんぜん戻るし、その2000年越えたあたりでいろいろ資料集作ったりした時に、アフリカはアフリカで大変だった時に、アフリカのその当事者っていうか、そういう人たちが、薬ハンガーストライキやったりとか、ああいうこと一時期あったじゃない★。あれって、それなりになんとかなっておさまったって言えばそれだけっちゃそれだけの話なんですかね。

稲場:たとえばその、南アフリカで当時頑張っていた「治療行動キャンペーン」(Treatment Action Campaign)は今はそれほど強くないですけれども、名称未設定いろいろな、たとえば今回も知的財産権の件でがんばったのは、TACから派生したいろいろな団体がたくさんあって。たとえばその、そういう団体がそれなりのやっぱりアドボカシーを南ア政府に対して展開をするということがあったわけですね。つまり、南ア憲法第27条が「すべての人が医療にアクセスできる」っていうことでセクション27っていう運動があって、このセクション27が実際、法的な部分をカバーし、これはウィットウォーターズランド大学の法学部にあるのでそこがカバーしてですね。いろいろたとえば、「獄中者におけるエイズ治療がぜんぜんできてないじゃないか」とかいろいろやって、それで南アの中でエイズに関してはそれなりに進めてるわけですね。あと、ワクチンに関してもそれこそその南アががんばって西側諸国に対抗している理由としては、やっぱりワクチン平等っていうのは非常に大事だという考えを政府が共有しているからであって、このところはその、たとえば南アの国家エイズ委員会が市民社会が非常に強力にそこをプッシュできるような仕組みになっていて、そこのリーダーとかも一生懸命この件をやってたりするわけですね。そういうプッシュがあって南アフリカ政府は強力にその今回の件に関してまともにに主張してきたというのが。インドよりもずっと南アのほうが主導していたので。
 そういうかたちで、もちろんその南アの運動もいろんな意味で、いわゆるあの時にそのトリートメント・アクション・キャンペーンが世界と南ア政府、いわゆる当時の大統領タボ・ムベキに率いられたエイズ治療に消極的な南ア政府に対して闘いをを挑んだっていうのがあって、それで大きく変えたわけですね。で、ズマの停滞した時代があってラマポーザに移ってということで、それなりにその、今はかなり影響力もあるわけですけれども。そういうアフリカの流れっていうのは一つ、当然あると。
 ただ今回、アフリカにおいてコロナっていうのはそれほど大きなインパクトはなかったわけですね。というのは、多くの、たとえばエイズに関わっている活動家とかが言うには、「コロナのインパクトよりも、いわゆるコロナ対策のインパクトのほうが大きかった」と。つまり何かっていうと、ステイホームとか。つまり、力ずくで「外に出るな」ってやるわけだし。トップダウンでね。その嫌がらせとか山ほどするわけだし、警察は賄賂にたかるわけだし、外に出てるやつをぶん殴ったりそういうこととかいろいろするわけで。結局そのそういうコロナ対策による被害のほうが大きいと。あとその通商網が寸断された結果、こっちで作ってるものは外に出ていかないわ、お金は入ってこないわ。コロナをものともしない人たちはそこら中で、たとえばイスラム原理主義の反乱とかをたくさんやるわけですが、こっちはずっと家にいなきゃいけないわけですから。そういった意味合いで、その点でも弱くなるわけで、治安も悪くなるしひどい状況に。
 やっぱりアフリカは2015年以降、つまりリーマンショックが終わった頃から景気が悪くなるわけですけれども、この景気が悪くなったのに加えてコロナでこうなったもんだから、厳しい状況になっていると。なおかつ誰もアフリカに注目してないので、今どういう、どこで何が起ころうともあまりわからないという状況にもなって、ちょっと逆戻りしてるわけですね。それこそ90年代においても普通に観光ができたマリの世界遺産のところとか、今は立ち入りできないですからね。そういうような治安の悪化っていうのがサハラ地帯は非常に深刻になっていると。いうことなんですけれども。
