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「辻 哲夫氏への障害基礎年金に関するインタビュー」

話し手：辻 哲夫さん／髙阪 悌雄さん　20171106　14:00～15:00　辻氏の研究室にて.
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last update: 20220324


■辻氏について

辻哲夫氏へのインタビューを2017（平成29）年11月6日14時～15時，勤務先である東京大学高齢社会総合研究機構にある辻氏の研究室にて1985（昭和60）年年金改正に関してのインタビューを行う．辻氏は1971（昭和46）年東京大学法学部卒業後，厚生省入省．厚生省保険局国民健康保険課長，厚生省年金局長等を経て2006（平成18）年9月～2007（平成19）年8月まで厚生労働事務次官．1985（昭和60）年年金改正には，厚生省年金局年金課課長補佐として携わった．なお1985（昭和60）年年金改正全般に関する辻氏への詳細なインタビューを立教大学の菅沼隆氏が行っている．


■インタビュー本文

「20171107　辻哲夫様　インタビュー.MP3」
00:00:00～00:53:45（54分）
聞き取れない箇所は、＊＊＊（hh:mm:ss）
聞き取れるけれど自信のない箇所は、【きこえたおと（hh:mm:ss）】
と表記しています。


（00:00:00）


髙阪悌雄（以下、髙阪）　菅沼先生のこちらのほう目を通させていただきまして、非常に貴重な証言が書かれておりまして。特に板山さんと山口新一郎さんがお会いになってたという証言、私自身、どういうつながりがあったのか、いろんな資料で調べたんですけれども、どこにも書いておりませんで、それでこちらの資料を読ませていただいて、初めてこうした証言に接することができまして。ぜひお話を伺いたいと思いまして、来させていただきました。

辻哲夫さん（以下、辻）　これが1枚目からですね。

髙阪　そうですね。浅野さんにも先月9月3日にインタビューをさせていただいたんですけれども、共済が参加ですね。国民年金法等改正に参加を拒んでいた背景ですね。山口剛彦さんと浅野先生でも、いろんな各省庁を回って説得は大体済んでいたということだったと思うんですけれども、ただ参加を拒んだ背景がですね、いまいちちょっとよくわからなくて。成熟度の差で国民年金法を救済する、そうした意識が参加をちょっと遅らせる原因だったのか、抵抗があったのか、共済側の人にとってみれば。被保険者は当然反対すると思うんですね。国会のほうにも呼ばれて反対の意見を述べてるんですけれども。

辻　私はですね、そこのオーラルヒストリーでもありますように、改正案の立案作業一辺倒だったので、外回りは一切やってなかったんですね。外回りはまさしくその本でも書いてますように、山口課長と浅野さんが担当されたと記憶しておりますが、私の記憶では、山口さんが何回言っても共済課長はうんと言わないということで、山口課長が悩んでらっしゃったのをよく覚えています。その上で最後に大蔵省の共済課長が了解することによって、バタバタと進むんですね。それでやっぱり共済関連法案の作業が、かなり遅れたんですね。それで共済関連法案を出すのにも、各省の関係者は事務方は大変だったと思います。短い期間に国会に出さなくちゃいけないというんで、共済関連法案を出し終わったときに、みんなでご苦労さん会やったんですけどね。もう各省の共済制度担当者はくったくたの顔をしてたのをよく覚えています。

髙阪　こちらのほうにも、顔色がすごい変わってたというようなことを書かれておりますね。

辻　ええ。短期間に条文を書いて、大変だったと思いますね。大蔵省の共済課長がうんと言わないと、まったく作業に入れませんので。それがどういう理由であったのか、ともかく、こういう理由でダメだと言ってるんだという話ではなくて、ダメだと言っていると一辺倒でしたね。

髙阪　2011年の座談会のほうでは、前年にやった国鉄救済のための共済統合法案ですね。それで年金のほうも火の車になるので、やっぱりここは参加しとかないかんのじゃないか、それが得策なんじゃないかということを座談会の方で、どなたかが語られてたことが、私の記憶に残っているんですけども。その辺りのメリットデメリットというものを共済課長も考えて、最終的には決断をされたということなんでしょうかね。

