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24時間365日のつきっきりも実現する
あなたの知らない重度訪問介護の世界

ーー第6回(最終回) 在宅療養を叶える方法としてーー

大野 直之全国障害者介護保障協議会) 2020/06/15

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last update: 20210426


医学書院『訪問看護と介護』2020年6月号p494-497掲載
大野直之さん全国障害者介護保障協議会)と医学書院の提供により連載(全6回)を掲載いたします



◆大野 直之 2020/06/15 「24時間365日のつきっきりも実現する あなたの知らない重度訪問介護の世界 ーー第6回(最終回) 在宅療養を叶える方法としてーー」, 『訪問看護と介護』2020年6月号:494-497, 医学書院
*連載全6回はこちら



長時間の見守りを含み、介助の内容が限定されない「重度訪問介護」。
本制度を有効活用すると、どのように暮らしは変わるのか。
知っているようで知らなかった、重度訪問介護の世界をのぞきます。

全国障害者介護保障協議会
大野直之



■目次

第6回(最終回) 在宅療養を叶える方法として 序文
事業所がない、そのために制度も知られてない
「どうして鹿児島でできないのか」という素朴な疑問
外部の支援も活用して準備を整える
無資格者をヘルパーに育てる
事業所は後から地元に移す
蒔いた種が花開いて
在宅生活を望む人はまだいます ーー在宅は無理と思われていた人ーー
24時間重度訪問介護を必要な人へ届けよう
重度訪問介護を利用する人(1)
重度訪問介護を利用する人(2)
ご相談は「全国障害者介護保障協議会」まで
鹿児島の24時間介護情報【外部サイト】

■第6回(最終回) 在宅療養を叶える方法として

 鹿児島県では、2003年から障害当事者団体「自立生活センターてくてく」が鹿児島市を拠点に置いて活動しています。この団体の活動もあり、国立療養所の筋ジストロフィー病棟から退所した筋ジスやSMA(脊髄性筋萎縮症)等の全身性障害者の一人暮らしは実現しており、24時間の重度訪問介護利用者も都市部(鹿児島市・姶良市・霧島市の3市)を中心に数人います。中には、24時間の介護制度を利用して全国各地を飛び回って自立生活の広報活動等をしている方もいました。


■事業所がない、そのために制度も知られてない

 一方で、鹿児島県のALS患者の皆さんは、県内でも郊外や離島に多く暮らしていて、最近まで24時間の重度訪問介護のような長時間介護のサービスを全く使っていない状況がありました。鹿児島のALS患者はこれまでどのように暮らしていたのか。まず、約半数は病院での入院を続けており、自宅に帰りたいと思っても「介護がない」という理由で帰ることができませんでした。そして、残り半分の自宅に帰った人たちも、介護保険と家族介護に頼っている状態で、家族がぎりぎりまで頑張って、疲れ切ったら入院を選ばざるを得ない状況がありました。

 こうした状況下で、患者や家族が市町村やケアマネジャーに相談しても、解決策が見つかることはありませんでした。鹿児島県の離島や本土の(都市部を除く)過疎地域に重度訪問介護制度の利用事例がないため、重度訪問介護を長時間連続で提供できる事業所がない。事業所がないから、ケアマネジャーも市町村も重度訪問介護の利用には思い至らない。または、その制度が解決策になることさえ知らない。そういう実態があったのです(なお、似た状況は、全国各地にあると感じています)。

■ 「どうして鹿児島でできないのか」という素朴な疑問

 鹿児島には、当事者団体である日本ALS協会鹿児島県支部があります。ただし、患者と患者の家族・遺族を中心としたボランタリーな団体であるため、療養相談等は得意とするものの、このような介護問題の解決までは実現できずにいました。

 そこで動き出したのが、支部事務局長を務める里中利恵さん(患者遺族)です。里中さんはピアノ講師をしつつ、患者会の相談活動を続けてきました。その中で、日本ALS協会の理事会に参加するALS患者(橋本操さんや岡部宏生さんなどの皆さんは、24時間の重度訪問介護制度を使い、一人暮らしをし、全国各地を飛び回っています)を見て、「どうしてこんなにも鹿児島の患者と差があるのか。東京でできることが、なぜ鹿児島でできないのか」という気持ちになったそうです。

 その後、里中さんは、東京のALS/MNDサポートセンターさくら会の川口有美子さんに誘われ、「弁護士と障害者の会」が主催するシンポジウムに参加。そこで、2012年の「和歌山ALS訴訟」の勝訴をきっかけに、一人暮らしだけでなく、健常者家族と同居の人工呼吸器利用障害者にも24時間重度訪問介護の支給決定が全国の多くの市町村で当たり前になりつつあると知り、支給決定を受けるためには、交渉や申請書類作成のノウハウが必要であることを知りました。そして全国で24時間重度訪問介護の成功事例があることを聞き、里中さんは鹿児島でもその方法を取り入れてみたいと思うようになったそうです。

