HOME > 全文掲載 >

中村佑子「私たちはここにいる――現代の母なる場所[第12回(最終回)]」を読んで

村上 潔MURAKAMI Kiyoshi) 20200130−

Tweet
last update: 20200131


◆中村佑子 20200106 「私たちはここにいる――現代の母なる場所[第12回(最終回)]」『すばる』42-02(2020-02): 156-177

◆立命館大学産業社会学部2019年度秋学期科目《比較家族論(S)》(担当:村上潔)
「マザリング[Mothering]の現在――をめぐる議論と実践の動向」
第15回:「母体・ケア・自然――時間的・空間的・生命的連関」(2020/01/17)
――で提示した要点のまとめ

◇「出産」=「死」の経験/時間/世界
◇「母なる経験」とは:「あたたかで安定感のあるものではなかった。もっとラジカルで、不安定で、生の裏側から「この生」を眺めるような、自分がこれまでいた場所が夢かなにかだったのではないかと、世界が崩れ去るような経験だった。」(p.160)――この世界とは(地続きだが)別の秩序
◇身体の予兆/変化によって現出する「〔現代の世の中では潜在的に〕隠されている」「女性性」:現代/文明が疎外しているものを明るみに出す
◇[健康・健全・正常(な身体・精神)]=[管理・統制・抑圧(する文明・社会)]に対する違和感・怒り・叫び:女性の「不安定」さ・「爆発」――に変革の可能性を見出す
◇「「母」を社会的、政治的役割から解放してあげたとき、これまで見てきたように、「母」とは非常にラジカルな概念であるのではないか。」(p.176)――意味・機能の転用・活用
◇「まだ語られていない身体性、まだ語られていない女性性、あるいは現代社会がとりこぼし、忘却することで成り立ってきたものを思い出すこと、呼び戻すこと。現代が疎外しているものは、何かを感じとること。|弱い身体を抱えて、打ちつけてくる波に身体がたえず揺られている人たち。生きにくさを感じているのなら、死のうとするのなら、声をかけ続け、呼び戻し、こちら側に、世界がもう一つあることをしらせたい。|もうそれは「母性」という言葉ではないかもしれないが、それでも私は、「母」であることは、生きていて欲しいと願うことだと信じたい、というよりも、そうでありたいと思っている。生命のあらゆる姿形を受け容れるものだと。」(pp.176-177)――人間社会/中心の生命観に対するオルタナティブ:生命の多様性・可変性・共同性 cf.「アース・デモクラシー」
◇「この「母」を経験してきた名もなき無数の女性たちの想いが、私をとおして糸をつなぎ、結びめを作り、つないでつながれていった先に、この静かな地平までたどりついた気がしている。」(p.177)――生命体系の再生産=サブシステンスの営み:エコフェミニズム(Ecofeminism)


◆「水」について
私たちは、水を「コントロール」するのに必死だ。
たしかにそれが必要な場合もある。
ただ、水が本来、女の身体の内と外を――母と子を――、海の世界と人間世界とを――生と死を――、つなぐものであるなら、その機能はひとまずありのままに確保されるべきだろう。
水をどうコントロールするか、マネジメントするか、ではなくて、私たちがいかに水に適合するか、水のようになるか、が本来の問題なのだと思う。
流れ出るもの、溢れ出るもの、満ちてくるもの。その周期や過程を受け止め、感じとり、他の――外の/遠くの/人以外の――生に、過去の生に、アクセスする。水はその回路(水路)を私たちに開く。それが、誰かの力で閉ざされたり、固められたりしないように、私たちは注意しなければならない。

■言及+中村さんからの応答

◇kiyoshi murakami(@travelinswallow)
中村佑子さんの『すばる』誌連載「私たちはここにいる――現代の母なる場所」の最終回(1月6日発売の2月号掲載)の内容を、マザリングをテーマにした私の授業の最終回(1月17日)で紹介することができました。一応なんとか、最後まで「伴走」できた……ような気がしています。
http://www.arsvi.com/d/2019cafs.htm#15
[2020年1月20日23:37 https://twitter.com/travelinswallow/status/1219267611889827840

◇中村佑子 Yuko Nakamura(@yukonakamura108)
[2020年1月20日23:57 https://twitter.com/yukonakamura108/status/1219272713597902853

◇kiyoshi murakami(@travelinswallow)
@yukonakamura108 思い起こせば、(今年度の)初回の授業で連載第10回の抜粋朗読をしていたんでした……。
http://www.arsvi.com/d/2019cafs.htm#01
そして、中盤で「産婆・魔女」でシンクロして……。
http://www.arsvi.com/d/2019cafs.htm#07
まさしく「伴走」でしたね。。感慨深いです。
[2020年1月21日16:16 https://twitter.com/travelinswallow/status/1219518996262731776

◇中村佑子 Yuko Nakamura(@yukonakamura108)
[2020年1月21日22:12 https://twitter.com/yukonakamura108/status/1219608671438557184

■引用


■本連載に関するページ

◆20181001− 「中村佑子「[連載]私たちはここにいる――現代の母なる場所」を読んで【集約】」


*作成:村上 潔MURAKAMI Kiyoshi
UP: 20200130 REV: 20200131
全文掲載
TOP HOME (http://www.arsvi.com)