辻　自治省のほうは非常に友好的でしたね。

髙阪　あ、そうですか。自治省のほうは。

辻　よく覚えてますよ。当時秋本さんという方が課長で、白崎という方が課長補佐で、非常に友好的な関係で意見交換しました。

髙阪　そういう背景があったのですね。

辻　30年前の話だけど。劇的な改革だったので、担当の方の顔はよく思い出せます。共済課の担当の専門官は、よく覚えています。担当官は大変だったと思いますね。

髙阪　やはり浅野さんのほうも、本当に反対した理由となるとお茶を濁されて、本当にわからないということを答えられて。結局、大蔵省共済課長の心の中ということなんですね。

辻　想像するほかないですね。

髙阪　いろんな想像はできるけれどもという。そうですか、すっきりとわかりました。では2問目のほう、これは今日の核心部分で、ここにもすでに書かれている部分なんですけど、昭和58年のくれに局長から辻先生に呼び出しがあって、そのときに板山さんと連絡を取り合っていたということですね。そうした場面を目撃されてるということで、私は非常にこの場面、大事な証言であるなと。つながったなと思ったんです。板山さんと山口さんが・・・・・

辻　私も忘れられない思い出ですね。

髙阪　そのあたり、すでにご証言いただいているんですけど、忘れないように私のほうにお願いできますか。

辻　その前に、年金課の補佐を53年から55年までだったと思いますが、陳情担当をやりました。

髙阪　そうですね、1979年に青い芝の会と。

辻　その記載が引用されてたのが、私どこかで拝見しました。これですね。

髙阪　ここなんです。全国青い芝の会のほうと。

辻　当時、月30万か40万円の年金を出せないのかということで、青い芝の会から非常に強い要求を受けて、いつも私が対応で出てたんですね。拠出制の年金を大幅に超える額だったんですね。30万とか40万とおっしゃっていた。私は年金制度を担当する者として拠出制の年金でも無理なんだと。ましてそれを超えて無拠出という年金の大幅引上げについての合意は得られないと。更には私たちは税方式の年金はできないと。要するに、税方式の年金というのは今まで拠出制年金というものの保険料の拠出の実績を否定することになりますので、税方式を導入したら年金制度は崩壊してしまうということで、新たな税方式は絶対にできないというのは、私たち年金制度に携わる者の確信です。それくらい年金に携わる者にとって、保険料の拠出への合意というものは、社会保険制度の命なんです。それがもう染み込んでまして、60年再計算当時私は年金課の課長補佐として、もちろん若い人たちも同意見だったんですが、要するに拠出制の保険料を無拠出の年金に入れるというのは無理だと。本当に頑固ですよね。当時私の記憶では老齢福祉年金への飛び火が心配だったんですね。老齢福祉年金だって、拠出制の年金の保険料を入れてもっと額を上げたらいいじゃないかということにつながる。

髙阪　そうなりますね。

辻　という議論に跳ねるというのが一番怖かったんです。そういうことで年金制度というのは、理詰めなのです。対談でも述べていますが、53年当時の年金局長で木暮さん、木暮さんは係長にも勝てないと言われた。

髙阪　おっしゃってます。

辻　これはまあ局長一流のジョークですよ。やっぱり理屈を知った上での決断でなければならないというのが年金制度なんですね。それを山口局長は決断されていたわけで、最初から心に決めていらしたと思うんです。私は私で、とにかく政策判断はもちろん上がするが、担当者は理詰めで作業するというのが任務ですから、理詰めで作業した上で決められたことは従う判断でしたから、最後までずっと同じ姿勢だったんですね。私は事務方として、いいんじゃないですかということはとても言う勇気がなかったですね。したがって、もちろん局長が判断して決めたわけです。それで、その後も、我々の恐れることは起こらなかった。老齢福祉年金に飛び火することはなかった。そういう意味ではやはり経験者の判断というのはすごいものだなあということです。それが私の人生の思い出なんですが。そういう意味で本当に振り返ってもそういうことなんですが。それで局長室で板山さんと会ったのは意思決定が済んでからか済む前かの記憶はないんですけど、こっちは条文をつくり上げて出すというのは至上命題で、もう本当に日を徹してほとんど寝てなかった。

