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「精神保健福祉法『改正』に関する声明」

病棟転換型居住系施設について考える会, 20170320.

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last update:20170328


2017年3月20日

精神保健福祉法「改正」案に関する声明

病棟転換型居住系施設について考える会

 2017年2月28日、政府はこの事件を受けて精神保健福祉法改正案を閣議決定した。私たちは、同法案の改正案に対し強く反対する。以下にその根拠を述べる。

【相模原事件発生と法案との関連について】
 2016年7月26日に相模原市の津久井やまゆり園において、19名もの入所者が殺害されるという痛ましい事件が起きた。2017年2月28日、政府はこの事件を受けて精神保健福祉法改正案を閣議決定した。しかし、そもそもこの事件を受けて「精神保健福祉法」の「改正」の議論をするということ自体が誤りである。 
 事件は2016年7月26日未明に発生したが、同日午前の記者会見で塩崎厚生労働大臣は「関係省庁ともしっかり連携して、再発防止の検討を早急に行ないたい」と表明し、翌27日には「措置入院後のフォローの充実が必要との指摘も当然ある」と語り、8月8日には検討会の設置を表明している。
 容疑者が措置入院をしていたということで、あたかもその制度に欠陥があるかのような認識に基づき、現行制度を改変するのは筋違いである。とりわけ鑑定留置をして結果が出る前12月8日に、「相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討チーム」の報告書をとりまとめ公表しているが、極めて問題は大きい。
 そもそも措置入院の制度の欠陥のために今回の事件が起きたかどうかは判然としていない。このような中での法改正は立法事実を欠いたものと言わざるを得ない。

【改正の趣旨について】
 さらには、厚労省が発表している今回の法律案の概要の「改正の趣旨」には、「相模原市の障害者支援施設の事件では、犯罪予告通り実施され、多くの被害者を出す惨事となった。二度と同様の事件が発生をしないよう、以下のポイントに留意して法整備を行なう。」と明記されている。すなわち、犯罪の防止が今回の法改正の趣旨であることを堂々と認めている。これは、精神保健福祉法を治安目的で用いることに他ならない。これは、精神保健福祉法第1条の同法の目的である「精神障害者の医療及び保護を行い、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律 (平成十七年法律第百二十三号)と相まってその社会復帰の促進及びその自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な援助を行い、並びにその発生の予防その他国民の精神的健康の保持及び増進に努めることによって、精神障害者の福祉の増進及び国民の精神保健の向上を図る」ことと明らかに矛盾し、到底容認できるものではない。

【法案概要、法案内容について】
 今般の改正案においては、保健所設置自治体は、措置入院者が退院後に継続的に医療等の支援を確実に受けられるよう、精神障害者支援地域協議会を設置し、
(1)精神科医療の役割を含め、精神障害者の支援体制に関して関係行政機関等と協議するとともに(代表者会議)
(2)退院後支援計画の作成や実施に係る連絡調整(調整会議)
を行なうとしている。
 そして、(1)の代表者会議の参加者は、「市町村、警察等の関係機関、精神科医療関係者、障害福祉サービス事業者、障害者団体、家族会等」となっている。ここに何の目的で「警察等」が入っているのか疑問である。2016年12月19日の再発防止検討チームの記者会見において座長の山本輝之座長は「監視を強めるものでない。精神医療の底上げを図り、患者を孤立させないことが再発防止につながる」と述べているが、監視を強めるものでないのなら「警察等」入れる必要はない。警察等を入れることは監視を強化に他ならない。
 また、(2)退院後支援計画の作成や実施に係る連絡調整(個別ケース検討会議)の参加者は、「必要に応じて、障害福祉サービス事業者、本人・家族等」とされている。
 何故、最も大切な本人が「必要に応じて」となっているのか、あまりに問題は大きいと言わざるを得ない。当事者を抜きにした「支援」などあり得ないのは言うまでもない。
 さらには、改正案概要では、「退院後支援計画の対象者が期間中に他の自治体に居住地を移転した場合、移転元の自治体から移転先の自治体に対して、退院後支援計画の内容等を通知することとする。」としているが、これは措置入院をした者の個人情報の保護に反し、プライバシーも侵害するものであり、断じて容認できない。

 以上の理由から、私たちは今般の精神保健福祉法「改正」は決して容認することができず、これに強く反対する。このことを社会に、関係各位に強く訴えるものである。

以上


*作成:伊東香純
UP:20170328 REV:
精神障害/精神医療:2017  ◇障害者と政策:2017  ◇介助・介護  ◇病者障害者運動史研究   全文掲載
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