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増大する「心身の故障」欠格条項――2020年障害者欠格条項調査報告

臼井 久実子・瀬山 紀子(障害者欠格条項をなくす会) 2020/09/19
障害学会第17回大会報告 ※オンライン開催

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last update: 20200912


質疑応答(本頁内↓)



■目次

1 導入 2 2020年調査結果報告 3 考察とまとめ 補足
参考資料
文末脚注

■本文

1 導入

1-1欠格条項とは
 欠格条項とは、「資格や免許をもつこと」や「ある行為をすること」の制限を定めた法令(法律、政省令、地方条例など)上の規定だ。そのうち、障害者にかかわる欠格条項は、「○○の機能の障害がある者には〜の免許を与えないことがある」「〜の資格を取り消すことがある」などの条文や、受験資格、公的な役職につくこと、選挙、議会の傍聴、公共施設の利用などを制限する規定のかたちで存在する。会社や団体の役員になること、審議会の委員になることを、「心身の故障」を理由に制限する条文も多数ある。障害者にかかわる欠格条項は、年齢や刑罰履歴による欠格条項とは異なり、「おそれがある」として予防的に排除する特異性がある。そこには、障害や疾患があると業務や行為を適正にできないだろうと見なす障害者観がある。2020年調査の結果、661の法令にこうした障害者に関わる欠格条項が存在している。

1-2 障害者にかかわる欠格条項の経過
 日本の障害者にかかわる欠格条項は、近代法の整備と共に設けられ始めた。1870年代には、知的障害者、精神障害者には被選挙権を「認めない」、ろうあ者や盲人には医師免許や運転免許を「与えない」などの欠格条項(絶対的欠格条項)が定められた。1960-70年代には、障害や病があっても運転などをできるのに法律が認めないのは差別ではないかと、いくつかの裁判が起こされたi。1990年代には、障害ゆえに門前払いされた人が諦めずに声をあげたことで、2001年に「障害者等に係る欠格事由の適正化等を図るための医師法等の一部を改正する法律」が、附則iiと併せて2001年に成立し、医師や薬剤師などの免許は、障害がある人も補助的・代替的手段でその本質的な業務ができるならば免許を交付されることになったiii。それでもなお、医師法をはじめとして「免許を与えないことがある」といった条文(相対的欠格条項)が大多数の法律に残され、障害者にかかわる欠格条項の全廃は、栄養士法など一部の法律にとどめられた。また、上述の附則には、「施行後5年をめどに欠格条項のありかたを検討したうえで必要な措置をとる」旨が規定されていたが、その後、見直しがなされたのは一部の法律であり、今にいたるまで全面的な検討や見直しは行われていない。
 2001年の見直し後も、障害者に関わる欠格条項は500本前後の法律に残され続けた。このことは、国連障害者権利条約の批准に伴い整備された障害者基本法、障害者差別解消法が第一条(目的)に掲げる、「障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生す社会の実現」とも、矛盾している。
 そして、この間、とりわけ増加してきたのが、成年後見制度にかかわる欠格条項だ。成年後見制度にかかわる欠格条項については、成年後見制度を利用したことで参政権や仕事を失った知的障害のある人が裁判を起こしたこと、及び、「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律(2019年)」の成立を背景に、2013年から2019年にかけて一括削除されるに到った。しかし、その大部分に「心身の故障」欠格条項が新設され、さらに「心身の故障」とは「精神の機能の障害」と定める法令が急増している。
 以下にその現状を調査から明らかにしていく。

1-3 調査の経緯と目的
 日本は、障害者権利条約の批准国として、条約第4条1b「障害者に対する差別となる既存の法律、規則、慣習及び慣行を修正し、又は廃止するためのすべての適当な措置(立法を含む)をとること」、第12条「法律の前にひとしく認められる権利」の各条文の履行が求められている。国内法においても、障害者基本法、障害者差別解消法が共生社会の目的から社会的障壁の除去を記述し、障害者差別解消法の基本方針では「各種の国家資格の取得等において障害者に不利が生じないよう、いわゆる欠格条項について、各制度の趣旨や、技術の進展、社会情勢の変化等を踏まえ、適宜、必要な見直しを検討するものとする」とされている。
 ただ、見直しの検討には現状把握が必要だが、国による全面的な調査はなされていない。そのため、報告者が、総務省の法令データベース等を用い障害者欠格条項の現状を可視化し、削除・廃止等の検討に役立てる目的で、前回iv(2016年)に続き、全法令を調査した。
 上述のとおり2019年以降に大きな変化があったことを受け、政省令を含む状況を正確に把握するため、調査は2020年1-3月に実施した。また、2009年・2016年の調査結果についても改めて点検と分類集計を行い、2020年の調査結果と比較できるようにした。

