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「東京都江東区の高齢者施設・北砂ホームのクラスター発生と
ユニオンの江東区交渉の報告」

白崎 朝子(介護福祉士・ライター) 2020/05/21

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last update: 20200525


■本文

白崎 朝子氏のメールより

 4月25日、東京都江東区にある高齢者施設・北砂ホーム(特別養護老人ホーム)の入居者9名が新型コロナウィルス陽性者となった。現在は陽性者51名(内訳:入所者40名、ショートステイ利用者4名、職員7名(5月15日江東区発表)。いま北砂ホームの職員たちは感染拡大を食い止めるため、懸命に現場を支えている。
 北砂ホームを運営する社会福祉法人あそか会には下町ユニオンの職場支部がある。5月14日、下町ユニオン・ケアワーカーズユニオンは、山ア孝明区長宛に「新型コロナウィルス感染対策の緊急の要請」を提出し、緊急要請を行った。
 交渉ではユニオンから6名(事務局長、あそかユニオン3名、ケアワーカーズユニオン2名)が出席。江東区役所からは福祉部長、福祉課長、長寿応援課長、地域ケア推進課長の4名が交渉の席についた。
 区は介護事業所にマスクと防護服の一部を配布したが、「今後の支援は何も決まっていない」と明言。介護現場を支える介護職員や、利用者の不安をまったくかえりみない発言に終始した。
 ユニオンのメンバーからは、北砂ホームと区の高齢者福祉の現状を説明した。「あそか会という大きい法人であったので、北砂ホームは集団感染への対応ができている。北砂ホームは介護職員が感染の恐怖と隣り合わせで介護をしている。自宅待機となった職員も多く、限られた人数で業務を回している。そのストレスは計り知れない。労働環境として非常に問題がある。同じ法人でもう一度クラスターが発生したら、支援体制は完全に崩壊してしまう。小規模な法人施設でクラスターが出た場合は、対応は不可能だろう。行政の支援が絶対に必要だ」と訴えた。
 江東区は特別養護老人ホームばかりでなく、新型コロナウィルスに関する情報共有が不十分な状況だ。担当区域の隣のエリアで感染者が発生しても、長寿サポートセンター(地域包括支援センター)間の情報共有体制がまったくない。
 死亡リスクが高い高齢者をサポートすべき行政が、本当に高齢者の「長寿」を願っているのだろうか。情報共有を含めた速急なサポート体制を構築すべきだ。
 下町ユニオンの加瀬純二事務局長は、他の自治体の対策例をあげて、人材確保や今後の対策の方向性を江東区に尋ねた。
 福祉部長の回答は、区としてもできることについては真摯に対応したいと言いながらも、「区には介護職員がいないので、物理的に派遣できる人員はいない。一法人一施設のようなところで集団感染が出たとしても、その対策について明確な答えは持ち合わせていない」と発言した。
 介護現場が厳しいことは承知していると言いつつ、「予算の裏付けがないなか、危険手当や補償、感染対策費などについて、この場で回答はできない。状況はわかった。問題意識をもって検討したい」と言質を取らせなかった。クラスターが発生した施設職員が聴いたら、どんな気持ちになるだろうか。
 江東区には、5月11日付で212名の感染者がいる。だが福祉部は年齢などの特性を把握しようともしない。「PCR検査や感染者対応は、保健所なので福祉課としては詳細はわからない」と、同じ行政内での情報共有すらも回避している。
 福祉部長の話の後、ユニオンは山ア区長の感謝状(江東区内すべての高齢者福祉、障がい者福祉の事業所に郵送)を読み上げた。そして加瀬事務局長から、クラスター対策など、緊急性の高い対応の必要を強調した。だが、福祉部長は感謝状に記された区長の「全力で取り組んでまいります」という言葉とは、程遠い不明確な発言に終始した。
 ユニオンは、「区内の介護事業者連絡会は事業所の職員が現場で働きながら片手間で運営している。情報発信・連絡・調整は区が担うべきだ」と提案した。関係機関との連絡体制、環境整備、クラスター発生時のシミュレーションをしておくべきと要求。だが、それに対して福祉部は明確な方針を一切示さなかった。
 新たに集団感染が起きたら、区はどう対処するのだろうか。加瀬事務局長は、「介護保険で介護は『社会化』でなく『市場化』になった。自治体は現場をもたないから、全く危機感がない」と憤る。
 加瀬事務局長の現状分析は以下である。
――団塊の世代が後期高齢者になる2025年問題を前にし、新型コロナ感染により介護保険制度の基盤は20年目にして最大の危機を迎えている。欧州ではコロナ死の約半数が高齢者施設に集中している。日本もすでに施設で集団感染が多発している。命を守るために特養など高齢者施設への感染予防対策がまず急がれるべきだ。
 介護現場で懸命に働く職員を守らなければ、ますます人手不足となり、やがて介護の担い手はいなくなり、介護保険制度は破綻。
 介護崩壊が起きれば家族介護に逆戻りし、老老介護、ヤングケアラー、虐待、介護殺人、介護離職が急増するだろう。今、政治が高齢者施策をきちんと打たなければ、超高齢社会の日本に未来はない――
 加瀬事務局長は怒りをあらわに語った。
 取材して感じたのは、現場に丸投げの自治体の無責任さ、冷酷さだった。クラスターは、全部、現場の責任なのか…と愕然とした。江東区のような対応が他の自治体でも起きる可能性は高い。
 江東区は「区には介護職員はいないから派遣できない」という。だが、介護職員でなくてもやれることは山ほどある。トイレ掃除、配膳、利用者へのお茶いれ……。だいぶ前から人手不足の介護現場では無資格者でも採用し、身体介護も含めて働かせている。ましてや地位も補償もしっかりした正規(非正規ではない)の公務員がバックアップに入るのは、行政責任として当然だ。私は介護保険前の1992〜99年、公務員ヘルパーだったから、そう思う。
 現場の介護職員に寄り添う気持ちが全くない江東区には、今後も強く要請していくべきだろう。
 だがそれとは別に、いま北砂ホームを懸命に守っている介護職員たちを支える平場のつながりを構築していきたい。
 いま、そんな呼び掛けを、私のネットワークに広く発信している。


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組織

書籍

全文掲載

立岩 真也



*作成:立岩 真也
UP: 20200523 REV: 20200525
感染症〜新型コロナウィルス  ◇介助・介護  ◇介助・介護:2020  ◇白崎 朝子  ◇コロナ禍の介護現場のいのちによりそい希望をつなぐ〜なかまたちの会(準備会)  ◇全文掲載  ◇全文掲載・2020  ◇『介護労働を生きる』 
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