息子であり、夫であり、父親でもある一人の男性の愛情の優先順位は、まず、自分の「生殖家族(family of procreation)」に向けられるよう規範化されている。また、夫−妻のカテゴリー対を強調する現代の「夫婦家族」の規範のもとにあっては、母−成人し△46/47▽た息子カテゴリー対の愛情関係を強調することは、夫−妻関係にひずみをもたらしかねない。成人した息子と母親の関係においては、母親−息子間の愛情の交流は低く抑えられるよう規制されている。夫婦関係をこわさずに息子が母親に愛情を示すためには、妻を愛情関係において母親より優先しているという事実が夫婦間で相互了解されている必要がある。さらに、男性優位的な夫婦関係においては、夫が妻に自分の役割責任を代替させることこそ「愛情」だとみなされている。|こうみてくると、家族の男性成員の介護関与を低くしている要因は、単に男性に職業的役割を担わせ家内役割をとらせない性別役割分担のみにあるのではなく、夫世代にあっては男性優位的な婚姻観、息子世代にあっては、母親を聖別化する方向で無性化がはかられた女性の多義的な身体観、さらには、家族関係の中で、定位家族より自らが形成した生殖家族の夫−妻、父−子のカテゴリー対に優先順位を置き、母親より妻、子を庇護するような地位に男性を位置づけ、さらに、必要とあれば自分の妻に介護役割を委託・代替させうる夫優位の夫婦関係といった現代の家族制度そのものに埋めこまれているのだといえよう。┃(春日 2001: 46-47)