 里中さんはまず、鹿児島から沖縄まで広く点在する離島や本土の過疎地で患者がいる地域を回って、役所、患者に関わる医師、看護師、リハビリ職等の専門職、地域の人々へ重度訪問介護に関する説明会や勉強会を重ねました。それと同時に患者や家族自身に24時間ヘルパーを利用するにあたっての心構えを伝えました。ヘルパー研修の講師を本土から離島に派遣したり、逆に受講者に離島から本土に来てもらったりする手配をするなどして、丁寧に種を蒔いていきました。

■ 外部の支援も活用して準備を整える

 里中さんだけでヘルパー事業運営まで行うと手が回らなくなるため、2018年、全国ホームヘルパー広域自薦登録協会(以下、全国広域協会)と連携して24時間重度訪問介護を鹿児島の離島や本土の過疎地で始めることにしました。全国広域協会では、障害当事者が推薦したヘルパーを「公的制度のヘルパー」として障害者団体の運営する全国の指定事業所に登録する仕組みを持っていて、これにより24時間の重度訪問介護を47都道府県のどこでも使えるようにしています。鹿児島でもこの方法を取り、里中さん自身でヘルパー事業の運営をしないで済むようにしました。

■ 無資格者をヘルパーに育てる

 鹿児島の過疎地で重度訪問介護の支給決定が出なかった最も大きな要因は、24時間のサービス提供ができる重度訪問介護事業所がない(=ヘルパーもいない)ことでした。したがって、まずはヘルパーを集め、事業所を準備する必要があります。

 まずは人集めです。例えば、離島では次のようにして人を揃えました。全国広域協会からの拠出金で、本土でヘルパー(採用段階では無資格者含む)を求人して確保。その方たちに給与を払いながら重度訪問介護従業者養成研修(21・5時間)を受講してもらい、本土から離島等に数か月などの単位で赴く形でALS専属のヘルパーになってもらいました。

 一方で、現地の離島では、毎日24時間の重度訪問介護を活用できるだけの時間数の支給決定を受けておきます。そして島でもヘルパーになりたい人を募集し、重度訪問介護従業者養成研修を受講してもらって24時間を交代で回せるだけの人数(常勤4〜5人)を確保。現地でヘルパー数が充実した段階で、本土から派遣されたヘルパーは本土に戻ったり、または他の離島の患者の立ち上げ支援に回ってもらったりしました。

 なお、一連の求人は、全国広域協会傘下にある一般社団法人HKの東京事務所が事務的手続きを担いました。支援するALS患者のいるすべての市町村を勤務地とした求人票を県内10か所以上の職安に出すことで、人を集めました(条件は「1日3交代、1日8時間/週40時間勤務、無資格未経験OK、月給24万円台〜」)。

 本土の過疎地である北部や西部、南部の大隅半島や薩摩半島の地域でも同様に、無資格者を常勤中心に雇用してから、その人たちにヘルパーとしての資格を取得してもらう方法を取りました。

■ 事業所は後から地元に移す

 利用者ごとのヘルパーの登録先の事業所については、最初は利用者近隣の事務所に登録して介護をスタートさせ、その後、正式な登録先に移行させるという方法を取りました。奄美大島の患者であれば鹿児島市の事業所に登録、鹿児島県の北西部に位置する阿久根市の患者は福岡県の事業所に登録しました。なお、与論島の患者については、東京の事業所に最初は登録しました(法的には問題ないことですが、市町村の了解のもとに行っています)。実際に介護を開始させた数か月後に、一般社団法人HKが鹿児島県内にALS専門の事業所を開設し、全利用者がこの事業所にヘルパーの登録を移しました。

■ 蒔いた種が花開いて

 里中さんらの頑張りにより、24時間重度訪問介護利用1例目誕生からたった1年間で、鹿児島県内で10件以上のALS患者の24時間介護事例が生まれています(離島の5市町を含む)。また、24時間の重度訪問介護の申請中事例や支給決定後の介護サービス準備中事例も7例あり、今後も増えることが見込まれます。ほとんどのケースが健常者の家族と同居であり(一人暮らしは離島の1ケースのみ)、毎日24時間またはそれに近い時間数の重度訪問介護の支給決定を受けています。

 長年の準備が一度に花開き、里中さんたちは今、目が回るように忙しい状況でもあるようです。多くのヘルパー(男女)を離島や過疎地で雇用していますが、「ボランティア仲間」とも異なるぶん、志を共にする仲間集めという点に苦労している面もあるのだそうです。ただし、取り組みが軌道に乗ったことで、これまでは寄付を集めて一部を自費負担していた離島への渡航費も、ヘルパー事業所で得た収入を経費として充てられるようになりました。また、全県を飛び回って患者や家族、ヘルパーを支えているスタッフ、現地の相談スタッフを常勤雇用し、さらに新たな運動人材を求人するまでに体制が整いました。