髙阪　タコ部屋のほうで。

辻　朝、お風呂入るために家帰って、すぐまた帰ってくるという生活が続きましたが。そういう中で、本当に印象的なのは局長室に呼ばれたときのことです。

辻　ボポキポキポキといって折りたためるビニールが敷かれた本当に質素なボンボンドリームベッドに横になって、局長の横に板山さんが立ってるんです。板山さんは前から存じ上げておりました。社会局で有名な人ですから。何か2人で話し合っておられた、そのときに私が呼ばれて局長室に入ったのだと思う。辻くんと、「福祉というのは人の話をよく聞くことなんだよ」と局長は言って、板山さんが微笑んでおられるシーンですね。「いやそうですね、そう思います」とか言って帰ったんです。そのときは、障害福祉年金の話は全く頭に浮かばなかった。結局頑固な私をいさめたのかどうかちょっとわからないんですけど。そのとき、おまえは頑固で話を聞くことも大事なんだよという教えをされたのかもしれないと今になって思うんですけど、そのときは「ああそうですね、確かに福祉は話を聞かなくちゃいけませんね」とか言って帰ったんですが、あとで思い出してみると、私は諭されてたんだろうと思う。思い出すたびに胸が苦しくなる……苦しいとは変だけど、なんとも複雑な心境がしますね。何もかも決意していらした局長が、最後まで怒らないで静かに決断されて、その後極めて順調に進んだ事実を顧みるたびに、やっぱり最高決定する人の力量や思想というのは大事だなあということを痛感しますね。私は課長補佐としての任務を必死に果たそうとしたんだと思います。それは私にとっては大きな思い出ですね。経験者がいかに先例を変えていくか。本当にこれですね。私は有識者会議の報告書をさっと目を通したかもしれませんけどほとんど記憶になくて、私からすればそんな経緯なんか関係ないわけです。年金課の課長補佐として大丈夫かどうか、これは後世で問題が起きないかを考えるのだけが我々の任務でして。なんというか、年金制度の番人みたいな気分ですよね。それで頑ななまでに自分を通した。それで良かったんだと思うんですけど。決めるのは局長で、最高決定権者に、当然それは従うもので、異心は何もないわけで。ただひたすらに、我々としての思いを述べ続けたということです。懐かしい思い出ですね。板山さんとかなり打ち合わせしてらしたんじゃないかなと想像します。

髙阪　背後にそういうものがあったと。

辻　私は結果を顧みてすべて局長が仕組まれたんだなと思います。もちろんこの制度を国会で通すためにもこの障害福祉年金の改革は必要であるということも含めて、局長のシナリオには全部入ってたんだろうと思いますね。それは私の個人的な結論ですが。ただ、この拠出制に切り替えて、生活保護の適用率が障害者については下がったというのは感激しましたね。

髙阪　ええ、書いておられましたね。

辻　素晴らしいことだったんだなと思ってね。そういう意味では、振り返ってみて頑なな自分に恥じ入ると同時に、青い芝の会の人たちには、できないことはできないんだとはっきり言うことが任務であると思って、ガンとして言い続けてきましたが、同額まで上がったことは本当によかったと思います。

髙阪　70年代に。

辻　それにしても年金制度としては破天荒な改革ですね。

髙阪　浅野さんもおっしゃられてましたが、乱暴な論理というものが出てきたという。

辻　それをやった局長は偉いなと思いますね。

髙阪　辻先生は板山さんと山口さんがお会いになっている場面を目撃、呼び出しがあってお会いになってる場面を見られて、それ以降は反対意見とかは述べられなかったんでしょうか。