2 2020年調査結果報告

2-1 2020調査の概要
対象:法律・政省令(告示と廃止法を除く)
手法:e-Gov法令検索(総務省)、日本法令索引、官報等を使用して最新の法令とその条文を確認した。
検索語句: 検索語句には、成年被後見人、心身の障害、心身の故障、身体又は精神の障害、精神の機能の障害、精神病、精神疾患、視力、視覚の機能の障害、聴覚の機能の障害、聴力、言語機能などを使用した。
検索語句であがった内、一般名詞や固有名刺として記載されたもの(例:「精神病院」、関係法令の名称)や、欠格条項としてではなくその法令における障害の定義として記述されたものは、含めていない。
時期:2020年1月下旬-3月上旬

2-2 2020調査結果の数値
障害者にかかわる欠格条項のある法令総数:661
分類,法令数の順で、その内訳をみる。いずれも法令実数。複数の分類に該当する法令もあるため、分類の計と総数661は一致しない。

成年被後見人又は被保佐人,3
心身の故障・心身の障害,413
精神の機能の障害,257
視覚の機能の障害,31
聴覚・言語の機能の障害,28
身体の障害,25
さまざまな権利制限,22
総数 661

2-3 2009年、2016年、2019年の推移
2009年、2016年、2020年の推移について、1)表のカンマ区切りテキスト、2)表、3)表に基づくグラフの順で掲載する。

1)表1のカンマ区切りテキスト
障害者にかかわる欠格条項のある法令数の推移
対象分類,2009年,2016年,2020年
成年被後見人又は被保佐人,193,210,3
心身の故障・心身の障害,289,283,413
精神の機能の障害,64,75,257
視覚の機能の障害,31,31,31
聴覚・言語の機能の障害,28,28,28
身体の障害,27,27,25
さまざまな権利制限,22,22,22
総数,上記の条文がある法令実数,483,505,661
障害者欠格条項をなくす会事務局調べ 2020年3月

2)表1 障害者にかかわる欠格条項のある法令数の推移
対象2009年2016年2020年
分類成年被後見人又は被保佐人1932103
心身の故障,心身の障害289283413
精神の機能の障害6475257
視覚の機能の障害313131
聴覚・言語の機能の障害282828
身体の障害272725
さまざまな権利制限222222
総数上記の条文がある法令実数483505661
障害者欠格条項をなくす会事務局調べ 2020年3月
調査の時期:
2009年調査・・・2009年9月から12月・2020年調査時に改めて点検と分類集計
2016年調査・・・2016年3月から6月・2020年調査時に改めて点検と分類集計
2020年調査・・・2020年1月下旬-3月上旬
※改訂について(2020年9月)
算出元の調査データのうち、「毒物及び劇物取締法施行規則」について、視覚、聴覚言語障害の欠格条項ありとしていた誤記載を修正(これらの欠格条項は2001年に削除された)。この結果、視覚、聴覚言語障害のカウントは、各年についてマイナス1となった。同施行規則には「精神の機能の障害」にかかわる欠格条項があり、総数については変更がない。


3)グラフ1 障害者にかかわる欠格条項のある法令数の推移
「増大する「心身の故障」欠格条項――2020年障害者欠格条項調査報告」画像

2-4 2019年を境にした変化と法令の実例
 以下に2019年以前と以降の変化について法令の実例と併せて記載する。
 下記に【2019年法】とあるのは、「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律(2019・6・14法律第37号)」によるもの。そのほか、変更がなかった例も含まれる。

2-4-1 心身の障害
 「心身の故障」と「心身の障害」を併せて、前回調査の283から413に増大した。増加分は「心身の故障」で、【2019年法】によるものである。これに対して、「心身の障害」は、2001年の障害者欠格条項見直し時に設けられた条文が大部分である。
 医師法とその施行規則が典型的なもので類例が多い。成年被後見人、被保佐人に対する欠格条項が削除された。

医師法【旧法】
第3条 未成年者、成年被後見人又は被保佐人には、免許を与えない。
第4条 次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えないことがある。
一 心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの

医師法【2019年法】
第3条 未成年者には、免許を与えない。
第4条 旧法に同じ。

医師法施行規則 第1条【変更なし】
医師法(昭和二十三年法律第二百一号。以下「法」という。)第四条第一号の厚生労働省令で定める者は、視覚、聴覚、音声機能若しくは言語機能又は精神の機能の障害により医師の業務を適正に行うに当たつて必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者とする。

