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第12回:仙台控訴審第4回――2021年5月11日付 仙台高裁にて

山本 勝美 20210530

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■目次



<1>控訴審第4回公判を取り組む

 去る5月11日、仙台控訴審第4回公判は、北国の仙台も春らしい季節を迎えて、原告・弁護団・市民一同の結束によって取り組まれました。
 今回は旧優生保護法仙台弁護団による力のこもった意見陳述が展開されました。その論旨は以下の通りです。




<2>本日の期日報告と今後の方針

(※以下はPDFファイルで掲載されております。文字情報を希望する方やスマートフォンで閲覧される方はコチラをクリックしてください。)



意見陳述書
令和3年5月31日

旧優生保護法仙台弁護団

第1 原告らの準備書面17では、民法724条後段の解釈について、新たな主張をしています。これは、最高裁の違憲判決があるまでは除斥期間の効果が発生しないというものです。
 民法724条後段は、不法行為の時から20年が経ったときは、損害賠償請求権が消滅すると規定されています。
 ご存じの通り、原告らの手術の時からすでに20年が経過していますので、民法724条後段によって原告らの損害賠償請求権が消滅していると国は主張しています。
 これに対して、私たちは、様々な反論を重ねてきました。
私たちのこれまでの主張を大きく2つに分類すると、民法724条後段の適用を一切認めるべきではない、とするか、除斥期間のカウントが始まる時をできる限り遅らせるべきであり、本件では平成29年とすべき等という主張になります。
 そして今回、私たちが主張するのは、不法行為の時から仮に20年が経過しているとしても、最高裁による違憲判決が出されてから6か月経過する以前に訴訟提起していれば権利消滅という除斥期間の効果が発生しない、というものであり、今回提出した、山野目章夫教授の意見書に基づくものです。
 今日は、これについて、どうしてこのような主張をするに至ったのかということと主張の概要をご説明します。
 
第2 新たな主張の背景
 私たちはこれまでに除斥期間について様々な主張を重ねてきましたが、それだけでは足りないと思ったのは、令和3(2021)年1月15日札幌判決での裁判長の言葉がきっかけでした。
 札幌地裁判決では「民法724条後段…のような法律上の規定の適用を、信義則(民法1条2項)や権利濫用(同条3項)といった法令上の一般則ですらない、正義・公平の理念という極めて抽象的な概念のみに基づいて排除するというのは、原告の受けた被害の重大さを考慮に入れても、なお躊躇があるものと言わざるを得ない」(前掲・札幌地裁判決30頁参照、下線は控訴人ら代理人)と判断しつつ、札幌地裁の広瀬孝裁判長は判決理由の読み上げの最後で「(優生保護法被害者の)これまで苦労されてきた人生を肌身に感じ、それ故(請求を)認容できるところはないか直前まで議論に議論を重ねた。しかし、法律の壁は厚く、60年はあまりにも長かったので、こうした判断となった。」と述べました(甲A292)。
 現に、令和元(2019)年5月28日仙台判決、令和2(2020)年11月30日大阪判決、令和3(2021)年1月15日札幌判決では、それぞれ旧優生保護法が違憲であるとの判断がなされましたが、除斥期間を理由に請求は棄却されています。
 私たちのこれまでの主張だけでは、裁判所が除斥期間という厚い壁を乗り越えるためにはあと一歩が足りないのではないか、裁判所のその点についての悩みにこたえる新主張が必要ではないかと、改めて考えました。
 この点、これまでの最高裁判例で除斥期間の適用を認めなかった法律構成には、2種類あります。一つは、除斥期間のカウントが始まる時期を遅らせ、訴えを提起した時点で除斥期間の20年が経過していないと判断するものと、もう一つは除斥期間の20年は経過しているが、ある時点を基準としてそこから6ヵ月は除斥期間の効果発生が猶予されるとしているものです。後者は、ある時点から6か月が経過する前の時点で権利行使をしていれば除斥期間にかからない、ということになるので、「いつまでに権利行使すべきであった」という「終期」を区切る構成となります。
 これまでに私たちがした主張を振り返ると、権利行使の「終期」を区切る主張はしておりませんでした。
 そこで今回新たに、山野目先生の意見書に基づき、権利行使の終期を区切る主張をしました。
 そして、権利行使の終期をどの時点にするかについては、旧優生保護法という違憲の法律による重大な人権侵害であったという被害の構造に着目すれば、最高裁による違憲判決の時点を基準とすることが導き出されるのです。この主張の根底にあるのは、本件のような違憲な法律によって国策としてなされた人権侵害の事案に除斥期間を漫然と機械的に適用することは著しく正義・公平の理念に反する、という価値判断です。
 以下、この点について具体的に説明していきます。

