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24時間365日のつきっきりも実現する
あなたの知らない重度訪問介護の世界

ーー第4回(全6回)「前例なし」は関係なしーー

大野 直之全国障害者介護保障協議会) 2020/04/15

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last update: 20210416


医学書院『訪問看護と介護』2020年4月号p330-333掲載載
大野直之さん全国障害者介護保障協議会)と医学書院の提供により連載(全6回)を掲載いたします



◆大野 直之 2020/04/15 「24時間365日のつきっきりも実現する あなたの知らない重度訪問介護の世界 ーー第4回 「前例なし」は関係なしーー」, 『訪問看護と介護』2020年4月号p330-333, 医学書院
*連載全6回はこちら



長時間の見守りを含み、介助の内容が限定されない「重度訪問介護」。
本制度を有効活用すると、どのように暮らしは変わるのか。
知っているようで知らなかった、重度訪問介護の世界をのぞきます。

全国障害者介護保障協議会
大野直之



■目次

第4回 「前例なし」は関係なし 序文
遅れていた、徳島県の重度訪問介護利用
重度訪問介護+自薦ヘルパー方式に活路を見出す
自立生活センターによる自立生活プログラム
説明資料が要です
スムーズな切り替えのために工夫も
実家を出て、一人暮らしへ
他市に制度活用が広がる
キーワード解説
重度訪問介護を利用する人
ご相談は「全国障害者介護保障協議会」まで
徳島の24時間介護情報【外部サイト】

■第4回 「前例なし」は関係なし

 全国的に見て、重度訪問介護の利用が遅れていた県の一つが徳島県でした。そんな徳島県も今では3つの市で、人工呼吸器を利用する筋ジストロフィー患者やALS患者に、障害者総合支援法に基づく24時間の重度訪問介護が行われています。今回は、同県での「前例がない」という壁を乗り越え、事例が積み重なっていった歩みを紹介します(ちなみに、2017年に石川県で24時間公的介護利用の事例が出たことで、47都道府県全てで「前例」ができました)。


■遅れていた、徳島県の重度訪問介護利用

 2014年時点で、毎日24時間の公的な介護制度(重度訪問介護や生活保護介護料等)の支給事例がない都道府県は、徳島・愛媛・石川・富山・長野の5県でした。ただ、徳島県を除いた4県については、重度の全身性障害者が一人暮らしをしているケース等があり、1日12〜16時間程度を利用する事例もありました。当時の徳島県は、そのようなケースがひとつもなく、さらに遅れている状況がありました。

■重度訪問介護+自薦ヘルパー方式に活路を見出す

 徳島県の状況を変えるきっかけとなったのは、美馬市に住む、筋ジストロフィーで人工呼吸器を利用者している内田由佳さんの存在です。

 内田さんは両親と暮らしており、1日5時間程度の居宅介護や移動支援(障害ヘルパー制度)を使い、それ以外の時間は両親の介護を受けることで生活を送ってきました。しかし、症状の進行により障害が重くなるにつれ、両親の負担も増すことになるため、将来を見通したときには家族の力に頼らない暮らし方を探す必要がある。内田さんはそのように考え始めました。

 しかし、ヘルパーの派遣時間数を増やそうにも、ヘルパー事業所には「ヘルパーの人数が足りていない」と言われ、他事業所を探しても「事故があった場合の責任が取れないので、呼吸器を使用している人には派遣できない」「介護内容が複雑で対応できない」という返答ばかりで、実際に時間数を増やすことができない状況にありました。

 2014年のある日、内田さんは自立生活の方法を求める中でウェブサイト「全国障害者介護制度情報」に出会い、そこで24時間の介護制度の活用例や自薦ヘルパーという方法を知りました。そして、それらの活用を目指し、内田さんは近隣県の自立生活センターに問い合わせ、私たち全国障害者介護保障協議会(以下、協議会)との連携が始まることになりました。

■自立生活センターによる自立生活プログラム

 準備を進めていくにあたり、内田さんは「自立生活プログラム*1」という講座を受けました。自立生活プログラムは、障害者自身が運営する自立生活センター(CIL)が行っている研修で、自立生活をしている障害者が講師になり、新たに自立生活を希望する障害者に対して心構えや技術、ノウハウを提供する狙いで行われるものです。通常、既存のCILの事務所等に行って受講する必要があるのですが、「制度の空白地」であった徳島県は全国のCILも応援したい地域であったこともあり、特例的に協議会が音頭をとって関東・東海・中国・四国のCILの代表が徳島に通い、8回の研修が開かれました。