 やっぱりそういうコロナ対策の悪影響っていうのがすごく問題が大きいんですよね。結局だからそのアフリカでいうと、コロナ、「ワクチンを」っていうことはあるんですけれど、じゃあ実際にワクチンのニーズが高いかというとべつにそうでもないと。あとここの問題で一つあるのは、いわゆるその、そういう意味でワクチンのニーズが高いわけじゃないうえ、ワクチンというもに関する歴史的な不正があってですね。それこそ人体実験とか山ほどされてきたわけで。で、あと情報はもうインターネットでたくさんアフリカでももう来るわけで、アストラゼネカのワクチンてのはmRNAワクチンよりも効果はなく副作用が強いのではないかということはみんな知ってるわけですよ。さらに中国のワクチンが効くかどうかよくわからないというのも知ってるわけで。そしたら、そもそもそんなにコロナでたくさん死んでるわけじゃないし、みんな若くて治るのになんでワクチン打たなければならないのかって話になるわけですよね。そういう意味合いで、どっちかっていうとその、歴史的な経過に根ざした反ワクチン主張、これは日本の反ワクチンよりも格段に説得力がある。そういうような状況の中で、このいわゆるワクチンへジタンシーの影響が非常に正当性を持って強いアフリカにおいては、なかなかその民衆レベルで「ワクチンをよこせ」という運動は盛り上がりに欠けた部分があるわけですね。これをどういうふうにするのか。たとえばアフリカ連合と一緒にワクチンの課題に取り組んで、一つは製造能力強化、一つは知的財産権の撤廃、もう一つは人々のあいだでのワクチン忌避意識をどういうふう克服するかという、この運動っていちおう、たとえば南アとかにはあるわけですね。彼らはやっぱりブラックライブズマターの運動の影響があって、これはつまり製造能力強化、知的財産権の免除、あと植民地主義のもとでひどいことになってきた歴史の結果としてのワクチン忌避の克服。これは基本的にアフリカにおけるワクチンのデコロナイゼーションであると、そういう主張を彼らはしているわけですね。つまりこの「脱植民地化」という主張というのは、それなりに今展開が非常になされていると。いうことも言えるのかなとは思います。
 ただこれもね、ある種その、現代の軽薄な現状があって、このデコロナイゼーションっていう言葉自体も逆に軽薄に使われている印象もあるんですよね。というのは何かというと、つまりその、この「脱植民地化」っていうのは、たとえばその、ちょっとその前にMSFとかオックスファムとか西側が作った国際NGOにおけるスキャンダルがたくさんあって。なおかつここの人種主義っていうのが表面化してきた。たとえばオックスファムは、緊急人道支援の現場で、いわゆるセクシャルアビューズとか、たくさん問題が明らかになってるんです。たとえばチャドに、そのオックスファムのチャドの紛争緊急人道支援のプロジェクトにおいて、いろいろ問題があってですね、そこで問題があった結果クビになった人間がオックスファムのハイチの似たようなプロジェクトでもう一度雇用されてそこで同じような事件を起こしてるわけですよ。これの精算を迫られたわけですね、オックスファムが。で、これは逆に南側のオックスファムのスタッフとかから、つまりその、「西側の植民地主義モデル」っていうものが克服できていないのであるっていうことで「デコロナイゼーション」という言葉を使ってされると。で、国境なき医師団も、これは国境なき医師団の国にもよるんですが、たとえば国境なき医師団フランスっていうのはまさにその垂直的なイニシアティブ、まあ、やってる人たちが垂直的にしたいからしてるわけじゃないんですが、結局その白人支配の垂直モデルによってなされているところがあり、これを結局みなさんすごい嫌がっていたわけですよ。だけど今まで必ずしも声が出せない、なおかつその、そのモデルに乗っかりつつ、やってる連中は左みたいなね。そういうような状況で、フランスの国境なき医師団っていうのはあり、なおかつ経営の論理があるので、都合よく悲惨な写真とかを使うみたいな。つまり、経営の論理といわゆるそのやってる連中は左っていうのと、歴史的に培われた植民地モデルの垂直モデルっていうのが微妙なかたちで統合されて、非常に悪いものになっていたと。で、これを告発するっていう話が出てくるわけですよね。で、この告発で脱植民地化と。あともう一つは、北モデルを南にどんどん移行しなきゃいけないっていう、いわゆる「みなみ化」(Southernization)っていう動きっていうのがあって、このみなみ化っていうのをまたでたらめにやるんですよね、非常に。口で「みなみ化」と言って、適当なオックスファムとかアクションエイドの人間をインドとかフィリピンの人間を適当に使ってトップに立って、それでみなみ化とか言うわけですよね。つまりその結局その、「フィリピンとインドの人がやってるから南になったじゃないか」っていう話ですよ。だけれどもぜんぶそのセオリーは北で組み立てるみたいな。そういうことが結局行われ続けてるわけですが。
