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ダニーさん(Danny Reviers、ベルギー)へのインタビュー

於:ボストン 2017/12/08

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Danny Reviers写真20171208-1   Danny Reviers写真20171208-2

 ※通訳:長瀬修
 ※暫定版です

立岩 初めまして、今日はお時間を取っていただき大変ありがとうございます。

ダニー こちらこそ。

立岩 ダニーさんはALS協会の会長さんでよろしい?

ダニー 18年会長を務めております。

立岩 ダニーさんはALSにかかったのが何年前だったか覚えていますか?

ダニー 39年間、もちろん当初はもっと軽かったですけれども。

立岩 ALSの人たちのための組織に関わるようになったきっかけはあるんですか?

ダニー 17年前になりますけれども、車いすが必要で、そのときに協会と連絡を取った。17年間この状態にあります。今ではこうした電動車いすを100台以上、協会として無料で提供してまいりました。

立岩 だんだんに聞きますけれども。たとえば協会でやって車いすを貸し出したりするのは当然お金がかかりますので、そうした団体の活動のためのお金はどういうふうにして獲得されるんですか?

ダニー 政府の予算からお金をもらうこともありますし、また金持ちの人たちが構成するクラブに入っている、裕福な方たちから資金を得てプロジェクトを行う、そういう形で資金を得てきています。その資金を使って在宅支援機器や、車いす、音声コンピューターなどに使っています。ALSの方の家族がわたしたちの活動に感謝してくださって、マラソン等のイベントを開いて資金集めをしてくださることもあります。

立岩 ちなみに今ベルギーの協会のメンバーは会員数は何人ぐらいかお分かりですか?

ダニー 1000人のALS患者がいますけれども、そのうちの750人がわれわれの会員です。

立岩 ずいぶん多くの方が加入なさっていますね。

ダニー 小さな国ですから、近い距離の中で暮らしていて、知り合いが多いんですよ。端から端まで行っても300キロとか、それぐらいのサイズの国ですから、小さいわけです。

立岩 また協会のことについては後でお伺いすると思いますけど、今回われわれはいろんな国のALSの人たちがどういうふうにしてケアを得て暮らしているのかということに関心があります。それでいろんな国の人に聞いてきました。ベルギーはどんなふうになっているのでしょうか。

ダニー まず第一に政府から提供されるケアがあります。基本的に全部無料でケアが提供されています。それに加えましてわたくし共の協会がたずさわっている事業ですけれども、2007年から政府から年金給付があります。それは年間を通して、5万8千ユーロ、7万米ドルを在宅ケアのために現金でわたしたちが受け取ることができます。

立岩 それは利用者一人当たりについてということでいいですか?

ダニー はい、一人につき年間の金額です。

立岩 最初におっしゃっていた政府から提供されるサービスというのは、量的にはどのくらい供給されるもの、時間的にはどのくらい提供されるものなんですか?

ダニー それは必要なだけもらえます。

立岩 たとえば障害が重くなってきて夜の時間とかも吸引などが必要であって、24時間のケアが必要な人もいると思います。実際に増田さんなんかもそうですけれども。そうした人は一日24時間、週7日の公的なサービスが得られるというふうに理解してよろしいですか。

ダニー 5万8千ユーロは自分が指名するアシスタント、それが家族であれ友人であれ他の人であれ、そう言う人を雇用するお金として使うことが出来ます。

立岩 としますと、基本的には政府からの供給されるサービスで時間的には可能なんだけれども、自分が希望する人を雇いたいのであれば、それについて現金が政府から出るという理解でよろしいですか?

通訳 ごめんなさい、もう一回お願いします。

立岩 政府からの供給されるサービスで一日の時間は全部足りるんだけれども、自分がこの人にサービスを提供してほしいと、友人であるとか家族であるとか、そういう場合に、その人に支払うお金というのが、さきほど最初に言ったサービスと別に現金という形で支払われるという理解でよろしいのでしょうか?