■ 説明資料が要です

 重度訪問介護の毎日24時間等の長時間利用を申請する際は、通常、市町村職員への説得と交渉が必要であり、(任意ではあるものの)たくさんの説明資料も求められます。これらは一般的に、協議会や各地域のCILに相談しながら、障害者自身で行うケースが多いです(家族や友人等の支援者らが資料を作成し、交渉にあたるケースもあります)。ただ、内田さんの場合は全国のCILからカンパが集まったため、弁護士に依頼することになりました。障害者を弁護士が支援する「介護保障を考える弁護士と障害者の会全国ネット*2」に相談すると、徳島県等の5人の弁護士による弁護団が結成(2014年4月)され、内田さんとともに市との交渉に当たることになりました。

 弁護団はまず市役所に対し、「現在は法的に必要な介護は支給しなければならない≠ニ障害者総合支援法で規定されており、判例も同様であること」「弁護団は市とケンカするためのものではなく、むしろ市の福祉部門の応援のためであること(つまり、福祉部門が重度訪問介護の予算を確保するために、市の内部を説得する上で必要な詳しい情報を、申請書別紙に取りまとめる)」を説明してくれました。

 また、弁護団は、内田さん宅を何度も訪問して介護の状況を記録し、家族への聞き取りを行うほか、主治医への意見書作成を依頼。さらに相談支援事業所の相談員とも連携し、申請書に添付するサービス等利用計画書を準備し、重度訪問介護の申請書と別紙等一式(この別紙が説明資料にあたる)を作り上げました。

 申請書とともに提出する説明資料の存在は重要です。必要な時間数の支給決定を受けるためには、市町村職員や審査会委員の誰もが分かる資料を作成し、提出する必要があります。とくに、支給決定基準(自治体ごとに異なるが、重度訪問介護なら区分6で概ね1日8時間前後と設定している自治体が多い)以下の少ない時間数の申請の場合であれば不要ですが、基準以上を望む場合は説明資料をつける必要があると考えます。

■スムーズな切り替えのために工夫も

 内田さんの弁護団がこれらの資料をまとめ、2015年4月に市に申請。するとその2か月後、毎日24時間(一部2人介護で、合計月800時間台)の支給決定が出ました。これを受け、内田さんの自立生活の準備が整いました。

 なお、この際、従来の居宅介護(介護保険でいう訪問介護のことで、身体介護サービスのために入ってもらっていたもの)の支給決定は取り消さず、そのまま残してもらっています。というのは、重度訪問介護のヘルパーの求人・育成には時間がかかるため、スムーズな移行を行なうためにはその間をつなぐ人員が必要だからです。「同時に使うわけではないこと」を市に説明し、従来の居宅介護事業所も曜日や時間帯によって利用することを認めてもらいました(厚労省の通知により、重度訪問介護と居宅介護は原則として同時に利用できませんが、例外として、重度訪問介護事業所が提供できない時間に別の居宅介護事業所のサービスを受けることはできます)。

 内田さんの重度訪問介護のヘルパーの雇用・育成は、全国広域協会のアドバイスを受けながら行いました。地元のコンビニ等に置かれる無料の求人専門誌に情報を掲載するほか、全国広域協会傘下の法人がハローワークで募ることで、徐々に人を集め、半年ほどかけながら最終的には6人のヘルパーを雇用しました。

■実家を出て、一人暮らしへ

 内田さんは、家族同居のまま24時間介護を支給してもらい、自薦ヘルパーの人数を徐々に増やしながらヘルパーの研修を行って、一人暮らしの体制づくりを進めていきました。自薦ヘルパーのみで重度訪問介護の全時間を利用できるようになったので、2016年3月から徳島市に貸家を借り、美馬市から転居し、一人暮らしを開始。徳島市でほぼ同じ時間数の支給決定を受けられたことで、大きな変化もなく、新生活を始めることができました(移住を見据え、当初より徳島市周辺のヘルパーを採用しており、往復にかかる時間も給与として支払っていました)。なお、この際、内田さんが契約する相談支援事業所も美馬市から徳島市の事業所に変更されましたが、新たな相談支援事業所でも前の相談支援事業所のサービス等利用計画案と同様の計画を作成してくれました。

 その後、内田さんは自立生活センター徳島を立ち上げ、自立を考えている当事者への情報提供や相談業務、広報活動を行っています。立ち上げにあたっては研修を受ける必要があったため、ヘルパーとともに飛行機や新幹線で県外に出て、泊りがけの出張もしています。プライベートでは映画や買い物など、趣味の外出を健常者と同様に行っています。

