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第15回:東京控訴審第3回期日&報告集会のご報告

山本 勝美 20210930

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 (第15回:東京10/4)

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last update:20211016


■目次



第1節:はじめに

早目に裁判所前にきてみたが、昨日より一段暑さの強い日差しを浴びて、所内に入ったまま、時間間際まで出そびれていた。
2時15分に仲間と入庁行動を行う、入り口で抽選券を受け取る。
が、全員入廷。3時開廷。



第2節:控訴審第3回期日のご報告




意見陳述要旨いけんちんじゅつようし

2021年(2021ねん)10月(10がつ)4日(4か)

旧優生(きゅうゆうせい)保護法(ほごほう)東京(とうきょう)弁護団(べんごだん)

1 はじめに

 今日(きょう)裁判(さいばん)では、前回(ぜんかい)裁判(さいばん)(わたし)たちが主張(しゅちょう)したことについて、2人(ふたり)学者(がくしゃ)意見書(いけんしょ)をふまえて、主張(しゅちょう)補充(ほじゅう)をし、また、(くに)からの反論(はんろん)がありましたので、もう一度(いちど)(わたし)たちの主張(しゅちょう)を伝(つた)え、反論(はんろん)しています。
 これまでもお(つた)えしてきたように、(わたし)たちは、(きた)さんに(たい)して優生(ゆうせい)手術(しゅじゅつ)(おこなって)っても()いとしていた法律(ほうりつ)、その法律(ほうりつ)によって作り出された(つくりだ)障害者(しょうがいしゃ)(たい)する差別(さべつ)、そしてその差別(さべつ)放置(ほうち)してきた国会(こっかい)議員(ぎいん)大臣(だいじん)たちが、憲法(けんぽう)のもとで責任(せきにん)をとることを(もと)めています。

2 今回(こんかい)(きた)さんが(おか)された人権(じんけん)

 早稲田(わせだ)大学(だいがく)名誉(めいよ)教授(きょうじゅ)戸波(となみ)江二(こうじ)さんが作成(さくせい)した意見書(いけんしょ)には、おおむね、(つぎ)のことが記載(きさい)されています。
  日本(にほん)(こく)憲法(けんぽう)では、人間(にんげん)にはそれ自体(じたい)としてかけがえのない価値(かち)があり、尊厳(そんげん)をもった存在(そんざい)として(みと)められるという、言い換えれば(いいかえれば)人間(にんげん)尊厳(そんげん)(まも)るべきということも(ふく)まれていると(かんが)えられています。
 そして、優生(ゆうせい)保護法(ほごほう)本件(ほんけん)手術(しゅじゅつ)は、特定(とくてい)人々(ひとびと)を「不良(ふりょう)人々(ひとびと)」と()めつけ、それらの人々(ひとびと)(おと)った(ひと)として優生(ゆうせい)手術(しゅじゅつ)強制(きょうせい)するものであり、日本(にほん)(こく)憲法(けんぽう)保護(ほご)する「人間(にんげん)尊厳(そんげん)」の原理(げんり)正面(しょうめん)から(はん)している、としています。
 このような優生(ゆうせい)保護法(ほごほう)(および)本件(ほんけん)手術(しゅじゅつ)は、人間(にんげん)尊厳(そんげん)原理(げんり)人格権(じんかくけん)(きず)つけ、障害者(しょうがいしゃ)差別(さべつ)をするものであり、裁判所(さいばんしょ)においては、こうした大切(たいせつ)人権(じんけん)侵害(しんがい)本質(ほんしつ)から()(そむ)けることなく、回復(かいふく)()けた裁判所(さいばんしょ)使命(しめい)()たされなければならないとしています。
 以上(いじょう)をふまえ、今回(こんかい)(ひと)つのポイント(ぽいんと)となっている20年(20ねん)という時間(じかん)制限(せいげん)についても、しっかりと検討(けんとう)する必要(ひつよう)があります。
 
