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レビュー:袋坂ヤスオ舞踏パフォーマンス(2017年10月7日/天野富美男作品展「青年」/BBプラザ美術館)

村上 潔 2017/10/09

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last update: 20171009


張力・浮力・重力。
身体を取り巻く諸力の存在を、じっくりと可視化していく。
オーソドックスなテーマながら、瑞々しい動きの構成により鮮烈な印象を残す作品。

生命力・躍動感を前面に押し出した天野の絵画群に囲まれ、そのモデルとなった袋坂が踊る。
スピード感やダイナミックなモーションは捨て去り、一秒一秒、刻々と「流れ」てゆく身体の内と外のありようを、丁寧に確認する袋坂。
観る者は、その「流れ」を感じ、自らの身体のリズムを(無自覚的に)意識する。
すると展示会場のなかに少しながら、身体を取り巻く複数の力が混流する状況が生じる。
袋坂はそれをコントロールし、同時にその流れに身を任せる。
そうして、誰が「踊り」の「主体」なのか、が不明瞭になり、その意味を追求することの無意味さを人々は意識するようになる。

描かれた「青年」の生命力・躍動感は、「ひとつ」ではない。
踊りの背後にそれらを見ていると、キャンバス内の「主体」が積極的に分解され、クィア的とまでは言えないまでも、未知の/分裂した不明確な存在が「力」を帯びてゆく様相が、徐々に浮き上がってくる。

つまり、会場の私たちが見て、同時に体感するものは、いつしか、「力をもった(保持し/行使する)主体」(=「青年」像)から、「複数の私たち」を取り巻く「複数の力の流れ」へと移っているのだ。
それを人々がやっと意識化し終えた瞬間、袋坂は自らの役割を終えたことを悟ったかのように、静かに踊りを止めた。

一見、空間は、袋坂の登場前に戻ったかのように見える。しかし、一度感じた力の流れは、各人の身体の内と外に、息づいているだろう。


◆天野富美男作品展「青年」(2017年10月3日〜8日/BBプラザ美術館)
http://bbpmuseum.jp/exhibition/%E5%A4%A9%E9%87%8E%E5%AF%8C%E7%BE%8E%E7%94%B7


*作成:村上 潔
UP: 20171009 REV:
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