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第13回:東京控訴審第2回――2021年5月21日付 東京高裁にて

山本 勝美 20210605

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last update:20210609


■目次



<1>控訴審第2回期日を取り組む

 去る5月21日、東京控訴審第2回期日は、気象記録史始まって以来の早期梅雨前線の曇り空の下、東京高裁前にて14時15分、原告・弁護団・市民の入庁行動デモンストレーションをもって開始されました。
 その後、市民への傍聴券配布、抽選。この日は高校生一団の姿が注目されます。
 15時に裁判期日が開始されました。
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続いて旧優生保護法東京弁護団の意見陳述が開始されました。同時に会場にはパワーポイントによる公開が続く。
(※以下はPDFファイルで掲載しております。



意見陳述要旨いけんちんじゅつようし
2021ねんがつ21にち

旧優生保護法東京弁護団きゅうゆうせいほごほうとうきょうべんごだん

1 はじめに
 今日きょう裁判さいばんでは、前回ぜんかい裁判さいばんわたしたちが主張しゅちょうしたことについて、くにからの反論はんろんがありましたので、もう一度いちどわたしたちの主張しゅちょうつたえ、反論はんろんしています。
 これまでもおつたえしてきたように、わたしたちは、きたさんにたいして優生ゆうせい手術しゅじゅつおこなってもいとしていた法律ほうりつ、その法律ほうりつによってつくされた障害者しょうがいしゃたいする差別さべつ、そしてその差別さべつ放置ほうちしてきた国会議員こっかいぎいん大臣だいじんたちが、憲法けんぽうのもとで責任せきにんをとることをもとめています。