辻　そのときは、おまえ反対してるじゃないかとそんな話題も出ないので障害福祉年金のことと結びつけて私は考えなかった。ただ本当に静かに、「福祉というのは人の話を聞くものだよ」と言われて。私は年金の話と結びつけて考えずに、福祉のあり方を教えられたと思い、そうですねって言って帰ってきたのを覚えてる。あとから見れば、ひょっとしたら辻が反対して反対して、これは必ずやるんだけどなかなか年金局内部は大変だよという話をひょっとしたらしてらしたかもしれませんね。辻を呼んで、一言諭したという流れだったのかもしれません。私はその話題だということを、さらにそのときは認識しないぐらいその話題は出なかったですね。だから局長は、私が反対しようが関係なかったんでしょう、本当はね。心に決めてますから。だけど、決めちゃってるわけだけど、やっぱりそういうことなんだよと私に教えたかったんでしょうね。そのことは、役所を退官してから気がついた。頑固で一途だった当時の自分が恥しい。私にとっては生涯忘れられないですね。

髙阪　私の仮説で、厚生省の職員の間に、板山さんが向き合って、板山さんが向き合った結果、同感というんですかね。障害を持った方に対する同感が拡がった、その同感の拡がりというのが省内全体に及んでいって、それで暴論だけども彼らは滞納してないという論理ができたのかなあって。同感が拡がる象徴的な出来事が辻さんの目撃されたシーンなのかなという感じがします。

辻　局長の高度な意思決定ですよね。浅野さんが乱暴と言ったことを、私は破天荒と言っているんですが。ですから、要するにできることだけど嫌だなと思って反対したんじゃないんですよね。できないことだとみんな思ってたんです。年金局はね。

髙阪　年金局のほうはできないことだと思っていた・・・・・

辻　年金知らない人は、何言ってるんだろうということかもしれない。でも年金局の制度技術者としてはとってもとてもというのが本音だったので。我々が状況を理解して、いいんじゃないですかと言ったわけじゃないんですよ。まことに情けない話ですけどね。それくらい我々は危ない、そういうことは考えられないという考えだった。これは一言で言えば、山口局長の書いたシナリオだと思います。それは深く板山さんと通ずるものがあったのではないかと想像しますね。

髙阪　貴重なご証言で、どこの文献を探しても老人福祉課時代の部長と、上司と部下の関係しか書かれてないです。

辻　審議官のときに有識者会議を山口さん担当されてたんでしょう？

髙阪　ちょうど時期は重なると思います。【すみません、ご質問に対して、このあたり正確に即答できませんでした。山口新一郎の総務審議官の時代は、S56年4月～S56年8月、このとき板山のCP研究会を引継ぎ園田厚相の指示で作られた障害者の生活保障問題検討委員会（通称、検討委員会）のリーダー、同年8月から正木馨氏が引き継ぐ。有識者調査についてはS57年11月からS58年1月で山口の年金局長時代】

辻　だからもう、そのときから構想があったんだと思います。だけどそのベースには、今聞いて思うことですけど、表舞台での板山さんとの接点がないとすれば、もっと深いところで板山さんとは連絡を取っておられたと思います。あれだけのシナリオというのは、決意を持った人しかできないことです。積み上げてできることじゃないですよ。

髙阪　決意を持った人しか。積み上げでできる改革じゃないと。なるほど。ありがとうございます。非常に貴重なご証言。3問目の質問になるんですけど、この3問目の質問ですね、9月に浅野先生のほうにインタビュー行かせていただいたときに、障害基礎年金の成立過程というのは非常に謎が多いということで、研究者間でも十分に詳細に検討されていない部分なんですけど、浅野先生なりにもう一度再構築、どうして障害基礎年金ができたのかということについて、ご証言をいただいたんです。浅野先生自身のお考えというのは、国民年金法等改正全体と、それと障害者所得保障が改善したというの、これはまったく別物だというお考えを持っておられるんですね。これは浅野ご自身が「また勝手なことを言ってと言われるかもしれない」ということを予想されながらのご証言だったんですが。どうもやっぱり、（障害基礎年金のできた）源流というのに浅野先生がおっしゃるのは、検討委員会というのがあって、そこで正木さん、正木総務審議官はとにかく何かひとつ考えてみようということをプロジェクトチームのメンバーにおっしゃった。そのときにみんな必死に考えた。誰が言い出したのかわからないけど、そのときに乱暴な論理、無拠出と拠出を統合する、彼らは滞納していないという乱暴な論理が出てきた。でも誰が言ったのか、その乱暴な論理を検討委員会あたりで出てきたんだけれども、誰が言ったのかわからないというのが浅野先生のお考えなんですね。たまたま、国際障害者年の下、運動が盛り上がった時期と、第二臨調という流れの中での年金改革が偶然一致したというのが浅野先生のお考えです。それで年金改革と今回の障害福祉年金が基礎年金に統合されたということについては、切り離して考えたほうがいいというのが浅野先生の考えなんですね。でも今の辻先生の考えを聞いていますと、やはり山口局長のお力というのも大きいと思いますし、そのあたり再構成をお願いしたいのですが。

