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「患者の立場から多職種連携 診療に望むこと」
於:東邦大学主催ALSシンポジウム「日本版Multidisciplinary clinic(多職種連携診療)に向けて」

一般社団法人 日本ALS協会 理事
嶋守 恵之 20170513

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last update:20171017

※以下は、東邦大学が主催したALSシンポジウム「日本版Multidisciplinary clinic(多職種連携診療)に向けて」での報告資料をテキスト化したものです。
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ALS協会30周年記念式典での集合写真
  患者の立場から多職種連携 診療に望むこと
  2017年5月13日
  一般社団法人 日本ALS協会 理事
  ALS患者 嶋守恵之


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  発表の構成

・患者仲間へのアンケート結果
・多職種ALSクリニック(MDC)への期待


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  アンケートの概要

○知り合い患者に依頼し、14名から回答
○回答者の属性
・進行度
 気管切開未実施 7
 気管切開済、TIV未導入 1
 TIV導入済 6
・療養場所
 自宅 12
 病院(長期入院中) 1
 施設 1
・居住地
 首都圏 9
 地方都市 5
○相当のバイアス
 無作為ではなく知り合い患者
 TIV導入者の割合が高い
 全員活動的で前向き
○しかし、どれも患者の生の声


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  集計の留意点

○一応気管切開前の回答者の内数を記入
・米国型MDCはTIV導入以前の患者を対象?
・ただし、日本ALS協会は、「新しいALS観」に基づき、呼吸器をつけた人もつけない人も今を大切に共に歩むこと、呼吸器をつけて生きられる環境を整備すること、を目指している
○抜粋した意見はあくまで一例
・全体の傾向を反映したものではない


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  Q1 通院先や入院先の病院では多職種連携が取れていましたか

取れていた 6 (3)
取れていなかった 6 (3)
病院/担当医による 2 (1)
(カッコ内は気管切開未実施の回答者の内数)

○気管切開未実施回答者の意見抜粋
・主に2つの病院に通院していますが、1つ目の病院は大病院ですが、全く取れていないです。 体裁上は、「地域と医療連携を」などうたっていますが、病院のソーシャルワーカーに相談をしてもよく病気自体の事を分かっておらず相談もやめました。もう1つの病院は、小さいですが、医師、看護師、PT、OT、STともに連携が取れています。
・病院のソーシャルワーカーさんが軸になって連携を取ってくれています
・在宅療養になってからは往診医と大学病院神経内科医との連絡が適宜行われているようです。また状況により訪問看護師又はケアマネージャーが医療スタッフ、介護スタッフと連絡を取り合っているようです。昨年8月から現在の往診医ですが、担当者サービス会議にも出席して下さり、医療スタッフからの信頼が厚いです。


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・どうしても日本の場合は部門ごとで担当が分かれていて、正直、自身で方針をしっかりとご説明しないと円滑に進まないと感じる時がしばしばあります。

○TIV導入済
・気管切開したあとどのように在宅での療養環境を整えるかが最大の課題でしたが、退院前に病院主導のカンファレンスを開いて頂いたことで、私に関わる多職種の方々の間で情報共有がなされたことがスムーズな在宅医療への移行に繋がったと考えています
・入院中は、相談員の方が、介護事業所や訪問医にこまめに連絡を取っていてくれたため、スムーズにコミュニケーションが取れていました
・在宅療養を始めるときには多職種連携が取れていましたが、病院療養になってからは取れていません。


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  Q2 多職種連携という場合、何を重視しますか。そのような連携は在宅と病院のどちらが中心になりますか。

在宅 10(4)
病院 0
場合による 1(1)
無回答 3(2)

○気管切開未実施
・関わる方が、現場で私の状態を見た上で、それぞれの立場で意見を交わして、最終私にフィードバックして、ケア方針を決めます。
・病院では治療(看護)という目的の為には職種を超えて連携するが、ALSのように治療法のない難病の場合は患者の意思に沿った処置や看護が必要となる。その実現は自由がきく在宅の方が可能である。


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○TIV導入済
・一番重要なのは医療と介護の連携だと思います。病状の変化に伴って胃ろうの造設やその他の医療的な処置が必要になりますが、それに伴い患者に対するケアの内容も変わってきます。まずは病院が主導で、在宅での体制が整ったら在宅医が中心となって連携をとるのが良いと思います
・患者の尊厳を重視します
・現在訪問看護師が多くの情報を持ってくれていて、複数のクリニックや病院などと連携し、臨機応変に対応してくれているため、往診も困らずスムーズに行えていることが助かっている


