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「当事者の生きやすさを追求する共にある場」をつくる作業的要素――わっぱの会と当事者研究会の取り組みの比較検討からの一考察」

田島 明子・谷口 起代・西野 由希子 2018/11/17〜18 障害学会第15回大会報告一覧,於:クリエイト浜松

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last update: 20181101

キーワード:共にある場、作業的要素

1.はじめに

「障害の社会モデル」の重要な視点として「共生」の実現があげられる。作業療法の領域においても、近年、作業的公正・不公正という概念が提示され、作業療法士は障害があるがゆえに不公正な作業環境に陥ることなくより良く暮らすことのできる共生社会づくりに貢献しようとしている。しかしながら、作業的公正・不公正の状態を個人の作業機能障害から把握しようとしているため、「障害を持つ当事者の生きやすさを追求」した「共にある」場にどのような作業的要素があるのかは見えてこない。そこで本研究では、わっぱの会と当事者研究会を取り上げ、「障害を持つ当事者の生きやすさを追求」した「共にある場」の作業的要素を抽出することを目的とした。なぜそれらの活動を対象としたかであるが、時代性や活動内容を超えて、本研究の目的とする要素を抽出するモデルとなる取り組みであると考えたからである。


2.対象と分析方法

対象:わっぱの会と当事者研究会である。
 分析方法:@概要、方法、求める支援者−被支援者関係からそれぞれの取り組みの特徴を明確化した。Aその結果から「障害を持つ当事者の生きやすさを追求」した「共にある場」の作業的要素を抽出した。


3.結果

概要、方法、求める支援者―被支援者関係について表にまとめた(学会時に掲載する)。差異については、時代、目的、手段、活動内容等、様々異なりがあるが、「障害を持つ当事者の生きやすさを追求」した「共にある場」の作業的要素として、わっぱの会では、「ただ、そこにいること」を認め合う作業、責任分散の作業が見出され、当事者研究会では、責任分散の作業、自分取り戻しの作業が見出された。それらが見出された根拠を考察で述べる。


4.考察

1)「ただ、そこにいる」を認め合う(存在を肯定する)作業
 「わっぱの会」では、労働としてパンを製造しているが、「共に生きていく」ことが一番に求められるため、働くことが難しい重度障害を持つ人の場合には「ただ、そこにいる」ことを互いに承認し合う(存在を肯定する)作業の在り様が成り立っていた。その時重度障害を持つ人を単体(個人)として見ると「何もしていない存在」としか捉えきれないことも、「共に生きていく関係性」から捉えるなら、「共に生きている存在」という意味が立ち上がり、たとえ同じ作業遂行状態であっても別様の作業の意味を持っていると考えた。

2)責任分散の作業
 障害は、何かが「できない」経験でもあるが、それが労働機会の喪失など生き辛さの経験となり、貧困や孤立の原因ともなっている。つまり現代は、個人を重視した社会であるが、個人の意志や能力に応じた財の配分を容認する自己責任社会でもある。「わっぱの会」では、労働能力の優劣に関係なく、「共に生きていく関係」を創っている。それは、個人にかかる責任荷重を共に少しずつ担い合う作業的関係があることを示していた。「わっぱの会」の一人ひとりが責任を少しずつ担い合う作業を行っていた。
 当事者研究においても同じような作業的関係が見て取れた。障害は、障害を持つ当事者にとって、「生き辛さを感じるままならない」経験であったりするが、医療では、その経験を有するその人自身が治すべきものとして自己責任化する割に、無責任に対象化してきた歴史がある。それに対して当事者研究は、むしろ、そうした経験を仲間とともに分かち合い、自己責任化・孤立化を回避するなかで、対象化されて医療の言葉でしか語られなかった自分の疾病・障害経験に対して自分にとってしっくりとくる言葉を与え、自分を取り戻していく作業を行っていた。

3)自分取戻しの作業
 2)において、当事者研究は自分取戻しの作業と述べたが、これは、医療者と対象者関係の平等化・民主化といった医療コミュニケーションの在り様を問う作業でもあると考えた。医療は従来、障害や疾病を対象化・客観化し、診断名や症状について客観的エビデンスを基に言語化してきたが、それがいかに対象化されてきた当事者の実感にそぐわないものであるかを当事者研究は明らかにし、その成果が医療の知見に異議を唱えつつあると言える。「共にある場」において、医療者はこうした対象化したのでは見えてこない当事者発の主観的な意味経験にどのように向き合うべきか、医療者自身がもう一方の当事者として「共にある場」としての作業を行う時代が来ていると考えた。



*作成:安田 智博
UP: 20181101 REV:
障害学会第15回大会・2018 障害学会  ◇障害学  ◇『障害学研究』  ◇全文掲載
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