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優生手術問題:活路と展望(第2回)――真相に迫ろう!人権回復を!

山本 勝美 20201218

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last update:20200722


はじめに

 既述のように、2018年1月30日、強制不妊手術への謝罪を求めるたたかいは、これまでの少数の地道な市民運動から一躍、国を法廷に引き出す積極的な取り組みへと飛躍した。
 「強制不妊手術」という名のテーマは、2007年以来息長く関わってきたひとにぎりの市民グループの手から全国の人々の前に登場した。そして真摯な関わりを期待されるテーマとして、テレビ、新聞、フェイス・ブックなどあらゆるメディアを通してアピールされた。
 だから人々は、
「このように不当な問題がどうして今まで知られなかったの?」
「いまどうして突然に現れたのかな?」
と多くの人々が不思議がるほどに、このアピールは唐突に現れた。さらに続けよう。

第1章 佐藤さんの国家賠償法による訴訟について

 多くの事実経過の中でも、まず佐藤由美さん(仮名)の提訴についてご報告する。去る1月30日の提訴のあと第1回公判は3月28日に仙台地方裁判所で行われた。弁護団の意見陳述書には以下のように記されている。

提訴の意義
 原告は、昭和47年(1972年)12月、原告が15歳のとき、「遺伝性精神薄弱」であるとして旧優生保護法第4条による不妊手術を強制された。

原告への優生手術と被害の実態
 本人の療育手帳には「遺伝性ではない」とされており、優生保護審査会での審査が極めて杜撰であったと強く疑われる。原告の身体に残る手術痕も横に大きくギザギザの形状であり、手術を受ける少女に対する配慮のかけらも見られない。
 優生保護法は、法律の目的が違憲であるのみならず、審査の手続き及び実施方法までもが人権を無視したものであった。
 原告は、優生手術によって生殖機能を失い、そのことによって結婚の機会も失われるなど、受けた肉体的・精神的被害は計り知れない。

優生手術の違憲性
 子どもを産むか否かは人としての行き方の根幹に関わることであり、子どもを産み育てるかを自らの意思によって決定することは、幸福追求権としての自己決定権(憲法第13条)として保障されている。「優生保護」を理由とした不妊手術は、憲法13条によって保障された基本的人権を踏みにじるものであった(以下略)。

被告 国に求めること
 厚労省は20年間以上にわたり、「当時は合法であり、謝罪も補償もしない」との見解を取ってきた。国は「優生手術被害に真摯に向き合い謝罪と補償をすべきだ」との世論に向き合い、解決の方向性を示すことが出来るか。一刻の姿勢が問われている。

 この日の仙台地裁における公判には全国各地から支持者が結集し、その数や150名に達した。
 公判に対する熱意を行動で示そうとする意思が、仙台の地で初めて出会う人たちの間でお互いに共感を持って受け止め合っていた。社会的連帯とは未知の人々の間ですら仲間意識の元で交わされるこういうふれ合いのことなのだということを互いに体験からかみ締め合っていた。
 ただ、実際には法廷は70名定員のスペースだ。多分仙台裁判所でこれまでに何回あったか知らないが、長い列をなして、抽選で法廷に入る人が選ばれた。そして、筆者もその一人に選ばれた。
 上記の意見陳述書は新里宏二弁護士(強制不妊手術国家賠償請求訴訟弁護団長、仙台弁護士会)によって読み上げられた。これに対して、被告の国側から、次回の日程について、9月またその次は12月、という希望が出された。これに対し、新里弁護士から、その時間幅の不誠実さが厳しく追及された。その結果、次回は6月14日に繰り上げられた。当局は裁判のペースを延長することによって、一回でも少ないうちに、後述する国会の立法化によって解決に達していこうとの意図があることは自明である。

 続いて、飯塚淳子さん(仮名)の提訴が、去る5月17日に仙台地裁で行われた。
 この日は北海道、仙台、東京の三地裁で一斉提訴が行われた。全国弁護団準備会の組織化が進んでいた。原告は、それぞれ北海道の小島喜久夫さん、仙台の飯塚淳子さん、東京の北三郎さん(仮名)。
 さて飯塚さんの提訴は、「優生手術」という内容の共通性に鑑み、上記の佐藤由美さんの公判と併合して行われることになった。従って弁護団によれば、訴状の記述も個別の経過を除けば共通な文書とのことである。
 なお、飯塚さん個別の事実経過については、本報告の第1回にご本人が公表された文書に記されている。この日も、公判傍聴のために多数の方が傍聴を希望されたため、再度抽選が行われた。私は再度抽選に当たった。

