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「視覚障害のある女性の生きづらさ――仕事と性・生殖をめぐって」

土屋 葉・時岡 新・河口 尚子・後藤 悠里・伊藤 葉子 2018/11/17〜18 障害学会第15回大会報告一覧,於:クリエイト浜松

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last update: 20181101

キーワード:視覚障害、女性、生活史

【1】背景

視覚障害者にとって三療(あんま(マッサージ・指圧)・鍼・灸)は伝統的職業分野であり、かつては経済的自立を果たすためのほぼ唯一の手段であった。1980年代以降、視覚障害者の職域は徐々に拡大している(佐藤2013:28)が、依然として三療で生計を立てている人も多い。三療の分野における問題点として、晴眼者との競争が激化していること、視覚障害者の施術料収入が低い水準にあること等が指摘されている(独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構障害者職業総合センター 2005)。
 一方でジェンダー視点からの分析は多くはない。歴史的には昭和のはじめまで、視覚障害女性は「按摩の技術を身につけ、生涯独身を通すことが良しとされていた」(谷合 1996: 197)という。しかしそうして就いた仕事を行うなかでハラスメントの被害にあう多くの女性がいた(粟津1986: 5-6)。
 結婚に関しては、「盲女子」は結婚はできない、してはならないとする見方が大勢を占めていた。この「結婚不可論」では根拠として、「家事育児の能力なく、妻たる資格の無いこと」や「盲女子の如き虚弱な身体から生まれる子供には、眼病その他悪い遺伝があること」が挙げられていた(粟津 1986: 41)。ただし親に経済力がなく手に職もない女性たちは、望まない結婚をしていたことも推測される(粟津1986: 3)。このことは一部の女性にとっては、結婚が生存戦略として位置づけられていたことを示している。
 現代においても、仕事と結婚を含む性・生殖にかかわる経験は相互に作用しながら、あるいは独立したものとして、視覚障害のある女性の「生きづらさ」を形成していることが推測される。こうした経験を明らかにすることが求められている。


【2】目的と方法

本報告では、視覚障害のある女性の仕事と性・生殖をめぐる「生きづらさ」の経験について描き出すことを目的とする。仕事については三療の分野を中心に据える。
 土屋ほか(2017)は患者、つまり医療を受ける側としての障害女性の困難、生きづらさについて明らかにした。本報告では施術者、つまり医療に類する行為を施す側としての障害女性の困難、生きづらさを明らかにする。そもそも個人が専門職として働く場面では、生じたハラスメントに対しても自己責任が強調される傾向にある。すでに指摘されている、三療の仕事に従事する女性が受ける性的ハラスメント(DPI女性障害者ネットワーク 2012: 14)も、同様の問題を内包している。ただし三療の分野については、いわゆる「女按摩師」の歴史やその従来からあるイメージと深く関連しており、男性の経験とは際立って異なることが推測される。
 視覚障害のある女性の仕事と性・生殖は相互に関連し、時には独立に困難経験を生み出してきた。ようやく彼女たちの声が聴かれるようになった今、これらの様相に着目し分析を行うことは喫緊の課題である。
 本報告では社会的・歴史的リアリティの側面を照らし出すことを可能にする、生活史法に基づいたインタビューという手法を用いる。主に中部地方に居住する視覚障害のある女性に対し、生活史を軸として尋ねた聴きとり調査から得られたデータを用いて分析・考察を行っていく。


【4】結果と考察

結果および考察については、当日会場において報告する。


【5】研究倫理審査

本報告は「障害女性をめぐる差別構造への「交差性」概念を用いたアプローチ」(代表者土屋葉16K04114)の成果の一部である。この研究は愛知大学・人を対象とする研究に関する倫理審査委員会の承認(人倫承2016-04)を得て調査活動を行っている。調査実施の際には、途中で中止することも可能であること、調査結果はすべて関係者のみが扱い、公表の際には個人が特定ができないように配慮・処理すること等を説明し、同意書に署名をいただいている。


【6】文献

粟津キヨ,1986,『光に向かって咲け――斎藤百合の生涯』岩波書店.
独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構障害者職業総合センター,2005,『鍼灸マッサージ業における視覚障害者の就業動向と課題――−視覚障害者の職業的自立支援に関する研究 サブテーマT “視覚障害者の働く場の確保・拡大のための方策及び必要な就労支援策に関する研究”にかかる報告』(調査研究報告書69)
DPI女性障害者ネットワーク,2012,『障害のある女性の生活の困難――人生の中で出会う複合的な生きにくさとは 複合差別実態調査報告書』.
佐藤貴宣,2013,「盲学校における日常性の産出と進路配分の画一性──教師たちのリアリティワークにおける述部付与/帰属活動を中心に」『教育社会学研究』93:27-46.
谷合侑,1996,『盲人の歴史』明石書店.
土屋葉・渡辺克典・後藤悠里・臼井久実子・瀬山紀子,2017,「障害のある女性の生きづらさ(1):医療・介助場面に焦点化して」障害学会第14回大会ポスター報告.



*作成:安田 智博
UP: 20181101 REV:
障害学会第15回大会・2018 障害学会  ◇障害学  ◇『障害学研究』  ◇全文掲載
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