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  Q3 ご自身が経験した多職種連携の失敗例や課題があれば、教えてください

○気管切開未実施
・障害者手帳の等級変更の際に、主治医とリハビリ医師の認識の乖離を経験したことがあります。このケースの場合、目的や方針がしっかりと連携が図れていれば認識の乖離を防げるのにと感じていました
・神経難病の専門的な病院、また医師に診てもらえば、多職種連携が自然にある程度行われていると思いますが、そのような病院は数多くはありません。ALSという病気を全職種の方々がしっかり理解してもらう必要があるように思います。
・医師と看護師の見解の相違を目の当たりにしてしまったこと。訪問診療の主治医にはヘルパーの付き添いを条件に入院を承諾した為、付き添いなしでの入院はできないと訴えたところ、看護婦長に「患者は○○さんだけじゃないんです。」と言われた。病棟の医師はALSの症状やコミュニケーションの重要性を理解してくれていて会議でも議題にあがったが看護師が納得せず意見が分かれたそうです。


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○TIV導入済
・在宅医の先生が私の考え方や意思を理解してくださっています。時として病院側の意見と私の意見が異なることがあり、そのような時に在宅医と病院の主治医が直接話し合うことが出来ず文書でのやり取りになってしまいます。連携といってもどちらが主導するかというのは難しい問題だと感じています。
・発病後早い時期に当時の作業療法士に言われるがまま車椅子をオーダーしてしまい、尖足のことを考慮しない構造になり当初から痛い思いをしています。寄せ集めただけの多職種では駄目で、ALSスペシャリストの多職種でないと上手くいかないと思います。また、日本版では外来(在宅)と入院双方について仕組みを考える必要があると思います。


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  Q4 反対に多職種連携がうまく機能した例があれば、教えてください。

○気管切開未実施
・リハビリをヘルパーさんや相談員に見てもらい、共通認識を持ってもらったり、訪問医と病院の主治医が、役割分担してうまく情報交換しています
・ラジカット入院の後で、地域のケアマネージャーと、病院のソーシャルワーカーが積極的に連携してくれたおかげで、スムースに在宅での点滴投与が実現しました
・(7名中3名がないと回答)

○気管切開済/TIV導入済
・入院のたびにカンファレンスを開いて頂いています
・在宅を始める頃は病院が中心になり、介護者(妻)の吸引やストレッチ訓練から掛かり付け医、訪問看護ステーション3ヶ所、ヘルパーの確保までやってくれました


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・訪問看護師が臨機応変に対応してくれていて往診に困らない
・PTが看護師にストレッチやマッサージのやり方を指導してくれた


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  Q5 多職種連携や多職種ALSセンターに望むことをご自由にお書きください

○気管切開未実施
・素晴らしい取り組みだと思いますし、ぜひ実現させて欲しいと思います。多職種連携にはリーダーやまとめ役が必須だと思います。患者のことを定期的に観察をしていて、専門知識を持っている方に担っていただけると患者としては心強いと思います
・ALSという病気を全職種の方々がしっかり理解していただき、心の部分でも共に支えていくという気持ちで、根気強くチームとしての活動を行えればと思います。
・ALS患者には意志があるので、本人の希望を最優先して、希望を実現するためのチームを作って欲しいです。「良かれと思って」はタブーです。多職種の見地から、さまざまな選択肢を患者に与えてあげてください


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・患者の意思を尊重し、それぞれの職種がそれぞれの立場から患者を支えられる環境であってほしい
・往診医と鍼灸師を除くと医療・介護スタッフともにALS患者を余り見たことがない人が多いので、ALS協会県支部主催の患者会や講習会に参加してほしい。地域情報ネットワークがあるといいと思います。闘病生活を送っているALS患者・家族に精神的ケアができる専門医がいないので、多職種ALSセンターに臨床心理士がいらっしゃれば問題解決ができるのではないかと期待したいです。  
・作業療法士さんがヘルパーさんに指導する場があるといいなと思います。
・各事業所にばらばらに存在している日々の情報を何とかしたいです。ALSセンターには、そういった課題を解決できる事例を集めて公開すること、広く使える仕組みやシステム開発をやってもらいたいです。


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○気管切開済/TIV導入済
・新しい取り組みがなされていることは素晴らしいことだと思います。患者にとってのメリットを明確化した上で、センターの開設を進めていくことが重要だと考えています。
・できるだけ患者の情報を共有して、より良いその人に合った療養環境を考えてほしいです。
・一人でも多くのALS患者が、快適で、不自由なく、我慢をしなくてもよい生活が送れるよう望みます。
・日本ではこのような取り組みに抵抗があると思いますが、一つの成功例で流れが変わるかも知れません。特に治療法の開発で欧米に後れを取れば治療費の高騰で庶民には手の届かない事態になりかねませんので日本版ALSセンターの設立・がんばりに期待します。