第1条の2(障害を補う手段等の考慮)【変更なし】
厚生労働大臣は、医師免許の申請を行つた者が前条に規定する者に該当すると認める場合において、当該者に免許を与えるかどうかを決定するときは、当該者が現に利用している障害を補う手段又は当該者が現に受けている治療等により障害が補われ、又は障害の程度が軽減している状況を考慮しなければならない。

2-4-2 聴覚・言語・視覚・身体(肢体)の障害
 これらの機能障害の欠格条項は、医師法とその施行規則のような法令のほか、操縦や操作の仕事にかかわる免許を定める法令が大半であり、2009年・2016年の調査と比較して数はほぼ変化がない。

道路交通法施行規則(抜粋)【変更なし】
第23条 一種免許(大型・けん引を除く)の適性試験
視力が両眼で〇・七以上、かつ、一眼でそれぞれ〇・三以上であること又は一眼の視力が〇・三に満たない者若しくは一眼が見えない者については、他眼の視野が左右一五〇度以上で、視力が〇・七以上であること。
運動能力 合格基準 一 令第三十八条の二第四項第一号又は第二号に掲げる身体の障害がないこと。二 一に定めるもののほか、自動車等の安全な運転に必要な認知又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなる四肢又は体幹の障害があるが、法第九十一条の規定による条件を付すことにより、自動車等の安全な運転に支障を及ぼすおそれがないと認められること。

2-4-3 成年被後見人・被保佐人等
 2019年、公務員法など約180本vの見直しで、成年被後見人や被保佐人には免許を与えない、役員や委員になることができない、等としてきた欠格条項が削除に到った。前回調査で210の法令に存在したが移行措置とみられる3法を残して削除された。下記は削除された例である。

地方公務員法【旧法】
第16条 次の各号のいずれかに該当する者は、条例で定める場合を除くほか、職員となり、又は競争試験若しくは選考を受けることができない。
一 成年被後見人又は被保佐人
第28条 職員が、次の各号に掲げる場合のいずれかに該当するときは、その意に反して、これを降任し、又は免職することができる。
二 心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合

地方公務員法【2019年法】
第16条のうち、上記の第1項は削除。
第28条は変更なし。

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律【旧法】
第65条1項 次に掲げる者は、役員となることができない。
2成年被後見人若しくは被保佐人又は外国の法令上これらと同様に取り扱れている者

一般社団法人及び一般財団法人に関する法律
【2019年12月11日 法律第71号 会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律一五条による改正による】
第65条の2の第1項
成年被後見人が役員に就任するには、その成年後見人が、成年被後見人の同意(後見監督人がある場合にあっては、成年被後見人及び後見監督人の同意)を得た上で、成年被後見人に代わって就任の承諾をしなければならない。
第65条の2の第2項
被保佐人が役員に就任するには、その保佐人の同意を得なければならない。

2-4-4 心身の故障
 「心身の故障」または「心身の障害」欠格条項のある法令は、前回調査(2016年)では283本だったものが413本に増大、そのうち129本は、2019年に新設された。
 次に例示する法令は、「心身の故障」欠格条項については、【2019年法】による変更がなかったものである。

弁護士法
12条1項 弁護士会は、弁護士会の秩序若しくは信用を害するおそれがある者又は次に掲げる場合に該当し弁護士の職務を行わせることがその適正を欠くおそれがある者について、資格審査会の議決に基づき、登録又は登録換えの請求の進達を拒絶することができる。
一 心身に故障があるとき。

地方教育行政の組織及び運営に関する法律
第7条第1項 地方公共団体の長は、教育長若しくは委員が心身の故障のため職務の遂行に堪えないと認める場合においては、当該地方公共団体の議会の同意を得て、これを罷免することができる。

下記のような法令が、【2019年法】によって増大した。
なお、ここに挙げる例はいずれも、旧法には「心身の故障」欠格条項も機能障害の欠格条項も設けられていなかった。旧法にあった成年被後見人、被保佐人に対する欠格条項を削除すると同時に、それまでは無かった「心身の故障」欠格条項を設け、政省令で「心身の故障」とは「精神の機能の障害」であると定めた。

社会福祉士及び介護福祉士法
附則3条1号 次の各号のいずれかに該当する者は、社会福祉士又は介護福祉士となることができない。
一 心身の故障により社会福祉士又は介護福祉士の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの

精神保健福祉士法
第3条 次の各号のいずれかに該当する者は、精神保健福祉士となることができない。
一 心身の故障により精神保健福祉士の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの

