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「精神保健福祉法『改正』法案の問題点――相模原事件をきっかけとして『精神医療が治安の道具』に!」

安原荘一, 20170404,[外部サイト(図・表あり)]

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last update:20170405


安原荘一氏特別寄稿【精神保健福祉法「改正」法案の問題点ー相模原事件をきっかけとして「精神医療が治安の道具」に!】

精神保健福祉法「改正」法案の問題点ー相模原事件をきっかけとして「精神医療が治安の道具」に!

安原荘一(精神障害当事者・大学客員研究員)

 現在様々な深刻な問題を抱えている国会であるが、4月からは共謀罪や精神保健福祉法「改正」等さらに恐ろしい「法案」の審議が始まる。前者に関しては皆さんある程度の知識を持っておられるものであろうと思われるが、後者は前回の精神保健福祉法改正の3年後の見直し規定をうけての「改正」である。
 3年前の「改正」も医療保護入院に同意する範囲を「家族等」と3親等以内まで拡大した点等の改悪の側面が強いのであるが、医療保護入院患者には3ヶ月以内に「退院支援計画」の作成が義務付けられる等多少は改善された面もあるのは事実である。
 前回の「改正」では、医療保護入院のあり方の検討や権利擁護者制度(代弁者制度)の検討等様々な日本の精神医療の問題点の検討が附帯決議等で定められた。附帯決議自体に法的拘束力はないが、厚生労働省の「あり方検討会」等でこの間検討が進められてきた。
 ところが 今回の精神保健福祉法「改正」法案では、「措置入院制度」(「自傷他害のおそれ」がある場合指定医2名の判斷で患者を強制入院させる制度)の強化が急遽盛り込まれることとなった。「措置強化」と一般に言われる。言うまでもなく相模原事件を受けてのことである。
 今回の法案のもとになった報告書をまとめた厚生労働省の「あり方検討委員会」は30名の構成員のうち当事者2名(!)という非常に偏ったメンバー構成であって、検討委員会開催中も決して議論が順調に進んでいたわけではないが、情勢が一変したのが相模原事件以降である。
 まったく検討されてこなかった「措置入院制度」が検証・再発防止検討チームの結論をうけて急遽検討されることになり、措置入院解除後の「支援」が大切だということで、「関連機関(警察も含む)の地域支援協議会が設置されるという今回の「改正案」が急遽作成され、閣議決定を経て、4月から国会で審議されることとなったのである!
 一般論として言えば、「措置入院患者」のみならず「医療保護入院患者」や「任意入院患者」も含め退院後の「支援」というもの自体はあったほうが良いように思う。
 しかし退院後どのような生活を送りたいのかと言うことは当然のことであるが本人が主体的に関わって決めるべきことである。また患者のプライバシーや医者の守秘義務が守られなくてはならないのは現代医療の常識である。

[表→外部サイト

 ところが今回の「支援計画」は本人抜きで作成してもよいことになっている。本人の意志をまったく尊重しない仕組みなのである。医療者の守秘義務も相当に怪しくなる。また「支援」に主に関わるであろう保健所は現在圧倒的なマンパワー不足であって年間7000人と言われている措置入院患者の退院患者にはおそらく対応できないものと思われる。
 支援計画の作成には時間もかかりその分入院期間も長くなるのは必至である。急遽作られたこの法案は非現実的な机上の空論とさえ言いうるであろう。その被害者は実際に入院している患者たちである。
 また警察が関わるというのも今回の「改正」案が「精神医療の治安の道具化」と呼ばれる象徴であって極めて問題である。これは「支援」というより「監視」ではないかという意見は当事者団体のみならず精神医療・福祉専門職団体の間でも大変強い。また現時点法案では「支援・監視」の期間も定まっていない。「無期限監視」のおそれさえも否定出来ないのだ。
 また例えば薬物依存症の患者が警察に通報されるとわかって果たして治療を受けようと思うだろうか?治療面でのマイナス面を指摘する薬物依存症当事者団体からの強い反対もある。
 さらに精神病院入院患者の「人権擁護制度」に関しては前回の改正でも大きな争点となり附帯決議にもかかれていたのであるが、今回の法案では実質骨抜きとなってしまった。
 私自身は強制入院制度自体にも疑問を持っているが、強制入院と言う形で人のいやしくも人の人権を大幅に制限する以上、それに対して本人の立場に立った「権利擁護制度」は不可欠であろう。「退院請求」や「処遇改善請求」を受け付ける現行の精神医療審査会制度は書面審査のみであり実質的にはほとんど機能していないと言う事実は多くの関係者が強く訴えるところである。
 精神科病院での深刻な人権侵害の例は今日に至っても後を絶たない。宇都宮病院事件は決して過去の出来事ではまったくないのである。

[図→外部サイト

 その他の法案の問題点もこの際触れておくこととする。
 医療保護入院制度と言うのは強制入院の一種で「病識」がない場合に、指定医一人と家族等の同意で運用される制度である。これは極めて特殊日本的な制度であって諸外国にはごく稀にしか存在しない。原理的な問題点はいやしくも人の人身の自由を奪うのに「家族等」と言う「私人」が「同意」するのはおかしいという点である。
 また家族によって強制入院させられたということで強制入院させられた患者と家族の関係が悪化するケースも決して珍しくはない。また最近急増している認知症患者の入院形態もほとんどが「医療保護入院」であることも是非知っておいて頂きたい。
 医療保護入院制度自体の廃止論はかねてから強く存在し、今回の「あり方検討会」でも医療者団体や家族会も含め多くの廃止意見が出された。しかし結論は現状よりさらに後退し従来の「家族等」に加えて、いったんは非自発的入院を減らすために廃止された「市町村同意」と言う仕組みがまた復活してしまったのである!これでは今後ますます医療保護入院患者の数が増加ことは必至である。
 現時点各種国会ロビー活動等で野党議員の多くは問題点を理解してくださり法案反対の方向性であるが、この法案が審議される国会の厚生労働委員会は、与党が圧倒的多数を占めている。このような状況下で具体的にどう闘っていくのか?(精神)障害当事者団体も医療福祉等関係者団体も頭を悩ませている状況にある。
 大阪の当事者団体の仲間はカンパを募って、国会前で座り込み等を行う予定と聞いている。その他全国各地から国会へ当事者のみならず多くの関係者も集まる。
 もっと社会全体がこの問題への関心をもって頂ければと願っている。

安原 荘一 
立命館大学衣笠総合研究機構生存学研究センター客員研究員
全国「精神病」者集団 大阪精神医療人権センター 障害学会 WNUSP等会員
ブログ 精神障害者の解放をめざして http://blogs.yahoo.co.jp/taronanase


*作成:伊東香純
UP:20170405 REV:
精神障害/精神医療:2017  ◇障害者と政策:2017  ◇介助・介護  ◇病者障害者運動史研究   全文掲載
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