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24時間365日のつきっきりも実現する
あなたの知らない重度訪問介護の世界

ーー第3回(全6回) 離島でも24時間のケアは実現できますーー

大野 直之全国障害者介護保障協議会) 2020/03/15

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last update: 20210414


医学書院『訪問看護と介護』2020年3月号p242-245掲載載
大野直之さん全国障害者介護保障協議会)と医学書院の提供により連載(全6回)を掲載いたします



◆大野 直之 2020/03/15 「24時間365日のつきっきりも実現する あなたの知らない重度訪問介護の世界 ーー第3回 離島でも24時間のケアは実現できますーー」, 『訪問看護と介護』2020年3月号:242-245, 医学書院
*連載全6回はこちら



長時間の見守りを含み、介助の内容が限定されない「重度訪問介護」。
本制度を有効活用すると、どのように暮らしは変わるのか。
知っているようで知らなかった、重度訪問介護の世界をのぞきます。

全国障害者介護保障協議会
大野直之



■目次

第3回 離島でも24時間のケアは実現できます 序文
ドイツからの問い合わせ
「壱岐市でも重度訪問介護をやろう」
申請書類作成にもひと工夫の余地あり
事業所開設という選択
自宅での生活に戻る
1つの事例が残したもの
キーワード解説
重度訪問介護を利用する人(1)
重度訪問介護を利用する人(2)
ご相談は「全国障害者介護保障協議会」まで
壱岐の24時間介護情報【外部サイト】

■ 第3回 離島でも24時間のケアは実現できます

 長崎県壱岐市(壱岐島)。福岡県と対馬の間に位置する離島で、長崎空港からは飛行機で約30分、博多港からは高速船で約1時間の距離にあり、約2万6千人が住んでいます。「社会資源が乏しいのでは?」とも思われそうなこの島においても、重度訪問介護を利用し、自宅で暮らす人がいます。


■ドイツからの問い合わせ

 「壱岐島に住む父がALSになった。家で暮らしていくために24時間の重度訪問介護を使いたい」。そんな連絡を私たち全国障害者介護保障協議会(以下、協議会)が受けたのは2013年のことでした。連絡主は娘のクラウゼ江利子さん。なんと、ご自身はドイツに住んでいるといいます。

 クラウゼさんは、父である吉永徳光さん(当時78歳。夫婦2人世帯)がALSの診断を受けたことを機に、日本で利用できるサービスをインターネットで調べ、「重度訪問介護」という制度の存在を知りました。しかし、壱岐市では利用者がおらず、そのサービスを提供できる事業所がないどころか、医療・福祉職・自治体関係者に周知されていない状況に直面。そこで情報を求めてたどり着いた先が協議会だったとのことでした。

 ひとまず、私たちは協議会のホームページに掲載している過去の事例を読んでもらい、全国各地で重度訪問介護制度の利用ができていることを知ってもらいました。その上で、重度訪問介護での24時間体制の構築に向け、実作業を担うクラウゼさんに対してメールやスカイプの音声通話などを通じ、定期的にアドバイスを送ってサポートしていきました。

■「壱岐市でも重度訪問介護をやろう」

 当時の壱岐市内は、重度訪問介護について詳しい人が誰一人いないという状況でした。クラウゼさんは短期帰国をくり返しては、全国各地に点在する24時間の重度訪問介護を実現している家族・関係者に話を聞き、その足で壱岐市に戻り、市内の医療・福祉・自治体関係者に伝える……という日々を送っていました。

 その中で最初に理解を示してくれたのは、壱岐市内の訪問看護事業所の所長です。その方が市内の病院院長につないでくれ、急遽、関係者会議が開催されることに。クラウゼさんは協議会のアドバイスのもと、他地域の事例や国で作られている資料を準備し、集まった医療・福祉職、自治体職員に対して重度訪問介護の制度とその必要性について説明しました。すると、院長は「今後、壱岐市でも重度訪問介護をやろう」と賛同し、体制構築に向けて前向きに動き出すことが決まりました。

 「離島でできるはずがない」といった周囲の意見は根強くあったといいます。それでも、クラウゼさんたちはそうした声に屈することなく、地道に準備を進めていきました。

 なお、こうした「声」の存在は全国どこにおいても見られるもので、特に医療・福祉・自治体関係者側が口にしがちな言葉です。専門家らのそのような声に萎縮してしまう当事者・家族もいますが、経験から言って、社会資源に乏しいと思れがちな離島であってもできることは強調しておきたいと思います。

