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「発達障害者主体活動のための助成金事業と合理的配慮」

相良 真央 2018/11/17〜18 障害学会第15回大会報告一覧,於:クリエイト浜松

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last update: 20181101

キーワード:発達障害、当事者活動、合理的配慮

○はじめに

報告者も役員を務める凸凹ライフデザイン(以下当団体とする)では、これまで複数の助成を受け発達障害当事者主体の事業を行ってきた。当団体は当事者主体を大切にしており全理事が発達障害者である。
 助成を受けることができたからこそ事業を行えたのであり、助成は当団体の活動になくてはならないものだ。当団体に助成いただいた各団体には深く感謝している。
 これらを前提とした話題として、助成事業中、また事業後の助成団体とのやり取りで、私たち発達障害者が困難を感じる場面があった。主に以下の事柄についてである。
・提出書類などの急な追加
・条件の急な変更
・事業途中での期限の設定
 これらの具体例を紹介し、客観的にどう判断されるべきか、会員の皆様には一緒に考えていただければ幸いである。
 その際に、発達障害者の特性が実際的にどういうものか、例えば「混乱する」とはその当事者がどのような状況に置かれることか、これらについては客観的にだけではなく当事者の主観側からも想像してご理解いただきたい。


○具体事例

1.A助成
・助成決定後、助成金からスタッフへ給与等支払わなければならなかったが、助成金が振り込まれる時期が遅くなっていた。事情を訴え、担当者から上司へ通話を代わってもらい、再度事情を説明したところ、1か月ほど早くなった。スタッフが理解を示してくれたことが幸いだった。
・事業終了後、当団体が提出する領収書等の原本を数年間Aで預かることになったと連絡があった。短期間で数百の領収書コピーをとることは当団体にとって現実的ではないことや、やり取りや郵送費を数回かけて団体の報告(総会等)を行うことは難しいと伝えたが変わらなかった。
2.B助成
・書類選考の後の面接時、審査員らから「あなたの団体以外は、X万円以下の助成の部門で申請している。あなたの団体だけが高額申請(上限額X×4万)だ」と言われた。
3.C助成
・申請書類を提出すると、資金元の法人に対するプレゼンテーションの案内が来た。必須ではないが参加した方が良いとのこと。都合をつけて行くと、他団体が立派なパワーポイントを作成してきていた。後日、同じ助成金を申請していた当団体の協力団体にプレゼンについて尋ねると、プレゼンがあるという連絡自体来ていないとのことだった。プレゼンを行った団体が助成を受けており、結果から見て必須だったのではと感じた。
・助成が決定した後、年間を通してY回行われる集まりへ参加するよう求められた。参加は必須か尋ねると、必須ではないができるだけの参加をと言われる。最低何回等の目安がなく戸惑った。
 Y回の内Y−1回はD市内での開催だったが、真冬の最終回の会場は山あいの村の私設集会所と数日前に連絡があり、大雪の日でもあり参加を迷ったが慣れない雪道を運転して行った。室内も寒く自律神経失調症、繊維筋痛症の私にはとても応えた。メンバーにも無理を言って協力してもらい当団体はY−1回参加したが、報告会では、参加できなかった団体の方が責められるような言葉があり残念に感じた。


○まとめ

特性の違いにもよると思われるが、
・曖昧さ、適当さに常識的な範囲があるらしいが、それらは私たちにとってつらいものだった。
・変更が度々あることに気持ちと行動がついていかなかった。変更に従うか、従えない事情を説明するかのどちらかになり、従う方が「まだまし」と感じ従う。するとつらさはなかったことになる。その積み重なりが歯がゆい。
・申請の時点で報告方法の詳細まで示されていると助かるが、そのような助成は少ない。
・助成を受けている立場のため、異議申し立てが心理的にも難しい。
・ミスを一つたりともしたくないと思っているところに、期限や注意事項が次々と伝えられること自体が負担だった。
 よって、以下のように感じざるを得なかった。
○発達障害当事者が、定型発達者の助成制度を利用すること自体に無理がある。
○発達障害者としてどう伝え、改善を求めるか考え実行しなければ、助成を受けての当事者活動が困難になる。基本的に団結が難しい発達障害者がどう訴えるか悩むところだ。
 必要と思われたこととして、
○客観的に妥当性を検証する仕組み、必要性と負担のバランスと合理的配慮
○追加・変更作業、事務や交渉を当事者主体で支援する仕組み
等あるが、これらをどのように実行できるかに関しては検討段階である。
 当事者活動の安定的な継続のために、私たちはどのような方法を選ぶべきか模索を続けたい。


*本報告に際し、日本社会学会倫理綱領にもとづく研究指針また一般社団法人日本社会福祉学会研究倫理指針を熟読し、指針に沿って行う。



*作成:安田 智博
UP: 20181101 REV:
障害学会第15回大会・2018 障害学会  ◇障害学  ◇『障害学研究』  ◇全文掲載
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