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「知的障害者の本人の会における支援者の役割」

神部 雅子 2018/11/17〜18 障害学会第15回大会報告一覧,於:クリエイト浜松

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last update: 20181101

キーワード:知的障害者、当事者運動、支援者

はじめに

知的障害者の多くは差別的経験を持ち、また、限定的な環境の中で生活してきており、当事者として権利を主張し当事者運動に参加するに至るまでには、本人の意識や環境の変革、そしてそれを支えた支援関係があったと考えられる。知的障害者の場合、日常生活においても、意思決定に関する支援を必要とする場合もある。西村は、知的障害者が意思表明をしても援助者の価値基準によって、その自己決定、意思表明の採否が決定され、当事者は、援助者のもつ価値観に合わせるように「駆り立て」られるか、だまって援助者に従うことになる、と述べている(西村,2005,79)。また、立岩らは、本人の会や当事者運動組織の支援においては決定そのものに支援者が関わることがあり、情報の提供の仕方が問題であり、微妙である、と述べている(立岩・寺本,1997,99)。
 本報告では、支援者の語りの中から当事者運動の支援者としての価値観を培った背景を明らかにし、支援者による当事者運動における支援の意図や配慮、当事者運動に携わることによって支援者自身が受ける影響について考察し報告する。


1.知的障害者の本人の会や当事者運動に関する研究

知的障害者の本人の会や当事者運動組織、当事者運動(本人活動)にかかわる研究はいくつか散見される。知的障害者の本人活動に関する研究としては、その成立の歴史に関する研究、欧米の本人の会や国際育成会連盟世界大会との関連、知的障害者の本人活動が持つ機能の考察等があり、支援者の支援の在り方にも言及されている(古井,2012、立岩・寺本,1997、保積,2007)。しかし、いずれも文献調査や質問紙でのアンケート調査に留まっており、支援者へのインタビューから支援者自身の価値観や当事者運動に関わることで支援者自身が受ける影響について焦点を当てた調査は見受けられない。


2.研究方法

本研究では当事者運動の支援者に対し、インタビューを通して、当事者運動において支援者が自身の役割として認識していることは何か、支援者自身の価値観の変化や葛藤について考察する。 調査協力者はE県内の本人の会の支援者であるA氏、B氏、C氏、そしてピープルファーストにおいて支援者をしていたD氏である。インタビュー結果は逐語録に起こし、佐藤(佐藤,2008)の質的分析法を参照し、〈コード〉をつけ【カテゴリー】を生成した。
 本研究は「日本社会福祉学会研究倫理指針」に従っている。調査協力者には、事前に口頭及び書面、メール等で調査の目的・概要について説明し、協力の承諾を得た。また、調査当日には改めて調査の目的・概要及び倫理的配慮について口頭と文書で説明し、同意を得た。


3.調査結果の分析と考察

インタビューから、【本人の会の支援を行うきっかけ】、【支援者としての価値観に影響を与えたもの】、【支援者が受けた影響】、【支援者が当事者に与える影響】、【支援者の役割】、【支援者の葛藤】の7つのカテゴリーを生成した。
 支援者が【本人の会の支援を行うきっかけ】は〈業務の一部としての始まり〉や〈本人の会以外の集まりの支援の延長として〉、当事者運動の支援をしていた〈同僚との出会い〉であった。支援をしていく中で、支援者自身も「知的障害者の権利とは何か」を学び、その支援を変化させている過程がある。本人の会の活動において【支援者が受けた影響】は、〈研修会での学び〉、海外研修に参加した〈当事者の言葉〉などによるものである。また、【支援者の役割】として当事者の〈経験の機会をつくる〉ことや〈情報提供〉を行うことが重要であることが語られた。その他にも、当事者たちの〈本音を引き出す〉ことや、それまでの人生の中で本人が気づかずにいた差別的経験を振り返り〈現実を突きつける〉ことで彼らの権利意識が芽生えるきっかけを提供しようとしていた。それは、ともすれば彼らの意思決定や当事者運動を方向づける支援になりかねない。支援者は、自身の支援が誘導的になる危険性を孕んでいることに【支援者の葛藤】を抱きながらも、本人の会を当事者運動の運動体として成長させていくために、あえて当事者の感情や価値観を揺さぶるような支援を選択することがあるのである。


文献
穂積功一,2007,「知的障害者の本人活動の歴史的発展と機能について」,『吉備国際大学社
 会福祉学部研究紀要』第12号,吉備国際大学
古井克憲,2012,「日本における知的障害者の当事者活動・当事者組織:先行研究の分析と
 整理を通して」,『社会問題研究』第61巻,大阪府立大学人間社会学部社会福祉学科
西村愛,2005,「知的障害児・者の自己決定の援助に関する一考察一援助者との権力関係の
 観点から一」,『保健福祉学研究』4,東北文化学園大学
佐藤郁哉,2008,「質的データ分析法―原理・方法・実践」,新曜社
立岩真也・寺本晃久,1997,「知的障害者の当事者活動の成立と展開」,『信州大学医療短期
 大学部紀要』第23巻,信州大学



*作成:安田 智博
UP: 20181101 REV:
障害学会第15回大会・2018 障害学会  ◇障害学  ◇『障害学研究』  ◇全文掲載
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