ダニー まず最初の政府によって提供されるというふうに申し上げましたのは、たとえば看護師についてそれが保険によって提供される。次に申し上げました、現金給付による5万8千ユーロという部分につきましても、必要があればそれ以上の金額が提供されます。

立岩 分かりました。ありがとうございます。ベルギーのALSの人たちはおおむね自分の家に住み続けるのでしょうか、それとも施設や病院やそういったところに入所したり入院したりする人もいらっしゃるんでしょうか?

ダニー 圧倒的に自分の家で暮らす人が多いです。でも終末期になりますと我が国は小さいですけれども、7か所あるケアセンターに自宅から移る場合が多いです。

立岩 今回わたしたちは何カ国かの国の人びとに聞きましたけれども、多くは公的な政府からのサービスと言うのは非常に限られていて、とてもお金をたくさん持っている人でなければ、お金を払ってケアをやってもらうということは非常に難しいと。ALSの人が特に在宅で、自分の家で暮らすのは大変難しいということを聞きましたけれども、今お話を伺った限りでは、ベルギーでは住みたいところにそうやってサービスを使いながら暮らすことができているというふうに了解してもよろしいいでしょうか?

ダニー ベルギーではヨーロッパでも一番すぐれた支援の仕組みがあります。

立岩 なるほど。その制度ができるにあたっては、ALS協会などが要求するまでもなく、すでに政府のサイドからそういった制度は整っていたと。特に自分たちが要求をしたということはあるんでしょうか?

ダニー やっぱりわたしどもの取り組みによってこうした支援の仕組みができるようになりました。当初、今もそうですけれども、わたしはこの協会の仕事はずっとボランティアで取り組んできています。取り組んでいる中で、徐々にALSが進行してきたわけですけれども、娘もわたしもずっとボランティアとして協会のために貢献してきました。そしてわたしたちのこうした活動がある前は、たとえば基本的な車いすにしましても、在宅の場合にはなかなかもらいづらいと、家の中ばかりにいるということで、車いすの必要性さえもそんなに認められなかったんです。でもわたしたちの取り組みの成果として、支援の制度が完備されるようになってきました。そのためには患者としての権利を確立するということが必要でした。わたしたちの選択権を確保するために患者の権利を確立することが必要だったんです。(他の方とのやり取りが入る。部屋から取って来てもらうものがありますので)

立岩 ダニーさんは比較的ゆっくりかもしれませんけれども、ALSの人でも進行が速くて一年とか二年の間にベンチレーターをつけないと生きていくのが難しい状況になる人も結構いると思うんですよね。あそこにいる増田さんも確か、発症してから2年以内に人工呼吸器をつけるかどうかの選択を迫られたと聞きます。ベルギーにも当然、進行の速いALSの人たちがいると思いますけれども、そうした人たちは呼吸器をつけないと生きていくのが難しいという状況になったときに、どういうふうにして決定というか、決断をしていますか?

ダニー 選択が一番大事だと考えています。安楽死法という法律があります。ご存知だと思いますけれども。つける、つけない、そういう選択、例えば家族に恵まれている場合につけるという選択をする方が多いです。また、つけないという選択をする、ご本人がそういう意志であるならば、わたしたちはその選択を尊重します。そしてまた、もう自分としてはこれで十分だと、自分としてはもうここで終わりにするという方がいれば、その方の意志をわたしたちは尊重します。どこまで生きようとするのか、それぞれの選択を尊重するんです。

立岩 なるほど。昨日今日と聞いてきた中ですと、アメリカ、米国ですね、USAの場合は、生活を維持するために自分で負担するお金が膨大になると。そういった中で生きたくても生きられないということだと思いますけれども、ベンチレーターが必要になってからもベンチレーターをつけて生きていく人というのは、ほんの1パーセントとか数パーセントだと聞きます。他方で日本もそんなに高くはないですけれども、それよりは、たとえば3割とか4割の人がつけて生きるというふうに言われています。ベルギーではそのへんの、つける、つけないという選択する人たちの割合はどのぐらいであると理解しておられるでしょうか?

