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「障害学とリハビリテーションの関係における問題点」

池田保・田島 明子 2018/11/17〜18 障害学会第15回大会報告一覧,於:クリエイト浜松

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last update: 20181031

キーワード:障害学、リハビリテーション、問題点

報告要旨

【はじめに】障害学は,障害の社会モデルを基本的視座に社会の変容を求め,医学モデル・個人モデルと対峙し,特にリハビリテーションに対しては批判的である.一方,リハビリテーションは,一般的に正常とされる値(活動・参加含む)に近づくことを健常と捉え,個人の変容を求めている.同じ「障害者」を対象にしているのに,両者が相容れることはないため,リハビリテーションの領域では障害学に触れる機会がほとんどなく,障害学の視点を持ったリハビリテーションを展開できていない.そこで,本研究では,障害学的視点を持ったリハビリテーションの概念形成のために,現状の問題点をそれぞれの立場から分析することを目的とした.
【方法】リハビリテーションにおける障害・障害者に対する考えをまとめるために「入門リハビリテーション概論第7版(中村,2009)」,障害学から見たリハビリテーションをまとめるために「OTのための教育講座:障害学(河口,2010)」の文献を用いて,文献研究を行うこととした.
【結果】@リハビリテーションにおける障害・障害者に対する考え:リハビリテーションにおける障害は,個人の意図実現にとって制限あるいは制約となる身体的状態を意味し,身体運動が行えないことで目的とする行為の遂行ができなくることを言っている.そして,障害者は、機能障害によって日常生活や社会生活に制限を受けていることとしている.一方で,障害の概念を捉えなおすために,医学モデル,個人モデルから社会モデルへの転換を図ろうとしている.A障害学から見たリハビリテーション:障害学は,障害は個人の身体問題として個人化されるのではなく,社会によって作られた障壁や差別として主張してきた.そのような障害者に対し,リハ専門職は,社会環境の重要性について認識していても,その働きかけは個人と個人を取り巻く狭い範囲に限られ,社会環境を変え得る手段を持っていないことを指摘している.また,目の前にいる障害者個人を変えることに過剰に集中し,障害者はいつまでたっても患者の立場から逃れられないとも指摘している.さらに,病院中心の医療に基づく専門職から地域に結びついた専門職へ転換し,問題を医療で抱え込まずに地域社会の変革に繋げていく専門職を求めている.
【考察】結果から現状の問題点として以下の3点を挙げた.
@ディスアビリティのずれ:リハビリテーションは,社会モデルへの転換を試みているとは言え,目的とする行為の遂行ができなくなることの原因を依然として身体運動に帰結している.一方,障害学では,ディスアビリティは障害者個人に帰属するのではなく,社会によって形成されているとしている.ディスアビリティを捉える出発点がそもそも異なっているが、ディスアビリティにはどちらか一方ではなく両者の要素が含まれているのではないかと考えられる.
Aリハビリテーションが否定されているという誤解:リハビリテーションは,障害学の指摘をリハビリテーションを否定しているという認識から,障害学に対して嫌悪感があるように思われる.それ故、障害学に対してリハビリテーションはどのように答えていくか,はっきりとした立場を示していない.しかし,障害学は,医者や専門職を否定しているのではなく,障害者が適応しにくい個人モデルを否定しており,そういう社会やサービスを変えたいと考えている(杉野,2007).従って,批判されている・否定されているという点に留まらずに障害学を正しく理解するリハビリテーション教育体制作りや障害学に対するリハビリテーションの姿勢・態度を検討する必要がある.
Bリハビリテーションの教育上の問題:リハビリテーションの養成過程で障害学はカリキュラムに組まれていない.また,卒後教育も含めて従来のリハビリテーションの教育は,伝統的な医学モデルを基に教育が行われ,医学偏重型と言える.そのため,医学的な視点に偏り,社会との関係や政策といったマクロな視点を持つことができていない.障害者のニーズに答え、有益な生活を送る援助のためには、医学的側面だけではなく,社会的環境や制度・サービスの変革も重要である.欧米では既にリハビリテーション教育に障害学が含まれていることを考えると,養成過程あるいは卒後教育に障害学を学ぶ機会が必要と考えられる.
【まとめ】障害学を正しく理解することで,障害学の批判にリハビリテーションはどのように答え,どのような立場をとるかを検討し,正しく教育していくことが必要であると考えられた.
【参考文献】
河口尚子.(2010).OTのための教育講座:障害学その1〜6.OTジャーナル44(1〜6).
中村隆一.(2009).入門リハビリテーション概論第7版.医歯薬出版.
杉野昭博.(2007).障害学 理論形成と射程.東京大学出版会.




*作成:安田 智博
UP: 20181031 REV:
障害学会第15回大会・2018 障害学会  ◇障害学  ◇『障害学研究』  ◇全文掲載
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