3 20年(20ねん)という時間(じかん)制限(せいげん)は、本件(ほんけん)ではあてはまらないこと
 
 立命(りつめい)(かん)大学(だいがく)名誉(めいよ)教授(きょうじゅ)吉村(よしむら)良一(りょういち)さんの作成(さくせい)した意見書(いけんしょ)は、まさにこの20(ねん)時間(じかん)制限(せいげん)にかかわるものです。
 この意見書(いけんしょ)によれば、被害者(ひがいしゃ)保護(ほご)すべき権利(けんり)や、憲法(けんぽう)違反(いはん)による被害(ひがい)回復(かいふく)しなければならない要素(ようそ)がある事案(じあん)では、時間(じかん)制限(せいげん)について(くわしく)しく検討(けんとう)する必要(ひつよう)があるとしたうえで、本件(ほんけん)では時間(じかん)制限(せいげん)について(くわしく)しく検討(けんとう)する必要(ひつよう)があるとしています。
 この意見書(いけんしょ)をふまえて、わたしたちは、本件(ほんけん)のような憲法(けんぽう)違反(いはん)により、大切(たいせつ)人権(じんけん)根本(こんぽん)から(おか)すケース(けーす)においては、時間(じかん)制限(せいげん)()まりをそのまま()てはめることが正義(せいぎ)公平(こうへい)(はん)する結果(けっか)となるため、この20(ねん)という時間(じかん)制限(せいげん)があてはまらないと主張(しゅちょう)しています。
 なお、(くに)自身(じしん)も、20年(20ねん)という時間(じかん)制限(せいげん)が、事案(じあん)によっては、裁判所(さいばんしょ)判断(はんだん)であてはまらず、優生(ゆうせい)手術(しゅじゅつ)被害(ひがい)回復(かいふく)を求める(もとめる)ことについて時間(じかん)制限(せいげん)があてはまるかどうかは、裁判所(さいばんしょ)判断(はんだん)しだいとして、裁判所(さいばんしょ)責任(せきにん)押し付けよ(おしつけよ)うとしています。
 
4 国際的(こくさいてき)人権(じんけん)条約(じょうやく)によっても時間(じかん)制限(せいげん)(みと)めるべきでないことについて

 (きた)さんに(たい)して時間(じかん)制限(せいげん)(みと)めることは、日本(にほん)国際(こくさい)社会(しゃかい)(たい)して(まも)ることを約束(やくそく)している条約(じょうやく)にも(はん)しています。(きた)さんへの優生(ゆうせい)手術(しゅじゅつ)は、拷問(ごうもん)(とう)禁止(きんし)条約(じょうやく)の「拷問(ごうもん)」に()たるほど、(きた)さんの(ひと)としての大切(たいせつ)なものを(うば)っています。そして、このこと自体(じたい)(くに)(あらそ)っていません。(くに)は、拷問(ごうもん)(たい)する補償(ほしょう)(もと)めるために、時間(じかん)制限(せいげん)をつけるべきではないという考え方(かんがえかた)は、国際(こくさい)社会(しゃかい)でまだ一般的(いっぱんてき)(みと)められていないと反論(はんろん)しています。しかし、条約(じょうやく)解釈(かいしゃく)をする専門家(せんもんか)やガイドライン(がいどらいん)が、拷問(ごうもん)について時間(じかん)制限(せいげん)をつけてはいけないと()っていることは、(すで)国際的(こくさいてき)ルール(るーる)として、(くに)尊重(そんちょう)しなければなりません。
 そして拷問(ごうもん)である以上(いじょう)、その(くる)しみは長期間(ちょうきかん)(つづ)くのですから、たとえ優生(ゆうせい)手術(しゅじゅつ)条約(じょうやく)ができる(まえ)出来事(できごと)だとしても、(くに)責任(せきにん)()義務(ぎむ)があります。このことは、世界(せかい)各地(かくち)裁判所(さいばんしょ)でも(みと)められています。
 日本(にほん)裁判所(さいばんしょ)は、これまでも重要(じゅうよう)判断(はんだん)をする(とき)に、条約(じょうやく)()めていること、日本(にっぽん)政府(せいふ)(たい)して()われたことを参照(さんしょう)してきました。今回(こんかい)も、国際(こくさい)人権(じんけん)関する(かんする)専門(せんもん)機関(きかん)は、優生(ゆうせい)手術(しゅじゅつ)人権(じんけん)条約(じょうやく)違反(いはん)すること、その賠償(ばいしょう)(たい)して時間(じかん)制限(せいげん)をするべきではないことをはっきりと(みと)めているのに、(くに)がこれを無視(むし)することは国際(こくさい)社会(しゃかい)(たい)しても説明(せつめい)がつきません。