第3 新たな主張の概要
1 旧優生保護法は、違憲な法律です。既に旧優生保護法を違憲とする地裁判決が3つも出ています。しかし、我が国の法制度上は、まだ旧優生保護法が違憲であることは確定していません。最高裁判所により「憲法違反である」という最終的な判断となる、憲法81条の「決定」がなされて初めて、違憲であることが「確定」するのです。違憲であることが最高裁によって「確定」しない間は、仮に法律が廃止されていても、憲法73条1項によって内閣は当該法律を誠実に執行する義務を負い続ける仕組みになっています。
2 そうだとすれば、違憲であることが最高裁判所によって確定されていない段階の裁判では、国は法律が違憲であることを争い、当時は適法であったなどと主張することになります。
 この段階で裁判により人権救済を受けようとする被害者には、本件で明々白々なとおり、国から裁判で徹底的に争われることによる重い負担が生じます。そういうことが全く考慮されず、およそ20年の間に訴訟提起しなければ機械的に権利が消滅するとされるのはおかしいと考えます。
3 また、そもそも、国民は、違憲な法律でも受け容れなければならないわけではなく、むしろ、違憲な法律に対し抵抗して行動する権利があります。これは憲法学上「実定法上の抵抗権」と言われるものです。
 違憲な法律による加害の事実を知らない被害者はもちろん、違憲な法律と認識しつつ裁判を起こさなかった・起こせなかった被害者についても、抵抗権を保障する解釈がなされる必要があります。
 すなわち、国民が違憲な法律による加害の事実を知った場合、これに抵抗する方法としては、国会や内閣に対する請願や意見表明をしたり、裁判によって権利救済を求めることが考えられます。しかし、どのような手段をとるかは国民の意向が尊重されるべきであり、裁判を選択しなかったからといって不利益を課すべきではありません。それゆえ、法律が違憲と認識しつつも裁判による重い負担を避け国会や政府に対する働きかけにより解決を図ろうとしてきた被害者をはじめとした訴訟提起を躊躇してきた被害者について、20年以内に裁判による権利の行使をしなかったことで一律に権利行使ができなくなってしまうのは、おかしいと考えます。
4 旧優生保護法は手術の当時にあって既に違憲と評価されるべきものです。また、違憲な法律による人権侵害が現に存在します。しかし、憲法に適合しないことが最高裁判所において確定されない間は、国策による人権侵害の事案であるにもかかわらず、国は裁判で徹底的に争います。それにもかかわらず被害者側は20年以内に提訴しなければならないとすれば、被害の救済を求める者にとって非常に重い負担となります。これが、本件のような違憲な法律による人権侵害の客観的な被害構造です。
 違憲な法律によって国策としてなされた人権侵害なのだから、被害者側の権利行使の際の負担がなくなってから、すなわち最高裁が旧優生保護法を違憲と決定してから、権利行使することが認められるべきです。また同時に、最高裁が違憲判断をする前に20年が経過した者についても権利行使が遮断されるべきではありません。
5 最高裁の違憲判決があるまで除斥期間の効果が発生しないという考え方は、民法の規定を根拠にしています。
 民法には、時効期間が満了していたとしても一定の場合にはその効果が一時猶予されるとする規定があります。例えば、民法159条は、夫婦間にお金の貸し借りがあった場合、離婚が成立するまでは請求しづらい状況にあることなどを考慮し、消滅時効の期間が満了していたとしても、離婚が成立して6か月経過するまでは時効の効果が6か月間猶予されるという規定です。民法160条は、当事者が死亡していて相続人が確定していない場合に、確定してから6ケ月間猶予するという規定です。
 こうした考え方を、違憲の法律による人権侵害があった場合も応用することが可能です。
 現に、先ほど述べたとおり、最高裁判例には、20年が経過しているとしても、その後のある時点を基準としてそこから6か月経過する以前に権利行使すれば除斥期間の効果が発生しないとしているものがありますが、これは、先ほど述べたような消滅時効の完成を猶予するいくつかの条文を根拠にして法解釈をしています。
 そこで、本件においても、民法の時効の規定を根拠にし、違憲な法律による人権侵害の特徴と、先に述べた実定法上の抵抗権をきちんと保障する観点から、最高裁によって法律が違憲だと判断されるまでの間は除斥期間によって権利消滅しないし、また、最高裁の判断の後も、そこから6ケ月以内に権利行使すれば除斥期間によって消滅しないと解すべきということになります。
 この解釈によれば、既に提訴している本件原告ら及び全国の他の訴訟の当事者はもちろん、最高裁の判決から6ケ月以内に権利行使した被害者の損害賠償請求権は除斥期間によって消滅していないという結論になります。