第2章 全国弁護団(準)による諸活動

 今や仙台弁護団が、全国各県の弁護団(有志)による電話相談と第2次提訴準備の拠点になっている。さらに第3次提訴の準備という情報も入ってきている。

1)旧優生保護法被害に関するホットライン(電話相談)について
 先ず、各地の弁護士会(有志)によるホットライン(電話相談)は以下の通り。
 1月30日の仙台地裁への提訴に続く2月2日の第1回「旧優生保護法被害に関するホットライン」は10時から16時まで北海道、仙台、東京、大阪、福岡の5か所で一斉に行われ、14件の相談があった。
 第2回ホットラインは、3月30日に17か所で行われ、34件の成果があった。そして具体的な提訴に関する相談が寄せられた。このようにホットラインの成果と提訴への進展が連動して展開中。
 第3回全国ホットラインが5月21日に、可能な限り全都道府県での実施を視野に行われたが、まだ全都道府県に至っていない。この日は、全国で55件の相談が寄せられ、手術を受けたという当事者の電話も20件。熊本では、70歳の男性から「10歳頃、睾丸の摘出手術を受けた。亡き母親から優生保護法の手術だと聞いた。裁判を考えたい」と。

2)第2次、第3次提訴の企画と実施
 上記ホットライン実施の成果として、5月17日に第2次提訴が北海道、仙台、東京の弁護団によって一斉に企画され、実施された。北海道の原告・小島喜久夫さん、仙台の飯塚淳子さん、東京の北三郎さん。仙台地裁では佐藤由美さんと飯塚淳子さんは合同の提訴となりました。
 飯塚さんの意見陳述書は、近日中に本サイトに掲載予定の、日本臨床心理学会の公開講習会において飯塚さんご自身が朗読されています。
 さらに、聴覚障害者団体による被害の掘り起こしが積極的になされており、その成果として福岡で提訴希望者が出てきていることから、第3次提訴でさらに全国的な広がりがなされると期待されている。

3)全国弁護団の結成
 「旧優生保護法被害に関する全国弁護団」の結成が東京駅前・宝町で5月28日に行われた。北は北海道から、南は福岡県から弁護団のメンバーが集われた。
 被害当事者の掘り起こしと支援強化を目的とし、弁護団の新里共同代表は「早期の国による謝罪と補償を求めて行く」ことを強調された。
 この日、東大精神科ご出身の岡田 靖雄医師が「優生保護法と精神科医」と題する記念講演をなされた。一般の参加者も認められ、会場は満杯になった。氏は、自ら優生手術を執刀されたことを明かすとともに、関わった全ての医師は自ら果たした役割を明らかにすべき、と述べられた。

第3章 議員連盟結成とその活動

 「優生保護法下における強制不妊手術について考える議員連盟」は、去る3月6日、衆議院第一議員会館において設立総会が持たれた。文字通り超党派の会で、全与野党から約40名の議員が加盟された。
 設立趣意書には「優生保護法は1996年に優生思想に基づく条文を削除するなどの改正を行った上、母体保護法と改められました。しかし、優生手術を強制された被害者にとっては、結婚が破談となった方や、子どもを産み育てるという夢を奪われた方、いまでも健康被害を訴える方もいます。(中略)人としての尊厳を守り,人権を回復していくためにも、支援を検討する必要があります」と明記されている。役員には、顧問として塩崎恭久(以下敬称略)、会長として尾辻秀久、事務局長に福島みずほ、事務局次長に初鹿明博、岡本あき子の各氏が着任された。
 集会は、新里弁護士から報告があり、続いて厚労省より現状報告がなされた。さて、結成早々、同席した厚労省の役人に対し、厳しい質問が向けられた。配布された統計資料をめぐり、「斜線の升目はどういう意味か」。これに対する明確な回答が聞かれなかった。一方、尾辻会長から「各県の保持する資料を集約する」ようにとの要請に対し、厚労省側から「目的は何ですか?」との質問がなされた。それに対し、尾辻会長から「法の実態を明らかにしようとしているのだから当然ではないか?」という反論が返された。集会は今後の課題として、県現場の資料収集問題に移り、終了した。

 第2回議連は、3月29日に参議院議員会館で持たれた。この日は、勉強の情報提案として「優生手術に対する謝罪を求める会」(以下、求める会)から手術被害者及びその家族として、飯塚淳子さん及び佐藤路子さん(仮名)からご自身の思い、気持ちなどについて10数分にわたって報告がなされた。また、これらの報告とは別に「求める会」から「旧優生保護法下での優生手術(不妊手術)についての実態調査に関する要望書」が配布された。これらをめぐるコメントや個別の体験などが続いた。