2 わたしたちがくにたいしてもとめていること
(1)違法確認いほうかくにんうったえについて
 まず、前回ぜんかい裁判さいばんで、わたしたちは、くにきたさんにたいしてきちんと補償ほしょうをしないことは違法いほうであることも確認かくにんしてしいともとめています。くには、このような主張しゅちょうみとめられないとしています。しかし、わたしたちは、補償ほしょうをしないことが違法いほうであるということを確認かくにんすることは、これまでわたしたちがもとめてきたことと共通きょうつうする内容ないようおおく、そして、きたさんの被害ひがい回復かいふくのために裁判所さいばんしょ判断はんだんしてもらうことが必要ひつようだと反論はんろんしています。
(2)大臣だいじん国会議員こっかいぎいん不作為ふさくいによる損害そんがいについて
 つぎに、大臣だいじん国会議員こっかいぎいん不作為ふさくいによってきたさんがけた損害そんがい、つまり、きたさんが優生手術ゆうせいしゅじゅつけさせられる原因げんいんとなった優生政策ゆうせいせいさくたいして必要ひつようなことをしなかったことを問題もんだいとしています。しかしくには、今回こんかい裁判さいばんでは、優生手術ゆうせいしゅじゅつおこなったことが問題もんだいとされており、きたさんの損害そんがい議論ぎろんはそのことを中心ちゅうしんかんがえれば十分じゅうぶんであると主張しゅちょうしています。
 しかし、今回こんかい裁判さいばん問題もんだいとすべきなのは、優生手術ゆうせいしゅじゅつだけではありません。優生保護法ゆうせいほごほうつくったこと、手術しゅじゅつをしたこと、その被害回復ひがいかいふくのためになにもしてこなかったこと。きたさんの被害ひがいについては、優生手術ゆうせいしゅじゅつときだけ、つまり「てん」としてかんがえるのではなく、「せん」としてかんがえる必要ひつようがあります。なぜなら、手術しゅじゅつによってきたさんがけたのは「人生被害じんせいひがい」、つまり、人生じんせいなかでずっとつづいているいたみ、くるしみだからです。
(3)大臣だいじん国会議員こっかいぎいん偏見へんけん差別さべつをなくす義務ぎむ被害ひがい回復かいふくについて
 また、わたしたちは、くに優生政策ゆうせいせいさくつくし、きたさんをはじめ、おおくのひとたちにくるしみをあたえてきたからこそ、そのような偏見へんけん差別さべつをなくすために必要ひつようなことをすべきであったのにしなかったことが違法いほうであると主張しゅちょうしています。しかし、くには、金銭きんせんでの賠償ばいしょう原則げんそくであること、わたしたちが主張しゅちょうするような義務ぎむ根拠こんきょはないなどと主張しゅちょうしています。
 これにたいしてわたしたちは、法律ほうりつは、金銭きんせんではないかたち賠償ばいしょうしてはいけないとはいていないこと、今回こんかいは、現実げんじつ沿った結論けつろんすために「条理じょうり」というかんがえを使つかうことを説明せつめいしています。
 きたさんがそうだったように、優生手術ゆうせいしゅじゅつは、そもそも本人ほんにんらせずにおこなわれ、本人ほんにん手術しゅじゅつのことをるまでには時間じかんがかかることがおおいです。だから、わたしたちは、くに手術しゅじゅつけさせられたひとたいして積極的せっきょくてき賠償ばいしょうするために特別とくべつ法律ほうりつつくり、しっかり謝罪しゃざいしたうえで、優生政策ゆうせいせいさくひろめてきた障害者しょうがいしゃたいする差別さべつをなくすための取組とりくみをするべきであったと主張しゅちょうしています。しかし、くになにもしてきませんでした。わたしたちは、このような行為全体こういぜんたい違法いほうであると強調きょうちょうしています。
 そして、偏見へんけん差別さべつをなくす義務ぎむがあるというわたしたちの主張しゅちょうたいして、くには、なにをすべきであったのか、その義務ぎむ内容ないようがはっきりしないといった反論はんろんをしています。
 しかし、それぞれの大臣だいじん国会議員こっかいぎいんは、優生手術ゆうせいしゅじゅつ被害者ひがいしゃたいして謝罪しゃざいをすること、障害者しょうがいしゃなどへの偏見へんけん差別さべつゆるされないものであることを人々ひとびとって、偏見へんけん差別さべつがなくなるように、人権じんけんひろめるための活動かつどうおこなうこと、偏見へんけん差別さべつおこなわれないように教育きょういくつうじてひろめることなど、優生政策ゆうせいせいさく影響えいきょうをなくすためにすべきことはあきらかでした。
 自分じぶんたちがつくった法律ほうりつによって、そのひときていることすら否定ひていするひど差別さべつおこなわれ、それはいまなおつづいているのに、その状況じょうきょうえるためになにをしたらいかからなかったというのは、あまりにも無責任むせきにんではないでしょうか。ハンセンびょうかんする裁判さいばんでも、くには、ハンセンびょう患者かんじゃへの偏見へんけん差別さべつをなくす義務ぎむを、本人ほんにんだけではなくその家族かぞくにもうことがみとめられています。