 結局そういうようなかたちで、北主導でつくられたNGOのみなみ化の文脈でデコロナイゼーションという言葉が出てきてるんですけれども、これがまた適当な妥協の産物になっているところが一方である中で、このデコロナイゼーションという言葉の多様化、すごく使われるわけですよ。すごく使われるんだけれども、徹底したデコロナイゼーションではないんですね、結局のところ。なおかつ、ブラックライブズマター運動があってデコロナイゼーションちゃんとしないといけないっていう話になって、まさにデコロナイゼーションブームみたいな。日本にまったくてんかされてないあれなんですが。結局「デコロナイゼーション」という言葉を使っていろんなことが行われるようになり、その結果として「デコロナイゼーションのコロナイジング」が行われてるわけですよ。つまり、デコロナイゼーションという言葉をコロナイゼーションしてるんですよね。それはそのleave no one behindとかと同じことが生じてる。つまりその、デコロナイゼーションが徹底したデコロナイゼーションではなく、デコロナイゼーションというスローガンというものを管理可能にするということにおけるコロナイゼーションが、デコロナイゼーションのコロナイゼーションが行われていて、これ非常に問題なんですよね。
 だからその結局のところこのデコロナイゼーションということでわれわれが考えている、より決定した、より覚悟を持ったものっていうのが中途半端になっている。結局やんなきゃいけないとなると当然そうなるんですけど、しょうがないんですけどね。ある種そういうようなものになり、なおかつデコロナイゼーションというのは、かつては社会主義であるとか、あるいはある種その植民地主義を根絶やしにするってことも含めて、徹底したものを意味していたものが、そうじゃないので、覚悟なく使えるようになっちゃったっていうことですね。で、そのデコロナイゼーションの先にあるものが何かっていうことがないので、結局デコロナイゼーションという言葉を使って適当なことをやりゃあいいっていう話になってると。いうような意味合いが、かなりこちらとしては感じるところが強いかなと。
 さっきのその南アのデコロナイゼーション、「ワクチンのデコロナイゼーション」って主張してる団体も底の浅さが見えるわけですよ。つまりたとえば、アフリカでワクチンが最も接種率が高いのはモロッコであると。モロッコはすごくワクチン頑張って、いろんなところからワクチンを調達し国民にたくさん打ったのであると。だからモロッコっていうのはアフリカにおけるワクチンのモデルであるとかいう、どの口からモロッコを褒めるんだと。そもそもモロッコっていう国はフランスの番頭としてアフリカにおいて、いわゆる新植民地主義の尖兵としてずっとやってきた国でね。さらに、西サハラを不法占領し続けているわけじゃないですか。この国をワクチンデコロナイゼーションの筆頭にあげるというのは、絶対あるべきではないですよ、そもそも。[01:35:45]彼らが西アフリカで果たしてきた役割や、あるいは彼らが西アフリカのいわゆるメディカルな人間をぜんぶ、いわゆるフランスに留学できない人間はモロッコのモハマド5世大学に留学するわけですから。そういうようなかたちでいわゆる仏語圏のアフリカをそういうかたちで配下においてきたモロッコを褒めるのは、間違ってるわけですよ。なおかつ、実際にアフリカ外交の現場においては南アフリカ共和国政府は、断固としてモロッコの西サハラ占領を許さないというかたちで常にやってるわけですよね。西サハラの占領に関して断固反対して戦ってるのは南アフリカで、それで南アフリカはアフリカ連合において西サハラのいわゆる主権っていうものを主流化して、モロッコをアイソレートしてきたのは南アフリカ共和国なわけですね。つまり、外交部分において、政府がモロッコと対決しているのに対して、市民社会はそもそも政府レベルの認識を持ってないということですから。これはよくないんですよね、基本的に。われわれとしては。その問題はちょっと違う問題なんで、とりあえず脇に置いて連携しようとはしてるんだけども。
 ただつまり、たとえばアフリカというものの流れっていうものを包括的に見ていれば、その話は当然入ってきてもおかしくないんですけども、ところが結局のところその冷戦終結以降の流れの中で、結局のところ、そのいわゆる南ア、あるいはアルジェリアみたいな民族社会主義の流れっていうもの自体が相対化されている結果として、逆にいうとモロッコの果たしてきた役割っていうのはあんまり認識されていないっていうところもあるのかなと。そういうようなところもあって、結局のところ、たとえば保健分野における市民社会の政治地図の中には、たとえば西サハラ問題もモロッコの問題も入ってこないんですね。この点はやっぱりその包括的な思想の喪失というのが非常に大きいのかなとは思っています。
 そんなような。また話がずれましたけども、いわゆる植民地主義っていうものに対する精算なり対抗なりっていうような動きの中でも結局のところ陳腐化が生じているというところはあるのかなというところです。[01:38:13]

