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「選挙の投票行動における社会的障壁の一考察――特に書字困難性に着目して」

頼尊 恒信・中田 泰博 2018/11/17〜18 障害学会第15回大会報告一覧,於:クリエイト浜松

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last update: 20181031

キーワード:投票行動、社会的障壁、自己選択・自己決定

報告要旨

代筆を投票事務従事者だけではなく、従来通りヘルパー等にも代筆投票を可能にするように求めた裁判が行われている。この裁判は、2013年に行われた公職選挙法の改正によって、投票管理者が補助者を選任するに当たって投票事務従事者から選任しなければならないという限定を加えられた。そのことにより、法改正以前では、本人が希望し選任したヘルパー等の補助者によって代筆が可能であったに対して、投票事務従事者から選任するという極めて限定的な措置が執られるようになった。また、投票事務従事者に本人意思の確認及び代筆行為を限定することによって、投票事務従事者が本人意思の確認できなければ投票行為を拒否することができる事態となっている。この事態は、投票事務従事者という日頃の介助者と異なる人間に、書字困難な障害者の投票の意思の読み取りを委ねなければならないことになり、法改正によって新たに書字に困難を有する障害者の投票行動に社会的障壁が生じた。これまで禁治産者の投票権は認められていなかったが、2013年の公職選挙法の改正において、成年後見制度利用者の投票行動を保障するための法改正であった。しかしながら、その改正によって今までヘルパー等の補助を受けて投票が可能であった人々に対しては門戸を閉ざす結果となった。また、改正によって、投票事務従事者という行政職員によってのみ代筆が可能とした点は、社会的弱者が公権力や資本家等からの圧力によって自由な選挙権行使を妨げられることの弊害を是正することを目的とした秘密投票制度と相矛盾する。このような法改正によって、社会的障壁が新たに生じたと言える。
 投票事務従事者の意思受領能力が万能であるように想定した法改正は個人モデルであるといえる。また意思受領の合理的配慮は、想定されておらず、投票事務従事者の能力に依存した付与的権利であると言える。それは、日本が「直接国税を15円以上納める25歳以上の男子」に限って選挙権を与えた限定選挙から、普通選挙へと、次第に選挙権を拡大してきた歴史にみられるように、付与的意識があると見受けられる。
 「障害者の政治参加をすすめるネットワーク」の活動にもみられるように、全国各地で障害者の議員が誕生してきている。しかしながら、2013年の公職選挙法の改正にみられるように、障害者の参政権の保障も医学モデルの基準をベースとしており、極めて不十分といわねばならない。今後、「投票管理者が補助者を選任するに当たって投票事務従事者から選任しなければならない」というような社会的障壁をいかにして除去していく必要があるのである。

本研究は、日本社会学会倫理綱領にもとづく研究指針、および日本社会福祉学会 研究倫理指針に基づいて発表を行うものとする。




*作成:安田 智博
UP: 20181031 REV:
障害学会第15回大会・2018 障害学会  ◇障害学  ◇『障害学研究』  ◇全文掲載
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