■ 申請書類作成にもひと工夫の余地あり

 重度訪問介護の申請には、障害や介護内容に関する細かな資料や、家族が介護できないことを説明する資料が必要になります。クラウゼさんはそれらを一時帰国して用意したり、ドイツで作成したりしました。

 申請にあたって必要なのが、例えば、24時間の重度訪問介護を盛り込んだ「サービス等利用計画案」というものです。障害者の場合、指定事業所である特定相談支援事業所で作ってもらうことができますが、介護保険対象者の場合はケアマネジャーがそれを代行することになります。

 吉永さんは介護保険対象者であるため、後者のケースにあたり、ケアマネジャーに作成してもらうのが通常のパターンになります。しかし、ここには特例があり、外出など障害者福祉独自のサービスを利用する場合であれば、市の了解のもと、相談支援専門員に作成を依頼することができます*1。

 吉永さんの計画案作成についてもこの特例を利用し、ケアマネジャーではなく、山口県下関市の自立生活センター(24時間の重度訪問介護利用者への支援を多数行っている団体)が運営する相談支援事業所に依頼しました。その理由は、当事者の実態にあった時間数の支給を受けるためには、制度とその事情により詳しい人が計画案の作成に携わることが勧められるからというものです。なお、定期的に下関から壱岐に来てもらうのは難しいので、「支給決定後は障害者自身が計画を作るセルフプランに変更すること」を前提に依頼しました(申請書作成の過程においても、こうした細々とした工夫とノウハウがあります)。

 市との細かい話し合いなどには、クラウゼさんが帰国して対応してくれました。吉永さんは気管切開になる前の段階でしたが、市は月744時間(毎日24時間)という希望通りの重度訪問時間数の支給決定をしました。

■ 事業所開設という選択

 無事に支給決定は出たものの、市内にもともとあった2つの訪問介護事業所では重度訪問介護の利用ができませんでした。最重度障害者の24時間の介護には通常、常勤ヘルパー5人程度(日勤・夜勤を半々でできる人)の雇用が必要となりますが、いずれの事業所も登録ヘルパーが主婦中心のため、長時間派遣や夜中の対応ができなかったのがその原因です。社会福祉法人が運営する事業所に対しては「新たに専用のヘルパーを雇用する方法」なども提案してみましたが、「既存ヘルパーの時給の2倍になってしまう」ことがネックとなって実現できませんでした。

 そこで市内の既存の事業所に頼らず、「自薦ヘルパー方式」(第2回で解説)を選択。介護保障協議会の傘下団体である全国ホームヘルパー広域自薦登録協会を通じ、壱岐市で求人したヘルパーを下関市の重度訪問介護事業所に登録し、利用することにしました。

 ヘルパーの募集には民間の求人会社と公共職業安定所を利用し、「無資格未経験歓迎」と記載した広告を出稿しました。その結果、地元で常勤(無資格者3人と2級1人、准看護師1人)と非常勤1人(准看護師)の計6人を採用することができました。

 採用したヘルパーの教育も必要です。まず、無資格者には東京で行うNPO法人広域協会の重度訪問介護ヘルパー研修(講義10時間+自宅実習10時間)を受講してもらい、リーダーになる1人はピアサポート団体であるALS/MNDサポートセンターさくら会と広域協会において2日間の研修をしてもらいました。こうして、2014年6月、重度訪問看護を毎日利用する生活が始まりました。

 勤務シフトは昼夜2交代制とし、24時間全てをカバー。常勤は週3回勤務を基本とし、日勤・夜勤を担うことになりました。

 3か月後、全国ホームヘルパー広域自薦登録協会の直営法人である広域協会が壱岐市に専用の介護事業所を設置したので、ヘルパーの登録先を下関市の重度訪問介護事業所からそちらへ移しました。

■ 自宅での生活に戻る

 重度訪問介護サービス利用開始前、気胸をきっかけに吉永さんは一時期入院となりました。その間に、ヘルパー全員が吉永さんへの吸引等の指導を受けました。

 無事に自宅に戻ってからは、当初こそヘルパーがひと晩に何度も訪問看護師を呼ぶといったこともあったようですが、徐々に訪問看護や訪問医との連携がうまくなり、生活も落ち着いていきました。ヘルパーは数か月で全員が意思疎通、吸引、外出介護を含めた24時間全ての介護ができるまでになったそうです。

