ジェナ・フリードマン[Jenna Freedman]〔@zinelib〕は、南フロリダ大学の図書館学の修士課程で学んでいた際には、1990年代に試しにジンを少し作ってみたくらいで、その芸術形態の幅広い範囲をほとんど経験していなかった。それが、主にパンク・シーンを探求する著名なラテン系ジンスタ、セリア・C・ペレス[Celia C. Pérez]〔@CeliaCPerez〕との偶然の出会いによって一変した。「セリアが私に彼女のジンを一部くれるまで、実のところ、私はジンに対する愛を見出せずにいました」、とフリードマンは言う。「それは、個人的なことと政治的なこととの、本当にすばらしい融合でした。少しばかり芸術的でありながら、芸術品を気どったものではありませんでした。」
この極めて重要な研究とアーカイヴィング[archiving]は、国内のあちらこちらで行なわれている。過去20年以上にわたり、歴史家や図書館員たちは、メディアに対する私たちの理解を拡張することを目的として、ジンをアーカイヴィングしてきた。その拠点となったのは、ピッツバーグのカーネギー図書館[Carnegie Library of Pittsburgh]のメイン・ジン・コレクション、サンフランシスコ公共図書館[San Francisco Public Library]のリトルマガジン/ジン・コレクション、ウィスコンシン大学マディソン校インフォメーション・スクール図書館[iSchool Library]のライブラリー・ワーカーズ・ジン・コレクション、他にも多数ある。この取り組みは絶えず進化し増殖を続けており、アクセス可能なオルタナティヴな歴史叙述の記録――コミュニティ全体が周縁化され、〔公的な〕歴史から閉め出されている社会では特に重要な意味をもつ――を世に送り出している。放っておいたらそうした周縁の物語は無視され消去されてしまうであろうが、上記のコレクションはそれらを共有し保護することを可能にする。
2015年に、ジンスタで図書館員のジバ・ゼーダー[Ziba Zehdar]〔@DJZibaZ〕は、カリフォルニアのロングビーチ公共図書館[Long Beach Public Library]の体系内に最初のジン・コレクションを設立した。現在は、活気あふれるダウンタウンにあるロングビーチ中央図書館内に、約1000冊のジンが所蔵されている。昨年、それが新たな利用者の来訪を促進する完璧な方法だと判断してジバが現場を離れたあとは、上級図書館員のアラーナ・ラビーフ[Alana LaBeaf]〔@AlanaLaBeaf〕がコレクションを運営している。図書館ではしばしばジン制作ワークショップを開催し、図書館員たちはアウトリーチの〔地域〕訪問活動の際にジンを持っていく。「私たちは特定のコミュニティ・グループへの貢献に取り組んでいるので、コミュニティ・サービス部門にはぴったりです」、とラビーフは言う。「ジンは忠実にコミュニティを反映しています。ジン・コレクションは、それがなければ来ることはないであろう新たな人々を図書館に引き寄せると思います。」
ロングビーチ公共図書館のコレクションにあるジンの多くは、図書館の従来の目録では通常扱われないようなかたちで、アイデンティティ/セルフケア/メンタルヘルスに焦点を当てている。「『でもあなたは病気に見えない――職場における不可視の疾患と障害に関するジン[But You Don’t Look Sick: A Zine About Invisible Illnesses and Disabilities in the Workplace]』(〈Queer Anxiety Babiez Distro〉刊行のコンピレーション・ジン)のようなジンは、その主題に関する本が提供してくれるであろう医学的観点は有していないかもしれませんが、確実に、それを読むすべての人たちに対していくらかの精神的支援と帰属感を与えます」、とラビーフは言う。
そうした連帯と表象は、ロングビーチ公共図書館の来訪者が、輝かしく多方面にわたる作品の膨大なコレクションとともに、そこにあるジンのなかに見出すことを期待できるものだ。例を挙げれば、中華系アメリカ人博物館[Chinese American Museum]での同名の展示をもとにしたコンピレーション・ジン『ルーツ――1968年〜1980年代のロサンゼルスにおけるアジア系アメリカ人の運動[Roots: Asian American Movements in Los Angeles 1968-1980s]』や、オーストラリアのヴィラウッド移民収容センター[Villawood〔Immigration〕Detention Centre]におけるワークショップで制作された『難民アート・プロジェクト[Refugee Art Project]』がある。地球の裏側にいる人々の経験を、その人たち自身の手で作り出したアートを通して探求できる機会というのはめったにないが、ロングビーチ図書館はそのアクセスを提供する。ジンは、往々にして語られない物語が存在する余地を与える。なぜならその作り手たちは、財政的制約によって尻込みしたり、いまだにきわめて白人中心的な出版業界によって妨害されたりはしないからだ。
しばしば無視され、取り上げられることの少ない叙述/物語の記録であるジンの力は、マリッサ・デル・トロ[Marissa Del Toro]を、ジンの芸術性ならびにジン・カルチャーの研究を始めるよう誘い込んだ。テキサス大学サンアントニオ校で美術史の修士号を取得したチカーナの美術史家であるデル・トロは、ゲティ研究所[Getty Research Institute]の院生インターンをしていたときにジンに興味をもつようになった。「私は2013年か2014年頃にジンの実物のコピーを集め始めましたが、それ以前に、ソーシャルメディア、特にタンブラー上で、ジンスタやジン・コレクティヴをフォローしていました。たくさんのジンスタ――とりわけラテンアメリカ系[Latinx〔ラティーノ/ラティーナの代わりに使われるジェンダー・ニュートラルな新語〕]のジンスタたち――が、制約なしに自分たちのアートと言葉で自由に自己表現するスペースとして、ジンを創作していることに気づいたんです。」
そのような声の一つが、ミネソタ州セントポールにあるメトロポリタン州立大学[Metropolitan State University]のレファレンスならびに教育担当図書館員、ドーン・ウィング[Dawn Wing]によるものだ。彼女はまた、偶然にもジンを作る人でもある。図書館員として、彼女は表象におけるギャップを直接目にする。そしてクリエイターとして、彼女はそれらのギャップの一部を埋めるために最善を尽くす。彼女の作品はコラージュとイラストをベースにしたもので、個人的な物語と教育的な伝記の間を切れ目なく移動して進む。彼女は現在、二人の中国系アメリカ人の翻訳家兼アクティヴィスト、ティエン・フー・ウー[Tien Fu Wu]とタイ・レオン・シュルツ[Tye Leung Schulze]の物語に取り組んでいる。ウィングはその二人の女性を「超凶暴」と称している。
◆Casio, Holly, 2017, "The Economy of Zines", Cool Schmool, March 9, 2017, (https://coolschmool.com/news/economy-of-zines).=2018,村上潔訳,「ジンの経済」,arsvi.com:立命館大学生存学研究所,2018年6月20日,(http://www.arsvi.com/2010/20180620mk.htm)
◆村上潔:《翻訳》[Translation]