立岩:ありがとうございます。なんかもう30分は過ぎちゃったから、もう終わりますけど。いったんこれはぜんぶ文字起こさせていただいて、僕もまた聞きたくなったりとか、あると思うので、そしたらそれ見ていただいたり、また足してもらったりして。とにかく、山といろいろ出ている話はいっぱいあるんだけど、大切な話してる人は少ないなと前々から思っているので、そこをなんとかと思ってます。ありがとうございます。[01:38:56]

稲場:ざざざっとこういろいろ話をしましたが、とりあえず全体像みたいな。


稲場:感染症対策の在り方については、ワクチンや医薬品といった生物医療的な立て方だけでよいわけではないということは、付け加えたいと思います。たとえばmRNAワクチンについては、いろいろ考えれば問題が多いんですよ。mRNAワクチンを開発するにあったって、基本的には軍事研究としてずっとやってきたもので、つまり「生物兵器戦にどう対応するのか」っていうことを研究する文脈でmRNAワクチンが、あらゆる病原体に対するワクチンが作れるということで、ずっと基礎研究は軍事研究でやってきたもので、非常に大きな問題であるということと、あともう一つは、遺伝子組換え問題と一定のつながりがあるわけですね、なんだかんだ言って。結局その、メッセンジャーRNAというものを人工的に作って、メッセンジャーRNAを体内で人工的に作るようなものを入れるっていうことなんで、これはそのいわゆるカルタヘナ議定書とかに照らすと問題が生じる可能性があるわけですよ。このへんで考えた時に、mRNAワクチンというものを無前提に受け入れる話にならないというのは、これは認識として間違ってはいないんですね。ここは若干深く掘り下げたほうがいいことであって。

立岩:これはこれでもあるんだけど、今ほんとに薬の話は1冊じゃ終わんないなと思っていて。この間、ずっとワクチンの接種の義務反対みたいなことをなさってきた森さん★っていうかたが去年亡くなられて、それで彼女が残された遺品っていうかな、資料を今度、ダンボール20とかいただくんですが、そういう関係でワクチン批判みたいなことしてた人が何人か亡くなられたり、資料をいただいたり。それから薬害の被害のこと、それも含めて、全体っていうか両方見ていかないといないなと思ってて。で、一時期そのワクチン批判ってそれなりの力を持ってたけど、なんかコロナになっちゃって…。

