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優生手術問題:活路と展望(第10回)――12月21日東京高裁控訴審第1期日のご報告(緊急)

山本 勝美 202001228

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last update:20201228


月日:2020年12月21日(月)
時間:14時15分 入庁行動(東京高裁前)
   その後傍聴券配布。抽選予定でしたが定員に至らず全員入廷。

(裁判内容) (オンライン集会)弁護団が弁護士会館で実施。
支援者は各自のPCで参加。
なお、支援者有志が集会参加できる場所を以下のように設定しました。
(日時) 12月21日 16:15〜17:45
(会場) 衆議院第2議員会館1階 多目的会議室

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(別紙1)原告北三郎さんの意見陳述原文:
(別紙1)北三郎氏意見陳述(原文)
こんにちは、優生被害者の北三郎です。
14歳のとき、何の説明もないまま手術を受けました。この裁判を起こすまで、親を恨んできました。しかし、自分が受けた手術は国がした優生手術だったことを知り驚きました。今も妻の声が聞こえてきます。「子どもがいなくて寂しいの」。この言葉がとてもとても辛かった。子どもが欲しくてもできない体にされてどれほど苦しんできたか。
 この苦しみ、国に謝ってもらいたい。国が勝手にした不妊手術。私の人生を返して欲しい。
 6月30日に判決がありました。私の願いはまったく届きませんでした。判決には納得できません。
 20年たったら権利が消えてしまうというのは納得できません。それに判決では、優生保護法が平成8年の母体保護法に改正になった時には裁判ができたと言っていました。仙台の裁判の報道まで、まさか国が手術をしたとは思っていませんでした。国は私に何も知らせず、謝ってもくれませんでした私の住所は分かったはずです。謝ろうと思えばいつでも謝れた筈です
手術のことを知らせることぐらいはできた筈です。国から何も知らせがないのに裁判なんかできるはずがありません。私はずっと親が手術を受けさせたんだと思っていたんです。平成8年には裁判ができたはずと言われた事は納得ができません。
裁判所には同じ判決はしてほしくありません。20年たったから請求できないと言われると、裁判所は血も涙もないのかと思ってしまいます。
妻のためにも被害者の人たちにも、私はこの不当な判決に泣き寝入りできません。国に謝ってもらうまで裁判を続けます。命のある限り闘っていきます。全国にいる2万5000人もの方が人生被害を受けました。そのうち、誰一人として,満足のいく被害回復をしてもらっていません。
ようやっと全国で25名、裁判に名乗りでてくれました。私は、もっと名乗りでてほしいという気持ちでテレビや新聞に顔を出しました。優生被害者がどれほど辛く悲しい日々を送ってきたか。一人ひとり苦しみが違うかもしれないけれど、国にこの苦しみを訴えていきたい。
私たちは高齢者ばかりです。原告の中では裁判中に亡くなられた方もいらっしゃいます。一日も早く解決をしたいと思っております。
 裁判所には、被害としっかりと向き合い、公平に裁判して欲しいです。

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(別紙2)控訴人代理人弁護士の意見陳述:藤木和子さん(声)、松田崚さん(手話) [PDF]

【優生保護法裁判】弁護士が声・手話で解説!(SODA藤木&ろう者の松田弁護士)
【声・手話】で解説!https://youtu.be/JqRqniqKzT0
【やさしい日本語(文字)】で解説!https://youtu.be/Vi_FSTxH9Ek

※どちらの動画も「やさしい日本語」をめざしました。吉開章さん、貴重なご助言と多大なるサポートをどうもありがとうございました。
※藤木は松田弁護士の手話通訳を読み取り通訳しているのではなく、文面を一緒に作り、それぞれが声・手話で同時に話しています。


