2002年の「脱施設化・地域生活移行」と翌年の支援費制度により、障害者が親以外の介助者とともに親元を出て生活することが、制度上可能となった。知的障害者の施設入所率は、2000年からの16年間で28.3%から11.1%と低下したが1)、同期間に倍増した全体数により施設入所者数に大きな変化はない。今年3月の国保連のデータによれば、GH(グループホーム)の居住者と施設入所者との差は1.5万人となり、GH居住者は増加している。しかし、地域で暮らす知的障害者の約半数は親同居という実態がある2)。 本研究の目的は、地域生活を送る知的障害者の居住実態を明らかにすることにある。地域生活を送る知的障害者の家族関係や支援のあり方3)4)について、これまで行われてきた多くの研究から、生活支援の重要性は明らかにされている。本稿は、生活支援に加え住まいも知的障害者の地域生活における重要因子であることを明らかにし、GHだけではない知的障害者の住まいを検討しようとするものである。
今世紀まで、知的障害者に対する住宅政策は行われてこなかった。2006年の公営住宅法の改正により単身入居資格が認可され、翌年の住宅セーフティネット法により、住宅確保要配慮者として民間賃貸住宅への居住支援が行われるようになった。しかし、公営住宅は全住宅数の3.8%と少なく(2013年)5)、好条件住宅への入居は容易ではない。また入居相談は多いが、条件に合う民営借家が見つからない現状や6)、家主による障害者に対する入居拒否感の高さが報告されている7)。
対象は、地域で生活する知的障害者本人である。大阪手をつなぐ育成会の協力を得て全国の事業所に質問紙を送付、郵送にて回収した。2017年9月〜翌年2月に多肢選択式の質問紙調査を実施し、617名(同居388名、別居229名)の回答を得た。質問紙は同居・別居の2種類を用意し、共通質問にて自身や家族のこと、住宅実態、将来の住まいの希望などを尋ねた。同居者に対して同居理由や別居希望を、別居者に対し別居理由や時期、住居費負担などを尋ねた。
親との同別居による比較分析から、次の3点が明らかになった。
@同居者の7割弱が40歳未満、別居者の7割弱が40歳以上と、同居者が相対的に若い。
親も同様に、同居親が別居親よりも相対的に若い。40歳前後に、将来の生活の場を検討
されていると推察される。
A同居者の4割弱は無職、福祉的就労が多い。一方、別居者の無職は2割弱で、正社員・
パート・就労継続Aが福祉的就労よりも少し多い。同居者より別居者の就労収入は多い。
B同居者の8割以上が親の持家に、別居者の8割はGHに居住している。親の家かGHに
生活の場の選択肢が限られていることがわかる。
同居・別居の状況に関して、次の2点に注目する。
@同居者の3割が「別居したい(いつかを含む)」と回答したが、その8割は別居の準備を
していない。「同居したい」と回答した者の6割は、親と離れることと家事に対する不安
を理由にあげた。GHに住みたくないという回答が2割あった。
A別居者の半数弱が30歳までの別居であった。3割が「自立したかった」を別居理由にあ
げたが、親の死去や入院から別居する場合も多い。
将来の住まいの希望を尋ねたところ、同居者の半数は無回答であり、回答者の4割は「GH」と回答、6割弱がGHか施設、または両方を選択した。別居者の4割は「現在の住まい」、2割が「施設」と回答した。親の家かGH・施設に選択肢が限られていることがわかった。
親同居者の生活は持続可能ではなく、親の死去や入院などから、同居以外の選択をせざるを得ない状況は必ず訪れる。知的障害者の地域生活において生活支援の重要性は理解されている。しかし、生活の場である住まいは必要不可欠であるにも関わらず、これまであまり着目されてこなかった。知的障害者が、より多くの住まいの選択肢を持てるよう住宅のあり方を検討する必要がある。