稲場:コロナでやっぱり正反対になってるでしょ。

立岩:うん。ワクチンはやっぱり…で、勢力がちょっと変わっちゃったとこがあるから。

稲場:陰謀論が大量に入ってきて、その結果として「まともじゃない」扱いをしやすくなってしまったっていうのがやっぱりあって。

立岩:そうなんですよね。

稲場:ここがちょっと問題。
 あともう一つはやっぱり、ワクチン打っちゃったから死んじゃった人はけっこういるはずなんですよね。実際それなりに死者が多いし。あともう一つはその、実際今回のmRNAワクチンはかなりの割合で発熱が出ていてですね、これはもう結局みんな「そういうもんだ」っていうことにしちゃったのでなんとか、実際にこれまでのワクチンとは比較にならないぐらい害がありうるというものなわけで。ちょっとその点でどうなのかっていうところはかなり検証しなきゃいけない。今になって検証したほうがいいと思うんですけど。
 ところが今この流れによって、そのいわゆる「ワクチン100日計画」みたいなのを先進国がどんどん進めているというところがあってですね、これがつまりジョンソンが言ったことですけれども、ここのいわゆる「生物医療中心主義」みたいなところがかなり強くなっている。一方で、ここはもう一つ言わなきゃいけないのは、コロナのインパクトが非常に大きかった国っていうのはほとんど、いわゆるオーバーウェイトの率が60から70パーセントある国なんですよね。

立岩:そうなんですか。

稲場:そうなんですよ。つまり、中南米、東欧、北米、西欧は、基本過体重率がすごく高い国なんですよ。5割から7割に。これは統計見れば明らかですよ。つまり、過体重率がすごく大きく、その結果として非感染性疾患の罹患率も高い。つまり、肥満、高血圧、その他諸々というのが、コロナのインパクトが急激に増すわけですよね。つまりもともと…。で、なおかつもう一つあるのは、中南米はそれこそ貧困層からして肥満なんですよね。これは大量にいわゆるジャンクフードが供給されてるからで。これはつまり、都市貧困層、これはアメリカもそうですけど、岩波新書「SDGs」にも書きましたけれども、都市貧困層における食の選択が非常に今わずかになっている。[01:45:04]で、ジャンクフードとコカコーラに依存するようになっていて、これの流通っていうのはそれこそグローバルに展開されている。実際たとえばコカコーラはアフリカのすべての国に工場を持っていて、すごい田舎の村までぜんぶサプライチェーンが行くようになっていて。だからこそ逆にエイズ治療薬や結核治療薬やマラリア治療薬を村々まで流通させるのにコカコーラのサプライチェーンを使うようになったわけですよね。こういうようなかたちでいわゆる清涼飲料水の供給っていうのは、それこそ都市スラムでもなんでもぜんぶやられてると。ここにものすごく安く流しているので、結果として全員がぶくぶくになるという、そういう構造になっている。これは東欧もそうですよ。つまり貧困層が一気に、本当に貧困だった状況からジャンクフードはある状況に大きく変わってきて、その結果として、いわゆる肥満、NCDsのシンデミックという状況になってるわけね。
 この「シンデミック」がものすごく進行した中所得国で格差の大きい国が基本的にはコロナのインパクトが最大化している。あともうひとつは、欧米もそういう意味ではそうで、アメリカなんてまさにそうですよね。貧困層はみんなどうしようもない肥満とNCDsに侵されてるわけですよ、貧困層は。こういう国においてコロナのインパクトが最大化している以上、いわゆるそのパンデミック対策においては、まさにここの部分における食の安全とか、食と農の問題だとか、大気汚染の問題だとか、気候変動の問題だとかっていうそのグローバルなところをちゃんとやらないと、パンデミック対策にも何もならないわけですよ、実際には。ところがそれを、ぜんぶワクチンを100日で作ってやるとかそういう話になっていて、本質的なプライマリーヘルスケアだとか、栄養の改善だとかっていうような本来必要なところ、あるいは格差を減らすとか、今まで人々を構造的に肥満とNCDsに追いやってきた構造を逆転させるっていうような発想はまったく出てきてないわけですね。パンデミック条約においても、こちらとしてはなんとかそれは入れなきゃいけないと思ってますけども、シビルソサエティーの中においてもそれを主流化する言説はじゅうぶんではないんですよ。[01:47:22]

