進行性筋ジストロフィー(以下筋ジスと略す)は、骨格筋の変性や壊死、筋力低下が慢性・進行性に経過する遺伝性の難病である。その多くは幼少期に発症し、症状が徐々に進行するため、早くから養護学校が併設された国立療養所の進行性筋萎縮症病棟に入院し、そのまま長期にわたり療養生活を送る患者も少なくない。時代と共に難病患者とその家族の生き方や価値観も多様化し、従来の「難病患者」と医療者という構図は成り立たなくなっている。生活と病気は密接に関係しているため在宅での療養生活の質と、病院で提供される医療の質を切り離して考えることは難しい。多様化していく社会の中で、一人の「生活者」としての患者の生き方や存在を支援する医療を構想すれば、患者とその家族を取り巻く様々な社会資源の相互活用と連携はますます重要となる。神経難病ではALSが代表され、ALS患者の地域生活の支援に関する研究はなされている(西田(2009)、山本(2009)長谷川(2009)、堀田(2009))。しかし、筋ジス患者の地域生活の支援についての研究は管見の限り見当たらなかった。ALS患者と筋ジス患者とは社会生活の経験値といったところで大きな違いがある。筋ジス患者は発症が幼少期であるため、幼少期から筋ジス病棟で暮らしている筋ジス患者は、療養環境が守られている一方で一般社会についてほとんど無知であるといって過言ではない。2013年、障害者総合支援法が成立し、重度訪問介護派遣事業3が開始された。今回、制度を利用し筋ジス病棟から地域移行の実現に至ったF氏に半構造化面接の手法を用いインタビューを行った。インタビューデータをもとに、長期にわたり病院で療養生活を送っていたF氏が、地域生活を送るための有用な情報をどのようにして得たのかその過程を描き考察した。その結果、筋ジス患者のF氏は、病床でパソコンを用い、インターネットやフェイスブックを活用し、有用だと思われる情報を取得していたことが明らかになった。また、その中から有用だと思われる情報を取捨選択し、失敗を重ねながら社会とのつながりを確立していた。
倫理的配慮:F氏に対して研究の趣旨・内容や目的について伝え、研究協力の同意を得た。また、研究協力を拒否する権利、拒否することによって不利益を被らないこと、データの適正な扱いと厳重な保管・破棄の方法、データ公表が予測される媒体等の明示、個人への研究結果のフィードバックについて説明した。インタビューはF氏の許可を得てICレコーダーで録音した。インタビューの内容については、逐語録と逐語録の分析が一通り完了した時点でF氏に内容を開示し確認を依頼し、公表の承諾を得た。本稿は、立命館大学における人を対象とする研究倫理審査委員会の承諾を得て実施した(人を対象とする倫理審査番号:衣笠−人−2017−21)。