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「「障害」と「高齢化」問題の連携の意義と理論的可能性の検討」

見附 陽介 2018/11/17〜18 障害学会第15回大会報告一覧,於:クリエイト浜松

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last update: 20181101

キーワード:社会モデル、社会モデル、地域共生社会

本報告の主題

本報告では障害問題と高齢化問題の連携に関して、その意義と理論的可能性を検討する。現在この二つの問題は様々な観点から半ば暗黙裡に“連携”すべき問題として論じられている。例えば厚生労働省は「地域包括ケアシステム」を発展させた「地域共生社会」の構想において、高齢化問題に対処すべく立案された「地域包括ケアシステム」の理念を「普遍化」し、障害の問題にも適用することを目指している。同様に、平成26年に国土交通省が公表した「国土のグランドデザイン2050」においても、人口減少と高齢化に対応したコンパクトシティのもとでの「コミュニティの再構築」に向けて、「高齢者や障害者などだれもが生き生きと暮らせる空間の整備」が謳われている。
 本報告の主題は、この障害と高齢化問題の暗黙理の連携を一つの課題としてより明示的に検討することにある。その際に大きく連携の意義と連携の理論的可能性という二つの観点から検討を行う。
 なお、本報告は公開・公刊された資料のみを用い、特別な倫理的配慮を必要とする個人的事例などは扱わない。


連携の意義の検討

地域包括ケアシステムは、規範的にはノーマライゼーション(自立生活の支援)、個人の尊厳(選択の尊重)、脱施設化(住み慣れた地域での生活)といった理念の下に構想されているが、実践的課題としては高齢者人口の増加と労働人口の減少(いわゆる「肩車型社会」への移行)を見据えており、従来の福祉システムが限界を迎える事態を予測したものとして理解することができる。つまりそれは、公助を自助・共助および地域の互助へと開くことにより社会保障費の増大を抑制する方策としての性格を持っている。これを障害の問題にまで適用することは、規範的理念の適用範囲の拡大という意味を持つが、同時に公助の割合を減らすことによる社会保障費抑制策の拡大と受け取ることもできる。
 国土交通省の示すコンパクトシティの構想にも同じ意味合いを見出すことが可能である。「国土のグランドデザイン2050」において実践的課題として掲げられているのは、人口減少/少子高齢化およびそれに伴う地方の生活圏の崩壊と、切迫する巨大災害の可能性である。しかし真の問題は、これらと密接に関連するところの「厳しい財政状況」に他ならない。税収の低下と社会保障費の増大、災害対策費や復興費の増大を受けながらなおかつ従来の一定程度の生活レベルを維持するために求められるのが、「限られたインプットから、できるだけ多くのアウトプットを生み出す」ための「効率性」である。そのための方策がコンパクト化である。つまり、空間的にもそして機能的にも物事を集約させることで、少ない資源で最大の効果を発揮するということである。先に述べた「空間の整備」における障害者と高齢者への対応の連携は、福祉機能の一元化/集約による効率性の達成のためと理解できる。


連携の理論的可能性の検討

障害と高齢化問題の連携をめぐる理論的可能性としては、一つには「普遍化戦略」がある。つまり障害者は、人口のかなりの部分を占める高齢者と連携することにより、もはや少数派ではなく多数派の立場に立つことができるとする考えである。しかし、本報告で検討したい理論的可能性は、もう一つの、負の理論的可能性、すなわち障害の問題の医学モデルへの(再)包含の可能性である。
 高齢化の問題を論ずる際の基本モデルは医学モデルにあるように思える。高齢者あるいは高齢化を研究対象とする老年学において「老化」とは生理的現象、すなわち生物に認められる必然的な心身機能の減退のプロセスとして考えられている。社会老年学においては確かに老化と社会環境との関係が研究されるが、それは老化にまつわる社会的なライフイベントの研究として展開されており、「老化」それ自体の中に潜んでいる社会的側面に関心が注がれることはないように思える。つまりそこにおいても老化の生理学的理解が支配的であり続けている。高齢化の問題に対する諸方策が、このような「老化」を心身機能の生理的低下と見なす一般的理解に基づいて、それにふさわしい治療・予防のための医学的アプローチを取ることになるのは容易に想像される。地域包括ケアシステムにおいても主な関心が注がれるのは医療・専門職・リハビリの連携であり、コンパクトシティの関心はそれらをいかに(空間的、機能的に)コンパクトに集約するかという点にある。そしてそのような高齢化問題へのアプローチとの連携によって、障害の問題は再び医学モデルの枠組みに飲み込まれる可能性がある。
 障害学はこれに対して、逆に高齢化問題の社会モデルへの包含によって有効な対応策を打ち出すことが可能であるという点を本報告で確認する。最終的な検討のテーマとなるのは、「老い」の社会的構成に関する理論構築の可能性である。





*作成:安田 智博
UP: 20181101 REV:
障害学会第15回大会・2018 障害学会  ◇障害学  ◇『障害学研究』  ◇全文掲載
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