筋萎縮性側索硬化症(以下、ALS)の人の地域生活では、症状の進行に応じてケアやコミュニケーションの方法が変化していく。そのため、その生活において、本人が自分自身で介助や生活それ自体を差配していくことが難しい。本人の生活にも関わらず、それが本人によってだけ差配されないことが、時に問題となる。そして多くの場合、家族のサポートによって生活が維持されている現状がある。このような本人が生活を差配していくことの難しさのサポートを、本報告では「コーディネート」と規定する。その上で、本報告では、ALSの人の地域生活における「コーディネート」の役割について、その担い手が家族と他人の介助者である場合にどのような違いがあり、そのことが介助体制や本人の生活にどのような影響を与えているかについて考察する。
筆者は2008年からALSや重度障害を持つ人たちを対象に生活面やコミュニケーションなどの支援を行なっている。その活動で得た実証データをもとに分析・考察を行なった。分析には相互行為論の研究枠組みを援用する。なお、当事者及び関係者には目的・方法・倫理的配慮について説明を行い、事例の使用について了承を得ている。
ALSの人の地域生活は、かかわる専門職の知識や情報の幅、家族の介護力や支援体制に大きく影響を受ける。とくに家族介護については、これまでの研究でも指摘されているように、家族介護と家族の間の関係性――愛情や情緒的関係――が結び付けて語られ正当化されてきたことから、ALSの人たちの地域生活の実現には前提とされてきた。そのため、家族がいない独居の場合には、地域生活の実現が困難な状況がある。そこでの家族介護者の役割は、実際の介護だけではなく、介助の方法を伝えること教えること、介助者と本人との調整や相談など、生活を維持していくための「コーディネート」が求められていた。一方で、独居の場合には、家族介護を家族以外の他人に振り分けていくことで支援体制の構築が目指されていく。しかし、生活を維持していくための「コーディネート」については、その役割を分散することが難しいことから、一人の他人(介助者)が家族介護者のような役割を集中して担っていた。
そこからは、本人ではない家族や介助者が本人の生活を「コーディネート」していくことにおいて、視点の違いがあることが明らかになる。そこから示唆されるのは、本人の持つリアリティを理解した上での「コーディネート」の必要性と、その担い手によって実際の役割や意味合いに違いが生じることである。
なお、本報告は所属研究機関から倫理教育を受けており、研究倫理を遵守したものである。