令和3年(2021年)2月27日(土曜日)本版 朝刊 教育A 朝刊008ページ 「※京都新聞社より著作物使用許可を得て掲載」 探求人 立命館大衣笠総合研究機構客員研究員 中村雅也さん(55) 障害教師論  子どもたちが障害などの有無にかかわらず一緒に学べる場を保障する「インクルーシブ教育」。さまざまな支援策が取られて研究も進む一方、「教師の多様性については見過ごされてきた」と語る。障害のある教師の生活史を聞き取り、実態の解明を目指している。  大阪府東大阪市出身で京都教育大を卒業後、1989年に大阪府の公立高校の非常勤講師として教師生活を始めた。幼い頃から病気で視力が低かったが、採用試験でも勤務でも十分な配慮はない時代。生徒数百人のテストの採点に数日間徹夜することもあり「学校現場の『現実』を突き付けられた」と振り返る。 障害ある教師を調査  一方、92年に徳島県の公立学校教諭として採用されて盲学校や養護学校(現特別支援学校)などで教え、現場のまとめ役も任された。「子どもに丁寧に関わることができ、保護者や同僚との人間関係も築けて充実していた」と話す。  転機は、2003年に地元に近い奈良県の公立学校教諭になって間もなく訪れた。視力が急激に低下し、授業や生徒指導を思うようにできなくなった。リハビリをしたが回復の見込みはなく、支援を教育委員会に求めたが対応してもらえなかった。職場で居づらさを感じ、08年に退職した。 在り方そのものを問い直す  一方、時間がたつにつれて仕事を続けられなかったことへの悔しさも募った。「自分が感じた生きづらさの正体」を探るため09年、立命館大大学院に入った。  10〜19年にかけ、視覚障害のある20〜80代の現職教員や退職教員計20人にインタビューした。失明から復職までの苦労、授業やホームルームでの指導の仕方、生徒や同僚との交流、やりがいを丁寧に聞き取った。専門性が高く、多岐にわたる教員の職務に関する支援の形も考え、「障害のある教員に支援人員一人を付ければ済むのではなく、ただの『職業適応訓練』に終わってもいけない。職場全体の課題として必要な場面で支援が行われるシステムが必要」と強調する。成果は20年に「障害教師論」(学文社)として出版した。  調査は視覚障害者にとどまらず、20年からは日本学術振興会特別研究員として東京大に所属し、研究を続けている。  「教師は『オールマイティーに何でもできるべき』とする前提がないか」。問い掛けは教育現場の構造自体にも及ぶ。「多くの教育問題がある今、障害のある教師の存在は、人間の多様性を認めて既存の教育や学校の在り方そのものを問い直す視座を与えてくれる」と考えている。 (山田修裕)