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・多職種連携が上手い人を使って欲しいです。患者とその家族、専門職同士本当の意味で共有、協力して欲しいです
・米国のALSセンターのように外来で入れるところがたくさんできると良い。皮膚科、眼科、歯医者はすべてばらばらの病院やクリニックだし、全部まとまって外来で行けるようなところができるとうれしい。受診の際の待ち時間を短縮するような工夫をしてほしい。
・それぞれの分野でそれぞれ得意なことがあると思うので、お互い遠慮せず意見を出し合ってより良いケアを考えていけたらよいと思います。


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  まとめに代えて

・多職種連携に関する経験は患者によってさまざま
・在宅診療との連携を重視する声が多い
・患者にとって、診療(医療的処置)とケア(介護)はどちらも必要。医療と介護の連携も必要と指摘する意見が多い。
・多職種ALSクリニック(MDC)に対する患者の期待は高い


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  多職種ALSクリニック(MDC)への期待


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  患者を啓蒙し売り込んでほしい

○なぜ日本の患者や患者団体はMDCを働きかけないのか?
・病院や在宅で既に多職種連携が取れているから→連携不足に不満を持つ患者も多い
・リルゾールやPEGなどMDCのメリットとされる医療措置が受けられているから→心のケアも含めた医療スタッフの専門性に対する期待は高い
・恐らく患者がメリットを理解していないことが最大の要因

○医療機関との間で直面する切実な問題
・ALSに対する理解不足→治療方針や入院生活に不安を抱える患者たち
・療養環境が整う前の早期退院→行き場を失う患者たち
・医療スタッフによる価値観の押しつけ→選択肢を失う患者たち

○このような問題への対応に追われているのが現状
・多くの課題の中でMDCのプライオリティを上げるためには、患者がそのメリットを十分に理解することが何よりも重要


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  専門性に対する期待

○現状で患者が感じる問題点の例
・運動療法(リハビリ)
 運動は神経や筋肉を摩耗させるのか、適度な運動は機能維持に効果的か→十分な検討を経ずに過度な運動をメニューに取り入れるところも
・PEG増設のタイミング
 呼吸機能が先に低下し嚥下障害が生じたときに胃ろう増設手術ができないことも
・心のケア
 病気の受容が悪い患者もいるが、ALSに造詣の深い臨床心理士が関わった例を聞かない

○ALS診療に関する専門性を集積してほしい


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  外来診察の工夫とコーディネーター

○待ち時間2時間、診察10分、会計1時間
・ほかの患者が待っているし、外来を担当している主治医はお昼を食べる時間もないことを患者は知っている→「早く切り上げなくては」という精神的圧力の下で受診→このままでMDCは機能するか?
・見えないところで多職種カンファレンスなどを開いていても、患者にはわからない

○多職種を連絡・調整し患者の相談窓口になるコーディネーター
・多忙な医師に全ては相談できない。介護でいうケアマネジャーのイメージ
・患者の意思を医療方針に反映させるためにも必要


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  在宅医療や介護との連携

○患者にとって在宅は療養生活の基盤
・主治医と往診医がいる患者も多く、外来受診だけでは完結しない
・リハビリも訪問を活用する患者が多い
・MDCが専門性を提供し、在宅で日常の管理?米国の経験が知りたい
・患者の情報を在宅も含めた多職種間で共有するためのシステムが必要

○患者にとって医療と介護の垣根は低い
・介護者は療養生活を支える柱
・在宅でも医療職と介護職の連携は課題
 何回も発熱したことがあるのに「熱を出さずに元気ですね」と看護師に言われる
・医療と介護をつなぐ訪問看護師の活用
・在宅ケアチームと院内の専門職の交流は米国MDCではどうなっているか知りたい


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  治験の情報提供と相談

○現在ALSを対象とした2つの治験が患者の参加を受け付けていて、今後さらに増える見込み
○参加機関以外では治験情報を得ることが困難
・患者はどのような治験が実施中なのか情報入手に苦労
・患者会も情報提供に努力
・MDCが情報提供の場となることを期待
・主治医の意見やアドバイスは患者に大きな影響
○将来的には治験の効率的な実施も視野に?
・特に初期患者にとってプラセボはつらい
・複数の治験を同時進行してプラセボを1群で済ますことはできないか


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  ありがとうございました


*作成:青木 千帆子
UP:20171017 REV:
als  ◇全文掲載

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