辻　この基礎年金導入の改革を私は皆既日食だと言っています。いろんなことが奇跡的に折り重なってできたんだと思うんです。基礎年金がここでも言ってますように、5万円直前のほどよい額だった。4万5000円くらいだったら5万円の基礎年金はできていなかったかもわからないですけど、4万7000円から8000円だったという記憶ですけどね。25年加入の年金額ですね。それが諸データで基礎的な水準として説明できたと。それは後付だったのはよく覚えてます。しかも山口新一郎さんが最後の命を燃やして、法案出して、僕の記憶では2月24日に閣議決定したんですけど、6月に亡くなるんですね。法案を出すときまで生きて頑張られたということですね。それも奇跡ですよね。そういう奇跡によってできた改革なんですね。そういう意味で障害基礎年金も奇跡のひとつだろうと思います。奇跡のひとつというのは、年金改革論だけではなかなか出てこない着想ですよね。丁度当時障害者の人の大きな闘争の目標になっていた。それをここへ結びつけたという関係性であって、そういう運動のうねりが大きな山になっていたのと、また今言った奇跡的な時期に一致してたというのも、本当に素晴らしいことだと思いますね。それもしかし私は山口さんは織り込んでいたように思いますね。頑固な年金制度の中でですね。

髙阪　めちゃくちゃ頑固ですよね。

辻　ひとつバランスを崩したら、それでもう大騒ぎになるという制度なので、本当に頑固な頑固な年金制度がこの改革を乗せたというのは、やっぱり年金制度を司ってる方の決断がないとできないと思うんです。私は誰が言い出したというのはあると思いますけど、シナリオをつくったのは山口新一郎さんだと想像します。

髙阪　S56年8月、総務審議官に正木さんがなる前に4カ月ほど総務審議官で検討委員会のリーダーをやっておられて、「彼らは滞納していない」という乱暴な論理を言いだしたのは正木さんではないと浅野さんはおっしゃるんです。で、誰が言い出したかわからない。ただその前に山口新一郎さんが検討委員会のプロジェクトチームの総務審議官でやっておられた（S56年4月～S56年8月）。おそらく僕もそう思うんです。おそらくその頃にシナリオをこれだけの改革なので書かれたという。

辻　当時はすぐ検討会をつくってお茶を濁すということが多かったんです。検討会をつくっていろいろ議論したけども、やっぱり無理だということで小さな改革にとどまるというふうにね。よくある手法なんですね。それがここまで出来たというのは、やっぱり確固たる決意を持った人が関わり続けなければできないことです。

髙阪　検討委員会で誰が言い出したのかわからないけども、シナリオというのは山口さんがすでにまいていたとしか考えられないですね。

辻　それともたまたまシナリオというか、その動きに山口さんが出会って、やってるうちにだんだんとビジョンになっていったということかもしれないと思いますけども、本気で年金改革に結びつけたのは、やっぱり年金を知り抜いた人間しかできないと思います。

髙阪　できないはずですね。

辻　私はそれから山口さんというのは、本当に人格の優れた、本当に社会保障の理念というものを知りぬかれた方で、やっぱり障害というものに対しても深い理解をお持ちだったんだろうと思いますね。