立岩:うん、なるほど。

稲場:なのでこのあたりのいわゆる食品産業のグローバルなサプライチェーンの問題だとか、このあたりのいわゆるとくに種子の問題だとかね、農業のその、これも知的財産権でやってるんですね。種子や農業や食についてもぜんぶ知的財産権で、「農民が収穫した種を播いちゃいけない」っていうのもぜんぶ知的財産権のUPOV条約でやってるわけで。これはつまり、知的財産権というものがこういうかたちで使われているというのが、医療も肥料も農業も同じなんです。このいわゆる大資本によるあらゆる、命に関わるあらゆるものを独占しようというここのビジネス戦略というものを、本来は解体していかなければいけないわけなんですけれども、このあたりが極めて弱いと。いうことは言えるのかなと。

立岩:そうか。ちょっと、ぜんぜんレベルの違う話になるっちゃなるんだけど、20年ぐらいにほら、どこだっけ、日経かなんかのサイトでさ、各国別のコロナの感染者数が出てきて。どうなんだろうとしばらく見てたんだけど、これこの状況だと次アフリカ来るのかなと思って何ヶ月か見てたんだけど、中南米はおっしゃるようにそういう国が増えてって、アフリカ意外とこねえなとか思って。

稲場:検査がね。

立岩:それはね(笑)。

稲場:つまりアフリカは、検査においては80倍の違いがあるんですよ。いわゆる人口10万人あたりの検査数で見ると、低所得国と高所得国の違いっていうとそのワクチンは8倍、検査は80倍ですから、ぜんぜん違う。ただ逆にいうと、アフリカは平均年齢が低いんですよね。あともう一つは、逆に貧しい結果として、たとえば南アとかの都市とかを除けば、あるいは各国の都市のエリートを除けば、太ってる人は少ないというところがあって、インパクトが弱いと。
 で、これ実は東アジアもある種インパクトが弱かったのはそのせいもあるんですよ。つまり、日本の過体重率って実は3割しかないんですよね。今言った国々の半分以下ですから。だからその点で言うと、つまり過体重率が3割しかない国で同じ病原菌が山ほどきても、ウィルスが山ほどきても、そりゃだって半分以下のインパクトしかないのは当然ですよね。ベトナムやカンボジアでデルタ株が来る前はちゃんとマネージできてたのも基本的にはそのためだと思います。逆にフィリピンとかインドネシアの、つまり東南アジア島嶼部はけっこうインパクトが最初からあったんですよ。これはやっぱり肥満率が多いからですから。[01:50:03]やっぱりフィリピンはアジアの国々の中では肥満率が高い国で、あともう一つはジャンクフードの流通率も高い。逆に言うとジャンクフードの資本、ジャンクフード資本もすごく育っていると。それこそジョリビーみたいな、ものすごい油で作ったようなジャンクフードを、つまりフィリピン資本でマクドナルドみたいなことやってる会社が相当な影響力あるわけですから。日本にも進出するとか言ってるわけですから。そういう意味でフィリピンは、逆に東南アジア島嶼部はわりとインパクトが大きかったっていうのはそれはそのせいがあるわけですよ。いわゆる総合的な健康の文脈で見たときに、コロナのインパクトが極大化している国はこの総合的な健康というものが達成されてない国だということが言えるのかなと、思います。