(4)20ねんという時間じかん制限せいげんぎてしまっていることについて
 くにはさらに、これまでとおなじように、きたさんが裁判さいばん請求せいきゅうできる期限きげんぎてしまっていることを主張しゅちょうしています。
 しかし、今回こんかいのように、くに政策せいさくによってひど人権侵害じんけんしんがいをしていた場合ばあいに、くに主張しゅちょうである「法律関係ほうりつかんけいはや安定あんていさせること」が、きたさんのうったえをみとめない理由りゆうになるのでしょうか。きたさんは、手術しゅじゅつけたあとも、どもをもてないということ、そしてそれをまわりのひとけることもなかなかできないことによるくるしみをずっとかんじていました。きたさんが、このようなかなしみやいたみの原因げんいんくにだったことをったのは、仙台せんだい裁判さいばんこしましたという報道ほうどうれたときでした。実際じっさいに、仙台せんだい裁判さいばんくにうったえるはじめてのれいだったのですから、きたさんがそれまでらなかったのも当然とうぜんです。このとき、ようやくきたさんは自分じぶん権利けんりと、それをどのように使つかうことができるのかることができたのです。くに自分じぶん政策せいさくとしてひど人権侵害じんけんしんがいである優生手術ゆうせいしゅじゅつおこなったばかりでなく、被害回復ひがいかいふくのためにとくなにもしませんでした。きたさんにはなにもなく、仙台せんだい裁判さいばんったあとは、すぐにこえげました。
 このような状況じょうきょうなのですから、わたしたちは、今回こんかいきたさんにたいして20ねんという時間じかん制限せいげんみとめるべきではない、信義しんぎ誠実せいじつ正義せいぎ公平こうへいという理由りゆうから間違まちがっていると主張しゅちょうしています。そもそも、国自身くにじしんおこなってきた人権侵害じんけんしんがいについて、自分じぶんつくった法律ほうりつ理由りゆうとして責任せきにんをとらなくてもいいという主張しゅちょうは、国民こくみん権利けんりまもるというくに義務ぎむを、自分じぶん放棄ほうきするものです。
(5)国際的こくさいてき人権じんけん条約じょうやくによっても時間じかん制限せいげんみとめるべきでないことについて
 きたさんにたいして時間じかん制限せいげんみとめることは、日本にほん国際社会こくさいしゃかいたいしてまもることを約束やくそくしている条約じょうやくにもはんしています。きたさんへの優生手術ゆうせいしゅじゅつは、拷問等禁止条約ごうもんとうきんしじょうやくの「拷問ごうもん」にたるほど、きたさんのひととしての大切たいせつなものをうばっています。そして、このこと自体じたいくにあらそっていません。くには、拷問ごうもんたいする補償ほしょうもとめるために、時間じかん制限せいげんをつけるべきではないというかんがかたは、国際社会こくさいしゃかいでまだ一般的いっぱんてきみとめられていないと反論はんろんしています。しかし、条約じょうやく解釈かいしゃくをする専門家せんもんかやガイドラインが、拷問ごうもんについて時間じかん制限せいげんをつけてはいけないと言っていることは、すで国際的こくさいてきなルールであり、くに尊重そんちょうしなければなりません。
 さらに、拷問ごうもんである以上いじょう、そのくるしみは長期間ちょうきかんつづくのですから、たとえ優生手術ゆうせいしゅじゅつ条約じょうやくができるまえ出来事できごとだとしても、くに賠償ばいしょう謝罪しゃざいなどの救済きゅうさいする義務ぎむがあります。この義務ぎむは、時間的じかんてき制約せいやくおよばないというのが国際的こくさいてき法律ほうりつ理論りろんで、このことは、世界各地せかいかくち裁判所さいばんしょでもみとめられています。
 日本にほん裁判所さいばんしょは、これまでも重要じゅうよう判断はんだんをするときに、条約じょうやくめていること、日本政府にほんせいふたいしてわれたことを参照さんしょうしてきました。今回こんかいも、国際人権こくさいじんけんかんする専門機関せんもんきかんは、優生手術ゆうせいしゅじゅつ人権条約じんけんじょうやく違反いはんすること、その賠償ばいしょうたいして時間じかん制限せいげんをするべきではないことをはっきりとみとめているのに、くにがこれを無視むしすることは国際社会こくさいしゃかいたいしても説明せつめいがつきません。
(6)憲法けんぽう17じょう理由りゆうとして、特別とくべつ法律ほうりつによる被害回復ひがいかいふくみとめられることについて
 くには、被害回復ひがいかいふくのための特別とくべつ法律ほうりつ必要ひつようなかったと主張しゅちょうしています。しかし、わたしたちは、国家こっか人権侵害じんけんしんがいをしたときの賠償ばいしょうについてめた憲法けんぽう17じょうでも、今回こんかいのような事案じあんでは、きたさんのように被害ひがいけたひとたちのためにあたらしい法律ほうりつつくることはできると主張しゅちょうしています。