髙阪　ありがとうございます。非常によくわかりました。

辻　余談になりますけど、そういうことでいえば本当は障害基礎年金だって低いわけですよね。

髙阪　低い・・・そうなんです。

辻　そういう意味で、一番大切なことは障害者の幸せがいかにあるべきかということであって、これは一里塚にすぎないわけですね。私はそういう意味で今も障害の問題に関わり続けてますけれども。本当にこれは一里塚というか、年金制度でやっとできる範囲のことはできたということであって、障害者がこの社会で生き生き暮らせるように、雇用の問題とかへの対応が必要ですね。何にも増して、地域の理解ですよね。そういう政策を全体としてきっちり進めることが非常に大切で。ただこれが足がかりになって、就労の賃金が非常に低いんですけれども、それとふたつ合わせて、就労というものと合わせて障害者が幸せになるというのは、より幸せであると。決して40万円の年金だけが障害者を幸せにするのではなかったと思います。そういう意味で次のステップを考えなくちゃいけない。私は歴史の証言者として強く思いますね。やっぱり障害基礎年金をもらいながら就労する。こういう社会をつくるべきだと思いますね。

髙阪　障害者を社会で受け入れる、そういう理解を求めた……。

辻　トータルに幸せを考えれば、働いてお金を得る生活ができる環境をできる限りつくるべきなんですよ。というふうに浅野さんの問題提起を受け止めたいと思います。やっぱり社会参加できる社会をつくるというのが最終目標で、そのために年金制度も必要だということだと思いますね。

髙阪　どのような形で今後所得保障の改革を進めていったらいいのかという問題も・・・どうしても年金からこぼれる人なんかも数多くいまして・・・・

辻　私は次のステップはやっぱり就労だと思いますね。

髙阪　就労ということを、脳性麻痺の方たちも働けるような形の雇用環境というものを整えていくという。

辻　雇用環境とかそれから支援システムですね。

髙阪　支援システムというのを整えていく。

辻　ジョブ・コーディネーターとか、いろんな支援者がいなければ就労につながらない。そのことが次のステップとしてもっと議論されることにより、年金改革ともう一つの流れという道につながっているだろうと感じますね。

髙阪　所得だけで完結して考えてたらダメなんですね。次の拡がりということで。ありがとうございます、貴重なアドバイスを。質問のほうをもうちょっと。申し訳ございません。こちらのほうを実は質問させていただきたいと思っていたんですけど。大蔵省の当時の厚生省の担当官として、小村さんという方がいらっしゃった。

辻　小村次官ね。

髙阪　ええ。事務次官になられた。

辻　ああ、主計官だったんですね。小村さんが主計官だったんだ。

髙阪　山口新一郎の追悼集がありまして、その中に当初山口さんは基礎年金の3分の1に国庫負担を一元化するのは反対だったと。それで僕らのやらなければいけないことは給付率をとにかく下げること、適正化で。国庫負担を集中化することそのものは当初は山口さんは反対で、各年金分野ごとに、厚生年金だったら2割を国庫負担をしていく。その仕組みを堅持しようと当初はしていたそうなんです。それが小村さんが58年にお会いになったときに、もう一度基礎年金への国庫負担の集中をお願いしに行ったとき、やりましょうということを決断なさったということが小村さんの証言で書かれているんです。その後、共済も反対して、それで社会党なんかも例の制度審の全額税方式という仕組みを国会でひたすら言い続けて、国民年金法等改正全体に反対をするわけなんですけども。共済関係の被保険者とか社会党の議員が反対する、そうしたきっかけとなったものがこの基礎年金の3分の1の集中の決断。それから国会で社会党の議員が制度審の意見なんかを持ち出してきて、2分の1、いや全額だということを言い出した。その社会党などの反論ののきっかけになったのが、3分の1集中ということだったと考えてよろしいんでしょうかね。そのあたりの前後関係がわかりにくくて。

辻　私が着任した頃以降はもう本当に局議というのはほとんど行われなくて、局長が病気になられたのでね。局長のお考えというのは、山口年金課長が病院に通って、局長と対話をされて決めていったんですね。この改革は我々の間ではYY改革といわれていますけど、山口年金課長が我々の検討状況をすべて背負って、山口局長とお話し合いをされて、いろんなことを決めていかれたので。私にはこの経緯については当時聞いておりませんでしたので。3分の1にあっけなく方針を決めた結論として聞いたのであって、その過程の議論は私はあまり参加しなかった。やっぱり厚生年金2割のほうが将来に渡ってもトータルの国庫負担は多かったのかなあ。