立岩:ちょっと腑に落ちた。

稲場:そこは大事なんですけど、あんまり誰も言わないんですよ。

立岩:そうなんだろうなって。だって、世界地図を見てると、今おしゃったような話なんですよ。見える話はね。「やっぱり」って言えるほど私は分かっていませんでしたけど。なるほどなるほどと思いました。

稲場:東欧もまさにそうですよ。東欧も肥満率が高いわけですよね。やっぱり東欧と中南米は肥満率、非感染性疾患罹患率が高いうえ、医療制度とかがでたらめで貧困層は医療にアクセスできないという結果として、先進国よりも格段に死亡率が上がっているということですよね。なので非常にそういうところもあると。
 本来はパンデミック条約だとか、あるいはその、金融仲介基金だとかっていうのは、そういう意味合いで人間を構造的にNCDs、肥満に追い込んでいく仕組みというものを逆転させるっていうことをまずはやるべきであってですね。そこでフード産業やビバレッジインダストリーをどう抑えていくかがすごく大きな問題になってくるわけですけれども、それこそコカコーラは健康にいいとか言って売ってるわけですからね。これをそのつまり、オリジナルなコカコーラよりもより健康に悪くないダイエットコークとかを売り出して、「これはダイエットコークはオリジナルなコカコーラよりも健康にいいので健康にいいのです」っていうでたらめな論理で売ってるわけですから。そういうことをどうやめさせて、誇大宣伝どうやめさせて、途上国の人たちが、栄養について学んでいない人たちがですね、コカコーラは健康にいいんだって言ってガンガン飲んでいるという状況をどうやめさせるのかっていうことが非常に大事なわけですが、ここはぜんぜん触れられてないですね。大気汚染も触れられてないし。大変なことだと思いますよ。

立岩:つなげるの難しいかなあとか。でもだからやんなきゃなと思ってたんだけど、普通につながるような話に思えてきましたね。

稲場:普通につながる話ですよ、それこそ。

立岩:なるほど、ありがとうございます。
 今回はまあそういうテーマっていうか、僕もぜんぜん素人で今でも素人だけど、とっかかりをくれた斉藤さん★のこともあって、本を書く、出そうと思って。サ伊東さんってあんまり長い本を書かない人だったんですね。なんか使えるものがあるなら使おうかなと思ってるんだけど。もし何か思いついたら教えてください。短いもんでいいと思ってるんですよ。それはもうキャラなんで。そうですよね。
 稲場さんもあのとき以来ですよね。お葬式というか。

稲場:そうですね。2020年の12月。

立岩:あのときに、駒場の古い人たちとも30年ぶりとかに会って、その学生運動でも、運動オタクみたいな人が70年ぐらいの昔話はするけれど、それもひとたなすぎたのかな。80年代ってそれなりに俺たち頑張ってたよなってとこもあったよね。

稲場:いやいや、80年代は頑張ってましたよ。だって、それなりにやってましたからね。あらゆる運動やってたし。ただね、つまり、1970年を起点に考えると1990年て20年しか経ってないですからね。で、この90年を起点に考えたときに今30年経ってるので、もうまったく時代が違う上、問題は逆にいうとその80年代の学生運動は基本90年代にはぜんぶ潰れてるんですね。つまり冷戦終結を機にほとんどの新左翼運動は弱体化して。べつにソ連や中国から金もらってたわけでもないのになぜ冷戦の終わりがそこまでのインパクトをもたらしたのかっていうのがちょっとよくわからないわけですが。それこそ、ノンセクト・黒ヘルの(01:54:56)運動だって、90年、あるいは東大の場合は88年を境にそこに入って来る人は極めて少なくなり。逆にその…だってそれこそ87年の黒ヘル勢力は相当数いましたよ。何十人もいたし。私は88年に入ったけども、88年に黒ヘル活動家になった人間って三人ぐらいしかいないですね。3、4人ですよ。寮にいて黒ヘルまがいみたいな、寮運動の文脈で黒ヘル的なところの周辺にいた人間は、ぜんぶそういう運動一切やめてますからね。そうじゃなくて活動家としてっていうのはもうほんと数人しかおらずと。89年以降はもうまったくと言っていいほどいないという状況で。88年に入った私が89年以降の人を組織していろいろ頑張ったものの、ぜんぜんっていう感じですよね。
 今たとえばこういったNGOの運動だとかいろんな社会運動とかってあるんですが、それはやっぱりだいたい90年代後半ぐらいっていうか、70年代後半生まれ以降の人たちが多いんですね。やっぱちょっとそのへんで、バブル世代が確かに中間で浮いている可能性があって。ただその70年代後半生まれ以降の人たちはどちらかというとやっぱりリベラルの文脈で、コミュニズムだとか、あるいはコミュニズムの対抗としてのアナーキズムの、われわれのその思想基盤を形成した人たちとはまったく違う由来のかたちになっていると。いうところがあるのかなと。[01:56:49]