意見(いけん)陳述(ちんじゅつ)
2020年(ねん)12月(がつ)21日(にち)
控訴(こうそ)人(にん)代理人(だいりにん)弁護士(べんごし)
藤木(ふじき)和子(かずこ)、松田(まつだ) 崚(りょう)
 今年(ことし)6月(がつ)30日(にち)、東京地方裁判所(とうきょうちほうさいばんしょ)は、北(きた)さんの訴(うった)えを認(みと)めない判決(はんけつ)を出(だ)しました。北(きた)さんは、間違(まちが)った判決(はんけつ)に納得(なっとく)できないと、ここ、東京高等裁判所(とうきょうこうとうさいばんしょ)に控訴(こうそ)しました。今日(きょう)は、東京高等裁判所(とうきょうこうとうさいばんしょ)での初(はじ)めての裁判(さいばん)の日(ひ)です。東京(とうきょう)地方(ちほう)裁判所(さいばんしょ)の判決(はんけつ)の重大(じゅうだい)な間違(まちが)いについて、弁護(べんご)団(だん)の考(かんが)えを説明(せつめい)します。
 この説明(せつめい)は、裁判(さいばん)に来(き)ている方々(かたがた)にもわかりやすいように、今(いま)注目(ちゅうもく)されている障害(しょうがい)のある人(ひと)、子ども(こども)や外国人(がいこくじん)など、誰(だれ)にでもわかりやすい「やさしい日本語(にほんご)」をできるだけ使(つか)ってみます。また、この意見(いけん)陳述(ちんじゅつ)とパワーポイント(ぱわーぽいんと)の文字(もじ)は読(よ)みやすいUD(ユーディー)デジタル(でじたる)教科(きょうか)書体(しょたい)を使って(つかって)います。
 また、音声(おんせい)日本語(にほんご)は藤木(ふじき)が、日本(にほん)手話(しゅわ)は松田(まつだ)が担当(たんとう)します。

1 判決(はんけつ)の間違(まちが)いは3つです。

(1)判決(はんけつ)は、「優生(ゆうせい)保護(ほご)法(ほう)は国(くに)が憲法(けんぽう)によって約束(やくそく)したことを破(やぶ)っていたかどうか」という大切(たいせつ)な問題(もんだい)を無視(むし)して、答(こた)えを出(だ)しませんでした。

(2)優生(ゆうせい)手術(しゅじゅつ)による人権(じんけん)侵害(しんがい)(人(ひと)の権利(けんり)を奪(うば)うこと)について、判決(はんけつ)に書(か)いてあるのは、憲法(けんぽう)13条(じょう)が守(まも)る「自分(じぶん)の子(こ)どもをもつかどうかを自分(じぶん)の考(かんが)えで決(き)める自由(じゆう)」を奪(うば)った、ということだけでした。
優生(ゆうせい)保護法(ほごほう)の優生(ゆうせい)手術(しゅじゅつ)で一番(いちばん)大(おお)きな人権(じんけん)侵害(しんがい)は何(なん)でしょうか。それは、国(くに)が「不良(ふりょう)」な人間(にんげん)、つまり、だめな人間(にんげん)だときめつけたこと、これにより、「個人(こじん)の尊厳(そんげん)」を傷付(きずつ)けたこと、すなわち、人(ひと)として大切(たいせつ)にしなかったこと、です。
 しかし、判決(はんけつ)はそのことを全(まった)く書(か)いていません。

(3)さらに、判決(はんけつ)は、簡単(かんたん)にいうと、このようなことを言(い)っています。「国(くに)は人権(じんけん)侵害(しんがい)をしたけれど、手術(しゅじゅつ)の時(とき)からもう20年(ねん)過(す)ぎました。平成(へいせい)8年(ねん)(1996年(ねん))に優生(ゆうせい)保護法(ほごほう)がなくなった時(とき)から数(かぞ)えても、もう20年(ねん)過(す)ぎています。時間切(じかんぎ)れです。もう国(くに)の責任(せきにん)は消(き)えてしまいました。」これは、「裁判(さいばん)をしても無駄(むだ)です。」と言(い)っているようなものです。
 しかし、優生(ゆうせい)保護(ほご)法(ほう)で個人(こじん)の尊厳(そんげん)が傷付(きずつ)けられたことは、優生(ゆうせい)保護(ほご)法(ほう)がなくなって24年(ねん)経(た)った今(いま)も、社会(しゃかい)の中(なか)に強(つよ)く残(のこ)っています。それを判決(はんけつ)は考(かんが)えていません。
 また、判決(はんけつ)は北(きた)さんと家族(かぞく)がどれだけ苦(くる)しんだか、考(かんが)えていません。北(きた)さんは、優生(ゆうせい)手術(しゅじゅつ)を受(う)けたとき、14歳(さい)の少年(しょうねん)でした。そのときだけではなく、77歳(さい)の今(いま)まで、ずっと苦(くる)しんできました。北(きた)さんのお姉(ねえ)さんや家族(かぞく)も苦(くる)しんできました。しかも、どんなに苦(くる)しくても、優生(ゆうせい)手術(しゅじゅつ)を受(う)けたことは、誰(だれ)にも、家族(かぞく)にさえ言(い)えない、言(い)ってはいけないことでした。国(くに)は、北(きた)さんと家族(かぞく)が、死(し)ぬまで苦(くる)しむようにしたのです。