髙阪　多くなると。国会で社会党の議員が追及したときに、吉原さんが答弁された。

辻　恥ずかしながら改革案の条文をまとめる責任者として私は国庫負担問題という大政策論にかかわる余裕はなかったんですが。ただあとで振り返ればですね、いつ頃だったかな、秋頃ですかね。共済年金一元化構想、横田課長補佐が担当して。昭和70年に公的年金を一元化するという構想を掲げて、それを各省に相談していくんですね。それが基本になって共済一元化に向かっていったわけですね。ただ、公的年金の一元化はつい最近できた。実際は2、30年かかったわけですね。

髙阪　そうですね、2、30年かかったと。

辻　やっぱり改革はそこまで進めることになると局長は考えたんじゃないかと思うんですね。基礎年金の導入をしたとき。だから年金のまず1階つまり国民年金の安定だ、次は2階の被用者年金の安定だというところから考えたことから、その決意の表れとして国庫負担基礎年金集中化を考えられたのではないでしょうか？よくよく年金政策を知り抜いてる局長としてはね、最終的には一元化のイメージが自分でもはっきり見えてる。それに沿って判断していかなきゃいけないと考えられたと思うんですけどね。基礎年金の魔力はすごいもので、それでなぜ国民年金に実際に適用したかという話も、これは忘れられない話です。誰もが財政調整だと思っていたら、局長が実際に国民年金に適用すると言い始めた。

髙阪　擬制適用という形。

辻　あの改革は巨大な財政調整をやったわけです．厚生年金が国民年金に金が流れたわけですね。そのために国民年金に全員を実際に適用しないと国民は納得しないだろうという判断だろうと思ってたんだす。本当に当時は課長補佐レベルの頭なので、しかしこうして歴史を振り、今にして思えば局長はその頃から公的年金一元化の道筋を構想していたのではないか。その布石として1階の基礎年金を一緒にしてしまえば道はひとつなんですよね。もう1階が一緒になれば2階だってという議論に必然的になっていくということで、そういう意味で国民年金への適用、国庫負担の集中というのは、ひょっとしたら公的年金の最終一元化まで本気で仕掛けられたということではないかと、今振り返ると想像しますね。

髙阪　わかりました、ありがとうございます。貴重なご証言を本当にありがとうございます。私が今回来させていただいたのは、とにかくお会いになってたというこの証言が私の中で感動的で。

辻　忘れられないですよ。局長室に私一人で入ったのは、2回だけですよね。

髙阪　あ、そうだったんですね。

辻　私、課長補佐として呼ばれたのは。着任した早々呼ばれて、君は国民年金をやるんだぞと言われた時と、板山さんの時と。あとは記憶がなくて。これ見たら9月に自宅療養してますよね。私が着任したのは4月ですから、局議を開いたのはほんのわずかで、局長と面談すること自身が非常に少なかったんですね。

髙阪　浅野さんのご証言でも、とにかく彼は鬼だったと。

辻　企画課長と企画課の補佐が局長としょっちゅう相談して、年金課の我々というのは改革案を局長に説明するのは本当に節目節目でした。私の着任の前は山口教室といわれて、山口さんが勉強会をやって。僕はその3年間滋賀県庁にいて、なんにも知らなかった。

髙阪　書かれてましたね。

辻　滋賀県庁時代にアンケート調査を見たときに、ああもう出来上がってると。ほとんどそのときには全部決まっていた。本当の適用を国民年金にしたとか国庫負担を基礎年金に統合したとか、公的年金一元化構想が出たのがその後くっついただけで。もうスタートのアンケート調査のときにほとんど改革は決まってたわけですね。私はひたすらにそれを実現化する制度をつくろう。もう機械みたいな仕事だったんだと思います。

