last update: 20170919
2017年8月23日
厚生労働大臣 加藤勝信 様
【連絡先】
154-0021東京都世田谷区豪徳寺1-32-21スマイルホーム豪徳寺1F
自立生活センターHANDS世田谷気付
電話03-5450-2861/FAX 03-5450-2862
質 問 状
障害者権利条約の具現化のため「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」(骨格提言)の完全実現を求める立場から、以下の質問を行います。ご回答をよろしくお願いします。
★生活保護における障害者関係の加算制度について
昨年10月7日に行われた社会保障審議会生活保護基準部会(第25回)の資料2の中で、各種加算の検証が提起され、その中ではしょうがいしゃにかかわる「障害者加算」、「重度障害者加算」、「重度障害者家族介護料」、「在宅重度障害者介護料(他人介護料)」もその対象とされています。
障害者権利条約第四条第3項は、「締約国は、この条約を実施するための法令及び政策の作成及び実施において、並びに障害者に関する問題についての他の意思決定過程において、障害者(障害のある児童を含む。以下この3において同じ。)を代表する団体を通じ、障害者と緊密に協議し、及び障害者を積極的に関与させる。」と規定しています。生活保護基準部会がこうした基準を全く満たしていないことを指摘します。その上で、以下のことを質問します。
(1)「三障害(身体障害、知的障害、精神障害)それぞれの特性を踏まえた需要について、どのようにして把握、評価するか。」とありますが、具体的に方法を検討しているのでしょうか。
(2)「居宅介護や福祉用具等の福祉サービスが拡充されていることを踏まえ、他法他施策との関係をどう考えるか。」とありますが、どのような人たちの意見を踏まえて検討しようとしているのでしょうか。
★第五期障害福祉計画にかかわる国の基本指針について
今年3月31日の厚生労働省告示第百十六号に記載された入所施設利用者や精神科病院の長期入院者の地域移行について、以下の質問に答えてください。
第四期障害福祉計画にかかわる国の基本指針では、2013年度末の施設入所者のうち、2017年度末までに12%以上を地域移行させるという目標を立て、2013年度末の施設入所者の数に比べて、2017年度末の施設入所者の数を、4%削減する、という目標を立てていました。
ところが第五期障害福祉計画では、2016年度末の施設入所者のうち、2020年度末までに、9%以上を地域移行させるとし、それと同時に、施設入所者の数については、2016年度末に比べて、2020年度末に2%削減する、と目標値を引き下げています。
精神科病院に1年以上入院している人の地域移行については、第四期にかかわる基本指針では、2012年6月の時点の人数を、2017年6月までに18%削減するとの目標を立てていました。ところが、第五期の計画にかかわる基本指針では、国としての削減目標を明らかにせず、各自治体に対して、80%から85%の長期入院者を退院できないものとして計算するように指示しています(別表第四のα)
(1)これでは、障害者権利条約の一般原則(第三条)、とりわけ、「無差別」、「社会への完全かつ効果的な参加及び包容」を実現すべき、締約国の義務(第四条)に背を向けることになってしまいます。権利条約第十九条、障害者基本法第三条第二号を踏まえて、厚労省の見解を示してください。
(2)現在推し進められている地域移行政策は、その人の「適応能力」を選別しています。すべての長期入所者や長期在院者を選別することなく地域移行を進めるべきです。
「骨格提言」では、「長期に入院・入所している障害者の地域移行のための地域における住まいの確保、日中活動、支援サービスの提供等の社会資源整備は、緊急かつ重点的に行われなければならないこと。」としています。重度訪問介護の発展的継承によるパーソナルアシスタンス制度の創設も求めています。
これらを踏まえて、厚労省の見解を示してください。
(3)精神しょうがいしゃにかかわる別表第四のαについて以下の質問に答えてください。
- @「精神病床における入院期間が一年以上である入院患者のうち継続的な入院治療を必要とする者の割合として、原則として0.80から0.85」としていますが、この割合をどういう根拠で示しているのですか。
- A「精神病床における入院期間が一年以上である入院患者のうち継続的な入院治療を必要とする者」とは、「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会報告書」などに記載されている「重度かつ慢性」の基準に該当する人たちとは同じなのですか、違うのですか。
★津久井やまゆり園事件について
(1)6月26日に行われた社会保障審議会障害者部会には、資料2として「相模原市の障害者支援施設における事件を踏まえた施策の進捗状況について」が配られました。その中で、「5.退院後支援等の精神保健医療福祉分野での強化」が記載され、精神保健福祉法改定の内容などが記載されています。
これでは、通常国会での答弁にも拘わらず、精神保健福祉法を犯罪防止に使おうとしているとしか考えられません。そのことは、精神しょうがいしゃへの偏見を煽ることにもなります。
厚労省の見解を示してください。
(2)昨年7月26日に、津久井やまゆり園で刺された方々が、病院に搬送されるまで5時間以上かかっています。なぜ、このような事態となったのか、その原因を示してください。
★障害者虐待防止法の改正について
