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24時間365日のつきっきりも実現する
あなたの知らない重度訪問介護の世界

ー第2回(全6回) 専門職の口コミが大切ですー

大野 直之全国障害者介護保障協議会) 2020/02/15

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last update: 20200616


医学書院『訪問看護と介護』2020年2月号p158-161掲載
大野直之さん全国障害者介護保障協議会)の提供により連載(全6回)のうち第1回、第2回を掲載いたします



◆2020/02/15 大野直之 「24時間365日のつきっきりも実現する あなたの知らない重度訪問介護の世界 ー第2回 専門職の口コミが大切ですー」,『訪問看護と介護』2020年2月号,医学書院
*連載第一回はこちら



長時間の見守りを含み、介助の内容が限定されない「重度訪問介護」。
本制度を有効活用すると、どのように暮らしは変わるのか。
知っているようで知らなかった、重度訪問介護の世界をのぞきます。

全国障害者介護保障協議会
大野直之



■目次

専門職の口コミが大切です 序文
秋田初の自薦ヘルパー方式誕生
口コミで広がった秋田県の重度訪問介護
24時間の支援で、1人暮らしも実現
専門職の口コミ力に期待しています
重度訪問介護を活用する人 秋田県の故・松本茂さんと、長門輝美さん[いずれもALS]
重度訪問介護を活用する人 秋田県の安保瑠女さん[ALS]
キーワード解説
ご相談は「全国障害者介護保障協議会」まで


■ 第2回 専門職の口コミが大切です

第1回では、都市部ではすでに数千人単位の重度訪問介護制度の利用者がおり、近年ようやく全国の農山村地域や離島の利用も増えつつあること、しかしいまだ多くの自治体や医療者の間でこの制度の存在や仕組みが知られていないがために、利用に至れぬ人が多いことを説明しました。

そうした状況にあって、秋田県では重度訪問介護の利用者がじわりと広がっています。決して大都市とは言えぬ東北北部の同県において、なぜ重度訪問介護が広まりを見せているのか。今回はその背景となっているエピソードと、実際に利用している方はどのような生活を送っているのかをご紹介します。


■秋田初の自薦ヘルパー方式誕生

秋田県はもともと、ALSに限らず、重度障害者の長時間のヘルパー利用実績がほとんどない県でした。そうした中、今から20年ほど前に秋田県大潟村に住む、日本ALS協会の名誉会長であった故・松本茂さん(ALS患者で人工呼吸器を利用)が、自費で数人のヘルパーを雇って24時間介護体制を組んだ生活をスタートさせました。現行の重度訪問介護の制度が整うよりもずっと前のことです。

2003年の制度改正により、ヘルパー派遣事業をNPO法人や営利法人が運営できるようになりました。その改正を受け、私たちの団体(全国障害者介護保障協議会と、事業所実務を行なう「全国ホームヘルパー広域自薦登録協会」)が、松本さん宅にヘルパー事業所を設置することになりました。

また、制度改正に伴って障害ヘルパー制度(当時は別名称で、現在の重度訪問介護に当たる)の支給時間が十分に伸びたため、もともと自費で来てもらっていたヘルパーを「松本さん専任」として事業所で雇用し、介護保険と障害福祉の公的なヘルパー制度で派遣する「自薦ヘルパー方式」の体制をとることに。これにより、松本さんの自己負担もなくなりました。


■ 口コミで広がった秋田県の重度訪問介護

松本さんは「自薦ヘルパー方式」を県内の他のALS患者などにも勧めましたが、最初の5年間は同じような仕組みを整えて生活しようという人は現れませんでした。「介護保険だけを使い、家族が24時間体制で介護するのが当たり前」という感じで、障害ヘルパー制度の申請をためらう方々ばかりだったようです。

その中、白神山地の麓にある秋田県最北端の八峰町に住んでいた長門輝美さん(ALS患者)が、県内で2人目の自薦ヘルパー方式の利用者となりました。長門さんも松本さんと同様、介護保険と障害福祉の重度訪問介護を合わせ、1日24時間近い自薦ヘルパーの時間を利用しながら生活を送り始めたのです。

2人目の事例をきっかけに、その後15年をかけ、秋田県では重度訪問介護および自薦ヘルパー方式がじわじわと広まっていくことになります。その要になったのが、訪問看護師やケアマネジャーの存在でした。

訪問看護師やケアマネジャーは日々の仕事で、さまざまな職種と連携します。そのような中、勉強会や現場における医療関係者の横のつながりによって、「人工呼吸器を利用する難病患者や重度障害者のための重度訪問介護という制度と、自薦ヘルパーによる24時間介護という方法があるらしい」という口コミが広まっていったのです。

その結果、北部の過疎地で始まった24時間重度訪問介護の利用が、その後、県の中央や東部、南部でも出てきて、県内で20件と一気に増えることになりました。そして、ほとんどが自薦ヘルパー方式を取り、1つの事業所を使っています。
家族同居の人がほとんどですが、1人暮らしを実現している方もいます。今回は秋田市で1人暮らしを実現している安保瑠女さんを紹介しましょう。


■ 24時間の支援で、1人暮らしも実現

安保さんは自薦ヘルパーを使いながら24時間介護を実現している方で、ALSで気管切開の人工呼吸器利用者です。自薦ヘルパーを常勤を中心に5人ほど雇用し、1日2〜3交代制の勤務シフトを組むことで、親元を離れて1人暮らしをしています(安保さんの週プランは図の通り)。