5 被害者(ひがいしゃ)への十分(じゅうぶん)補償(ほしょう)をする法律(ほうりつ)()かせないこと
 (わたし)たちは、(くに)(きた)さんに(たい)してきちんと補償(ほしょう)をしないことは違法(いほう)であることも確認(かくにん)して()しいと(もと)めています。(くに)は、仙台(せんだい)地裁(ちさい)判決後(はんけつご)判決(はんけつ)では、被害者(ひがいしゃ)補償(ほしょう)をする法律(ほうりつ)をつくる必要性(ひつようせい)(あき)らかではないと主張(しゅちょう)しています。しかし、東京(とうきょう)大阪(おおさか)でも人権(じんけん)侵害(しんがい)(みと)められているうえ、(ちょっ)(きん)神戸(こうべ)判決(はんけつ)では、結論(けつろん)(つづ)き、以下(いか)のように()べられています。「なお、事案(じあん)性質(せいしつ)(かんが)付言(ふげん)するに、旧優生(きゅうゆうせい)保護法(ほごほう)優生(ゆうせい)条項(じょうこう)日本(にほん)(こく)憲法(けんぽう)違反(いはん)することが明白(めいはく)であるにもかかわらず、同条項(どうじょうこう)半世紀(はんせいき)もの(なが)きにわたり存続(そんぞく)し、個人(こじん)尊厳(そんげん)(いちじる)しく侵害(しんがい)されてきた事実(じじつ)真摯(しんし)受け止め(うけとめ)旧優生(きゅうゆうせい)保護法(ほごほう)存在(そんざい)背景(はいけい)として、特定(とくてい)疾病(しっぺい)障害(しょうがい)有する(ゆうする)ことを理由(りゆう)心身(しんしん)多大(ただい)苦痛(くつう)()けた多数(たすう)被害者(ひがいしゃ)必要(ひつよう)かつ適切(てきせつ)措置(そち)がとられ,現在(げんざい)においても同法(どうほう)影響(えいきょう)()けて根深(ねぶか)存在(そんざい)する障害者(しょうがいしゃ)への偏見(へんけん)差別(さべつ)解消(かいしょう)するために積極的(せっきょくてき)施策(しさく)(こう)じられることを期待(きたい)したい。」。このように、現状(げんじょう)被害者(ひがいしゃ)(たい)する措置(そち)施策(しさく)不十分(ふじゅうぶん)であることが判決(はんけつ)でもの()べられており、やはり被害者(ひがいしゃ)への十分(じゅうぶん)補償(ほしょう)をする法律(ほうりつ)がないことは、違法(いほう)だと()わざるを()ません。
 
