1.報告集会のご報告
(1)期日報告
意見陳述書
令和4年3月1日
仙台高等裁判所第1民事部 御中
旧優生保護法仙台弁護団
2月22日、大阪高裁で、優生手術被害者らの主張を認めた判決が出されました。これまで、旧優生保護法をめぐる国賠訴訟が、全国9カ所の裁判所で行われていますが、判決を出した6つの地方裁判所全てが、国の責任を否定していました。
今回の準備書面(21)では、大阪高裁判決の概要と、大阪高裁判決と私たちの主張の対比・関係性について、特に重要なポイントに絞って主張しています。
第1 大阪高裁判決の概要
1 はじめに
大阪訴訟の原審は、旧優生保護法が憲法13条、憲法14条1項に違反するとしつつ、手術時から20年が経過し、提訴の時点で賠償請求できる権利は消滅しているとして、形式的に除斥期間を適用するのみで、国の責任を認めませんでした。
原審は、原告らが、司法アクセス障害や差別偏見により訴訟提起は困難であったと主張したのに対し、訴訟提起ができたか否かを問題にせず、形式的に除斥期間を適用しましたが、このような地裁の認定は健常者目線に片寄った判断です。これに対して大阪高裁は、優生手術被害者らの目線で被害の実態を見ることに努め、「救うべき被害だ」と判断し、国の責任を認めるに至りました。
では、具体的に、裁判所がどのような判断をしたのか見ていきます。
2 不法行為(権利侵害)の内容
(1) 旧優生保護法の違法性
大阪高裁は、旧優生保護法4条から13条について、法の目的は「特定の障害ないし疾患を有する者を一律に『不良』であると断定するものであり、それ自体非人道的かつ差別的であって、個人の尊重という日本国憲法の基本理念に照らし是認できない」としました。
そして、各規定について「立法目的の合理性を欠いている上、手段の合理性をも欠いており、特定の障害等を有する者に対して優生手術を受けることを強制するもので、子を産み育てるか否かについて意思決定をする自由及び意思に反して身体への侵襲を受けない自由を明らかに侵害するとともに、特定の障害等を有する者に対して合理的な根拠のない差別取り扱いをするものであるから、公共の福祉による制約として正当化できるものではなく、明らかに憲法13条、14条1項に反して違憲である」と判断しました。
(2) 旧優生保護法の立法行為の違憲性
その上で、大阪高裁は、国会議員が旧優生保護法を立法した行為は、国賠法上違法であると判断しました。
違法とした理由については、「立法の内容が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白であるにもかかわらず」立法したという点を挙げています。
(3) 控訴人らの被害及び損害
そして、大阪高裁は、立法行為による権利侵害の内容について、「身体的機能の侵襲」にとどまらない、すなわち、「優生保護法の下、一方的に『不良』との認定がなされたに等しく、非人道的かつ差別的な烙印を押されたともいうべき状態に置かれ、個人の尊厳が著しく損なわれた」、違法な侵害は優生保護法改正日の前日、平成8年9月25日まで継続した、と判断しました。
これは、後でもお話ししますが、権利侵害を継続的なものと判断したものです。
裁判所は、権利侵害の内容をこのように認定した上、優生手術被害者である控訴人1と控訴人2については、慰謝料1300万円が相当とし、控訴人2の配偶者である控訴人3には、慰謝料200万円が相当としました。
3 除斥期間
(1) 起算点
このように判断した上、大阪高裁は、本件では除斥期間の適用が問題となるとしました。
大阪高裁は、除斥期間の起算点について、権利侵害が平成8年9月25日には終わっているので、この日が起算点となるとし、控訴人ら全員の訴訟提起の時点では、起算点から20年が経過していたので、除斥期間の原則に従えば、除斥期間が適用されると考えたのです。
(2) 除斥期間の適用制限論
大阪高裁は、除斥期間の規定は例外を許容しないものではない、正義・公平の観点から例外的に適用制限が認められる場合があるとし、適用制限が認められるのは@被害者や被害者の相続人による権利行使を客観的に不能又は著しく困難とする事由があり、Aその事由が、加害者の当該違法行為そのものに起因している場合である、としました。
そして、控訴人らが訴えを提起できなかった状況を分析し、優生保護法の存在と優生保護法に基づく国の施策が、優生手術の対象となった障害ないし疾患につき、かねてからあった差別・偏見を正当化・固定化、助長し、これに起因して、控訴人らにおいて訴訟提起の前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境にあったと判断した上、権利行使を不能又は著しく困難とする事由がある場合に、「その事由が解消されてから6ケ月を経過するまでの間」除斥期間の適用を制限するとしました。
(3) あてはめ