児童福祉法
第18条の5 次の各号のいずれかに該当する者は、保育士となることができない。
一 心身の故障により保育士の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの

特定非営利活動促進法
第20条 次の各号のいずれかに該当する者は、特定非営利活動法人の役員になることができない。
六 心身の故障のため職務を適正に執行することができない者として内閣府令で定めるもの

2-4-5 精神の機能の障害
 「心身の故障」欠格条項を新設した129本の法律において、新たに160本以上の政省令で、「心身の故障」とは「精神の機能の障害」であると規定された。1つの法律が複数の業種を規定し、業種ごとに政省令を設置する場合があるため、法律数よりも政省令数のほうが多い。その後も、模倣するように、同様の条文を新設する法令が続いた。その結果、前回調査では75本だった「精神の機能の障害」欠格条項がある法令は、257本に急増し、2020年3月時点で既に、成年被後見人等に対する欠格条項があった法令数を上回った。
 例示を上述した【2019年法】によって「心身の故障」欠格条項が新設された法律について、それぞれの政省令を記載する。

社会福祉士及び介護福祉士法施行規則
【2019年 9月13日厚生労働省令第46号によって追加】
第1条の2 法第三条第一号の厚生労働省令で定める者は、精神の機能の障害により社会福祉士又は介護福祉士の業務を適正に行うに当たつて必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者とする。

精神保健福祉士法施行規則
【2019年 9月13日厚生労働省令第46号によって追加】
第1条 精神保健福祉士法(平成九年法律第百三十一号。以下「法」という。)第三条第一号の厚生労働省令で定める者は、精神の機能の障害により精神保健福祉士の業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者とする。

児童福祉士法施行規則
【2019年 6月14日厚生労働省令第14号によって追加】
第6条の2 法第十八条の五第一号の厚生労働省令で定める者は、精神の機能の障害により保育士の業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者とする。

特定非営利活動促進法施行規則
【2019年11月29日内閣府令第42号によって追加】
法第二十条第六号に規定する内閣府令で定めるものは、精神の機能の障害により役員の職務を適正に執行するに当たって必要な認知、判断及び意思疎通を適切に行うことができない者とする。

3 考察とまとめ

 ここまでで障害者欠格条項に関する最新の法令調査の結果を見てきた。ここからは、調査結果で明らかになった「心身の故障」=「精神の機能の障害」欠格条項の増大という点を中心に、その問題点や課題について考察していく。

3-1 どのような人が対象と見なされているか
 「心身の故障」という欠格条項は古くからあり、どのように用いられるか懸念されてきた。しかし今起きているのは、「心身の故障」をすなわち「精神の機能の障害」と規定する新しい欠格条項が大量につくられるという、これまでにない事態だ。これらの新しい欠格条項は、成年後見制度利用者を対象とした欠格条項を代替するような形で設けられており、主には、知的障害、あるいは、精神障害があり、財産管理や社会契約上の支援を必要としている人が対象に想定されていると考えられる。これは、実質的に障害を理由とした新たな欠格条項であることは明らかであり、該当する可能性がある人に不安や不利益をもたらすものだ。

3-2 なぜ「心身の故障」欠格条項が増加したか
 2019年に成立した「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化を図るための関係法律の整備に関する法律」は、字義どおり権利の制限を削除するだけの法律ではなかった。法案提出前から「心身の故障」欠格条項を設けて政省令で定めることが検討されており、法案の対象となった法律のうち129本の法律に「心身の故障」欠格条項が新設された。具体例は、2に挙げたとおりである。
 法令の新設や改正時には、似た法令から条文がコピーされることが多いため、無作為のままであれば、この先もとめどなく増えることが避けられない。

3-3 個別審査という二重基準、欠格条項が残されていることの問題
 2001年、医師法などの欠格条項見直しによって、多くの法律は、門前払いの条文は削除した。しかし、それと同時に、試験を実施した各官庁の個別審査によって、視覚、聴覚、精神などの「心身の障害」によって業務を適正に行えないとの判定がされた場合は、「免許を与えないことがある」とする欠格条項を残した。
 一般には、試験に合格すれば、その資格や免許の基本的な知識や技能があると認められる。しかし、障害がある人の場合は、試験に合格したことによって、その資格や免許に必要とされる知識・技能等の要件を満たしていることが証明されても、さらに審査が続くという二重の基準を課せられている。こうした状況は、著しく公平性を欠いた状況だと言える。
 障害にかかわる審査のために、免許の交付が2か月以上も遅延し、就職に大きな不利益を被った人もいる。障害のない人は、通例は申請すれば速やかに免許が交付され、すぐに就職活動できるので、大きな落差がある。
 個別審査という言説は、成年後見制度利用者に対する欠格条項の見直しにおいても出され、「一律に資格等から排除する仕組みを改め、各資格等にふさわしい能力があるかどうかについて個別的・実質的な審査を行う仕組み」へ見直すと説明されたvi。しかし、結果としてつくられた法令は、「業務や行為を遂行できる」ことと「機能の障害がある」ことを結びつけたうえで、「心身の故障」を「精神の機能の障害」と明確に規定している。その意味で、該当する人を一律に排除するように機能する可能性が高い、新たな障害者欠格条項だ。