6 最後(さいご)
 これまで、裁判所(さいばんしょ)は、法律(ほうりつ)をそのまま()てはめると回復(かいふく)されるべき被害(ひがい)回復(かいふく)されない場合(ばあい)に、(なん)とか論理(ろんり)構成(こうせい)して、被害者(ひがいしゃ)回復(かいふく)する判決(はんけつ)出して(だして)きました。期間(きかん)制限(せいげん)については、平成(へいせい)10(ねん)最高裁(さいこうさい)判決(はんけつ)でしたり、また本年(ほんねん)(がつ)26(にち)B型(Bがた)肝炎(かんえん)訴訟(そしょう)最高裁(さいこうさい)判決(はんけつ)被害者(ひがいしゃ)救済(きゅうさい)(はば)(ひろ)げました。一昨年(いっさくねん)には、ハンセン病(はんせんびょう)患者(かんじゃ)家族(かぞく)までも救済(きゅうさい)する判決(はんけつ)もありました。
 本件(ほんけん)も、国策(こくさく)による被害(ひがい)で、(おお)くの被害者(ひがいしゃ)がおり、東京(とうきょう)地裁(ちさい)判決(はんけつ)人生(じんせい)被害(ひがい)評価(ひょうか)するほど重大(じゅうだい)被害(ひがい)発生(はっせい)している、回復(かいふく)すべき被害(ひがい)がある事案(じあん)です。
 裁判所(さいばんしょ)におかれましては、このことをふまえて、ご検討(けんとう)いただきたく(ぞん)じます。

以上(いじょう)


初めの30分審議の後、裁判官一同がいったん退場した後、裁判長が、原告団長と国側弁護士と30分程協議。
その後、再開廷、「次回、再会を持つ。北原告に尋問する.」
10月29日、午後2時再会する、と宣言。


第3節:報告集会のご報告

北さんのアピール文

 こんにちは、優生被害者の北三郎です。
 14歳のとき、何の説明もないまま手術を受けました。この裁判を起こすまで、親を恨んできました。しかし、自分が受けた手術は国がした優生手術だったことを知り驚きました。今も妻の声が聞こえてきます。「子どもがいなくて寂しいの」。この言葉がとてもとても辛かった。子どもが欲しくてもできない体にされてどれほど苦しんできたか。
 この苦しみ、国に謝ってもらいたい。国が勝手にした不妊手術。私の人生を返して欲しい。
 6月30日に判決がありました。私の願いはまったく届きませんでした。判決には納得できません。
 20年たったら権利が消えてしまうというのは納得できません。それに判決では、優生保護法が平成8年の母体保護法に改正になった時には裁判ができたと言っていました。仙台の裁判の報道まで、まさか国が手術をしたとは思っていませんでした。国は私に何も知らせず、謝ってもくれませんでした私の住所は分かったはずです。謝ろうと思えばいつでも謝れた筈です
 手術のことを知らせることぐらいはできた筈です。国から何も知らせがないのに裁判なんかできるはずがありません。私はずっと親が手術を受けさせたんだと思っていたんです。平成8年には裁判ができたはずと言われた事は納得ができません。
 裁判所には同じ判決はしてほしくありません。20年たったから請求できないと言われると、裁判所は血も涙もないのかと思ってしまいます。
 妻のためにも被害者の人たちにも、私はこの不当な判決に泣き寝入りできません。国に謝ってもらうまで裁判を続けます。命のある限り闘っていきます。全国にいる2万5000人もの方が人生被害を受けました。そのうち、誰一人として,満足のいく被害回復をしてもらっていません。
 ようやっと全国で25名、裁判に名乗りでてくれました。私は、もっと名乗りでてほしいという気持ちでテレビや新聞に顔を出しました。優生被害者がどれほど辛く悲しい日々を送ってきたか。一人ひとり苦しみが違うかもしれないけれど、国にこの苦しみを訴えていきたい。
私たちは高齢者ばかりです。原告の中では裁判中に亡くなられた方もいらっしゃいます。一日も早く解決をしたいと思っております。
 裁判所には、被害としっかりと向き合い、公平に裁判して欲しいです。

――――――――――――――――――――――――――――――

関哉東京弁護団長

新里全国弁護団共同代表

(Zoom集会を並行)



第4節:終わりに

次回は10月29日午後2時開廷。




*作成:安田 智博
UP: 20211012 REV: 1016
山本 勝美  ◇優生学・優生思想  ◇不妊手術/断種  ◇優生:2020(日本)  ◇病者障害者運動史研究  ◇全文掲載

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