3 裁判所さいばんしょつたえたいこと
 裁判所さいばんしょたいしては、つぎの3てんとく強調きょうちょうしてつたえたいとおもいます。
 まず、仙台せんだいでも、大阪おおさかでも、そして札幌さっぽろでも、優生保護法ゆうせいほごほう優生手術ゆうせいしゅじゅつは、わたしたちが自分じぶんらしくきるためにとても重要じゅうよう権利けんり侵害しんがいし、憲法けんぽう違反いはんするとみとめる判決はんけつていること、そして、くに優生手術ゆうせいしゅじゅつはじめめてから一時金支給法いちじきんしきゅうほうをつくるまで、71年間ねんかんっていること、最後さいごに、きたさんが自分じぶんけた被害ひがい意味いみがついたのは、仙台せんだい裁判さいばんこされたときである、ということです。今回こんかいきたさんのうったえについてかんがえるときには、この3つのてんかならわすれずにかんがえてもらうよう裁判所さいばんしょたいしてあらためてもとめます。




<2>(16時〜16時50分)期日報告集会

同時に全国へオンラインにて報告される。
とくに、この日、衆議院第一議員会館第二会議室をお借りし、Zoomによる集会が開催されました。
内容は先ず、北三郎原告(仮名)の以下のようなアピールがなされました。


原告・北三郎さん(仮名)のアピール

こんにちは、優生被害者の北三郎です。14才の時、何の説明もないまま、手術を受けました。
この裁判を起こすまで、親を今まで恨んできました。
姉さんは、あなたを恨んで手術したのじゃないと私に説得してくれました。半信半疑でした。
自分が受けた手術は国がした優生手術だったことを知り、驚きました。
多重の苦しみ悲しみこみあげてしまい、なみだが出てどうにもならなかった。
なぜ国が私の体に勝手にメスを入れなければならないのか、国に怒りがたちます。
幸福追求権に違反する行為です。国に目を向けるようになりました。
今も妻の声が聞こえてきます。子どもがいなくて寂しいの、この言葉がとても辛かった。
子どもが欲しくてもできない体にされて、どれほど苦しんできたか、この苦しみ、
国に謝ってもらいたい、国が勝手にした不妊手術、私の人生を返して欲しい、
昨年六月三十日に判決がありました。私の願いはまったく届きませんでした。判決には納得できません。

二十年たったら権利が消えてしまうというのは納得できません。
それに判決では優生保護法が平成八年の母体保護法に改正になったときには裁判ができたと言っていました。
仙台の裁判の報道まで、まさか国が手術をしたとは思っていませんでした。
国は私に何も知らせず、謝ってもくれませんでした。
私の住所は分かったはずです。謝ろうと思えば、いつでも謝れたはずです。
手術のことを知らせることぐらいはできたはずです。
国から何も知らせがないのに裁判なんかできるはずがありません。
私はずっと親が手術を受けさせたんだと思っていたんです。
平成八年には裁判ができたはずと言われたことは納得ができません。

裁判所には同じ判決はしてほしくありません。

二十年たったから請求できないと言われると、裁判所は血も涙もないのかと思ってしまいます。
妻のためにも被害者の人達にも私はこの不当な判決に泣き寝入りできません。国に謝ってもらうまで裁判を続けます。

命のある限り、闘っていきます。
全国にいる二万五千人もの方が、人生被害をう受けました。
そのうち誰一人として満足のいく被害回復をしてもらっていません。
ようやっと全国で二十五名裁判に名乗り出てくれました。
私はもっと名乗り出てほしいという気持ちでテレビや新聞に顔を出しました。
優生被害者がどれほど辛く悲しい日々を送ってきたか、一人ひとり苦しみが違うかも知れないけれど、
国にこの苦しみを訴えていきたい。

私たちは高齢者ばかりです。原告の中では裁判中に亡くなられた方もいらっしゃいます。
一日も早く解決をして親の墓の前に立たせて下さい。
裁判所には被害者としっかりと向き合い公平に裁判をしてほしいです。
――――――――――――――――――――――――――――――
次に、全国優生保護法被害弁護団新里共同代表のご発言、再度、優生保護法東京弁護団による意見陳述がなされました。





<3>終わりに

東京の第3回期日は 10月4日(月)15:00 からと決定されました。



*作成:安田 智博
UP: 20210609 REV:
山本 勝美  ◇優生学・優生思想  ◇不妊手術/断種  ◇優生:2020(日本)  ◇病者障害者運動史研究  ◇全文掲載

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