 鹿児島県のALS患者の皆さんは、各地域で訪問診療や訪問看護、訪問リハなども受けながら在宅生活を続けています。これらの人々は、市町村職員や地域の医療関係者たちにとって、かつては「なんとかしたくてもどうすることもできなかった患者」でした。重度訪問介護を利用することで、在宅生活が実現できることを目の当たりにし、彼らは「目からウロコが落ちた」そうです。地域に暮らし方の選択肢が生まれました。

■ 在宅生活を望む人はまだいます ーー在宅は無理と思われていた人ーー

 阿久根市のALS患者・鮫島さんの例です。現在は重度訪問介護で24時間介護体制を組んで在宅生活を送る鮫島さんも、この体制が組まれる以前は、病院に長期間の入院をしていました。入院中、何度も肺炎を繰り返していたため、在宅で生活を送ることに医師が反対していたと言います。しかし、鮫島さんは冬季のインフルエンザが蔓延する時期に家族との面会ができなくなることに耐えられず、在宅での生活を強く望み、「自宅に戻る」と医師に伝えました。

 反対していた医師は「2週間なら自宅に帰っていい」「普段は病院で暮らし、時々自宅に戻るように」と指示を出していました(いったん退院した後ならば、入院中も重度訪問介護を使えます)。しかし自宅に戻って、いざ24時間の重度訪問介護を用いて生活を開始すると、一度も肺炎になることなく過ごすことができました。そして、病院に戻ることもありませんでした。結果的に、医師らも喜んでいるとのことです。

 支援者側が「ALS患者は24時間の介護が必要で、なおかつ体調が安定していないのだから在宅は無理」と思い込んでしまうケースもあります。しかし、このように在宅の各種サービスに重度訪問介護が組み合わさることで、在宅療養が可能な人は少なくありません。

■ 24時間重度訪問介護を必要な人へ届けよう

 地域のALS患者会が全国広域協会と連携し、24時間重度訪問介護の体制を地域で作り出す取り組みは全国各地で広がりつつあります。

 例えば、北海道の帯広地域。患者(東洋美さん)の家族である東洋さんが中心となって、4市町村で6人のALS患者の自薦ヘルパー支援をしています。そのうち4人が24時間介護の体制です。また、石狩地域(札幌の近く)でも、ALS患者家族の松山裕子さん(恵庭市・千歳市)が同様の活動をしています。福島県では、ALS患者家族の長谷川智美さん(郡山市)が活動しており、太平洋側の南相馬市や県南部の石川郡などで24時間の重度訪問介護の支給決定が出て、これから介護体制を組み立てようというところです。富山県、新潟県、長野県、徳島県などにおいても、重度訪問介護の24時間介護体制を作り上げ、これから他の患者や家族の支援をしていきたいというALS患者や家族がいます。

 全国障害者介護保障協議会とその傘下団体の全国広域協会では、地域の小さな患者団体や個人を問わず、制度活用等の問題解決に取り組みたい方を支援しています。公益活動であればさまざまな支援を行っていますので、お気軽に下記のホームページまでお問い合わせください。成功事例も多く掲載しています。


***


 本連載は今回が最終回です。重度訪問介護という制度を活用することで充実した暮らしを可能にしている人がいること、一方で十分にこの制度が知られていないために活用しきれていない現状が、少しでも伝わったのであれば嬉しく思います。訪問看護師さんは地域の数多くの情報に触れる職種の1つです。周囲に該当する方がいたら、ぜひ重度訪問介護に、または私たちにつないでください。

■ 重度訪問介護を利用する人(1)

鹿児島県薩摩郡さつま町の城ケ峰繁さん[ALS]
(写真)ALS協会鹿児島県副支部長を務める城ケ峰さんと、看護師から吸引の方法を学ぶ男性ヘルパー3人。意外にも、ヘルパーには女性だけでなく男性もいることをご存じない方が多いようです。
(※写真は転載許可が出ていないためテキストでのお伝えになります)

■ 重度訪問介護を利用する人(2)

鹿児島県龍郷町(奄美大島)の岡山星子さん[ALS]
(写真)ヘルパー4人が、国立精神・神経リハビリテーション病院の理学療法士・寄本恵輔さん(中央)から人工呼吸器の仕組みやカフアシスト、アンビューバッグの使い方について学んだ後の記念撮影。
(※写真は転載許可が出ていないためテキストでのお伝えになります)

■どなたからの個別相談にも応じます


全国障害者介護保障協議会 http://www.kaigoseido.net
電話:0120-66-0009
メール:o(アットマーク)kaigoseido.net
ウェブサイトには全国各地の事例も満載!

■鹿児島の24時間介護情報【外部サイト】

◇長鹿児島県の離島や過疎地など10箇所以上で24時間介護保障が1年で実現 鹿児島のALS患者会と全国広域協会の連携で




この文章は、大野直之さんと医学書院の提供により掲載されています。




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◆2020/06/15 連載第6回(最終回) 在宅療養を叶える方法として(この頁)/[amazon][公式サイト]



*作成:中井 良平
UP: 20210426
重度訪問介護(重訪) 難病   ◇全文掲載  ◇全文掲載・2020   ◇大野直之 全国障害者介護保障協議会  
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