3-4 障害者権利条約に照らして
 1-3にも述べたとおり、障害者権利条約は、法制度や慣習における差別の廃止(4条)、法律の前における平等な承認(12条)を求めている。国連では、日本の実態と課題について、日本が2014年に障害者権利条約を批准してから初めて迎える審査が行われており、2021年の春に本審査を迎える予定となっている。
 しかし、本稿で見てきたように、日本では、障害者にかかわる欠格条項は、減少するどころか、新たな欠格条項が増大している。障害者権利条約に照らせば、「業務や行為を遂行できる」ことと「機能の障害がある」ことを結びつける障害者観を根本から改め、法制度上の障害者差別を撤廃しなければならない。法制度の差別は差別偏見に基づいており、かつ、差別偏見を強化している関係にあるため、欠格条項のような明文化された差別の除去が本来第一になされなければならないことである。国として法制度の差別の現状調査を行うこと、そして施行後の見直しを明記している2001年欠格条項一括見直し法附則の実施を含む、全面的な見直し作業を実施することが求められている。
 また、現在も代理後見が基本となっており支援付き自己決定への転換もなされていないことも、大きな課題である。どのような障害がある人も、勝手に生活や人生を決められることがないよう、支援を受けながら、どうしたいかを決めていけるようにする、支援つき自己決定ができる制度へ、大きく転換することが求めれているのではないか。

補足

 障害者欠格条項の問題は、障害者権利条約の日本審査にむけJDF(日本障害フォーラム)がまとめたパラレルレポートにも記載された。この先、国連審査での建設的対話における着目、及び、新しい欠格条項の増大で不利益を受けている障害当事者の状況の把握が重要となっている。
 報告者が属する障害者欠格条項をなくす会では、上述の調査と課題の検討をふまえて、三項目を要請するアピールを出す準備をしている。 要請アピールの賛同人、賛同団体も募集している。ぜひご協力を。

(要請アピール案から部分引用)
【改めて、欠格条項の撤廃のために】
障害のある人が希望をもって学び、仕事につくことを今も脅かしている欠格条項は、人の未来への夢を奪い、働く意欲と機会を奪っている点で、社会的損失そのものです。欠格条項を撤廃すること、障害の有無で分け隔てられることなく学び、働いていけるように、合理的配慮の提供および環境づくりを進めることが、社会のありかたを豊かにし、ひとりひとりが力を発揮できる政策です。
法令に障害ゆえの障壁をつくることは、もうやめましょう。
欠格条項のありかたを改めて真摯に見直すという20年来の宿題に着手しましょう。
現状をいかにしていくのか、障害者権利条約の履行のためにも立場をこえて取り組むことを提起し、次のことを要請します。
  1. 新設や改定の法令に「心身の故障」・「精神の機能の障害」の欠格条項を設けないようにする
  2. 施行後の見直しを明記している2001年欠格条項一括見直し法附則の実施に着手する
  3. 代理後見から支援つき自己決定への転換に着手する

参考資料


文末脚注




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■質疑応答

※報告掲載次第、9月19日まで、本報告に対する質疑応答をここで行ないます。質問・意見ある人はtae01303@nifty.ne.jp(立岩)までメールしてください→報告者に知らせます→報告者は応答してください。宛先は同じくtae01303@nifty.ne.jpとします。いただいたものをここに貼りつけていきます。
※質疑は基本障害学会の会員によるものとします。学会入会手続き中の人は可能です。→http://jsds-org.sakura.ne.jp/category/入会方法 名前は特段の事情ない限り知らせていただきます(記載します)。所属等をここに記す人はメールに記載してください。


*頁作成:安田 智博
UP: 20200825 REV:20200827, 0912
障害学会第17回大会・2020  ◇障害学会  ◇障害学  ◇『障害学研究』  ◇全文掲載
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