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「精神保健福祉法の改正案に関する意見」

公益社団法人全国精神保健福祉会連合会, 20170406,[外部サイト]

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last update:20170514


精神保健福祉法の改正案に関する意見

2017年4月6日
公益社団法人全国精神保健福祉会連合会

はじめに
 今回の改正では、措置入院と入院後の支援、指定医制度について打ち出されている。
 これらは、附則に基づく法の見直し改正であるべきだが、相模原事件の再発防止と連動して論じられることに大きな懸念をもっている。
 措置入院・医療保護入院制度の非自発的入院における公的保護者制度の確立と本人の意思決定を無視しない自由かつ完全な合意を築ける対策をとるべきだ。インフォームドコンセントに留まらず、SDM(shared decision making)による医療側からの丁寧な説明よる治療を選べる体制を整えるべきである。
 このことが退院時、退院後のスムーズな移行にも影響を与える。措置入院後の実態把握を進めることを求める。措置入院があっても、地域で生活を実際に送っている方の事例掌握も求める。
 また、入院時の隔離や身体拘束を行うことは一定の要件を満たせば違法ではないことになっているが、実際には治療でもないものを「治療」と称して行なったり、転倒予防のためと言って安易に行っているといわざるを得ない例も多く見受けられる。自分の家族がこのような状況の精神科病院に入院するとなれば看過できないはずである。国は「増加の関連要因についてはわからない」としている。しかし「わからない」ではなく、重大な人権の制限である身体拘束が、10年かけて2倍にもなっているのであるから、国としてもしっかりと調査なり対策などをうつべきである。
 今日、統合失調症圏の方たちは、かつての入院中心医療から通院中心医療に実態として推移してきている。措置入院を経験したり、重度かつ慢性の状況にある場合でも地域で生活を送っている方も少なくない。くれぐれも、犯罪の主要因が精神疾患や精神医療歴にあるような印象を与えることのないようにするべきである。
 退院後のフォローは、警察との連携の名のものとに社会防衛的に監視するものではなく、対象者に適切な治療が必要な場合に、きちんと保障され行き届くために行われるべきである。退院後に地域で本人を孤立無援にさせない、安心して生活していける仕組みをつくることがなければ意味がない。そのために地域住民と行政、福祉、医療などが包括的なケアを機能させることが求められている。ただこれは、措置入院にのみ焦点を当てるのでなく、精神医療保健福祉全般に対する実効性のある体制が予算措置なしにはあり得ない。

家族等同意について
 家族会としては家族等同意の廃止を求めるとともに、医療保護入院は代弁者制度などの他の権利擁護の方策を用いるべきだと考えていた。しかし他の代替え制度は整備できず、また相変わらずの「家族主義」の考え方もあって、「家族等の同意」が残ってしまったことは極めて残念である。
 家族会としても法律に家族等の同意を明記することは他科においてはなく、精神科についてのみ明記するのは差別である考えている。
 ただ、改正の中で、患者に対する入院等を行うことの理由などを文書にて説明すること。家族等が同意・不同意の意思表示を行なわない場合に市町村長同意にゆだねることが盛り込まれたのは一歩前進ととらえている。しかし、拡大運用とならないための本人の権利擁護について保障されるものでなければならない。
 当会は、@家族と本人との間には利害関係があるため。A「家族の同意」の前提となる「本人に判断能力が無い」と判定することについては慎重でなければならないため。
 「家族等の同意」では、家族の中には本人のことより自分の利益を優先する家族がいるという事実の認識が欠落している。家族間には利害関係がある。この点で、家族が「同意権者」になるのは不適切である。同意権者はあくまで本人に対するものであり、本人の明示の意思を無視し、家族とはいえ、本人とは反対の意思を表明することですから決して許されるものではないと考える。よって、引き続き「家族等の同意」にかかわる事項は附則に入れるということを求めたい。
 また、精神医療審査会の審査は、本人に会って審査するなど、能動的に行えるように精神医療審査会の審査はスピードアップが必要である。

退院後継続支援について
 家族会ではよく、「もう3ヵ月になるのでとりあえず退院を」と言われ、まだ家庭で生活するのは大変なのではと思われる状況で自宅に帰され、その対応に苦労しているという話がよく聞かれる。使える資源は訪問看護ぐらいで、とても地域の社会資源を利用できる状態ではなく、日常の世話や症状への対応は家族丸抱えで、試行錯誤するしかないと嘆くばかりである。やがては再入院して同じことを繰り返すのでは、精神障害者本人にとっても家族にとっても少しの進歩もなく、家族は疲弊し、本人の入院も長期化する結果になりかねない。
 地域の受け皿が整っていなければ、家族が抱え込むことにつながり、結果として監視にならざるを得ない。当事者を支える家族支援は診療報酬対象外が基本のため、有効な治療や支援の障壁にもなっている。医療中断がないように治療環境に結びつき、急性期状態に陥らないようにするべきである。今回の改正案土地まとめ議論では保健的アウトリーチの中での家族支援が検討課題とされた。地域包括ケアシステムの構築の際には、本人を含む家族療法支援として積極的に行うため、家族支援内容の具体化を求める。

重度かつ慢性について
 平成24年6月28日に開かれた第7回精神科医療の機能分化と質の向上等に関する検討会で「今後の方向性に関する意見の整理」が発表され、その中で、今後の精神科医療においては「新たな長期在院者を作らないことを明確にするため、『重度かつ慢性』を除き、精神科の入院患者は1年で退院させ、入院外治療に移行させる仕組みをつくる」との方針が出された。その際に「重度かつ慢性」の患者については、「新たな長期在院患者を増やすことのないよう明確かつ限定的な取扱とする」こととし、その基準については「調査研究等を通じて明確化する」とされた。この重度かつ慢性に関する研究班の全国調査では、1年以上の長期入院精神障害のうち6割以上がその対象となるとされた。しかしながら「重度かつ慢性」とされる方であっても地域生活を送っている。地域に暮らす方の事例や実態は把握されていないのは不十分である。
 ついては、「重度かつ慢性」基準該当状況にありながらも地域生活そしている実態調査を求める。「重度かつ慢性」基準に該当することをもって地域移行の諸政策から排除されることのないようにすることを求める。

指定医について
 「精神保健指定医」には、法律を誠実に遵守する態度を学び、患者の尊厳と人権を心から尊ぶ精神を身に付けてほしい。そのためにも患者と家族の声をしっかり聴ける態度を身に付け、患者と家族の実際の状況を、訪問するなどして、地域支援体制の実際を知って、地域で支える感覚を身に付けるべきである。また、患者本人とともに、その家族に対する支援も考えることが大事である。
 精神科病院等に不祥事があったときなど、情報開示に家族会が介入できるように自治体の後押しをしてくれることを求める。


*作成:伊東香純
UP:20170514 REV:
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