ダニー その数字は持ち合わせておりませんけれども、わが国の場合には、ベルギーの場合には、その人工呼吸器やベンチレーターの費用というのは、すべて公費によって賄われますので、個人負担と言うのはありません。ベルギーの場合、必要な場合には、病院で一晩過ごして、その間に必要なものを作成する、そのための情報が得られる。その手続きさえ行えば必要な人はもらえます。

立岩 分かりました。あと二つあります。これからベルギーの協会が目指す課題として、どういうものが課題だと思ってらっしゃるかということと、今日ダニーさんたちは世界の会議に参加されているわけですけれども、そういう国際的な運動、連帯といったものの意義をどういったところに感じておられるかをお伺いしたいと思います。

ダニー 第一の優先順位といたしましては、ALSの治療法を見つけるための資金づくり。治療法を発見するそのための研究が重要であり、そのための資金を集めることです。すぐに見つかるということはなくて、たぶん10年、15年ぐらい時間がかかってしまうかもしれませんが、そうした研究が重要だと思っています。そして、これも一番と表裏一体なんですけれども、良質なケア、さまざまな支援機器を含めたケア。ですから一番と二番はまさに表裏一体だと思います。
 まず最初に申し上げたいのは、こうした会議の場と言うのは、国際的な情報交換のために非常に重要だということです。各国がどういう研究に取り組んでいるのかをお互いに知る、そのためにこうした会議という場は非常に役に立ちます。次にベルギーの中でわたしたちは、患者さんやその家族が幸せでいられる、そういう状態をつくることに努力をしています。そしてその努力の成果というのを世界に伝えることが、重要な使命です。それは国際的な連帯と非常に関連のある点だと思っています。
 実際にベルギーの中では、いろんなものがある面、過剰にある。たとえば車いすだったり、音声対応のコンピューターだったり。そういったものを、わたしたちは他国に無料で提供するということもしております。さらに過去5年間ですけれども、国際援助プロジェクトを始めております。現在、7つのプロジェクトがあります。それは、車いすや音声対応のパソコン、ケア機器等を無償で送る。輸送費もわたしどもが負担するという形のプロジェクトです。ラトビアで二つ、アルゼンチンで一つ、台湾で一つ、スイスで一つ、オランダで一つ、トルコで一つ、全部で7つのプロジェクトを進めています。必要があれば、日本にもお送りしますよ。このやり方をご説明しますと、パートナーとなる企業を探します。そことタイアップして、まずベルギー側で発送をします。そしてそれが日本なら、日本に着いた段階で日本のパートナーの企業、たとえば車いすの会社が車いすを組み立てる。そして日本なら日本で、必要な方に無償で提供する。これがプロジェクトのやり方です。

立岩 良く分かりました、ありがとうございます。

ダニー 今申し上げた国際協力のプロジェクトに関するペーパーです〔いただいた〕。

立岩 国際組織に限らず、国内組織もそうかもしれませんけど、昨日ぼくらはアイスランドの国際組織の代表もやったことのあるというグージョンさんにインタビューしたんですけれども、こうした会議で何人かダニーさんを含めて車いすに乗っておられるALSの人もぽつぽつは見かけますけれども、全体としては医療者の人の数の方が圧倒的に多くて、当事者本人が参加するということが、お金の面でもですね、なかなか難しいというようなこと、そういった状態を変えていかなきゃいけないということを彼は言っていましたけれども、そういうことについてはダニーさんはどういうふうにお考えですか。

ダニー 娘が昨日からアライアンスの理事会に入りました。娘が理事会の中でこれから強く訴えていこうというのは、まさにALSの患者がこうした国際的な会議等により積極的に参加すること。実際いろんなものが非常にお金がかかるわけです。航空券もそうですし、介助者の費用といったものが非常に高額であるということがあります。すべて非常にお金がかかります。それでもやはりALSの人たちの参加を推進する、そのためにはお金がある企業から支援を得ていくことが必要だと思います。2006年日本の横浜でこうした会議があった時に、わたしも行くつもりだったんですけれども、最後に行くことができなくなってしまいましたけど、日本の患者さんたちにもより積極的に参加してほしいと思います。