(1)法施行後3年を大きく超過し、福祉施設における虐待は増加の一途をたどっています。精神科病院での虐待も報道され続けています。
虐待防止法の附則第二条に記載されている改正作業はどの程度進んでいますか。とりわけ、厚労省の所管である医療機関での虐待防止対策についての進捗状況を明らかにしてください。
(2)精神科病院における身体拘束や保護室隔離が大きく増加してきたことについては、すでに多くの報道で取り上げられてきました。私たちの実感では、ほとんど虐待に等しいと考えますが、事態について、厚労省は現時点でどのような見解をお持ちですか。
(3)10日間の身体拘束を受け、5月17日に亡くなられたケリー・サベジさんの事件について、厚労省が把握している事態について、述べてください。今後、どのような調査を行っていくのかについても述べてください。
(4)身体拘束が原因と考えられるその他の死亡例について、厚労省の把握している例を示してください。
★難病者に対する社会保障について
(1)障害者総合支援法第四条1項により、この法律を適用するかどうかを、病名により選別するという不合理な制度が作られています。昨年9月29日に行った交渉において、障害支援区分認定の基準が当てはまれば、病名にかかわらず、総合支援法の対象とすべきである、との私たちの主張に対して、厚労省から明確な答えがありませんでした。改めて回答を求めます。
(2)昨年のやり取りの中で、「生活習慣病の人にサービスを支給することになるのは問題だから、病名による限定が必要」という趣旨の発言が厚労省側からなされました。厚労省として、「生活習慣病」からしょうがいしゃとなった人たちについて、総合支援法の給付を制限する方針をもっているのかどうか、お答えください。
★障害者総合支援法の制度について
(1)昨年の交渉の場で、厚労省は、家事援助の利用状況について、調査を行っていることを表明しました。この調査結果についての資料を提出してください。
また、来年の報酬改定や改定法の施行に伴い、家事援助について、どのように取り扱おうとしているのか、明らかにしてください。
(2)入院時の重度訪問介護の適用について、以下の質問に答えてください。
- @7月11日から8月9日までに行われた省令改定案のパブリックコメントにおいて、「重度訪問介護を提供する居宅に相当する場所として厚生労働省令で定める場所は、 病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院及び助産所とする。」との記述が行われました。これは、居宅同様の介助を、これらの場所で行う、と解していいのかどうか、答えてください。
入院時の介助を障害支援区分6に限定する、とか、直接の介助を行わず、医療機関のスタッフに介助方法などを伝達するだけ、などといった限定は、行わないのかどうか、答えてください。
- A昨年の交渉においては、厚労省の「直接の身体の介助などは行わず、介助方法を伝達するだけ」との趣旨の回答に対して、こちらから「ナースコールを押せない人に対する介助は、誰が行うのか」と質問しました。この時点では、回答がありませんでしたが、現時点ではどのような見解なのかを、答えてください。
★障害者総合支援法と介護保険制度について
(1)昨年の交渉の際に私たちは、2007年に出された「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく自立支援給付と介護保険制度との適用関係等について」と題する通知や2015年2月18日に厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部 企画課障害福祉課から出された事務連絡を、今後とも維持するのかどうか、質問しました。
厚労省側からは、「維持するとは限らない」との回答がありましたが、現時点での見解を示してください。書き換えるならば、その内容も明らかにしてください。
(2)7月11日から8月9日まで厚労省が募集してきたパブリックコメントの政令改定案において、重度訪問介護を、「介護保険相当障害福祉サービス」の中に入れています。「骨格提言」では、「障害者自立支援法の重度訪問介護や行動援護等は介護保険には『相当する』サービスがないことは明確」と記載しています。
なぜ、重度訪問介護を、「介護保険相当障害福祉サービス」としたのか、明らかにしてください。
(3)昨年12月9日に、社会保障審議会介護保険部会から出された「介護保険制度の見直しに関する意見」では、「被保険者範囲」が検討されており、その項目の記述は、「将来的には介護保険制度の普遍化が望ましいとの意見や、制度の持続可能性の問題もあり、今から国民的な議論を巻き起こしていくことが必要であるとの意見もあり、介護保険を取り巻く状況の変化も踏まえつつ、引き続き検討を行うことが適当である。」との言葉で締めくくられています。
ここでは、しょうがいしゃの介護保険制度への統合も念頭においた議論がなされているわけですが、しょうがいしゃはこれに反対してきた歴史を持ち、障害者自立支援法訴訟原告団と国の基本合意文書では、「新たな福祉制度の構築に当たっては、現行の介護保険制度との統合を前提とはせず」とし、「骨格提言」では、「それぞれが別個の法体系として制度設計されるべきである。」としています。
介護保険優先原則についても、「骨格提言」では、「介護保険対象年齢になった後でも、従来から受けていた支援を原則として継続して受けることができるものとする。」と記述しています。
厚労省は今後、障害者総合支援法と介護保険制度との関係をどのように検討して行こうとしているのか、答えてください。
*作成:小川 浩史