第4 違憲な法律による人権侵害の構造に着目した判断をすべきこと
冒頭で述べたとおり、除斥期間の壁を乗り越えるための裁判所の悩みあるいは疑問に答えるべく、私たちは今回、旧優生保護法という違憲の法律による重大な人権侵害であったという被害の構造に沿った新主張を用意しました。
裁判所においては、改めて、以上に述べた本件人権侵害の特徴的な経過及び被害構造に着目した上で本件を検討していただきたいと考えます。
以 上




<3>報告集会のご報告

さてこの日、17時から報告集会が、弁護士会館の4階ホールで開かれました。

その主な参加者は、先ず原告の飯塚淳子さん(仮名)、佐藤由美さん(仮名)の義姉、佐藤路子さん(仮名)、その他、会場には東京の原告、北三郎さん(仮名)も出席されていました。

そして、催しは上記のような控訴審第4回期日の報告です。

原告の佐藤由美さん(仮名)の義姉、佐藤路子さん(仮名)からは――
「支援者の方がたくさんいて下さるのに勇気づけられます。学生さんも署名活動をしてくださるし……、強制不妊手術、人権侵害に対して「がんばらなければ」、という思いになります。
支援して頂けるので、感謝の気持ちです。よろしくね。」

との思いを語っておられました。

そのあと、意見陳述が再度ご報告されました。

そのほか、他地方の弁護団メンバーとしては、札幌の西村武彦さん(全国優生保護法被害弁護団の共同代表)そしてこの日のあと、5月21日に東京の控訴審第2回期日をたたかう弁護団長の関哉直人先生。

そして、仙台の「優生手術被害者とともに歩むみやぎの会」のみなさん。
そのほか、全国各地でZoomを通して参加されているみなさんです。

会場は、19時に、「今後、最高裁の勝利の判決に向けてたたかう方針と意志を鮮明に打ち出した仙台の当該原告と弁護団、そして支援する市民のみなさんの前途の勝利」を願いつつ、散会しました。

2021年5月11日




<4>終わりに

仙台の第5回期日は 9月17日(金)16:00 からと決定されました。




*作成:安田 智博
UP: 20210609 REV: 0713, 1001
山本 勝美  ◇優生学・優生思想  ◇不妊手術/断種  ◇優生:2020(日本)  ◇病者障害者運動史研究  ◇全文掲載

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