「障害・職業・社会階層――2011年アイルランド国勢調査個票データの分析」
榊原 賢二郎 2018/11/18
障害学会第15回大会報告一覧,於:クリエイト浜松
last update: 20181110
2018年障害学会発表 自由研究発表(壇上報告)
※以下では、参考文献は角括弧で囲んで参照しています。
障害・職業・社会階層
2011年アイルランド国勢調査個票データの分析
榊原賢二郎
sakakibara_kenjirou@yahoo.co.jp
平成30年11月18日 障害学会大会報告
◆スライド1(全20枚) 障害と労働からの排除
社会モデルにおける障害[文献1]
…社会的排除・不利益
とりわけUPIAS は労働からの排除をディスアビリティの根本と把握
第一の問い: 各種障害者の就労機会
(既に分析、本日は省略)
$職業の種類も重要
社会的不利益・排除と結びつく
◆スライド2(全20枚) 職業と社会階層
職業【右矢印】人が得られる社会的資源
…富・威信・権力etc.
多くの人が欲するが稀少
社会階層[文献2][文献3] 社会的資源を同じぐらい持っている人々の集団
階層分化 社会が異なる階層に分かれていること
…不平等の一種【左右矢印】社会的資源に限定
◆スライド3(全20枚) 階層と排除
社会的排除[文献4] 社会の諸領域への参加機会の制約
広義には[文献5] 階層問題も射程に
$狭義には著しい階層的不平等と関連
今回の主題…階層・排除にまたがる
特に「単純労働」の多さはディーセントワークからの排除とも言える
◆スライド4(全20枚) データと選択理由
アイルランド国勢調査個票データ
・障害関連情報を含む
・IPUMS-International[文献6] から利用可能
(国勢調査データの国際的データベース)
・今回は先進国に焦点
2011 年4 月10 日実施、留置調査
※経済危機後
◆スライド5(全20枚) 分析対象のケース数
総数(全データの約1 割を抽出) 47万4353件
生産年齢(15-64 歳) 30万3773件
就労・有効回答 16万3058件
◆スライド6(全20枚) 障害関連項目
視覚 0.41%
聴覚 0.84%
肢体 0.97%
知的 0.23%
学習 0.71%
情緒 0.80%
その他 2.77%
質問文に損傷と活動制限[文献7] が混ざる
【右矢印】厳密な比較ではない
【左右矢印】各項目の影響は測定可能
◆スライド7(全20枚) 職種分類
1 管理職
2 専門職
3 技術職
4 事務職
5 技能工
6 サービス職
7 販売職
8 工程従事者
9 単純労働者(elementary)
この下に89の小分類
◆スライド8(全20枚) 職種と階層
管理・専門職
全般として社会的資源(富・威信)に恵まれている可能性
「単純労働」
単純・初歩的な仕事内容としての分類
【ノットイコール】完全参加(※選択/傾向)
…階層問題・排除問題
◆スライド9(全20枚) その他の属性
年齢 平均40.0 歳、標準偏差11.2 歳
男性 52.1%
アイルランド語 40.1%
高等教育学位 37.4%
カトリック 84.3%
アイルランド民族 84.4%
◆スライド10(全20枚)
職種の分布(%)
管理 専門 単純
全体 9.1 19.9 8.7
視覚 8.3 15.3 12.3
聴覚 8.6 13.5 11.1
肢体 7.1 12.7 12.2
知的 3.5 4.0 29.2
学習 5.0 6.8 18.9
情緒 6.2 16.7 10.7
他 8.6 19.8 9.6
◆スライド11(全20枚) クロス集計から
以上の表が示唆する傾向
…「損傷」を持つ就労者の職種
・管理・専門職は全体平均より少ない
・単純労働は全体平均より多い
【左右矢印】年齢や学歴などにも違い
条件を揃えても以上の傾向は現れるか
【右矢印】多変量解析(ここでは多項ロジスティック回帰)
◆スライド12(全20枚) 前提: 起こりやすさの変化の指標
例: サッカーの試合に勝つ見込み
勝 負 確率
合宿前 1 1 50%
合宿後 3 1 75%
相対リスク: 1.5 (50%【右矢印】75%)
オッズ比: 3 (1:1【右矢印】3:1)
・1より大きい=起こりやすくなった
・まれな現象では両者ほぼ同じ
◆スライド13(全20枚枚) 参考: 就労可能性のオッズ比
就労中=1、性・年齢のみ統制
視覚 0.58
聴覚 0.73
肢体 0.21
知的 0.36
学習 0.50
情緒 0.23
その他 0.48
全て有意、1 より小さい
【右矢印】ディスアビリティの存在を立証
この差を度外視した時、職種面で更なる相違が残るかどうかが今回の課題
◆スライド14(全20枚枚) 多項ロジスティック回帰分析
人々の職種【左矢印】多くの要因が影響
…身体的条件・性別・学歴etc.
【右矢印】それぞれの要因のオッズ比を推定
ここでは職種は9種類(大分類)
!単純労働と他の職業のいずれを選ぶかに注目。特に以下
・管理職:単純労働
・専門職:単純労働
◆スライド15(全20枚) オッズ比(上記属性を投入、略)
管理:単純 専門:単純
視覚 0.85 0.77
聴覚 0.73 * 0.77
肢体 0.69 ** 0.70 **
知的 0.53 * 0.24 **
学習 0.45 ** 0.40 **
情緒 0.62 ** 0.71 **
他 1.22 ** 1.02
アスタリスク1個は5%水準で有意
アスタリスク2個は1%水準で有意
◆スライド16(全20枚) 考察(1)――全般的な不利
既に就労機会に有意の差
【左右矢印】職種でも全般的に不利
…単純労働が多く管理・専門職が少ない
(一部係数は有意ではないが1より小)
単純労働が多いことは、ディーセントワークからの排除を示唆
管理・専門職の少なさ【右矢印】階層問題
◆スライド17(全20枚) 考察(2)――種別間の相違
ただし種別により状況は著しく異なる
障害者を一括して語ることは不可能
特に知的・学習障害の不利が顕著
管理・専門職における知識の重要性
cf. 学歴との関連
◆スライド18(全20枚) 考察(3)――蓄積的排除
その他のより単純なモデルも検討
・性・年齢・身体条件!職種
・性・年齢・身体条件・教育!職種
知的・学習障害の不利は前者で大きく
(例: 知的障害・専門0.15!0.46)
不利益の複層化[文献8]・蓄積的排除[文献9]を示唆
知的障害【右矢印】教育の不利【右矢印】職業の不利
他の先天性障害者にも妥当する可能性
◆スライド19(全20枚)
文献(1)
@ UPIAS and DA(1976), Fundamental Principles of Disability, London: UPIAS and DA.
A 竹ノ下弘久(2013)『仕事と不平等の社会学』弘文堂。
B 富永健一(編)(1979)『日本の階層構造』東京大学出版会。
C 岩田正美(2008)『社会的排除』有斐閣。
D 榊原賢二郎(2016)『社会的包摂と身体』生活書院。
◆スライド20(全20枚) 文献(2)
E Minnesota Population Center (2017), Integrated Public Use Microdata Series, International, https://doi.org/10.18128/D020.V6.5 .
F WHO(2001), International Classification of Functioning, Disability and Health, Geneva: WHO.
G 星加良司(2007)『障害とは何か』生活書院。
H 小松丈晃(2003)『リスク論のルーマン』勁草書房。
*作成:安田 智博