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「障害者による芸術活動への社会の態度――新聞記事の調査から」

清野 智子・神谷 梢 2018/11/17〜18 障害学会第15回大会報告一覧,於:クリエイト浜松

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last update: 20181101

キーワード:障害者、芸術、新聞調査

1 目的

管見の限り、障害者による芸術活動を取り扱った新聞記事に関する研究には、服部(2015)がヴェネチア・ビエンナーレに招待出品を果たした澤田についての記事にある「自閉症美術家」という呼称について苦言を呈しているもの、長津(2016)が朝日新聞の調査から「アール・ブリュット」等の呼称の使用頻度について分析を述べているものがある。しかし、いずれも限られた呼称に焦点を当てた調査に留まり、障害者による芸術活動に対する社会の態度を多角的に調査した研究は見当たらない。
 本研究は、日本において発行部数の高い新聞約30年分を調査対象として、芸術活動を行う障害者に対する関心や差別といった社会の態度を明らかにし、今日の障害者による芸術活動への支援の問い直しを図る目的を持つ。本報告では、調査初期段階の経過報告として読売新聞についての調査結果を中心に報告する。


2 定義と調査対象種別・分野

2.1 本研究における障害者の定義と調査対象の障害種別 本研究における障害者を、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下『障害』と称する。)がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの(内閣府)」と定義した。調査対象の障害種別については、障害者の定義に準じ障害全般を対象とした。 2.2 本研究における芸術の定義と調査対象の芸術分野 本研究における芸術を、技術の質を問わず、創造・発表・鑑賞において精神的価値や知的価値を創出する可能性のある人間の活動とその所産と定義した。調査対象の芸術分野については、美術全般、デザイン全般、音楽全般、舞台芸術全般(演劇・舞踊を含む)、メディアアート全般(写真・映像・漫画・アニメーションを含む)、文芸全般、芸能全般、伝統芸能全般、芸道(華道、書道のみ)を対象とした。

3 手続

3.1 調査対象
読売新聞の朝夕刊を対象とした。記事の検出には、オンラインデータサービスを用いた。今後は、国内において発行部数の高い他紙も調査対象とし研究を継続する予定である。
3.2 調査対象期間
1990年1月1日から、パラリンピックが開催される2020年以降まで調査を継続する予定である。尚、本報告では全体を把握する目的において約5年毎の記事を調査対象とした。
3.3 調査方法
3.3.1 分析対象記事の抽出
@記事タイトルと本文を対象としてデータベースの検索欄に以下のように入力し、年毎に抽出された記事を全て出力した。 (障害OR 障碍 OR 障がい) AND (芸術 OR アート OR 作品) A3名の抽出者(註)がそれぞれ@で出力された記事を全て読み、障害者による芸術活動について書かれた記事を抽出した。
3.3.2 順接的記述・逆接的記述の抽出
3名の抽出者が分析対象記事から、A)その人や芸術活動の所産に対する肯定的な価値や評価が個人の能力によるものではなく、その人の機能障害やそれに起因する困難から生じる恩恵であるとした記述、B)その人の機能障害やそれに起因する困難が芸術活動を行う際の制限となることを前提とした記述を抽出した。
3.3.3 呼称の抽出
3名の抽出者が分析対象記事から、芸術活動を行う障害者やその活動を表す呼称を抽出した。
3.4 倫理的配慮
本研究は、新聞社のデータベースを調査対象にしているため、報告代表者が所属する研究機関の倫理審査委員会の審査と承諾は不要である。

4 結果・考察

現在調査中につき、分析内容を以下に記す。今後は、以下の分析の他に、記事が掲載された面名の調査や抽出者が違和感を覚えた記述についても調査を行う予定である。
4.1 分析対象記事
分析対象記事数の経年推移を明らかにし、障害者による芸術活動への社会の関心度を分析する。
4.2 順接的記述・逆接的記述の抽出
順接的記述・逆接的記述の経年推移から偏見・差別の傾向を明らかにする。
4.3 呼称の抽出
本来、作品の価値に主題が置かれる芸術領域において、殊更に「障害」という作者の属性を付加させる呼称について考察する。

■註
抽出は、清野(芸術家・研究者)、神谷(芸術活動を行う障害者の支援者)、泉(障害者を専門とした心理士)の3名で行った。いずれの抽出も抽出基準に従い、不一致については協議を行った上、全員の意見が一致しない場合は、研究の再現性確保のため除外とした。

■引用文献
・内閣府 障害者基本法, http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kihonhou/s45-84.htmlhttp://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kihonhou/s45-84.html (参照2017-5-1)
・服部正 (2015). 障がい者の創作物はいかに評価されるか:第55回ヴェネチア・ビエンナーレの出品作をめぐる一考察 甲南大學紀要 文学編, 165, 187-197.
・長津結一郎 (2016). アール・ブリュットの先へ――「社会包摂」を手がかりに REAR, 38, 30-34


*作成:安田 智博
UP: 20181101 REV:
障害学会第15回大会・2018 障害学会  ◇障害学  ◇『障害学研究』  ◇全文掲載
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