 第3回議連は、4月17日、参議院議員会館で行われた。この日は、尾辻会長からご挨拶があり、「与党のワーキングチーム(WT)もできた。WTは厚労省に調査の範囲拡大の要請をすると言っている。当議連と(政府の)WTが手柄争いや足の引っ張り合いになってはいけない」と述べられた。続いて「求める会」の市野川 容孝さん(東京大学大学院総合文化研究科/医療社会学)から、「日本の優生政策被害者に対する補償の必要性とドイツ、スウェーデンの補償政策」とのタイトルで約10分間の講演が行われた。

〈討論〉
 尾辻会長:厚生省は、当時は合法だったという主張を繰り返しているが、今はどう考えているのか?
 山本麻里審議官(児童虐待防止等総合対策室長):国連自由権規約委員会と女性差別撤廃委員会に対する日本政府の回答は、当時は適法であったということで、調査をせずに今日に至った。今は訴訟もあり、司法の場も含めて判断してほしい。
 尾辻会長:厚労省の限界を感じる。我々の力で法律を作らなければならない。
 藤井克徳さん(日本障害者協議会):補償を急ぐべきだ。なぜこの法律ができて、1996年まで続いたのか検証すべきだ。ドイツとスウェーデンでどのように補償や検証が行われたのか。
 市野川さん:ドイツでは、優生政策はナチに固有ではなく、他国でも行われていた。補償の対象にならないという考えが戦後長く続いたが、1980年から開始された。スウェーデンでは1975年に不妊手術の法がなくなり補償は1999年にはじまった。20数年かかったが、日本も法がなくなって22年目。そういう時期に来ている。(以下略)

第4回議連:4月25日、衆議院第2議員会館にて行われた。
(1)与党ワーキングチーム(WT)の取り組み報告 橋本岳衆議院議員
(2)厚労省の報告
(3)NGO(「優生手術に対する謝罪を求める会」)の報告 米津 知子さん

(1)与党ワーキングチーム(WT)の取り組み報告
4月23日の第2回与党WTの議論の内容
1)速やかな調査の実施と結果の取りまとめ。
2)問い合わせ窓口の速やかな公表と丁寧な窓口
3)対象外の自治体や病院・施設へも資料・記録の保全要求
4)調査後に今後の課題整理をし、次回に報告を。

(2)厚労省の報告
1)他の報告に記載。「今回提出の資料に記載」
2)昨日付け厚労省ホームページに掲載。
3)速やかに保全措置を行う。
4)次回に報告する。

(3)NGOの報告
「「優生手術に対する謝罪を求める会」の経緯」及び「旧優生保護法下での優生手術についての実態調査に関する要望書」について。

第5回議連勉強会
 第5回勉強会は、5月10日、衆議院議員会館で行われ、出席者は200名を超えた。北海道、宮城県などの都道府県議会議員と市議会議員による各地の調査の状況や取り組みの報告と情報交換がなされた。

第6回議連勉強会
 5月24日、第6回議連勉強会が参議院議員会館で行われた。5月17日に東京地裁に提訴された北三郎さんのお話と、関哉直人弁護士からの訴状についての報告があった。北さんは、不妊手術をされたことを40年間妻に言えなかった。
 周囲から「まだ子どもができないの」と言われ、妻も辛い思いをしてきた。入院して亡くなる直前にやっと言えた。心の中にしまい込むしかなかった。優生手術のことを親族に打ち明けられない人が大勢います。国は事実を明らかにしてほしい。
 その後、厚労省から、国及び都道府県旧優生保護法担当一覧表の更新についてなどの報告があり、尾辻会長からは議連による法案作成プロジェクト・チーム案の説明があった。来年の通常国会に法案提出の方向で検討する旨、また裁判との兼ね合いについて、法制局とも相談しながらすすめていきたいという報告があった。
 法制局は、「法案の前文に責任と謝罪とを明確にするのは可能」と。

筆者のコメント
 与党のワーキングチーム(WT)と尾辻会長(元厚生大臣)のもとに集まる「優生保護法下における強制不妊手術について考える議員連盟」(超党派議員連盟)は連絡し合って取り組みを進めている。これには尾辻会長の働きかけが何といっても大きい。
 元より、双方ともに強制不妊手術という社会的課題の大きさを意識し、協力する姿勢を堅持していると見られる。来年度通常国会の法案提出をめぐってどのような動向になるかが注目される。また、各地裁への提訴と国会とがどのように絡み合うか不透明だ。裁判に要する年月が長いこと、他方で和解案の可能性も気がかりだ。


*作成:北村 健太郎
UP:20180924 REV:20190526, 20200411, 0618, 0722, 1218
山本 勝美  ◇優生:2018(日本)  ◇病者障害者運動史研究  ◇全文掲載

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