2 東京(とうきょう)高等(こうとう)裁判所(さいばんしょ)に強(つよ)く言(い)いたいことが4つあります。
(1)まずは、国(くに)が、北(きた)さんに対(たい)して、きちんと謝(あやま)る必要(ひつよう)があると、はっきり言(い)ってください。

(2)優生(ゆうせい)保護(ほご)法(ほう)が、優生(ゆうせい)手術(しゅじゅつ)を受(う)けた人(ひと)を人(ひと)として大切(たいせつ)にせず、個人(こじん)の尊厳(そんげん)を大切(たいせつ)にする憲法(けんぽう)を破(やぶ)っていたことについて、きちんと裁判所(さいばんしょ)の考(かんが)えを言(い)ってください。

(3)「20年(ねん)過(す)ぎたから、もう時間切(じかんぎ)れです。」という考(かんが)えをやめてください。
 この3つめが大切(たいせつ)なので、その理由(りゆう)を3ついいます。

@ 国(くに)は、優生(ゆうせい)保護(ほご)法(ほう)を作(つく)り、差別(さべつ)・偏見(へんけん)を広(ひろ)め、多(おお)くの人(ひと)に優生(ゆうせい)手術(しゅじゅつ)を受(う)けさせ、傷(きず)つけ、苦(くる)しませてきました。自分(じぶん)が人(ひと)を傷(きず)つけ苦(くる)しませたのであれば、傷(きず)ついたことをできるだけ元(もと)に戻(もど)し、差別(さべつ)・偏見(へんけん)をなくし、自(みずか)ら、間違(まちが)っていたと反省(はんせい)しなければなりません。しかし、国(くに)は、今(いま)まで何(なに)もしていません。
A 優生(ゆうせい)手術(しゅじゅつ)は国(くに)による「拷問(ごうもん)」にあたります。「拷問(ごうもん)」とは、その人(ひと)が悪(わる)いと勝手(かって)に決(き)めて、その人(ひと)にひどい傷(きず)をつけることです。優生(ゆうせい)手術(しゅじゅつ)は、日本(にっぽん)も入(はい)っている国際(こくさい)人権(じんけん)条約(じょうやく)が禁止(きんし)する「拷問(ごうもん)」にあたります。そして、国際(こくさい)人権(じんけん)条約(じょうやく)によると、拷問(ごうもん)された人(ひと)は何年(なんねん)経(た)っても国(くに)に対して(たいして)裁判(さいばん)をすることができるます。つまり、「20年(ねん)過(す)ぎたから、時間切(じかんぎ)れです。」という考(かんが)えは、国際(こくさい)社会(しゃかい)で決(き)めたルール(るーる)に反(はん)しています。
B 国(くに)が「20年(ねん)過(す)ぎたから、時間切(じかんぎ)れです」というのは、正義(せいぎ)に反(はん)し、許(ゆる)されないことです。北(きた)さんたちを手術(しゅじゅつ)で傷(きず)つけたのは、国(くに)です。しかも、国(くに)によって、「不良(ふりょう)」(だめな人(ひと))と決(き)めつけられた場合(ばあい)は、「だましてでも優生(ゆうせい)手術(しゅじゅつ)を受(う)けさせなければいけない」、「そのような人(ひと)は差別(さべつ)・偏見(へんけん)を受(う)けるのが当(あ)たり前(まえ)」という考(かんが)え方(かた)が広(ひろ)がりました。そのせいで、優生(ゆうせい)手術(しゅじゅつ)を受(う)けた人(ひと)は、黙(だま)るしかなく、傷(きず)つけられたことを人(ひと)に言(い)うことができませんでした。