 吉永さんが利用した制度は、医療保険(訪問医・訪問看護・訪問リハ 註1)、障害福祉の地域生活支援事業(訪問入浴)と重度訪問介護、介護保険(訪問介護 註2)です。意思疎通できるヘルパーが1日2交代で24時間付き、そこに訪問看護等の専門職がやってくるという形となっています。なお、介護保険の訪問介護は、身体介護が集中するナイトケア時間帯などに利用しますが、制度が切り替わっても同じヘルパーが継続して担当しました。

 クラウゼさんはドイツにいるときもヘルパーチームとウェブでつながり、チャットや通話で話を聞ける体制を整えていました。遠隔でありながらも日常的にコミュニケーションを図れるという環境は、ヘルパーにとっては精神的なサポートとなったようです。


註1 いずれも重度訪問介護と重ねて利用可
註2 重度訪問介護と同じヘルパーで利用(セルフプラン)

■ 1つの事例が残したもの

 その後、吉永さんは障害が進み、2017年2月、入院先の病院で亡くなりました。入院中、ヘルパーは自宅で暮らしているときと同じシフトで付き添い、院内での日々を支えました(重度訪問介護は入院中も利用可)。

 クラウゼさんは経験を活かし、全国のALSの方を中心に重度障害者・家族へのアドバイザー活動を始めました。住まいの拠点は今も変わらずドイツですが、年数回は帰国し、支援のために全国各地を回っています。

 また、壱岐市では、別のALS患者さんが24時間の重度訪問介護の利用を始めました。そこでは、以前クラウゼさんのお父さんを支えていたヘルパーチームが活躍しており、その方の日々の暮らしを支えています。

 離島である、壱岐市での重度訪問介護制度による24時間支援体制は、当初、周囲から「できるはずがない」と指摘されることもありました。しかし、結果的には実現でき、そしてこれだけ多くのものを残しています。

■ キーワード解説

*1 介護保険と障害福祉の適用関係
「障害者自立支援法に基づく自立支援給付と介護保険制度との適用関係等について」(平成19年通知)」の文書の該当部分
「利用可能な介護保険サービスに係る事業所又は施設が身近にない、あっても利用定員に空きがないなど、当該障害者が実際に申請に係る障害福祉サービスに相当する介護保険サービスを利用することが困難と市町村が認める場合は、当該事情が解消するまでの間に限り、介護給付費又は訓練等給付費を支給して差し支えない」

国の通知(適用関係についての通知、事務処理要領など)で全国共通ルールとなっていますが、下記2つを把握していない市町村は多いです。その場合は、市町村職員に通知を見せ、厚労省に電話確認してもらう、といった手続きが必要になる場合もあります。

(1)原則は介護保険を使い切ります(なお、訪問入浴を週3回使うなどで要介護5の35万円の半分以上がなくなります。あとはリフトやベッドや車いすを借りたり、身体介護などを毎日1時間使ったりすることで使い切ることになるはずです)。
(2)介護保険の身体介護などを適切に提供できる事業所が見つからない場合、通知の特例により、提供できる事業所が出るまでは介護保険を使い切らなくても障害福祉制度(重度訪問介護等)を使えます。なお、例えば「介護保険では吸引を行えないヘルパーしか、サービスを提供できるヘルパーが周囲にいない」等も理由になります。

■ 重度訪問介護を利用する人(1)

長崎県・壱岐市の吉永徳光さん[ALS]
(写真)利用者とサポートチームの集合写真。左から3番目が妻で、他はヘルパーたち。新規事業所を開設し、ヘルパーは全て地元で採用した。
(※写真は転載許可が出ていないためテキストでのお伝えになります)

■ 重度訪問介護を利用する人(2)

長崎県・壱岐市の吉永徳光さん[ALS]]
(写真)ヘルパーとの外出の様子。重度訪問介護の経験がない人でも適切な教育を受ければ十分に外出支援が可能だ。
(※写真は転載許可が出ていないためテキストでのお伝えになります)

■どなたからの個別相談にも応じます


全国障害者介護保障協議会 http://www.kaigoseido.net
電話:0120-66-0009
メール:o(アットマーク)kaigoseido.net
ウェブサイトには全国各地の事例も満載!

■壱岐の24時間介護情報【外部サイト】

◇難病ALSの父が家に帰れた
◇離島の長崎県壱岐での最近のALS関係の情報




この文章は、大野直之さんと医学書院の提供により掲載されています。




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*作成:中井 良平
UP: 20210408 REV:0414
重度訪問介護(重訪) 難病   ◇全文掲載  ◇全文掲載・2020   ◇大野直之 全国障害者介護保障協議会  
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