控訴人らは、同種訴訟の提起を知ったこと(控訴人1は本件訴訟の第一審である仙台訴訟の提訴を受けて弁護士が優生手術に関する法律相談を実施しているとの情報を得たこと、控訴人2は優生手術による被害に関する訴訟が兵庫県で提起されたとの情報を得たこと)により、権利行使を不能又は著しく困難とする事由が解消されたが、解消から6ヶ月以内に訴訟提起したとして除斥期間の適用を制限しました。
4 平成30年の本件訴訟提起前には訴訟提起が一切なかった点への言及
さらに、大阪高裁は、優生手術が1万5000件以上も実施されてきたにもかかわらず平成30年より前に優生手術に係る国家賠償請求訴訟の提起が一切なかったことは、旧優生保護法及びこれに基づく優生手術が、優生手術被害者を取り巻く社会・心理、司法アクセスにどのような影響を与えてきたか物語ると判断しました。
これは、大阪高裁の、膨大な被害者の数に比べて平成30年まで訴訟提起がなかったという事実は、優生手術被害者が権利行使が著しく困難だった事実を推認させる、との考えを明らかにしたものと言えます。
第2 私たちの主張と大阪高裁判決の対比・関係性
1 はじめに
以上が概要になりますが、私たちの主張との関係で重要な点を2点説明します。
2 継続的不法行為
(1) 私たちの主張
私たちは、控訴人らは、優生手術の実施によって身体に侵襲を受けたことや子を産み育てる意思決定の自由を奪われたことに止まらず、「人としての尊厳」を著しく毀損された、これが本件被害の本質的内容である、この加害行為は平成8年法改正まで継続していたことから、平成8年法改正前の@旧優生保護法の制定及び同法の改廃の懈怠、A優生政策の推進、B優生手術の実施という一連の行為について、継続的不法行為が成立すると主張してきました。
(2) 対比・関係性
大阪高裁は、本件不法行為による権利侵害は、身体的機能に対する侵襲に限定されるものではなく、個人の尊厳に対する継続的な侵害であり、その侵害行為が平成8年法改正前まで続いていたと認定しているのであり、私たちが主張するのと同趣旨の継続的不法行為の成立を肯定しています。
3 出口論
(1) 私たちの主張
私たちは、不法行為時から20年が経過していたとしても、権利行使に障害がある場合は、権利行使できるようになってから6ケ月間を経過するまでの間は除斥期間の効果発生は猶予される、という適用制限を主張し、これを「出口論」と呼んでいます。出口論は、民法の時効停止規定の法意に照らして除斥期間の適用制限を認めた最高裁平成10年及び平成21年判決の判断に従ったものです。そして、私たちの主張では、6ケ月の猶予期間の具体的な開始時期は「最高裁による最終的かつ公権的判断(違憲判決)」であると主張しています。
(2) 対比・関係性
大阪高裁の判決は、「時効の完成を延期する時効停止の規定(民法158〜160条)の法意に照らし」、訴訟提起が困難な状況が解消されてから6か月間を経過するまでの間、除斥期間の適用を制限する、控訴人らは6か月経過する前に訴訟提起しているので、権利消滅の効果は生じない、とするものであり、まさに最高裁判決に従ったもので、私たちが主張する「出口論」とも同じ考え方です。
大阪高裁は、20年以上声をあげられなかった控訴人らをなんとか救済したいと考えて、私たちが「出口論」と呼んでいる理論を採用して、救済を図ったのです。
もっとも、大阪高裁は、6ヶ月の起算点を、優生手術に係る国家賠償請求訴訟の提起の前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境にあったことから、そのような困難が解消された時点としています。これは、知的障害者、聴覚障害者という控訴人らの属性に照らし、個別判断したものと考えられます。
第3 最後に
大阪高裁は、健常者目線で被害実態を眺めるのではなく、優生手術被害者の目線に立つ努力をし、優生手術被害者たる控訴人らを救うべく、「出口論」を採用しました。これは、裁判所が、当事者の主張立証を踏まえて、被害救済のためにあるべき法解釈論を積極的に構築したものと評価することができます。
では、大阪高裁判決が出たからといって、優生手術被害者は救われたのでしょうか。大阪高裁判決が出てもなお、優生手術被害者らは苦しみから解放されていません。新たな心無い言葉に傷つけられたり、「大阪で勝訴判決が出てよかった。でも、もし自分たちの訴訟が負けてしまったら、どうなってしまうのだろうか。その先、どんな苦しい生活が待っているのだろうか。」と不安に押しつぶされそうになっています。
このような状況を打開するには、今後判決を言い渡す裁判所が、大阪高裁が示したような司法判断を示し続けていくことが是非とも必要です。
もし、人権救済の砦となる裁判所が、国の責任を認めないようであれば、今も優生手術被害者らを苦しめている差別や偏見を正当化・固定化・助長すると言っても過言ではありません。
裁判所には、矜持を持って、優生手術被害者の救済となる判断を下すよう求めます。
以 上
(2)当事者コメント(2月27日付)
飯塚淳子さん:
「大阪では良い判決だったので、
次に続く北さんのもいい判決であってほしいと
願っています
国が上告しないように願っています。」
――――――――――――――――――――――――――――――