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「日本における障害のある教員の当事者運動史」
(障害学国際セミナー2019 ポスター原稿)

栗川 治(Kurikawa, Osamu) 2019/10/13 障害学国際セミナー2019,於:武漢

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last update: 20191016


■「日本における障害のある教員の当事者運動史」(障害学国際セミナー2019 ポスター原稿)


立命館大学大学院先端総合学術研究科大学院生
栗川 治


報告テーマ: 「日本における障害のある教員の当事者運動史」


背景と目的

日本の教育現場では、障害のある教員は、一部の例外を除いて、ほとんど存在してこなかった。1970年代から障害教員当事者運動が胎動し始め、徐々に障害教員が存在するようになり、当事者団体も結成され、運動も展開されていったが、これまでこの運動に関する学術研究は、障害、教育、労働の各運動の谷間、周縁にあり、各学問分野では研究対象とならなかった。本研究では、障害者雇用やインクルーシブ教育など、重要な社会問題の一角を占める「障害教員運動」そのものに着目し、主要な団体の結成と主張の特徴に応じて4つの時期に区分し、その歴史を明らかにする。


日本における障害のある教員と、その当事者運動の歴史

(1)黎明期 (中世から1970年代)

・中世・近世: 盲人の職能互助団体としての当道座における音曲、鍼按の師匠
・近代: 盲学校の音楽科、理療科教員
・第二次世界大戦前後: 傷痍軍人の教員
←これらは当時の社会通念からすれば例外的な存在。一般の学校の教員に障害者はいない。教員が障害者になった場合は、教員を辞めるのが当然とされていた。
・1970年代: 障害のある教員の採用、雇用継続を求める障害者運動が始まる
→点字による採用試験実施、普通科全盲教員の誕生

(2)勃興期 (1980年代〜)

・「全国視覚障害教師の会」結成(1981年): 日本で最初の障害教員の当事者団体・「全国聴覚障害教職員協議会」結成(1994年)
←この2団体は障害種別の障害教員当事者団体。交流と研修を通じて、自らの集合的アイデンティティーの確立、「障害があっても教師はできる」ことを示すことを模索。

(3)激動期 (1990年代から2000年代前半)

・障害教員の増加、顕在化
→障害教員を学校現場でどのように処遇するかが、雇用者側にとっても問題となる。
・東京都教育委員会が「要配慮教員制度」策定(1990年): 障害のある教員などが「指導力不足」として、教壇から外され、研修を強制される。
・「『障碍』を持つ教師と共に・連絡協議会」結成(1991年): 日本で最初の、障害種別を超えて組織された、障害教員の当事者運動団体。
「ノーマライゼーションは教育現場から!」「障碍を持つ教師が働き続けることができる『権利保障制度』の確立を!」をスローガンに、運動を展開。
→文部省、東京都議会に「権利保障制度」を求める請願署名を提出、都議会では主旨採択。
・「権利保障制度」の内容: ?障害に応じて仕事の補助者を置く、?勤務内容を軽減して人的配置も講じる、?必要な補助機器の導入、施設の改善を図る、?勤務時間内の医療機関への定期通院を認める、?職場の異動には通勤、通院などの事情を配慮する。
「できないことを補う」だけでは働けない、勤務の軽減が必要と主張する障害教員
⇔「サポートがあれば他の人と同じように働ける」と主張する障害教員
多用な障害、より重度の障害のある教員を、どこまで支援するかの運動の方針をめぐって執行部内の対立が激化、相互批判で不信感が増大
→運動の絶頂期に障教連が分裂(1996年)、運動は停滞。

(4)展開期 (2006年以降)

・国連で障害者権利条約制定(2006年): 日本国内でも条約批准へ向けた国内法制度の整備が課題となる。
→障害教員問題も、国の教育政策、労働政策のテーマとして浮上。
・各当事者団体は個別の活動を行う。
・日本教職員組合が「障害のある教職員ネットワーク」結成(2014年)

結論

1970年代以降、日本において障害のある教員の数は徐々に増えてきた。彼らは教育現場で働き続けることを求めて、当事者団体を組織し、社会運動を展開してきたことが本報告で明らかになった。彼らの主張には、障害教員を排除してきたこれまでの教育現場、教育行政、雇用労働政策の問題点を浮き彫りにするさまざまな論点が示されている。本研究で提示された各論点の考察をさらに深めることが、障害のある教員をも含めたインクルーシブな学校、社会を創造していくことの一助となるだろう。



*作成:小川 浩史
UP: 20191016 REV:
障害学国際セミナー 2019 障害者の権利条約  ◇精神障害/精神医療  ◇難病 nambyo  ◇全文掲載
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