立岩 ありがとうございます。ぼくらも今回、増田さんと一緒に日本からここまで来て、飛行機、航空会社に払うお金がずいぶんなお金になるということを経験しました。国際会議がいろいろ寄付を募ったりして費用を出すと言うのも一つの方向、いいアイデアだと思いますけれども、たとえばダニーさんのところであるとか、飛行機を利用するコストについての負担を航空会社であるとか、場合によっては政府であるとか、そういうところに要求するということは、ベルギーあるいは他のヨーロッパ諸国でお聞きになっているでしょうか。あるいは実際にそういうことに関わったことがおありでしょうか。

ダニー 政府に関しましてわたしが申し上げられるのは、わたしの自国のベルギー政府についてですけれども、政府としては国内にいるベルギー人の患者さん、その福祉が最優先で、国外に旅行する際の移動の問題というのは二の次だと政府は答えるだろうと思います。ただ、これは非常に重要な問題ですから、航空会社に働きかけるというのはいいだろうと思います。ただそれもある特定の航空会社だけというよりは、たくさんの航空会社に対して国際社会として共通の立場で航空会社に働きかける形の方が有効かもしれないと思います。

立岩 ありがとうございます。大変長い時間を取っていただきました。わたしの方からは最後の質問ですけれども、ALSの人たちというのは病気であり医療を利用する側面と、重度の障害を持っている障害者であるという側面の両方があると思います。わりと多くの国では医療の方に重きが置かれていて、他の周囲の障害を持っている人たちと一緒に行動する、運動するということはあまりなかった。けれどもただ近年こうした、自分たちも障害者の一員として、障害者の権利のために他の障害者の人たちと一緒に行動するというようなことが増えてきていると思うんですけれども、そのことについて、ダニーさんのお考えなり、あるいはベルギーの今の状況なり、お聞かせいただければと思います。わたしからは以上です。

ダニー 両方だと思います。患者という側面と障害者という側面と両方だというふうに思います。アライアンスはまだ十分な取り組みができていないと思います。ただ先ほど申し上げましたように、娘がアライアンスの理事として4年間取り組みます。それを通じて、すべての患者の命が大事だということ、そしてすべての患者が自由に移動できるということ、それが実現できればと思います。

立岩 ベルギーの協会は他の種類の障害を持っているベルギーの団体と一緒に行動したりすることはありますか。

ダニー 他の病気の団体や障害者団体と協力をしています。たとえば移動のタクシーの問題とか、そういうのは我々にとって共通の課題ですから。ただ他のグループは我々に対して怒ったり嫉妬したりするんですよ。ALSの人への支援というのは、他の病気や障害の人に比べて手厚いんですね。政府はALSはひどい、とても大変な病気だからとそういうふうに言うんですね。だから他のグループからすると、腹を立てたり、妬みとかあまりいい言葉ではないですけれども、そういう感情を持たれることはあるんですよ。

立岩 ありがとうございます。日本でも少しそういうところがあるかもしれません。

ダニー まぁ人間ですからね。

立岩 わたしからは以上です。大変長い間、ありがとうございました。

ダニー 増田さんに申し上げたいんですけれども、増田さんご自身、そして他の日本のALSの方々というのはとても勇気がある。しっかり生きてらっしゃる、これを申し上げたいと思います。増田さん、増田さんの周りで起きていることはとても素晴らしいと思います。しっかりと生きて闘い続けてください。

 ちょっとした出来事について申し上げたい、ALSとは全然関係ないんですけど。わたしが住んでいるアパートはベルギーの一部リーグのサッカーのチームのクラブの場所から50メートル離れたアパートなんです。先週、買収された。アパートの中には数軒レストランがあるんだけれども、それが寿司バーになっちゃうんじゃないか(笑)。地元のサッカークラブに取ってかわられちゃった。日本のサッカー選手も来るんじゃないか。ちょっと日本の一部が入ったかなと。何か質問があればEメールでお送りください。英語でお願いします。


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ALS  ◇病者障害者運動史研究  ◇インタビュー 2017 at Boston 
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