■他市に制度活用が広がる

 その後、徳島県三好市に住むALS患者・武川修士さんが、協議会への相談の上、内田さんと同じ弁護団に依頼し、24時間の重度訪問介護利用を申請し、支給決定を受けています。内田さんと同じく、既存のヘルパー事業所の利用から、自薦ヘルパーに徐々に切り替える形をとりました。


 さらに吉野川市でも、ALS患者のMさんが24時間の重度訪問介護の活用を開始しました。Mさんは、内田さんや武川さんに関する新聞報道を見たことをきっかけに、協議会に制度活用の方法を問い合わせたそうです。こちらは弁護団を使わず、協議会のアドバイスを受けつつ、別居する娘が申請書一式を作りました。当初、市は24時間の支給に対して「前例がないので難しい」という反応だったようですが、継続的な協議会のアドバイスのもと家族は説明を続け、すでに県内での事例があることを伝えました。また、提出する書類等についても、内田さんの許可を得て書き方を共有してもらうなどして申請書を提出。すると、市は短期間で24時間の支給決定をしてくれました。今では自薦ヘルパーを雇用し、常勤4人の介護チームが育っています。

 徳島県は、最も重度訪問介護の利用が遅れていた県でした。しかし、前例がないところを当事者たちが開拓したことで、徐々に制度の活用が広がるに至っています。その動きをキャッチし、活用の遅れに気付いたマスコミが、内田さんや武川さん、Mさんの生活を継続的に取材し、自立生活という選択肢を県内に伝えていました。それも、「前例」として共有される後押しになったと思います。


***


 その一方で、徳島県鳴門市において、2018年10月、難病の息子をその母親が殺してしまうという痛ましい事件が起こりました。この事件を受けて、内田さんと武川さんが県庁で記者会見を開き、「24時間介護を受けて地域で生きられる選択肢があると知ってほしい」と訴えました。重度訪問介護などの制度を知らない人はまだたくさんおり、知らないがために施設や家から出ずに生活している人も少なくありません。内田さんたちはそうした方々に情報が届くよう、今日も活動を続けています。

■ キーワード解説

*1 自立生活プログラム
自立生活プログラムとは、全国各地に100か所以上ある障害者自身が運営する自立生活センター(CIL)が行っている研修で、障害者が自立生活に必要な心構えや技術を学ぶ研修。講師は、すでに自立生活をしている障害者が担う。施設や在宅の閉鎖的な場所で暮らしてきた障害者は多く、そうした人が社会の中で自立生活をしていくには先人の生活技能が役に立つ。プログラムでは、対人関係のつくり方、介助者との接し方、住宅、外出、障害について、健康管理、トラブルの処理方法、金銭管理、社会資源の使い方等、生活に必要な知識が扱われる。

*2 介護保障を考える弁護士と障害者の会全国ネット
介護保障を考える弁護士と障害者の会全国ネットは、「和歌山ALS訴訟」(家族と同居のALS患者に対して毎日21時間以上の重度訪問介護等の支給の義務付けを裁判所が決定)の勝訴等をきっかけにできた、障害者を支援する弁護士の全国団体。無料相談(一部)のほか、申請書代理業務、不服審査請求代理業務等の経験のある弁護士を斡旋する。
http://kaigohosho.info/


重度訪問介護を利用する人

(写真1)徳島県・徳島市の内田由佳さん[筋ジストロフィー]
(写真2)ベッド上でパソコンを操作。文章作成やメールを行える。
(写真3)車に乗り込んで外出。飛行機や新幹線での出張もしている。
(写真4)ヘルパーとともに、ホームセンターで買い物も。気兼ねなく外出できるようになった。 (※写真は転載許可が出ていないためテキストでのお伝えになります)

■どなたからの個別相談にも応じます


全国障害者介護保障協議会 http://www.kaigoseido.net
電話:0120-66-0009
メール:o(アットマーク)kaigoseido.net
ウェブサイトには全国各地の事例も満載!

■徳島の24時間介護情報【外部サイト】

◇重度訪問介護長時間支給の空白県だった徳島県での筋ジス呼吸器利用者内田さんの24時間介護制度交渉と自立生活
◇徳島県で3番目の24時間重度訪問介護事例の紹介
◇徳島県の24時間重度訪問介護の事例
ーー徳島県 筋ジス(呼吸器利用) 家族同居(のちに1人暮らし)重度訪問870時間ーー





この文章は、大野直之さんと医学書院の提供により掲載されています。




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*作成:中井 良平
UP: 20210408 REV:20210416
重度訪問介護(重訪) 難病   ◇全文掲載  ◇全文掲載・2020   ◇大野直之 全国障害者介護保障協議会  
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