髙阪　家に帰れば入浴するだけで、お風呂に入るだけに帰るような生活を送られていた。

辻　ビジョン作成については私はなんの語る資格もないといっていいです。ただ国民年金を守るということだけはものすごく神経質になって考えました。

髙阪　いつ破綻するかということとか、すごく。

辻　今は亡き荻島さんが基本的なビジョンを全部書いたわけですからね。

髙阪　基本懇の報告書ですね。

辻　白表紙の本ですよ。

髙阪　すいません、僕まだ読んでなくて。ぜひちょっと読んで……。

辻　すごい本です。あれにすべてが書いてあって。それから勝負を支給開始年齢に持っていったんだけど、これはちょっといかんなということで、山口さんが水準適正化路線のほうにして、基本懇の構想を味付けした。やっぱり実務家でなければできないんですよね、改革っていうのは。山口局長は何もかも年金制度のことを知ってますので。そういうふうに私は記憶していますね。もっとも山口局長の心をのぞいたのは、山口剛彦さんなんです。

髙阪　残念ながら亡くなられた。

辻　本当に涙涙ですよね。

髙阪　すごい人柄のいい方だったということを浅野先生がおっしゃっていて、とにかくいろいろと会合があれば、奥様方にすごい人気があったということなんかもおっしゃっていましたね。

辻　そういう意味ではトップスターですね。山口局長もすごい人だったけど、山口剛彦さんもすごい人で。あの2人がいなければできなかったですね。制度体系論的には年金改革はかなり終わったわけですね。それができたのは、基礎年金統合をやったからです。しみじみと二人の山口さんの仕事のやり方、山口さんがその母体をつくってくださったから、その後の改革は可能になって、国の年金制度は制御でき、そしてどの年金制度も破綻もしない。年金に関してはね。そういう意味では60年の再計算は大きな改革。私は年金のプロとしてそう思います。二人の山口さんはお国のために尽くされた方ですね。年金制度ではさんざん苦労しましたけど、そういう国民への思いを本当にやり抜いた功労者がいらしたということですよね。それは後世に伝えたいと思いますね。

髙阪　ということは、暴論ですね。浅野さんがおっしゃった暴論を必然的に言い出したのは誰なのかということは、おそらく推測できますね。山口新一郎さん以外はありえないですね。

辻　年金改革を決断できる人でなければできない。それが浅野さんも正直な人だから暴論と言ったように、私は破天荒と言った。その人しかできないというか、その人が仕組んだとしか考えられない。

髙阪　考えられないですよね。検討委員会の頃に出始めたということは。

辻　そんなね、大臣が頼むからやってくれよと言っても、怖くて誰もできないってみんな言いたいくらい、難しい問題なんです。

髙阪　そうですね。わかります、それ。浅野さんにしてみれば、山口さんそんなに障害者の保障のことをおっしゃってなかった。何もほとんどおっしゃっていなかったから、それとこれとは、年金改革とは切り離して考えるべきだということをおっしゃっていたんですけど、でも今のご証言をお聞きするとそんなの怖くて暴論を言えないですよね。

辻　普通なら、私できませんので首にしてくださいというような話です。それくらい難しい問題。

髙阪　難しい問題ですよね。背景にあるものもここまで強く言われたら、非常に納得できました。

辻　私はそう思ってます。

髙阪　ですよね。全部計算されてたということですよね。

辻　要するに年金改革というのは厳しいことばっかりやるんだけど、必ずいいことをしないと。

髙阪　飴と鞭みたいな感覚。

辻　それが年金改革の伝統なんですが、その前は遺族年金だった。今回は障害福祉年金において、本当にそのことが必要だと思われる状況ができていたことを含めてね、絶好のチャンスにおいてすべて仕組まれてた。これは全体をデザインした人の描いた姿だと思いますね。本当に私はそういうことで、すべて出来上がったところで入って、それに従っただけなので。デザインをつくった山口さんは、畢生の日本国家への貢献だと思います。

髙阪　貴重な証言です。そこまで強く言われると。

辻　私は社会保障は内なる国防であると言っています。このあいだ驚いたんだけど、日本の国防方針を見たら、第二の柱に民政を安定させると書いてあるんですよ。本当に国防方針そのものに書いてあるのびっくりしたんですけど。僕は社会保障は内なる国防であるといつも思ってたんですけど、だとしたら山口さんはその英雄ですよ。もう本当に歴史に残る英雄ですよね。そう私は思っています。

髙阪　ありがとうございます。


（00:53:45）


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＊作成：岩﨑 弘泰
UP:20220324　REV:
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