立岩:そう。そうっていうかつまり、今稲場さんおしゃったような時期、「もうなくなっちゃったよね」っていうとこもそうですし、それから僕は80年代学生運動やってたわけだけれども、それなりに、しょぼかったけどやったはやったよなっていうところのことを、ちょっと。で、あのときに、サ伊東さんの時に何十年ぶりに会った人と「じゃあ、ちょっと」って、でもそれがいったん正月明けていざ話そうってなってんだけど「来週都合が悪いから」ってなって途絶えたきり、一年放っとかれて。でまた、今回僕も出張できるようになったんで、またあのイチノカワと連絡をしたら、ようやく昨日届いたみたいで。でも昨日今日は無理だっていうんで、またなんか別の機会に、じかに会うかズームかはわかんないですけど。なんかそのサ伊東さんが関わったみたいな、金井康治くんの時のそういう古いところあたり、古いつっても、まあ…。

稲場:そんなに古くはないですね。

立岩:そんなに古くはないですよ。その頃のところを、思想的意義とかなんで流行んなくなったんだろうねってのはちょっと大きい話ですけど、まずは具体的に何してたんだっけっていうところをちょっと掘り起こそうっていうのをやろうかなと思ってます。

稲場:つまり90年代以降に生じたさまざまな運動、たとえば少数派運動、たとえば入管の問題だっていまだに続いてはいるわけだし。で、なおかつ、今、これらの運動の担い手になっている人たちの中心部分は、もちろんね、いわゆる「入管解体」を掲げてきた運動っていうのもありますが、新しく「こんなことは許せない」っていうことでやっている人たちも多いし。そういう意味合いでは問題認識自体はあんまり変わってないんだけれども、やってる人たちのルーツの部分はかなり違うっていう。
 あと環境とかそのいわゆる連帯経済だとかっていうのはそれこそやっぱり、アシードジャパンとかの部分が大きいといや大きんですよね。ここがやっぱり一つ、いろんな活動家を生む源泉にはなってきた部分があるのかなと。これはこれでいろいろ問題もあるだろうけれども、いわゆる活動家の、今いろんなところで活動している人たちの一定部分はそこ出身だったりとかするので。それなりにはインパクトがあるものなのかなとは思いますけど。そういうのがどういうふうに生まれてきたのかっていうのは、またなかなかね。あとピースボートとかもそれなりに活動家を形成する上では意味があったと。そこの部分と、80年代後半ぐらいの運動とやってた人たちとは、それなりに関係性はあって。とりあえずうまく流れてはいることはいるっていう状況かなとは思うんですよね。

立岩:それもひと仕事。そうやって考えると、やることいっぱいあって困るんですけど。困んないっちゃあ、いいのか、いいことなのか。
 ちょうど2時間経ってしまいました。どうもありがとうございます。[02:00:00]

(以降雑談)


UP:20220923 REV:20220830
声の記録(インタビュー記録他)  ◇生を辿り途を探す――身体×社会アーカイブの構築  ◇病者障害者運動史研究 
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