国(くに)が手術(しゅじゅつ)をし、しかも、国(くに)のせいで誰(だれ)にも言(い)えなかった。それなのに、国(くに)が作(つく)った法律(ほうりつ)、民法(みんぽう)724条(じょう)後段(こうだん)という法律(ほうりつ)で「20(20)年(ねん)過(す)ぎたから、もう時間切(じかんぎ)れです。国(くに)の責任(せきにん)は消(き)えてしまいました。」と被害者(ひがいしゃ)ではなく、被害者(ひがいしゃ)を傷(きず)つけた国(くに)が守(まも)られるのは、誰(だれ)がどう見(み)てもおかしいです。

(4)裁判所(さいばんしょ)は、優生(ゆうせい)保護(ほご)法(ほう)を作(つく)ったのに傷(きず)ついた人(ひと)に何(なに)もしてこなかった国会(こっかい)にも責任(せきにん)があると言(い)ってください。
 国会(こっかい)が優生(ゆうせい)保護(ほご)法(ほう)という人(ひと)を傷(きず)つける法律(ほうりつ)を作(つく)ったのなら、傷(きず)つけられた人(ひと)のために新(あたら)しい法律(ほうりつ)を作(つく)ることが絶対(ぜったい)必要(ひつよう)であり、当(あ)たり前(まえ)のことです。しかし、国会(こっかい)は今(いま)でも、傷(きず)ついた人(ひと)をきちんと救(すく)う法律(ほうりつ)を作(つく)っていません。

3 最後(さいご)に、東京(とうきょう)高等(こうとう)裁判所(さいばんしょ)の裁判官(さいばんかん)にお願(ねが)いしたいことです。

 優生(ゆうせい)保護(ほご)法(ほう)について、国(くに)が間違(まちが)っていた、と国(くに)の責任(せきにん)をはっきり言(い)えるのは裁判所(さいばんしょ)だけです。東京(とうきょう)高等(こうとう)裁判所(さいばんしょ)は、優生(ゆうせい)保護(ほご)法(ほう)は国(くに)が憲法(けんぽう)により約束(やくそく)したことを破(やぶ)っていたこと、国(くに)は優生(ゆうせい)手術(しゅじゅつ)の被害者(ひがいしゃ)を人(ひと)として大切(たいせつ)にせず「個人(こじん)の尊厳(そんげん)」を傷付(きずつ)けてきたこと、手術(しゅじゅつ)を受(う)けた人(ひと)と家族(かぞく)がずっと苦(くる)しんできたことを、きちんと見(み)て、考(かんが)えてください。

 国(くに)は勝手(かって)にだめな人(ひと)だと決(き)めつけた人(ひと)を、人(ひと)としての気持(きも)ち、生(い)き方(かた)、存在(そんざい)を大切(たいせつ)にせず、心(こころ)と体(からだ)に傷(きず)をつけ、一生(いっしょう)苦(くる)しませ、生(う)まれてくるはずだった命(いのち)を奪(うば)いました。長(なが)い歴史(れきし)の中(なか)でも、これは国(くに)がした一番(いちばん)ひどいことであり、絶対(ぜったい)に許(ゆる)してはいけません。そんな手術(しゅじゅつ)を受(う)けた被害(ひがい)者(しゃ)の気持(きも)ちはどんなものか、北(きた)さんの立場(たちば)になって考(かんが)えてください。そうすることで初(はじ)めて、正(ただ)しい判決(はんけつ)を書(か)けると思(おも)います。そうしなければ、裁判所(さいばんしょ)の使命(しめい)を果(は)たしていないことと同(おな)じです。

 人(ひと)なら、だれでも、国(くに)から人(ひと)として大切(たいせつ)にされなければいけません。憲法(けんぽう)と国際(こくさい)条約(じょうやく)で決(き)まっている世界(せかい)共通(きょうつう)の正義(せいぎ)、そして、裁判官(さいばんかん)の良心(りょうしん)にしたがい、何(なに)が正(ただ)しいのかをよく考(かんが)えて判決(はんけつ)を出(だ)してください。
以上(いじょう)



*作成:安田 智博
UP: 20201228 REV:
山本 勝美  ◇優生学・優生思想  ◇不妊手術/断種  ◇優生:2020(日本)  ◇病者障害者運動史研究  ◇全文掲載

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