「無年金障害者問題の動向――無年金障害者のための「年金110番」をとおして」
磯野 博 2018/11/17〜18
障害学会第15回大会報告一覧,於:クリエイト浜松
last update: 20181101
キーワード:無年金障害者、障害年金の受給要件、雇用の流動化・非正規化
報告要旨
推計12万人といわれる無年金障害者には、障害年金が受給できるのではないかと無年金障害者の会に電話、メールなどで照会するケースが年々増加している。そこで、無年金障害者の会では、「年金110番」を定期的に開催し、相談内容の問題解決に務めるとともに、公的年金制度の矛盾を明らかにし、無年金障害者をなくす運動を発展させる取り組みを継続している。「年金110番」は、これらの趣旨に共感した弁護士、社会保険労務士、学識経験者が充分な相談時間を確保できるよう、複数の電話回線を用意して行ってきた。
本報告は、4回にわたる「年金110番」の相談事例おとおして、無年金障害者問題の動向を明らかにすることを目的にしている。
「年金110番」の相談事例の分析に関しては、無年金障害者の会 幹事会の承認を得ており、住所・氏名など、個人情報を特定できない状態にした資料の提供を受けることにより、研究上の倫理を担保するものである。
1 開催日時・会場
○第1回:2010年3月20日(日)10:00〜15:00 プロボノセンター(大阪市内)
○第2回:2010年8月28日(日)10:00〜15:00 プロボノセンター(大阪市内)
○第3回:2011年8月28日(日)10:00〜15:00 プロボノセンター(大阪市内)
○第4回:2014年3月29日(日)10:00〜15:00 神戸合同法律事務所(神戸市内)
2 相談者の状況
○件数:196件
○地域:大阪府(87件)、兵庫県(55件)、京都府(9件)、和歌山県(5件)、愛知県(5件)、(5件)、青森県(5件)、奈良県(3件)、東京都(3件)、滋賀県(2件)、静岡県(2件)、長野県(2件)、千葉県(2件)、埼玉県(2件)、香川県(2件)、福井県(1件)、神奈川県(1件)、愛媛県(1件)、不明(9件)
○性別:男(107名)、女(72名)、不明(17名)
○年齢:20歳代(12名)、30歳代(33名)、40歳代(42名)、50歳代(34名)、60歳代(33名)、70歳以上(25名)、不明(17名)
○手帳:身体障害者手帳(112名)、精神障害者保健福祉手帳(67名)、療育手帳等(3名)、不明(14名)
*不明には、障害関係の手帳を受給していない者を含む。
3 相談累計
障害年金受給可能性有:59件
*20才前初診の確認、保険料納付要件の調査の必要が必要である者を含む。
○特別障害給付金受給可能性有:2件
○障害年金受給可能性無:82件
*保険料納付要件、初診日証明などの確認が困難である者である。
○障害年金受給可能性無:10件
*障害程度が軽く、障害認定基準に該当しない。
○障害年金受給可能性無:32件
*初診日が65才以上である者などなどである。
○その他:11件
*相談のみの者などである。
4 相談内容
○保険料の減免制度、学生や若年者に対する特例制度を知らないため、無年金障害者になった。
○市町村役場、年金事務所の相談担当者の認識不足、説明不足のため、無年金障害者になった。
○障害者になるとは想像もしておらず、手続きが遅れたため、無年金障害者になった。
○第3号被保険者への転換をしていないため、無年金障害者になった。
○カルテの廃棄や主治医の廃業・死亡など、初診日照明ができないため、無年金障害者になった。
5 障害年金の課題
○任意加入時代の学生・専業主婦(被扶養配偶者)、公的年金制度への加入が排除されていた在日外国人、現在も任意加入である在外邦人といった従来の枠組みでは捉えられない無年金障害者が急増している。
⇒若年層を中心にした雇用の流動化・非正規化による無年金障害者、無年金障害者予備群が急増している。
⇒厚生年金保険事業所未加入問題など、常勤労働者の無年金障害者問題が顕在化している。
○硬直化した障害年金の受給要件による無年金障害者が引き続き多い。
⇒加入期間の2/3、または初診日の前月から1年前までの保険料納付が必要である。
⇒障害の要因である疾病の初診日照明が必要である。
⇒厚生労働省令により、機械的・抽象的に規定された障害認定基準に該当する必要がある。
6 障害年金の方向性
○「労働能力を有する者には働く権利の保障を、労働能力が欠けている者には所得保障を」を基本にした運動の展開が必要である。
○就労している障害者には十分な所得保障がされておらず、障害年金もしくは賃金保障の適切な適応が必要である。
○現に、障害年金を受給している障害者も含め、障害年金の絶対的な水準が余りに低く、生活保護基準以下であり、家族から自立した通常の社会生活を営むことができないため、「所得保障が必要な者は漏れなく所得保障が提供されること」、「所得保障の水準は、人たるに値する生活を営むために必要な額であること」という原則を前提にすべきである。
*作成:安田 智博