安保さんは10年ほど前、秋田県外で仕事をしていたときにALSと診断されました。診断を受けた後、秋田県北の藤里町に戻り、実家で親の介護を受けながら1日24時間の重度訪問介護を申請。支給決定を受け、自薦ヘルパーを使い始めました。
安保さんは生活を続ける中、「同じ境遇にいる難病者や障害者の支援をする活動をしたい」と考えるようになり、秋田市内に家を借りて転居。自薦ヘルパーの力を借りながら、1人暮らしの生活を送ることにしました。

なお、転居した際の支給決定内容についてですが、秋田市は藤里町の支給決定内容を引き継ぎ、毎日24時間重度訪問介護の時間を支給しました。市町村への説明や自薦ヘルパーの雇用・育成方法などのノウハウが必要となりましたが、そのあたりは障害者団体のアドバイスを受けながら、安保さん自身で今の生活を整えていきました。

現在、安保さんは、日本筋ジストロフィー協会秋田県支部に所属する鷲谷勇孝さん(筋ジストロフィーで、同じく自薦ヘルパー利用)とともに「CILくらすべAkita」という団体を設立。当初の希望の通り、人工呼吸器利用者の自立生活に関する映画の自主上映や講座開催などを通して、障害者やその関係者・医療者への啓発活動を開始しています。


■ 専門職の口コミ力に期待しています

秋田県では、1人のALS患者が重度訪問介護を使い始め、それが訪問看護師やケアマネジャーなどの専門職の口コミで広まることにより、県内各地で利用者が続きました。地域に点在する専門職の横のつながりの強さに気付かされるとともに、専門職が有用なサービスの存在を理解して告知すれば、きちんと必要としている人に届き、その人が自分らしい生活を送る手助けができるのだと実感します。

今回ご紹介した安保さんも、間違いなく、そうした広がりの中で本制度を使うに至ったお1人です。専門職の皆さんの口コミにはそれだけの力がありますので、重訪問介護にたどりつけていない方がいれば、ぜひ本制度の存在をお伝えください。

現場の専門職の方々に今後も期待しています。


■ 重度訪問介護を活用する人

□秋田県の故・松本茂さんと、長門輝美さん[いずれもALS]

奥の車椅子が長門さん。長門さんが、収穫期の松本さん(手前の車椅子)の田んぼを応援に来たときの1枚。

人工呼吸器を付けたままコンバインに乗って稲刈りに参加する松本さん(手前右)。この写真が「人工呼吸器をつけることへの後押しとなった」という当事者・家族は少なくない。


□秋田県の安保瑠女さん[ALS]

自宅でPC操作の準備をするところ。わずかに動く部位にワンスイッチのマウスをつけ、PCを操作している。

買い物風景。外出時はヘルパーを2人、同時間帯に利用する。重度訪問介護では、介護保険にはない外出の介護が認められている。
青森で行われたイベント参加時の写真。前列中央が安保さん、右が鷲谷さん。
気管切開をする前の安保さん。当時は鼻マスク型の呼吸器を利用。東京に出掛けたときは電車で移動した。


■キーワード解説

□*1 自薦ヘルパー(方式)

重度訪問介護等において、障害者自身で確保した介助者を、自分専用であるけれど制度上のヘルパー(=自薦の登録ヘルパー)として利用する仕組みが設計されている(ただし、雇い入れる障害者と家族が労働基準法などを守って適切に行えるかの審査はある)。

自薦ヘルパー採用後は、全国障害者介護保障協議会傘下の全国ホームヘルパー広域自薦登録協会を通じ、各県の障害者団体のヘルパー事業所などにヘルパーとして登録される。これにより制度上は通常のヘルパー利用となり、そのヘルパー事業所から利用時間の範囲内で給与が払われるが、働き方としては「雇い入れた当事者専用のヘルパー」になる。なお、「自薦ヘルパー(方式)」は公的な名称ではなく、障害者団体が運用方法に名前を付けたもの。

2002年までは障害者団体が各市町村と個別に交渉し、市町村が自薦ヘルパーの制度を整えている状況だった。しかし、制度の変更を受け、2003年度から障害当事者団体が全国47都道府県で居宅介護(ヘルパー)指定事業者になれるようになったので、実質、全国どこでも自薦ヘルパーが使えるようになっている。


□*2 重度訪問介護制度利用時の自己負担

重度訪問介護の制度を利用するにあたっての自己負担は、たいていの利用者の場合は0円。ただし、夫婦の所得が多い場合は何百時間利用でも月37200円が負担上限、介護保険と併用の場合は介護保険の自己負担と合わせて月37200円が負担上限と、個別に変動する要素もある。




この文章は、医学書院と大野直之さんの提供により掲載されています。
連載の続き(第3回以降)は 『訪問看護と介護』をご覧ください。




◆2019/12/27 連載第1回 重度訪問介護の制度ってなんだ [amazon][公式サイト]
◆2020/02/03 連載第2回 専門職の口コミが大切です(この頁) [本サイト掲載][amazon][公式サイト]
◆2020/03/02 連載第3回 離島でも24時間のケアは実現できます [amazon][公式サイト]
◆2020/03/30 連載第4回 「前例なし」は関係なし [amazon][公式サイト]
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*作成:中井 良平
UP: 20200608 REV: 20200609, 12, 16,
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